野球以外の話題がまったくない…大谷翔平の「ストイックすぎるプロ生活」を米国の現地記者が証言する
プレジデントオンライン / 2022年9月1日 9時15分
ジェフ・フレッチャー氏(左)は、メジャー取材歴24年の記者で2013年よりエンゼルスを担当。大谷選手を4年間にわたって密着取材。『SHO-TIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男』を出版。右はエンゼルス前監督ジョー・マドン氏。
■渡米当初は「高校生レベルの打者」と酷評された
私は、エンゼルス番記者として約10年間活動してきました。
ということは、たとえば2002年ワールドシリーズ制覇を果たした名将、マイク・ソーシア監督の本を書くことも可能でした。あるいは通算本塁打700本が間近のアルバート・プホルスもいましたし、MVP3回受賞の生え抜きスーパースター、マイク・トラウトの本を書くこともできました。
しかし、彼らは他にもいる「名監督」「名選手」なのですよ。大谷翔平は二刀流という、前例といえばベーブ・ルースしかいない分野に挑戦する、そして二刀流の選手としてはすでにルースを超えている、メジャーリーグの歴史の中でも完全に孤高で特別な存在なのです。
2018年2月のスプリングトレーニングにおける大谷翔平は、投打ともメジャーのレベルに達していないのではないかという疑念が渦巻いていました。実際に匿名ながら「高校生レベルの打者」だと酷評したスカウトもいるありさまでした。
しかし3月のシーズン開幕と同時に大谷はそんな懐疑派を実力で黙らせてしまいました。そんな彼の姿を見て私は大谷翔平を題材とした書籍『SHO-TIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男』を書き始めました。
■手術後7カ月は一切ボールを投げられない
すぐに落胆の日がやってきます。2018年6月に大谷は肘を故障、同年10月にトミー・ジョン手術を受けることになりました。それまで書きためていた原稿も止まってしまい、出版社からの連絡も途絶えてしまったからです。
トミー・ジョン手術とは、投手が内側側副靭帯(UCL)の断裂に直面した際に行われる移植手術です。最初に手術を受け、復活した投手の名前がそのまま残っています。手術後にも、リハビリで一年以上の時間が必要になります。
手術の直後は三角巾(スリング)をつけることになりますが、しばらくすると日常生活は送れるようになります。しかし投球はできません。投手にとって、投げることができないのは人生の全てを奪われたのと同じです。手術後は、少なくとも7~8カ月は一切「ボールを投げる」ことはできません。キャッチボールすらできない、そんな日々が一年以上続くことがどれだけ滅入ることか。
■「打者でもあること」が精神的な救いに
しかし、大谷翔平が一つほかの投手と決定的に違うことがありました。「打者でもある」ということです。翌年にあたる2019年スプリングトレーニング終盤にはもうバットを振り、打撃練習を再開することができていました。5月10日ごろには打者として完全にメジャーの試合に出場できる状態まで仕上がっていました。
二刀流には前例がないわけですから、身体にかかる負担も非常に大きいのですが、精神面で考えると完全に野球を奪われたわけではないですから、よかったと言えるかもしれません。
ただ、大谷翔平はやはり投打の両方をできてこそ大谷翔平なのです。打者のみに絞られた2019年シーズンには打者の実力を測る上で大きな目安となるOPS(打撃指標数)、つまり出塁率と長打率を足した数字が一割近く低下してしまいました。
■5年で3度の監督交代
彼にとっての危機は負傷欠場だけではありませんでした。「監督交代」も続きました。ソーシア、オースマス、マドン、ネビン。5年目で4人は多いですよね。
自ら交渉の場に出てきて熱心にエンゼルスへ勧誘してくれたマイク・ソーシア監督が2018年、大谷のメジャー1年目シーズンを終えた時点で10年契約を終え退任しました。どこの会社でも、自分を採用してくれた上司がいなくなるのは不安でしょう。
