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「世界のベスト観光都市」で上位3位を独占…日本を愛する外国人観光客を拒否する「水際対策」の無意味さ

プレジデントオンライン / 2022年8月31日 13時15分

海外からの観光客受け入れが一部再開し、成田空港に到着した香港の団体ツアー客=2022年6月22日午後、千葉・成田空港 - 写真=時事通信フォト

■「行きたくても行けない」日本を夢見る外国人観光客

新型コロナの水際対策で、日本政府は外国人観光客の受け入れ制限を続けている。今年6月に約2年ぶりに観光目的の入国ができるようになったが、主要7カ国(G7)で最も厳しいとされる条件が足を引っ張り、6月が252人、7月が7903人にとどまった。

それでも日本を訪れることを夢見る海外客は非常に多いようだ。海外メディアでは「日本へ旅行に行きたい」という人々の声がしばしば紹介されている。

豪フィナンシャル・レビュー紙は、「すでにクリスマス休暇向けに日本のゲレンデ周辺のホテルを予約した幾多のオーストラリア人たちが、個人旅行客の受け入れがいつ再開するかについて岸田政権からいまだ何の表明もないことに不安を募らせている」と報じている。

南半球にあるオーストラリアの人々にとって、日本は、手軽に真逆の季節を楽しめる旅行先として人気が高い。サラサラとしたパウダースノーを楽しめる白馬やニセコなどの雪質は、ジャパンとパウダーを掛け合わせた「Japow」の名で親しまれ、海外スキーヤーたちに好評だ。オーストラリアの人たちは、早くも今年のスキーシーズンをにらみ、日本への個人旅行が解禁されるか気を揉んでいるようだ。

記事は、往来再開の遅れは日本の観光地にとっても打撃だと指摘している。長野や北海道の観光業関係者たちも危機感を募らせていると報じた。政府が早期に受け入れ再開時期を明示しなければ、海外客は予約をキャンセルし、他国への旅行に切り替えるおそれがあるからだ。

■「訪れたい世界の都市」で首位になった東京

スキーリゾートの例に限らず、日本は海外旅行先として世界から高い需要がある。そのプレゼンスを維持するためにも、個人旅行客の受け入れの早期再開が望まれる。

米著名旅行誌『コンデ・ナスト・トラベラー』は毎年、旅行で訪れたい「世界のベスト都市」ランキングを読者投票により決定している。最新の2021年版では東京が1位に選出された。同誌は日本の東京を「まばゆいネオン、居心地のよい路地裏、そして歴史的な寺社の街」だと紹介している。

日本からランクインしたのは東京だけではない。2位には「近代建築とナイトライフ、たっぷりのストリートフードで知られる」大阪、3位に「日本で最もクリエイティブな街」だと評された京都がランクインし、上位3位を日本が独占した。

東京から箱根・飛騨高山・京都を経て大阪へ抜けるいわゆる「ゴールデンルート」が海外客の人気を集めているが、その魅力が如実に反映されたランキングになっている。

ちなみに4位以下は順に、都市国家シンガポール、カラフルな街並みが美しいメキシコのサン・ミゲル・デ・アジェンデの街、東西文化が混じりあうトルコのイスタンブールとなった。

■渡航禁止にもかかわらず、日本がトップに

都市別のみならず、日本という国全体の観光魅力度も高く評価されている。スイスに拠点を構える国際機関の世界経済フォーラムが発表する「旅行&観光開発指数2021」では、世界117の国と地域中、日本が1位となっている。

着物を着て浅草を歩く外国人観光客
写真=iStock.com/iam555man
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/iam555man

平たくいえばこのランキングは、旅行先や観光地としての競争力と、その持続可能性を数値化したものだ。観光を取り巻く社会環境、政策、インフラ、観光資源、そしてその持続可能性を評価し、総合点を算出している。

ニュージーランドのニュースサイト「スタッフ」は、「渡航禁止にもかかわらず、日本が観光ランキングでトップに」と報じている。航空をはじめとする交通インフラの整備や、豊かな文化などでスコアを上げたと記事は分析している。

2位以下の国には、アメリカ、スペイン、フランス、ドイツなど欧米諸国が続く。アジアからのランクインは首位日本と9位のシンガポールのみとなっており、この2カ国がまたも強い存在感を示している。

■雪をみたい、桜をみたい…シンガポールの若者

そのシンガポールにおいても、行きたい旅行先(複数回答)に国民の半数近くが日本を挙げている。CNBCが8月に公開した記事によると、英調査会社のYouGov社が行った調査において、シンガポールの49%の人々が次の海外の休暇先として日本を挙げたという。

16歳から24歳の若い層に限ると、この数字は実に68%にまで跳ね上がる。シンガポールの若者の3人に2人が日本への旅行に興味を示していることになる。

東京に拠点を構えるシンガポール旅行会社の社長はCNBCに対し、常夏のシンガポールに住む人々にとって、とくに季節の変化が魅力になっていると説明している。雪景色の冬、そして桜の咲き誇る春がとくに人気だという。

