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「文鮮明の子であって、私の子じゃない」洗脳の解けた旧統一教会信者の母が、わが子を捨てた悲しい理由

プレジデントオンライン / 2022年8月30日 10時15分

統一教会の教祖、文鮮明氏=2002年2月15日、ソウル - 写真=AFP/時事通信フォト

新興宗教はどんな問題を引き起こしているのか。フリーライターのいのうえせつこさんは「問題のひとつが、児童への虐待だ。最悪の場合、子供の生死が左右される。教団の洗脳にかかってしまった本人以上に、何も知らずにこの世に生まれてきた2世の被害は根が深い」という――。

※本稿は、いのうえせつこ著、山口広監修『新宗教の現在地』(花伝社)の一部を再編集したものです。

■2歳児と3歳児の子供を持つ母親信者との出会い

1994年、私は一人の女性に会った。

「相談者の彼女は、11月末の気温が低い日にもかかわらず、白いレーヨンのブラウスとスカートにソックスという服装だった。白いブラウスも紺のスカートも古びていて、リサイクル・ショップでも売っていないような代物だった。

化粧っ気のない顔は、30代半ばにしては精気がなく、ショートの髪も油っ気がなかった。白いソックスもうす汚れていて若々しさが感じられず、時々、貧乏ゆすりをする脚は年齢より老けて見えた」

「東北地方のある国立大学在学中に原理研究会にさそわれて入会」した彼女は、すぐに統一協会の信者となる。その後、合同結婚式に参加。3歳と2歳の子どもの母親となった。

その女性は、合同結婚式で出会った相手について、「自分の好きな男性のタイプではなかった」としながらも、「『本当の幸せは、間違いのない正しい結婚から始まります』という統一協会のパンフレット通りの生活を始めた」のだという。

■教祖に関する内部告発に信仰の気持ちが揺らぎ始めた

ところがある日、女性は一冊の本に出会う。統一協会創立者の一人である朴正華による、『六マリアの悲劇』である。そこには、教祖・文鮮明が、「神と称する文鮮明が人妻を奪って財産を捲きあげたり」「“復帰”という名のセックスを多くの女性食口(しっく、信者のこと)とかわしたり」してきた等々の内部告発が綴られていた。

しかしこれを読んだ時点での彼女は、「18歳の学生時代から今日まで統一協会の霊感商法などで働きに働きづめで身体はもうガタガタ」の状態であった。

霊感商法の他にも、「身体障がい者のために」「○○難民のために」「残留孤児のために」という名目で募金活動もしてきたという。統一協会側からは、「保険の勧誘員にでもなって、金を稼げ」と言われたこともあった。

当時の統一協会は、桜田淳子たちが合同結婚式に参加したことで、霊感商法の実態などがマスコミに叩かれ、信者たちは売上を伸ばすのに苦労していた。

■「私の子どもじゃない」疎ましく思う気持ちが大きくなった

本を読んだ彼女の気持ちは揺らいだ。

何より、「私の身体は、もうボロボロで、年寄り以上」と語った通り、心身が疲れ果てていた。統一協会信者の離婚は、役所に届けを出せば終わりというわけではないが、それでも「家を出て一人で生活したい」と考えたそうだ。

何より、「二人の子どもたちを見る彼女の母親としての視点が変わった」という。「二人の子どもたちは文鮮明の子で、私の子どもじゃない」と思うと、疎ましく思う気持ちが大きくなっていったのだ。

親の変化に敏感な二人の子どもは、不安から、それまで以上に母親にまとわりつくようになった。そうすると、“文鮮明”の子どもにまとわりつかれていると感じる母親は、ますます我が子を疎ましく思う。

二人の子どもたちは結局、九州の父方の実家に預けられることになった。

その日の彼女の相談というのは、「子どもたちが高熱を出して死にそうだから迎えに来て欲しいと電話があったが、どうしたらよいか」というものだった。

その女性は、子どもたちから離れ、ボロボロになった自分の心身を休ませて、今後のことを静かに考えたいと願っていた。

私は、児童相談所に行って、子どもを虐待しそうだから保護してほしいと頼むのがよいとアドバイスした。しかしそう話しながらも、カルト教団への怒りと、子どもたちを不憫に思う気持ちで、胸がいっぱいであった。

カルト教団のマインド・コントロールにかかってしまった親も被害者だが、何も知らずにこの世に生まれてきた子どもたちはもっと悲惨な被害者である。

■ホームオブハートでも児童虐待が横行していた

ロックバンド「X JAPAN」のボーカル、TOSHI(現、Toshl・龍玄とし)がのめり込み、X JAPAN解散の原因にもなった自己啓発セミナー「ホームオブハート(HOH)」を覚えておられるだろうか。

ホームオブハートはもともと、レムリアアイランドレコードという会社で、ヒーリングミュージック関係のビジネスを展開していた。ホームオブハートと社名を変えて以後、自己啓発セミナーを行うようになる。主催者は、MASAYA(本名、倉渕透)。

