1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

「スマホのゲームより、外遊びをさせたほうがいい」世界的精神科医が"できすぎ"と思うほど表れる成長の違い

プレジデントオンライン / 2022年8月27日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Solovyova

親は子供の将来のためにどんな教育をすればいいか。スウェーデンの精神科医、アンデシュ・ハンセンさんは「子供の知性を高めたければ、とにかく身体を動かすことだ。論理的思考力と言語能力が大きく向上することがわかっている」という――。

※本稿は、アンデシュ・ハンセン著、御舩由美子訳『運動脳』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

■運動すればIQも高まるという夢のような話

運動によって大人でも子どもでも脳を劇的に変えられることがわかってきたのは、ここ数年のことだ。運動をすれば心が落ち着き、ストレスにも強くなる。そして記憶力や創造性、集中力といった認知機能も高まる。この認知機能を総合したものが、「知性」だ。

認知機能が運動によって高まるのなら、IQ(知能指数)も同じように上がると考えていいはずだ。だが、本当だろうか。運動をすれば頭もよくなるのだろうか。もしそうであれば、まさに夢のような話である。

運動をすると頭がよくなるのか――科学者たちは1960年代に、すでにこの問いに答えを求めているが、それを証明することはきわめて困難だった。彼らの前に「ニワトリが先か卵が先か」問題が立ちはだかったのである。

たとえ体力的にすぐれた被験者が高い知能を備えていることがわかっても、それが運動によるものか、あるいは、もとより知能の高い者が単によく運動をしていただけなのかは判断できなかったのだ。

だがのちに、この問題は、スウェーデンの120万人を超える男性から得たデータによって解決される。

2010年まで、スウェーデンでは18歳の男子全員に軍の入隊検査を受けることが義務づけられていた。

入隊検査では、1日かけて様々なテストが行われた。たとえば体力を測るために使われたのは、抵抗が徐々に強くなるフィットネスバイクのペダルを限界までこぐテストだった。

私自身も経験しているが、バイクを降りたときにはほとんど立っていられないくらい、かなり体力を消耗したのを覚えている。続いて筋力テストが行われる。そのあとには、心理テストがあった。そして、最後に知能検査が行われる。

26年以上にわたって、120万人以上の18歳の男子が、このテストを受けた。そして、最近になって結果がまとめられ、その資料により、非常にはっきりとした相互関係が明らかになった。

身体のコンディションの良好な、または体力のある若者は、おおむね知能もすぐれていたのだ。

つまり、体力テストの結果がよかった新兵は、そうでない新兵よりも知能指数が高かったのである。

■理的思考力と言語理解力が大きく向上する

とはいえ、その若者たちは、運動で身体を鍛えていたために知能が高かったのだろうか。それとも、たまたま高い知性の若者が、ほかの若者たちより運動をしていただけなのか。この問題を解決するため、研究チームは一卵性双生児のデータに着目した。

知能指数を最も説明できる要素があるとすれば、それは両親の知能指数だ。知能は遺伝性が高いことで知られている。

一卵性双生児はそっくり同じ遺伝子を持ち、たいていは同じ家庭で育つ。そのため一卵性双生児が知能検査を受ければ、知能指数にはほとんど差が出ない。

この一卵性双生児が、新兵およそ100万人のうち1432組いた。そのなかには片方が体力的にすぐれ、もう片方は体力的に劣る双子もいた。それでも一卵性双生児なので知能指数に差はないと思いきや、予想は裏切られた。

一組の双子で体力的にすぐれているほうは、体力が劣る兄弟よりも、おしなべて知能指数が高かった。となれば一卵性双生児でも、体力の違いで知能検査の結果に差が出るということだ。

総合的に見れば、あらゆるデータは同じ結論に行きつく。運動をすれば頭がよくなるのだ。だが、知能指数の高さと相関性があったのは持久力のみで、筋力とは無関係だった。筋力テストの結果だけがよかった新兵は、知能検査ではよい結果を出さなかったのだ。

知能検査で測れる能力は、いくつかに分類できる。たとえば「言語の理解力」「数学的思考」「論理的思考」「3次元的な図形の認識」などだ。

そして、こういった能力のすべてが体力と関わっていることが判明した。とりわけ相関性が強いのは、「論理的思考力」と「言語の理解力」だった。

「論理的思考」と「言語の理解力」にとくに関わっている部位は、2つあることがわかっている。海馬と前頭葉だ。この2カ所は運動の効果が最も出る部位だが、それは運動で論理的思考力と言語理解力の2つが大きく向上することと、「論理的にも」一致する。

■勉強だけでは「高学歴」「高収入」は望めない

運動と知性の関係を研究していた科学者にとって、入隊者のデータはまさに宝の山だった。

たとえば18歳のときに体力に恵まれていた若者は、その後何十年にもわたってその恩恵をこうむっている。高い学歴を経て、(40歳前後の時点で)報酬に恵まれたよい仕事に就いていることがわかったのである。

