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なぜ日本人は貧乏になったのか…日本円を実力以上に強くした「アベノミクス」という大失敗

プレジデントオンライン / 2022年8月31日 10時15分

参議院予算委員会の開会前に言葉を交わす安倍晋三首相(右)と日本銀行の黒田東彦総裁=2013年5月8日、東京・国会内 - 写真=時事通信フォト

なぜ給料は増えず、経済は一向によくならないのか。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「実力以上に強すぎる円が経済低迷の原因だった。バラマキを続け、巨額の借金だけが残った。だが問題はそれだけではない」という――。

※本稿は、藤巻健史『Xデイ到来 資産はこう守れ!』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

■なぜ日本人は貧乏になったのか

今、マスコミはしきりに「円高はエエンだか? 悪いんだか?」と議論しています。黒田東彦(はるひこ)日銀総裁は「円安は日本経済にとってよい」と主張し、世論は「円安が進行すれば大変になるから、円安は悪い」と対立しています。

しかし、為替は経済の自動安定装置であり、本来変動すべきものなのです。したがって、自国通貨安がいいか悪いかは、そのときのその国の経済状況によって異なります。

景気が悪いと通貨が弱くなり、国際競争力を高めます。その結果、景気がよくなり通貨高に戻っていく。一方、景気が強すぎる(=インフレになる)と、通貨高になりますが、それが国際競争力を弱め、景気を冷やしインフレを抑制させるのです。

よく日本の政治家は「為替は安定したほうがいい」と言いますが、違います。為替は国力に応じて変動すべきなのです。個別企業は先物、オプション等を使ってリスクヘッジし、衝撃を減らせばいいのです。

日本は近年、国力が弱っていたのに通貨が強いままだったので国際競争力を回復できず、GDPが伸びずに国力を落としてしまったと思っています。

小学生にたとえれば、学力が1程度なのに通信簿に5(最上位)の評価をもらっていたようなもので、学力向上の努力が払われなかったのです。

■日本円が強すぎて経済は低迷…

世界を見ても、国力に比べて通貨が強すぎる南欧、日本の経済は低迷し、逆に国力に比べ通貨の弱かったドイツや中国が大きく発展しました。

したがって、この30年間、日本経済再生の処方箋として、私は「穏やかな円安」を主張していたのです。「実力と同じレベルのときに円安を誘導するのは不可能ですが、実力以上に強すぎる円を国力程度に戻すのには手段がある」と主張していました。

方法は、①ドル預金の為替差益の非課税化等の税制改革(日本人は非課税大好きなので)、②日本国債のドル建て発行(少し難しいので昔の拙著を参照してください)、③マイナス金利政策等です。

私の提唱するマイナス金利政策は、黒田日銀のマイナス金利政策とは百八十度異なります。詳しくは本書『Xデイ到来 資産はこう守れ!』(幻冬舎)で述べています。

■今の日本で円安が進むのは危険

ただし、今まで述べてきたことは、平時の話です。私は『一ドル二〇〇円で日本経済の夜は明ける』(講談社)という本を2002年1月に出しました。

「1ドル=200円になれば、日本経済は復活するぞ」という内容です。そのときは財政状況がギリギリ、まだ平時と言える状態だったので、そう書きました。「(財政が悪化しているので)薄氷の上を歩くような細い道ではあるが」と断っています。

しかし日本は、その後もお金のばらまきを継続し、財政状態を極端に悪化させてしまいました。その危機先送りのために財政ファイナンスを始めてしまったので、今では日銀が危機的な状態に陥っています。

この状態で円安が起きると物価が上昇しますが、日銀にそれを抑える手段はなく、インフレが止まることなく加速していきます。また、日銀が利上げすれば、日銀の債務超過で、即ハイパーインフレです。

政策的な大チョンボをやってしまった後なので、強力な経済の安定装置である為替が働かなくなってしまったのです。だからこそ今、日本で円安が進むと危険だと私は言っているのです。

