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来年までに1000店舗が消える…日本各地で「ファミレス離れ」が止まらない深刻な理由

プレジデントオンライン / 2022年8月29日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KPS

■最大手・すかいらーくも「100店舗閉鎖」を発表

わが国のファミレス業界に、厳しい受難の時代が到来しているようだ。帝国データバンクの緊急調査では、2023年3月末、主要16社の店舗数は2019年12月末から1000店舗以上減少すると予想されている。その背景要因として、新型コロナウイルスの感染再拡大の長期化、脱グローバル化によるインフレ圧力の高まりなどがある。

特に、ウクライナ危機の発生以降はコスト増加圧力が急速に高まった。8月12日には、すかいらーくホールディングスが約100店舗の閉鎖を発表した。同社はコストカットによって資金を捻出し、店舗の業態転換、店舗運営のデジタル化、“中食”需要の取り込みなどを強化している。ファミレス業界全体が、これまで以上に生き残りに必死だ。

見方を変えると、世界経済の環境変化が一段と激化し、わが国経済はより強い逆風に直面し始めた。これまで、世界経済が上向くとわが国の景気は緩やかに持ち直した。産業別に見ると、自動車や精密機械などが世界の需要を取り込んだ。雇用と所得環境は下支えされた。ファミレス企業はセントラルキッチンの運営体制を強化するなどし、総合的なメニューを提供して事業運営の効率性向上に取り組んだ。

しかし、ウクライナ危機の発生以降は世界全体でエネルギー資源や食料の供給量が減少し、企業の事業運営の効率性が低下している。過去30年間、わが国の賃金は伸び悩み、外食需要の増加は期待しづらい。ファミレスの店舗急減は、わが国経済の縮小均衡懸念の高まりを示唆する。

■感染の波が収束しても客が戻ってこない

帝国データバンクを見ると、2019年12月末時点でわが国のファミレス主要16社の店舗数は9230だった。その後、店舗数は右肩下がりで推移し、2021年9月末の店舗数は8593に減少した。その要因として2020年に入りわが国で新型コロナウイルスの感染が広がり、その後も感染再拡大が続いたことが大きい。

わが国には米国や中国のように有力なITプラットフォーマーが見当たらない。その分、感染再拡大による動線の寸断や不安定化が経済活動に与える負のインパクトは大きい。ファミレスを訪れる人は急減し、店舗の採算は悪化した。その状況下で収益を獲得するために、店舗を閉鎖して損益分岐点の引き下げに取り組む企業が増えた。感染再拡大が収束して移動制限が緩んだ後も、客足は元に戻らなかった。感染から身を守るために人との接触を避けなければならないという防衛本能の高まりなどがその要因と考えられる。

■“業態換え”で減少ペースは一度落ちたが…

その後、ファミレス店舗の減少ペースはいくぶんか鈍化した。2022年3月末の店舗数は8545だった。感染再拡大が落ち着き、動線が徐々に修復されたことは大きい。また、ファミレス各社が急速に事業変革に取り組んだことも店舗閉鎖ペースの鈍化につながったと考えられる。

具体的には、焼き肉、唐揚げやカフェなどに業態を転換する店舗が増えた。和洋中などさまざまなメニューを扱うファミレスよりも、焼き肉のように特定のメニューに絞ることは物流をはじめコスト削減に有効と考えられる。また、フードデリバリーやテイクアウトなど需要の変化への対応も進んだ。配膳ロボット導入など人手不足を克服して店舗運営の効率性を向上させるためのデジタル化も加速している。

しかし、2022年4月以降はファミレスの店舗閉鎖ペースが再度加速している。6月末の店舗数は8420に減少した。帝国データバンクは2023年3月末時点での店舗数は8000程度に減ると予想している。ファミレス業界全体で、企業が生き残りをかけてさらなるコストカットに取り組む状況が鮮明だ。

■世界的な物価高が業界を直撃している

4月以降の店舗閉鎖に大きな影響を与えた要因の一つに、世界的な物価上昇がある。2月24日のウクライナ危機以降、ロシアが世界各国に供給してきた天然ガスなどのエネルギー資源、小麦などの穀物、肥料などが減少した。世界経済はブロック化し、グローバル化とは反対に脱グローバル化が加速している。