ソフトウエア開発のイメージ
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

また、うつ状態になる率も低かった。記録では未遂も含めて自殺者が少なかったため、臨床的なうつ病の発生率も低いと思われた。

精神疾患を患った者がいないこと以外にも、脳が様々な恩恵を受けていることは明白だった。18歳のときに体力に恵まれていた若者は、てんかんや認知症を発症するリスクも少なかった。

そういったメリットのすべてが、18歳のときに身体が鍛えられていたからだというつもりはない。ただいえるのは、おそらく18歳のときに身体が鍛えられていれば、30歳や40歳になっても脳も身体も健康である可能性が高いのだろう。

■親が絶対に今すぐ「やったほうがいい」こと

私はこれまで、おびただしい数の研究論文を読んできたが、当初はこのようなテーマを扱う研究に出くわすたびに、拒否反応を起こしていた気がする。その内容を、真に受けようとしなかった。

たとえば子どもが毎日15分遊べば、読書や勉強をしなくても読解力や計算力が上がるなどという話を知ると、あまりにもできすぎだと感じたものだ。

あなたも同じ思いを抱いているのなら、ぜひこの章で読んだ内容をじっくり検討してほしい。そして、その意味をよく考えてほしい。

すべて理解すれば、子どもが運動すると学力が上がるだけでなく脳全体の機能も向上するという、にわかに信じがたい話にも納得がいくはずだ。

身体をよく動かせば、ちょうど筋力トレーニングで筋肉が鍛えられるように、灰白質と白質の働きが強化される。したがって運動をすれば、子どもでも大人でも知能が高くなる。

嘘のような話だが、これは正真正銘の真実だ。だとすれば、今すぐ子どもたちに言おう。タブレット端末やスマートフォンを置いて、もっと身体を動かそう、と。わが子の頭がよくなることを願わない親などいないはずだ。

野原を走る少年
写真=iStock.com/kokoroyuki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokoroyuki

■すばらしい効果が“ついでに”得られる

あなたは、本稿で紹介した事実に面食らっただろうか。じつは、私もそうだった。

あまりの驚きに何度か読み返し、自分が読み違いをしていないかどうか確かめもした。いったいなぜ、このことが一般的に知られていないのか。その理由は、運動がうつ病におよぼす効果の場合と同じく、やはりこの一言につきる。「お金」である。

もし薬やサプリメントに運動のような効果があれば、買う人はあとを絶たず、1人としてそれを知らぬ者はいなかったはずだ。子どもでも大人でも、運動をすれば脳にこんなにすばらしい効果がある。これを知らない人がいること自体、不思議であり残念なことだ。

薬やサプリメント、コンピュータゲーム、認知トレーニングとは違い、遊びやウォーキング、ランニングのような活動には費用がかからない。そして、どんなサプリメントもかなわない、たくさんのすばらしい効果が“ついでに”得られるのである。

■少なくとも30分、だが4分でも効果がある

脳に効果をおよぼすには、何より心拍数を上げることが重要だとされている。脈拍を1分間に150回前後まで上げることを目安にしよう。

肝心なのは、運動の強度だ。また、活動は必ずしも「運動」でなくていい。ただ身体を動かして遊ぶだけでも効果はある。大人と同様、重要な点は子どもたちが何をして身体を動かすかではなく、とにかく身体を動かすことだ

アンデシュ・ハンセン著、御舩由美子訳『運動脳』(サンマーク出版)
アンデシュ・ハンセン著、御舩由美子訳『運動脳』(サンマーク出版)

最大の効果を得るためには、子どもたちが少なくとも30分、活動を続けることが望ましい。

短い時間でも効果はある。12分間身体を動かしたことによって、学童期や思春期の子どもたちの読解力や集中力が増している。

ジョギング程度の活動を、わずか4分するだけでも物事に集中しやすくなる。そのため学校の休憩時間には、ほんの数分でも外に出て遊ぶことが大切だ。

10〜40分の運動をたった何度かしただけで、ワーキングメモリーや読解の能力が向上し、注意力も持続するのなら、やらない(あるいは、やらせない)手はないだろう。

----------

アンデシュ・ハンセン(あんでしゅ・はんせん)
精神科医
ストックホルム商科大学で経営学修士(MBA)を取得後、ノーベル賞選定で知られる名門カロリンスカ医科大学に入学。現在は王家が名誉院長を務めるストックホルムのソフィアヘメット病院に勤務しながら執筆活動を行い、その傍ら有名テレビ番組でナビゲーターを務めるなど精力的にメディア活動を続ける。『運動脳』は人口1000万人のスウェーデンで67万部が売れ、『スマホ脳』はその後世界的ベストセラーに。

----------

(精神科医 アンデシュ・ハンセン)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください