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生活が苦しくて当たり前…「実質手取りは24年前より年84万円減」給与減&天引き増の衝撃データ

プレジデントオンライン / 2022年8月30日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/laymul

年収のダウンが叫ばれて久しいが、実際どれだけ減ったのか。国税庁「民間給与実態統計調査」のデータに基づき社会保険料や住民税などを含めて徹底分析した北見式賃金研究所(愛知県名古屋市)の北見昌朗所長は「政府は、社会保険料(健康保険、介護保険、厚生年金、雇用保険など)、住民税、消費税などを引き上げて、民間からお金をむしり取ることばかりに熱心で、市中にお金が回らなくなったのも当然だ」という――。

■給与から天引きされる社会保険料や住民税が激増

国税庁の「民間給与実態統計調査」は年末調整の結果であり、いわゆるアンケート調査ではない。日本の給与を調査したデータとして、これ以上信頼性の高いものはない(本記事では「民間給与実態調査」と略す。本記事を執筆している2022年8月時点では、2020年分が最新のデータである)。

※「民間給与実態調査」は「平均年収×勤労者数=給与総額」でまとめられている。「平均年収」とは毎月の給与の他に賞与が含まれている(通勤手当の非課税分は含まず)。「勤労者数」は「1年以上の勤務者」。従前は「非正規を含む勤労者」ということだったが、2012年から「正規」「非正規」「非正規含む全員」という区分になった。

国税庁が毎年公開しているこのデータをふり返ると、年収が一番高かったのは1997年であることがわかる。そこで2020年までの24年間の変化を分析した。

結論から言ってしまえば、私たち日本人の“実質手取り収入”は平均で年84万円減という驚くべき数字が出たのだ。

後ほど詳しく解説するが、1997年の平均年収は467万3000円だった。2020年は433万1000円で34万2000円ダウンした(いずれも「非正規含む勤労者」)。これだけでも十分衝撃だが、それだけではない。

社会保険料(健康保険、介護保険、厚生年金、雇用保険など)や住民税が上がったため、その分(約28万円)を差し引くと手取りベースで計62万円も下がったことになる。

さらに追い打ちをかけたのが消費税率の引き上げだ。税率は5%から10%に引き上げられたので(2019年10月)、この分も差し引くと、実際に使えるお金は計75万円も減る計算に。

加えて物価高も加味すると、冒頭で述べた通り、1997年時点に比べ計84万円も落ちた、というわけである。

政府は、社会保険料、住民税、消費税などを引き上げて、民間からお金をむしり取ることばかりに熱心である。これでは市中にお金が回らなくなったのも当然だろう。

■社会保険料はこの24年間で何度も何度も増額された

数字を改めて確認し、整理してみよう。

「非正規含む勤労者」の平均年収は、次のようになった。

1997年 467万3000円

2020年 433万1000円(34万2000円減、7.3%減)

給与が減っただけではない。手取りの収入も大きく落ち込んだ。手取り収入は、次の算式から導き出される。

給与の総額−(公的保険料の本人負担分+所得税+住民税)=手取り収入

社会保険料は、この24年間で何度も増額された。その主なものは以下の通り。

① 厚生年金保険料率が引き上げられた。
② 賞与からも社会保険料を徴収するようになった。
③ 介護保険制度が2000年から導入された。
④ 健康保険料率が引き上げられた。

年収は、賞与が3カ月分あったとして次のような内訳だったと仮定した。(端数処理のため、合計は合わない)

1997年 給与31万1500円+賞与93万4600円=年収467万3000円

2020年 給与28万8700円+賞与86万6200円=年収433万1000円

年収が上記のような内訳だった場合、公的保険料は年額で次のようになった。社会保険料は、平均保険料率(4月1日基準)を乗じた。なお、介護保険は1997年にはなかった。

1997年 保険料合計=50万3700円
健康保険 15万6000円
介護保険 0円
厚生年金 32万8900円
雇用保険 1万8600円

2020年 保険料合計=66万1700円
健康保険 21万3700円
介護保険 3万8700円
厚生年金 39万6200円
雇用保険 1万2900円

つまり、年収が33万円以上も減っているにもかかわらず、公的保険料は年間で15万8000円も増えていた。

次に所得税を調べた。これも年収減なのに、増えている。

1997年
467万3000円の年収に対しては9万3400円

2020年

433万1000円の年収に対しては9万4600円(1200円増、1.3%増)