円安が日本経済を復活させる唯一の処方箋だった時代を、日本は無為に過ごしてしまったと思っています。それもこれも、ばらまき、放漫財政が元凶だと思います。

渋谷のスクランブル交差点
写真=iStock.com/MarsYu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MarsYu

■世界はこれから通貨高戦争が起きる

前述したように、景気をよくしたいときは自国通貨“安”が望ましいのです。ですから、(自国通貨安を志向する)通貨“安”戦争が起きました。

日本が円安を志向すると「近隣窮乏化政策だ」と近隣から非難されたのです。円安になるとアジア各国の通貨が上昇し、アジア経済が停滞してしまうとのクレームでした。

しかし世界中でインフレ懸念が出てくると、今ではどの国も通貨高を志向します。まさに通貨“高”戦争が起きるわけです。自国通貨高はインフレを抑える最強の武器だからです。

その中で唯一、黒田日銀総裁だけが「自国通貨安がいい」と言っているのですから、他国と利害が一致します。通貨戦争どころか、国際協調もいいところです。その結果、ものすごい円安が予想されるのです。

■アベノミクスを支えたリフレ派の失敗

2012年1月、私が『なぜ日本は破綻寸前なのに円高なのか』(幻冬舎)を出版したとき、後に安倍政権のブレインになられた浜田宏一イェール大学名誉教授が、この本を書店で偶然見つけて読んでくださったそうです。私と会いたいとおっしゃってくださり、すし屋で2人で盛り上がりました。

浜田先生は「この30年間の日本経済低迷の原因を円高だと主張しているのは、君と僕だけだ」とおっしゃったのです。そして、円高修正の手段として「リフレが必要だ」とおっしゃいました。ですからその意味では、異次元緩和を推進した浜田先生はリフレ政策で円安に誘導し、経済回復につなげたかったのだと思います。

しかし、私は「先生は米国に住み、米国で教えているからリフレが自国通貨安を生み、景気回復につながると思われるかもしれませんが、準社会主義体制で市場原理が発達していない日本では、リフレでは通貨安になりません。それにリフレ政策は、『ジリ貧から脱しようとして、ドカ貧に墜ちる』政策ですので、私は反対です」と申し上げました。

リフレ政策をやれば、インフレをコントロールできなくなり、ハイパーインフレになってしまうという主張です。あのとき、浜田先生に申し上げた通りの道を日本は歩んでいるような気がします。円安は前述したような政策(税制改革、日本国債のドル建て発行、マイナス金利政策)で導けばよかったのです。

■なぜアベノミクスで景気回復ができなかったのか

市場原理の発達している国でリフレをやれば、国内から高い金利を求めて海外に資金が出ていき、自国通貨を売るので自国通貨安が起こって景気は回復、デフレから脱却できていたはずです。

しかし日本は、市場が効率的でないため円が国内にとどまり、円安による景気回復が起きなかったのだと思います。

仮にゆうちょ銀行が外資だったら、預金として大量のお金が流入した場合、為替リスクをとって海外に投資したはずです。そうしないと高いリターンが得られないからです。株主の力が強い株主資本主義の国の銀行なら「高い給料を取っているのに、ほぼゼロ%の運用とは何事だ。経営者は全員クビだ」となってしまいます。

会社が株主のものとは言い切れない日本企業では「損しなければ、低いリターンであっても他社と同程度なら、経営者は安泰」なのです。だったら、あえて為替のリスクなどとろうとしません。

その結果、日本で起きたのは、円を外貨に換えての外貨投資ではなく、外貨を調達しての外貨運用だったのです。したがって、リフレをしても日本の景気回復、デフレ脱却にはつながらない。私の主張した方法で円安を導くべきだと言っていたのです。

