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高学歴、高所得世帯ほど"早生まれ"の子の義務教育入学を1年遅らせる…米エリート教育最新ウラ事情

プレジデントオンライン / 2022年8月26日 11時30分

出典=『プレジデントBaby 0歳からの知育大百科2022完全保存版』

世界最高峰の頭脳と富が集まり、新しい人材を輩出しているアメリカ西海岸のシリコンバレー。この地の親は子供にどんな教育をしているのか。現地の事情に詳しい2人に聞いた――。(後編/全2回)

※本稿は、『プレジデントBaby 0歳からの知育大百科2022完全保存版』の一部を再編集したものです。

(前編「0歳からの知育」「幼稚園選び」から続く)AppleやIntel、Google、Meta(Facebook)など多数のITが本社を構える、アメリカ西海岸のシリコンバレー。この地の親たちは、子どもにどのような教育を望んでいるのか。Google本社に勤務後、シリコンバレーで起業している石角友愛さんと、シリコンバレー屈指の名門校「ヌエーバスクール」に勤めた経験がある川崎由起子さんに、現地での「習い事」「学校選び」「ギフテッド教育」「オンラインスクール」などを伺った。

■習い事

スポーツは多くの種類を。STEM系も人気

幼少期から教育に熱心なシリコンバレーの親だが、就学前の子どもの習い事として人気が高いのは、日本とあまり変わらず、体操やバレエ、スイミングに空手など、ベーシックで体を動かすものが多い。

川崎さんによると、日本と違うのは習い事をあまり詰め込みすぎないこと。「毎日のように習い事をしている子は少ないです」と川崎さんは言う。

また、夏はスイミング、冬はバスケットボールといったふうに、季節ごと、あるいは数カ月ごとに習い事を変える点もアメリカ流だ。

「一つの習い事に一生懸命になるというよりは、いろいろ経験しながら好きなこと、楽しいと思えることを見つけます」(川崎さん)

シリコンバレーではもはや当たり前になった理系教育のSTEM(Science、Technology、Engineering and Mathematics)人気を反映して、小学生になると、プログラミングやロボット教室に通う子どももたくさんいる。

一方で、非テクノロジー系習い事の支持率も高く、スポーツ以外では、チェスや演劇、ピアノやバイオリンなどの楽器に力を入れる親子が多いという。

いずれも本格的に取り組むと、全米に遠征したり高額な個人レッスンを受けたりと親の負担も大きいが、特技を磨くことにも全力を注ぎ、才能を開花させていくのがシリコンバレー流と言えるだろう。

■学校選び

公教育の質がいい学区に引っ越し。名門私立は年間600万円も!

日本の幼稚園年長に相当するキンダーから高校までが義務教育で、公立なら高校まで無試験で入学できて学費もかからない。そんなアメリカでは、年間4万〜5万ドルかかる私立小中に進学する家庭はごくわずか。

米国教育統計センターの調査(2017年)によると、私立小中に在籍する子どもの割合は、全米で10%となっている。

「私立には幼小中高一貫校も多く、私立に通う子は幼稚園から私立、公立に通う子はずっと公立という場合が多い」(川崎さん)

ただ、公立学校のカリキュラムやプログラムは、州や自治体ごとに大きく変わる。一般的には、家賃の高いエリアほど公教育の質が高い。

シリコンバレー一帯では不動産価格もすさまじく高く、スタンフォード大学があるパロアルト市では、いわゆる1LDKの平均家賃が約40万円。その分、公教育のレベルもカリフォルニア州随一とされ、パロアルト高校は全米の公立高校ランキングで州トップの50位(Niche “2022 Best Private High Schools in America”)にランクインしている。

それでも、シリコンバレーでは11年時点で約15%の子どもが私立校に通っていた。11年はリーマンショックの影響で学費の高い私立を断念する家庭が続出していた時期なので、今はこの割合はもっと高いだろう。

カリフォルニア州は財政難で、他州と比べて公教育の質が低いという前提はあるものの、年間5万ドルを超える学費を払ってでも子どもに最高レベルの教育を受けさせたいと願う親心が表れている。

「カトリックやユダヤ教などの男女別学伝統校、大学受験準備に特化した進学校など、選択肢も豊富にあり」(川崎さん)それぞれの家庭の方針に沿って学校選びができる。

語学教育も、学校選びの重要な要素だ。例えばヌエーバでは、中高の選択科目に日本語や中国語がある。川崎さんによると、進学や将来の仕事に役立てたいというよりは、子ども自らが目標を高く設定し、「難しい言語を学ぶことで知的にチャレンジしたい」(川崎さん)という理由で選ぶケースが多いという。

■ギフテッド教育

特異的な才能がある子を伸ばす仕組みとは?