Toshlは、『洗脳 地獄の12年からの生還』(2014年、講談社)のなかで、彼が家族関係で悩んでいるときにホームオブハートに勧誘され、洗脳集団のなかで12年間を過ごし、脱会後、代理人(弁護士)をつけて損害賠償を求めて裁判を起こすまでの日々を綴っている。

洗脳されたTOSHI(当時、以下略)は、ソロでMASAYA氏の楽曲を歌うようになっていたことでも知られる。

勧誘を受けたTOSHIは、ホームオブハートの教団施設の地下にある薄暗いホールで、MASAYAの囁くような歌声を聞かされたことをきっかけに洗脳されていったという。

その他、ホームオブハートが行った自己啓発セミナーは、1977年に日本で設立された自己啓発セミナー団体「ライフ・ダイナミックス」の手口を模倣していたとされる。

■未明にかけての電話で金銭感覚を罵倒され続ける

2020年10月2日付のハーバー・ビジネス・オンライン記事「TOSHIの『洗脳』で話題になったホームオブハートの今。TOSHI脱会後も、名前を変えて活動」より、そのセミナー内容を一部紹介する。

有名なものに、「フィードバック」という手法がある。受講生の発言等について、否定的な内容で受講生を罵倒する「ネガティブ・フィードバック」と、肯定的な内容で褒めちぎる「ポジティブ・フィードバック」を繰り返すのだ。

自分が他者からどう見られているかを見つめ直す、といった名目で行われるが、実際には数日間に及ぶ缶詰状態でのセミナーが、「つらかったが感動的な体験」として刷り込まれるという側面がある。

また、夜中の2時や3時にまで及ぶ個人電話で受講生の金銭感覚を罵倒し続ける「マネートレーニング」といわれるようなフィードバックも行われ、受講生たちは睡眠時間を削られながら、借金を奨励され続けた。

■脱会した母親から離された子どもたちが経験したこと

ホームオブハートについては、脱会した女性たち(多くが子連れで入会)から、「我が子を返してほしい」との相談が紀籐正樹弁護士に寄せられた。そこで、紀藤氏が栃木県の児童相談所に通報したところ、ホームオブハートは紀藤氏を名誉棄損で「逆訴訟」したという事件があった。

『デッドプール2』ジャパン・プレミアのレッドカーペットにてXポーズをするToshl
『デッドプール2』ジャパン・プレミアのレッドカーペットにてXポーズをするToshl(写真=Dick Thomas Johnson/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

そこで、紀藤弁護士を支える「弁護士の会」と「市民の会」が結成され、私は「市民の会」の代表となった。

母親から離された子どもたちは、段ボールに入れられる、就学年齢の児童が学校に通わされていないなど、劣悪な環境のなかにいた。子どもたちは、大人たちがセミナーの中で怒鳴り合ったり泣き叫んだりしている側で放置され、あるいは一緒にセミナーを受けさせられていたという。なかには、当時すでに16歳にもなる少女もいて、彼女は裁判後もそのままホームオブハートに残った。

2010年にToshlが脱会した後、裁判は和解が成立。メディアでの目立った報道はなくなったが、ホームオブハートは関西に拠点を移し、MASAYAはMARTHと芸名を改めて、現在もセミナーや健康グッズ販売、ヒーリング音楽販売、リゾート会員権販売などを続けている。

親のカルト集団への入会で、子どもが満足な生活を得られない環境におかれた本件も、まさにカルト集団による児童虐待の事例であった。

■親子連れで勧誘「ものみの塔」とは

「子どもと新宗教」といえば、子ども連れで「聖書のお勉強をしませんか」と戸別訪問を行う「ものみの塔」が有名かもしれない。

ものみの塔の正式名称は「ものみの塔聖書冊子協会」で、その信者は「エホバの証人」と呼ばれる。

ものみの塔は、1870年初めにアメリカピッツパーグの商人、チャールズ・T・ラッセルを中心とする聖書研究グループが、キリスト教の一派に発展したものといわれる。「エホバ」を唯一の神としてあがめ、聖書に書かれたことを「神エホバの言葉」として、一字一句生活のなかで実践することを信条としている。

公益財団法人宗教情報リサーチセンターによると、ものみの塔の日本国内信者は21万6472人とのこと(2014年最終更新)。

ものみの塔信者は、機関誌『ものみの塔』や姉妹誌である『目覚めよ!』の配布活動を、公共への奉仕だと考えており、公共の場所で人々に近づいて配布することもある。これはすべて無料で配布され、読み物としてバスターミナルやコインランドリー等、公共の場所に置かれていることもある。

■3カ月ほど集会に潜入して見た信者の姿

1988年、『主婦を魅する新宗教』の取材の際、私は3カ月ほど、地域でのものみの塔日本支部の集会に参加したことがある。当時、ものみの塔の信者活動である「冊子の販売」に時間を取られて、夫婦間での摩擦も多く、それを背景にした殺人事件も起きていた(1986年、横浜市)ことから興味を持った。