■「価値通貨の安定」は日銀の使命のはずだが…

黒田日銀総裁は相変わらず「円安は日本経済にプラス」との主張をかたくなに掲げ、円安進行は無視する方向のようです。しかし通貨価値の安定は日銀の基本使命のはずです。

国力に合わせて為替が動くのは望ましいのですが、そうは言っても通貨が暴落するのは最悪です。

澄田元日銀総裁は、1989年12月15日に日銀本店にて行った総裁退任挨拶で「中央銀行の最大の使命は通貨価値の安定にある」「中央銀行の基本的使命は通貨価値の安定にあり、その使命達成のために頑固に、ときには愚直に信念を貫く必要がある」と述べられています。

黒田総裁に、その認識はあるのでしょうか?

黒田総裁が総裁になる前は、日銀は株式や長期国債など価格が大きく動く金融商品は、資産としては保有していませんでした。それが我々金融界で働く者の常識でした。

まさに通貨の暴落を防ぐためです。金融商品の価格が下落すると評価損が生じ、ひいては日銀が債務超過になるのを防ぐためです。

■株式、国債を必死に買い支えた

株式を金融政策目的で保有しているのは、主要国の中央銀行では日銀だけです。また、2022年3月末現在の保有国債526兆円のうち、511兆円が長期国債です。こんなに長期国債を爆買いしている中央銀行は日銀だけです。

私が金融マンだった頃(2000年3月末まで)、日銀は株式を持たず、国債も3カ月までの短期国債だけで、長期国債の購入はほぼゼロでした。長期国債は成長通貨として経済が成長した分、すなわち市場に売り戻す必要のない額だけの購入でしたので、ごく微量だったのです。

サマーズ元米財務長官が「インフレにするのは簡単だ。中央銀行が信用を失えばいい」と発言したことは前述しましたが、信用を失う最たるものが債務超過(民間で言えば倒産状態)です。

そのような事態に陥らないように中央銀行は株式や長期国債を買わなかったのです。それを黒田日銀は大破りしています。「通貨の安定が日銀の責務」であることを認識しているのか、懐疑的なのは私だけではないでしょう。

■債務超過で信用を失えば、円は大暴落する

通貨は、中央銀行が健全な限り、国力を反映しますが、中央銀行が信用を失えば、国力が十分にあっても暴落します。

通貨の価値とは、ひとえに中央銀行の財務の健全性にかかっているのです。それは2018年9月に雨宮正佳日銀副総裁が日本金融学会で行った講演の中でも明言されています。雨宮日銀副総裁でなくとも金融マンにとってみれば常識です。

終戦後のドイツで、ライヒスバンクという中央銀行をブンデスバンクという中央銀行に変えただけでハイパーインフレが鎮静化したのが、それを証明しています。ドイツの国力や供給力などは新中央銀行創設の前と後で何ら変わらなかったのに、創設でハイパーインフレは鎮静化したのです。

藤巻健史『Xデイ到来 資産はこう守れ!』(幻冬舎)
藤巻健史『Xデイ到来 資産はこう守れ!』(幻冬舎)

このことからもわかるように、インフレの発生原因(=モノやサービスの需要過多や通貨価値の下落)とハイパーインフレの発生原因(=中央銀行の信用失墜)とは全く異なるのです。ですからデフレからインフレ、そしてハイパーインフレという経緯をたどるとは限らず、一晩でデフレからハイパーインフレに変わる可能性があるのです。原因が違うからです。

2018年10月20日の日本金融学会における特別講演の中で、雨宮日銀副総裁は「もちろん、中央銀行への信用が一たび失われれば、ソブリン通貨(注:法定通貨)といえども受け入れられなくなることは、ハイパーインフレの事例が示す通りです」と述べられています。

これは雨宮副総裁でなくても、金融マンにとってみれば常識です。中央銀行の信用が失われる最たるものは「債務超過」です。そして日銀は、もう一歩で「債務超過」の状態なのです。

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藤巻 健史(ふじまき・たけし)
フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年までは参議院議員を務めた。

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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)

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