アメリカでは、知性や創造性、特定の学問分野や芸術分野、スポーツなどにおいて極めて特異的な能力を発揮する子どもを「Gifted(ギフテッド:天から能力を与えられたという意味)」と呼び、その才能を発掘し伸ばしていく仕組みが整っている。

『プレジデントBaby 0歳からの知育大百科2022完全保存版』
『プレジデントBaby 0歳からの知育大百科2022完全保存版』

石角さんは「親が子どもの才能に気づき、ギフテッドの可能性を信じて、その才能を開花させる環境を整えてあげること」がギフテッド教育の出発点だと言う。この点は、革新的なことが好きなシリコンバレーの親たちの得意分野のようで、ギフテッド向けの私立一貫校が盛況だ。

川崎さんが教壇に立っていたヌエーバは幼小中高一貫校で、全米私立高校ランキング9位(Niche “2022 Best Private High Schools in America”)の老舗ギフテッド校として名をはせている。次世代のリーダー育成を目指している同校の教育理念は、3歳児に課す入学試験にも表れている。

まず、最初の関門である知能テストを突破した3歳児を、10人1組のグループに分けて1時間自由に遊ばせる。そして、

・ 初対面の子ども同士で対話ができているか
・ 子ども同士でいざこざが起きた際に、他の子どもに働きかけて話し合いを持つなど、問題解決に向けて対処できているか

などを複数の教員がチェックし、合格者を決めるそう。

こうした入学試験を勝ち抜いて入学した子どもたちは、学業面に優れているだけでなく、それぞれがリーダーシップや音楽、スポーツ分野での才能を発揮する。卒業後は多くが地元のスタンフォード大学や東部の名門大学に進学し、物理や工学、法律など専門性を深めていく。なかには、ミュージカル俳優やメジャーリーガーになる生徒もいるという。

■オンラインスクール

イーロン・マスクが子どものために作ったプログラムも!

そして、コロナ禍の今、新しい選択肢としてオンラインスクールが注目されている。

スペースX、テスラCEOのイーロン・マスクが自らの子どものために設立したプライベートスクールの流れをくむ「Astra Nova School」は、コロナ禍の最中、全プログラムをオンライン化。現在は完全オンラインスクールとして、8歳から14歳向けに、サイエンス、数学、エンジニアリング、ロボティクスなどのプログラムを提供している。

全日制クラス、週に1回クラス、不定期の特別クラスの三つのコースが用意されているので、通常の学校には通わずに学びはこれ一本という生徒もいれば、習い事感覚で参加する生徒もいる。

入学には選抜試験がある。2023年度入学の募集要項は8月に公表される予定だが、試験はユニークそのもの。サイエンスや環境問題などをテーマにしたなぞなぞのような動画を見て、解答も動画で提出する。

石角さんはサイトで公開されているサンプル問題に11歳の子どもと取り組んでみたそうで、「思考力やアウトプット力が試される非常に面白いテスト」と評する。

またシリコンバレーでは、日本人の星友啓氏が校長を務めるスタンフォード・オンラインハイスクールも有名だ。06年設立の同校では現在、世界中の12〜18歳の中高生約900人が学ぶ。こちらも、フルタイム、パートタイム、単発の3コースが用意されていて、目的に応じて三つのうちいずれか、または全コースを選択できる。

理系重視のAstra Nova Schoolとの大きな違いは、歴史や哲学、政治といった文系科目にも重点を置いているところ。大学の教養課程を意識しているという。

1979年の設立以来、ギフテッド教育の先駆者であり続けてきたジョンズホプキンス大学のCenter for Talented Youth(CTY)も、現在はオンラインで8歳から18歳向けに理系と文系のプログラムを提供している。受講資格を得るためには、適性テストや知能テストなどの学力テストで一定のスコアを超える必要があるが、世界のどこからでも自分のペースでレベルの高い授業を受けられ、高校卒業に必要な単位が取得できることから、高い人気を集めている。

バルティモアにあるジョンズホプキンス大学
写真=iStock.com/sshepard
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sshepard

CTYは毎年、全米各地の大学やボーディングスクールのキャンパスで実施するサマースクールにも定評があり、こちらも8歳から参加可能。アメリカ国内外から多くの子どもが集まり切磋琢磨(せっさたくま)するサマースクールに参加して、最先端の教育に触れてみるのも貴重な経験になるだろう。