米国や欧州各国など西側の自由資本主義諸国はロシアに対する金融・経済制裁を強化した。ロシアは報復に天然ガスなどの供給を一段と絞った。各国企業が需要の変化に対応して供給量を調整し、事業運営の効率性向上を目指すことは難しくなった。世界全体で供給が需要を下回り始め、物価上昇圧力が急速に高まった。

それによって、わが国はかなり厳しい状況を迎えている。わが国は経済運営に必要なエネルギーや鉱物資源が乏しい。足許では、わが国が輸入する天然ガスや石炭などの価格の上昇が鮮明だ。小麦などの穀物も輸入に頼っている。それに加えて、わが国では日本銀行が異次元の金融緩和を続けている。

■燃料、飲食料品の輸入価格も上がっている

その一方で、米国では連邦準備制度理事会(FRB)が需要を抑えてインフレを退治するために追加利上げを余儀なくされている。欧州中央銀行(ECB)はFRB以上にインフレ退治を徹底しなければならない厳しい状況に追い込まれた。

多くの新興国でも通貨を防衛しインフレ圧力を抑えるために、想定を上回るペースで利上げが実施されている。徐々に日本銀行は金融政策の正常化を目指すだろうが、それには時間がかかる。内外の金利差は拡大し、円安が進んだ。

それと同時に天然ガスなどの価格が上昇し、輸入物価は急騰した。日銀が公表した7月の輸入物価指数(速報)は前年同月比48.0%上昇した(円ベース)。品目別に見ると、石油・石炭・天然ガスは同127.9%上昇した。飲食料品・食料用農水産物は同30.4%の上昇だった。

その結果、7月の貿易収支(速報)は1兆4367億円の赤字だ。赤字は12カ月連続だ。わが国におけるコストプッシュ・インフレ圧力の高まりによって、ファミレス業界は苦肉の策として店舗閉鎖をより強化せざるを得ない状況に追い込まれている。

■深刻なのはファミレスだけではない

厳しい事業環境に直面しているのはファミレス業界だけではない。感染再拡大や中国経済の失速などによってインバウンド需要が落ち込んだ。それによって、ファミレス以外の飲食、宿泊、交通などサービス業の収益環境はかなり不安定だ。製造業の分野では、わが国経済の雇用や所得環境の安定に決定的な役割を果たした自動車の生産が停滞している。

浅草仲見世通り
写真=iStock.com/Shalom Rufeisen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Shalom Rufeisen

燃料高などによって運輸業を中心に中小企業の事業環境の厳しさも増している。ファミレス業界のように、生き残りを目指してコストカットをさらに強化しなければならない企業が増える展開が懸念される。

ただし、コストカットなど企業の自助努力には限界がある。収益を獲得して新しい取り組みを強化するために、増加したコストの価格転嫁を余儀なくされる企業はこれまで以上に増える可能性が高い。それによって家計には生活費の負担がより重くのしかかるだろう。

■日本経済の厳しさを物語っている

その一方で、世界全体で景気の後退リスクが高まっている。追加の利上げによって米国の労働市場は徐々に悪化するだろう。それによって個人消費は減少し世界経済を支えた米国が本格的な景気後退に陥る展開は排除できない。また、中国経済では不動産バブルの後始末が深刻化している。8月22日に中国人民銀行(中央銀行)は追加利下げを実施して個人消費の減少や不動産市況の悪化を食い止めようと必死になっているが、事態はかなり深刻だ。

今後、米国の本格的な景気後退懸念が高まり、それと同時に中国経済の成長率のさらなる低下が鮮明となれば、世界全体が景気後退に陥る恐れは追加的に高まる。そうした展開が現実のものとなれば、わが国の賃金には下押し圧力がかかり、個人消費の回復ペースは鈍化するだろう。それによって国内景気の減速、後退懸念が高まる。

ファミレス業界をはじめ国内企業を取り巻く事業環境の厳しさは増すだろう。4月以降の店舗閉鎖ペースの加速は、そうした展開を懸念し経営の守りを一段と強化しなければならないと危機感を強めるファミレス企業が追加的に増加していることを示唆する。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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