住民税はどうだろうか。総務省に照会したところ、東京都民の場合は、実入りは減ったのになんと12万円の負担増だ。

1997年
467万3000円の年収に対しては15万1100円

2020年

433万1000円の年収に対しては27万2600円(12万1500円増、80.4%増)

注:所得税と住民税の税率は、社会保険料が給与額面に対して概算15%だったものとして計算。生命保険料控除や地震保険料控除等の控除項目はなしで計算。

以上を踏まえ、「手取り収入」を計算してみた。

■消費増税、物価高もバカにならない…手取りは減る一方

1997年
年収 467万3000円−(社会保険料50万3700円+所得税9万3400円+住民税15万1100円)=手取り収入392万4700円

2020年

年収 433万1000円−(社会保険料66万1700円+所得税9万4600円+住民税27万2600円)=手取り収入330万2000円(62万2700円減、15.9%減)
【図表】手取り収入は62万円ダウン
図表=筆者作成

二十数年間で手取り収入は計62万円も落ち込んでいたのだ。

「手取り収入」を割り出したので、次に消費税の影響も考えてみた。この「手取り収入」からさらに消費税を差し引くと「実際に使えるお金」となる。

消費税は、1997年は5%だったが、2020年は10%である。そうなると実際に使えるお金は、次のように計算できる。

1997年
手取り収入 392万4700円×0.95=実際に使えるお金 372万8500円

2020年

手取り収入 330万2000円×0.9=実際に使えるお金 297万1800円(75万6600円減、20.3%減)

手取り収入は大きく62万円も落ち込んだのに加え、この消費税の影響で、実際に使えるお金は75万円も落ち込んでいたのだ。これでは生活が苦しくなるはずである。

■物価上昇で“実質収入”は84万円もダウン

物価も考慮したい。では、何の物価と比較するべきだろうか。今回、筆者は「パン」を選択した。これなら庶民感覚でイメージしやすいはずだ。

総務省に問い合わせたところ、食パンの価格(東京都)は、2020年を100とすると、1997年は96.4であった。つまり食パンは3.6%値上がりしていた。ちなみに総務省の消費者物価指数の「総合」は、1997年が99.5で、2020年が101.8で、2.3%物価が上がったことになっている。

筆者は首をかしげた。本項を執筆している2022年4月はロシアがウクライナを侵略したこともあって、原油やレアメタルが暴騰していると報じられている。まさにハイパーインフレの到来だ。実際はさまざま分野の物価がもっと値上がりしているように思える。

よって総務省のデータには違和感があるが、とりあえず物価は全体的に3.0%値上がりしていたと仮定することにした。すると「実質収入」は0.97になるので、次のように計算できる。

1997年
実際に使えるお金 372万8500円

2020年

実際に使えるお金 297万1800円×0.97(上昇分)=実質収入288万2600円(84万5800円減、22.7%減)

以上の計算により、実質収入は1997年時点よりも計84万円も激減したことがわかる。

■24年間で少しずつ庶民のお金は毟り取られていった

整理すれば、次のようになる。

平均年収は433万1000円。(34万2000円減)(年収自体のダウン)

手取り収入は330万2000円になった。(62万2000円減)(公的保険料及び住民税の引き上げによる負担増が加わってのダウン)

実際に使えるお金は、297万1000円になった。(75万6000円減)(消費税率の引き上げによる負担増が加わってのダウン)

実質収入は288万2000円になった。(84万5800円減)(物価上昇による負担増が加わってのダウン)

数字はあくまで平均値であるため、給与や住む自治体などによっては、計100万円以上自由に使える額が減ったという人も少なくないと思われる。このように率にして2割以上もダウンしたのだから、日本全体に不景気風が吹くのは当然のことなのである。

【図表】“実質収入”は84万円もダウン
図表=筆者作成

なお、詳しくは、筆者のサイトに掲載されている給与研究をご覧いただきたい。

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北見 昌朗(きたみ・まさお)
北見式賃金研究所所長
1959年生まれ、名古屋市出身。愛知大卒業後、中部経済新聞社に入社、12年間勤務した後に独立して社労士となり、北見式賃金研究所所長。著書に『製造業崩壊 苦悩する工場とワーキングプア』(東洋経済新報社)、『消えた年収』(文藝春秋)、シリーズとして『愛知千年企業』(中日新聞社)他。

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(北見式賃金研究所所長 北見 昌朗)

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