■安心して過ごせる治安のよい国という評判

日本といえば、安心して過ごせる治安のよい国という評判を国際的に得ている。コロナ禍においてはさらに、病気リスクを含めた広義の安全性という意味で、日本を含むアジアの国々が評判を上げているようだ。米CNBCは米旅行保険会社がまとめた2022年版「国別安全度」ランキングにおいて、日本が4位に選ばれたと報じている。

ランキングはアメリカ人への意識調査を集計したものだ。犯罪、テロ、性犯罪、人種差別など各面での安全性を尋ね、総合点によりランクづけしている。2018年調査で10位だった日本は、今回までに順位を6つ上げた。

調査を実施した保険会社によると、全体の傾向としてこれまで旅行者たちは、テロと暴力事件に巻き込まれることを主に懸念してきたという。

だが2022年調査では、「自由に移動できること」「病気の心配がないこと」を重視する傾向がみられたようだ。アジアの国々が軒並み躍進しており、一方、イギリスなど感染爆発が報じられた国が人気を落とした。

■「ツアー客のみ入国可能」は国境閉鎖と変わらない

「日本に行きたい」という外国人は多いが、日本側の受け入れ体制は整っていない。政府は6月から観光目的の外国人の入国受け入れを再開したが、すべての入国者にビザの取得を義務づけているほか、添乗員付きのツアーに限定している。

この「添乗員付きのツアーに限定」というのが、集客の足を引っ張っているようだ。観光庁の発表によると、観光目的で入国した外国人は6月が252人、7月が7903人にとどまった。

このため一部の海外メディアは「実質的には国境閉鎖と変わらない」と報じている。ブルームバーグは同社コラムニストの記事で、日本の旅行代理店経由でのツアー客のみを受け入れる日本の制度が「大いに嘲笑の的となっている」との手厳しい見解を掲載した。海外のソーシャルメディアでは、ガイドツアーで外貨を稼ぐ北朝鮮を思わせるとの指摘さえ出ているという。

また、「パッケージツアーに限定」との表現が誤解の種となり、海外では誤った理解が広まっているようだ。CNBCの記事は、30人前後がバスに相乗りするスタイルが想起されがちであり、これが日本への旅行意欲を下げている一因だ、と指摘している。実際には、添乗員付きであれば最小1人(と添乗員)からのツアーが認められている。

ただし、費用面での問題は残る。添乗員分の旅行・宿泊費用が旅行費用に上乗せされるため、ただでさえ航空券が高騰している現在、ツアー客の負担は大きい。

日本で20年以上暮らすニュージーランド人大学講師のルイーズ・ジョージ・キタカ氏は、アジア・メディアセンターに日本への旅行の現状について寄稿した。それによると、添乗員付きツアーの料金は現在、パンデミック前の通常の旅行費用と比較して「3倍から4倍」に跳ね上がっているという。慎重にコロナ対策を実施する日本は旅行先として安心できるが、コスト面で手が届かない存在になっているわけだ。

旅行客を宿に招き入れる女性
写真=iStock.com/JohnnyGreig
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JohnnyGreig

■「歴史的な円安」という集客の好機を逃している

国境閉鎖レベルの厳格な水際対策は、コロナの感染事例が海外を中心に発生していたパンデミックの初期には有効であった。その後も、変異株の病原性が高いとされた時分には、強力な株の入境を防ぐという意味で一定の効果があったといえるだろう。

しかし現在では、オミクロン株の亜種であるBA.5が主流となり、感染力の高さが指摘される一方で弱毒化が進んでいるとされる。欧米を中心に多くの国が経済の正常化へ舵を切っており、ニュージーランドは8月1日から国境を完全に開放した。入国者は引き続きワクチン接種の要件を満たしている必要があるが、隔離は必要ない。

アメリカも6月から入国時の陰性証明を不要とし、イギリスは3月から入国後検査を廃止するなど規制緩和の動きが進んでいる。

一方の日本では、6月からツアー客のみの受け入れという独自の基準が設けられた。結果として、歴史的な円安という集客の好機を逃している。

また、現在では新規感染者数が世界1位となっており、この状況で海外からの流入を主な感染源と考えることには無理がある。

米ジョンズ・ホプキンズ大学が発表する28日間移動合計(8月30日時点)で、日本の感染者数は約582万人となり、2位韓国の320万人、3位アメリカの283万人を大きく引き離している。世界の一部の国では全数把握を廃止しているため、完全に対等な比較とはならないものの、日本が世界的にみて高い水準にあることは明らかだ。

この状況で国内旅行を制限せず、海外からの流入を絞ることに意味はあるのだろうか。

岸田首相は24日の会見で、日本人を含むすべての入国者に求めている陰性証明書の提出について、3回目のワクチン接種を条件に免除する方針を示した。さらに外国人観光客の入国をツアー客に限定するという制限を緩和し、9月からは個人旅行も認める方針と読売新聞やNHKで報じられている。

「日本に行きたい」という外国人観光客のニーズは、これまでになく高まっている。年末年始の旅行に間に合わせるには、このタイミングがギリギリだろう。日本経済の再生のためにも、より迅速な対応が望まれる。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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