地域の集会は「王国会館」と称される集会場で行われ、日本支部の集会は神奈川県海老名市で行われていた。

私がこれまでに取材した他の新宗教と比べて中流階級と思われる家庭の主婦の信者が多く、また、夫と思われる男性信者も背広姿で参加している様子も珍しく感じた。

女性信者たちに話を聞くと、子育ても一段落して、「聖書の勉強がしたい」「お仲間が欲しい」ことを理由に入会したと話していた。

■「千年王国に行けないから輸血は受けない」

ものみの塔といえば、2世(信者の子ども)への「輸血拒否」も大きな問題として世間を騒がせた。

ものみの塔では、「神から与えられた身体に不純物(他人の血液)を入れてはいけない」という教えがある。聖書に「血を食べてはならない」という記述があることから、聖書の言葉を忠実に実践することを信条とするエホバの証人たちは、輸血を拒否するのである。

私が取材していた80年代当時も、小学校5年生の2世の少年が、「僕は、輸血を受けない。千年王国に行けないから」と話してくれたことを覚えている。

「千年王国」とは、ものみの塔信者が、信者だけが行くことができると信じている「天国」のことである。

まだ自己判断もできない未成年の子どもが、自身の生死を分ける「輸血」の是非について、保護者の信仰によって決定していることに驚いたものだ。

■親の宗教上の理由で生死が決められていいものか

当時の「輸血」に関する事件では、「聖マリアンナ医科大学事件」などがあった。1985年6月6日、川崎市で自転車に乗っていた10歳の男児が、ダンプカーに接触して大けがを負った。救急搬送先の聖マリアンナ医科大学病院では手術が予定されたが、輸血準備中にかけつけたものみの塔信者である両親が、息子への輸血を拒否した。病院側は両親に対し説得を続けたが、他の信者もかけつけるなか両親の意向は変わらず、男児は約五時間後に出血多量で死亡したという事件だ。

乗用車と自転車の接触事故
写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz

両親は輸血を拒否する際に、「今回、私達の息子が、たとえ死に至ることがあっても輸血無しで万全の治療をして下さるよう切にお願いします。輸血は聖書にのっとって受けることは出来ません」などと記した決意書を病院に提出したという。

当時の報道によれば、医師が、まだ意識のあった患児に対して「生きたいだろう」と声をかけたところ、男児も「死にたくない、生きたい」と父親に訴えたが、父は「聖書にある復活を信じているので輸血には応じられない」として輸血を拒み通したという。

この「輸血」をめぐる問題は欧米でも起きていて、英国で裁判にもなった事件を題材にした小説、イアン・マキューアン著『未成年』(2015年、村松潔訳、新潮社)も出版されている。

現在は、患者の自己決定権(インフォームド・コンセント)といった概念が社会的に認知されるようになり、医療の発展からも、輸血が人の生死を分ける唯一の選択肢ではなくなってきている。

ただ、子どもの生死に関わる問題を親の宗教上の理由から左右することの是非については、何も解決されていないだろう。

■競争が関係するような行事に参加させない

ものみの塔による子ども虐待といえば、子どもの躾に「ムチ」を使用していることなど、あまり知られていないだろう。「ゴムホース」や「ベルト」などで、子どものお尻を打つのである。家の外に聞こえないように、多くは風呂場やトイレの中で行われているという。

いのうえせつこ著、山口広監修『新宗教の現在地』(花伝社)
いのうえせつこ著、山口広監修『新宗教の現在地』(花伝社)

また、教育についても、ものみの塔では、義務教育をはじめ、子どもが一般的な教育を受けることを軽視する傾向がある。誕生会、クリスマス、七夕、ひなまつり、節分、正月、祭り、国歌・校歌斉唱、クラス委員を決める選挙、格闘技など、「競争」が関係するような行事に、子どもを参加させないことがあるという。

2世の子どもたちは、親に従わない場合には体罰を受けるため、あるいはハルマゲドンで滅ぼされるという恐怖を植え付けられているため、教義を忠実に守らざるを得ない。親の信仰に忠実に従うことに納得できない2世の子どもたちは、精神的葛藤に苦しみつづけ、精神のバランスをこわして成人しても苦しみつづける例が少なくない。

いしいさや著『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』(2017年、講談社)は、ものみの塔の信者の家に育つ子どもの日常描いている。私が取材した脱会者の主婦の方は、この著書について「本当にこの通りです」と言っていた。

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いのうえせつこ フリーライター
1939年岐阜県大垣市生まれ。横浜市在住。県立大垣北高校・京都府立大学卒。子ども、女性、平和などの市民運動を経て女性の視点で取材・執筆・講演活動。フリーライター。一般社団法人日本コンテンツ審査センター諮問委員。一般社団法人AV人権倫理機構監事。NPO法人精舎こどもファンド代表。NPO法人あんしんネット代表。著書に『ウサギと化学兵器――日本の毒ガス兵器開発と戦後』『地震は貧困に襲いかかる――「阪神・淡路大震災」死者6437人の叫び』(花伝社)、『女子挺身隊の記録』『占領軍慰安所――敗戦秘史 国家による売春施設』『子ども虐待――悲劇の連鎖を断つために』『新興宗教ブームと女性』(新評論)など多数。

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(フリーライター いのうえせつこ)

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