■“入学を遅らせる”がトレンド

10歳で大学卒業、12歳でハーバード入学──。日本でもときどきニュースになるように、アメリカには優秀な子どもが何学年も飛び越して進級、進学する飛び級制度がある。

ここまで極端な例でなくとも、得意科目だけ1、2学年上のクラスを受講することは全米各地の公立学校で普通に行われており、前述のAstra Nova Schoolではそもそも学年の枠組みという概念がない。学びのレベルや適齢期は子どもそれぞれに違っていて、学年で分けること自体がナンセンスという発想は、ギフテッド教育にも通じる。

「シリコンバレーの私立校では、小学1年生と中学1年生が同じ教室で学ぶこともあります」(石角さん)

一方で、アメリカで近年、義務教育のスタートであるキンダーへの入学やその後の進級をあえて1年遅らせることがトレンドになっている。

世界的ベストセラー作家のマルコム・グラッドウェルが『OUTLIERS (邦題:天才! 成功する人々の法則)』(2008年)で、欧米の一流スポーツ選手には日本の4月生まれにあたる9月生まれが多いと指摘。すべての競争において相対年齢が高い者が勝者になるとして、学校生活での9月生まれの優位性を説いた。

9月1日にマークのついたカレンダー
写真=iStock.com/Santje09
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Santje09

2017年には、マサチューセッツ州ケンブリッジにあり多くのノーベル賞受賞者を輩出してきた「National Bureau of Economic Research(全米経済研究所)」の研究者が、就学開始時の月齢とその後の学業成績の相関関係についての論文を発表。9月生まれの子どもたちは心身の発達、発育がクラス内で相対的に進んでいるため、義務教育期間を通して文武に優れ、より良い大学に入学しているという研究結果を明らかにした。

生まれ月によるハンディを解消するため、早生まれの6、7、8月生まれの子を持つ多くの親が、キンダー入学を1年遅らせる選択をするのだ。あるデータによると(※ 1)、全米で6%がキンダー入学を1年遅らせ、6%が小学1年生に進級せずにキンダーをやり直していた。つまり早生まれの子の約1割がダウングレードしているというのだ。

義務教育期間を充実させ、大学進学を有利に運ぶための新しい戦略は、カレッジフットボールで選手生命を延ばすためのレッドシャツ制度になぞらえ「アカデミックレッドシャツ」として、特に高学歴、高所得世帯に浸透している。

バージニア大学とスタンフォード大学の研究者が13年に発表した論文(※ 2)では、アカデミックレッドシャツを実践しているのは、富裕層が貧困層の2倍多かったという。全米有数の高学歴、高所得世帯が集まるシリコンバレーでも、アカデミックレッドシャツを実践する家庭が多そうだ。

川崎さんは、「アメリカの家庭がリーダーシップの育成を重要視し、精神面の充実にも重きを置いていることの表れ」だと指摘する。

※1 米国教育統計センターの2010年秋のデータ
※2 「キンダーにおけるアカデミックレッドシャツ制度」

川崎由起子さん

東京・八王子にある「東京ウエストインターナショナルスクール」最高執行責任者。2015年までアメリカのシリコンバレーに住み、その間、IQ130以上の子どもを対象にしたギフテッド専門の私立一貫校ヌエーバスクールで、15年間教師を務め、多くのギフテッドの子どもたちの教育に関わる。自らの子どももヌエーバスクールの卒業生。NHKクローズアップ現代「知られざる天才“ギフテッド”の素顔」に出演。

石角友愛さん
AIテクノロジーカンパニー「パロアルトインサイト」CEO。16歳で単身渡米し、ボーディングスクールに留学。2010年にハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得したのち、Google本社で多数のAI関連プロジェクトを担当する。日本企業に対してシリコンバレー発のAI戦略提案からAI実装まで一貫した支援を提供。11歳と6歳の子どもがいる。子育て関連の著書に『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)がある。

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恩田 和(おんだ・なごみ)
子育て・教育ライター
1977年生まれ。東京大学文学部英語英米文学専攻課程卒業。読売新聞記者を経て、カリフォルニア大学バークレー校でジャーナリズム修士号取得。配偶者の海外赴任に伴い、アメリカ合衆国(カリフォルニア、テキサス)と南アフリカ共和国に10年近く滞在。2人の帰国子女を育てながら、子育て・教育ライターとして活動中。

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(子育て・教育ライター 恩田 和)

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