監督が代われば、作戦も方針も選手起用も変わります。ソーシア時代は監督自身が常にリラックスしていてクラブハウスに楽しみの要素を持ち込むこともありましたが、オースマスは厳しい規律を持ち込みました。ただチームの成績は振るわず、1年で解任となりました。
■球場外での素行については噂すら耳にしない
その後やってきたのはタンパベイ・レイズを初のワールドシリーズ進出に導き、シカゴ・カブスで108年ぶりのワールドシリーズ制覇を果たした名将、ジョー・マドンでした。
忘れてはならないのは、2020年シーズンは大谷翔平にとっても、ジョー・マドンにとっても、そして全世界にとっても最悪の一年だったということです。前年シーズンオフに膝の手術を受けたため満足な下半身のトレーニングを積むことができず、新型コロナウイルスによりシーズンそのものが短縮され、観客の入場も許されず、大谷自身投手として全く振るわなかったうえに打撃でも全く結果を残せず、先発落ちの憂き目にも遭ったからです。
彼自身、これまでに「いままで僕はさんざん疑り深い目と戦ってきました」と語っています。彼がこの逆境をはねのけられた一番の要因は、「ベースボールだけに集中し、ベースボールにすべてを捧げる」という姿勢が変わらなかったからだと私は思います。
![2022年8月26日、トロント・ブルージェイズに勝利した後、エンゼルスの指名打者、大谷翔平は、チームメイトと祝杯をあげた。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/9/1200wm/img_298bf7f46eb75829a08deb913139caeb493224.jpg)
大金も名誉も全てが手に入るMLBには誘惑が少なくありません。それにより道を外した選手はいくらでもいます。つい最近、エンゼルスタジアムで2002年ワールドシリーズ優勝チームの同窓会が行われました。しかし、約20年ぶりの晴れ舞台にもかかわらず姿を現さず、完全に消息不明となってしまった元選手もいます。現役でも、サイ・ヤング賞を受賞しながら球場外の問題で出場停止になっている選手もいます。
その点、大谷翔平は、球場外での素行について噂を耳にすることすらなく、私が知る限り完全にクリーンです。それだけ野球に集中していて外出もない。実はそれが一番の秘訣(ひけつ)であり資質だと私は思います。
■疲労のレベルまで数値化されるトレーニング施設
もう一つ2021年の大活躍において大きな役割を果たしたのが「ドライブライン」でしょう。シアトルにあるトレーニング施設ですが、ここには毎年オフになると数多くのメジャーリーガーが集い、指導を受けています。特徴として、最新デバイスをふんだんに使用し、全ての事象を数値化することが挙げられます。
大谷翔平が投打ともにメジャーでやっていけることは2018年の時点で自ら証明していました。ただ肘の故障により投手としての活躍が続けられなかった。故障さえしなければ、ということで彼はドライブラインに入ったわけです。アレックス・カッブなど、エンゼルスのチームメイトが複数ドライブラインに行っていたことも後押しになったのだと思います。
ドライブラインに赴いたことにより、疲労のレベルが全て数値化されるようになりました。これにより、いつ休むべきか、またいつは休まなくていいのかを具体的に本人も首脳陣も把握できるようになったということです。
■「重い球」を投げることで、腕の軌道を修正する
![ジェフ・フレッチャー(著)、タカ大丸(翻訳)『SHO‐TIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男』(徳間書店)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/a/1200wm/img_aaf8cb18d849e19c0a93df11b5d6c9ec263117.jpg)
彼は一貫して「自分はもっと多くの試合に出られる」と主張していましたが、おそらく2018年の時点ではこの主張を裏付ける数値は持っていなかったと思います。しかし、ドライブラインのおかげで全てが数値化・可視化された。そのおかげで2021年にほぼ全試合に出場できることになったのです。自らの主張を裏付けるデータが手元にあるのは重要ですね。
ドライブラインの練習内容は非公開の部分が多く、詳細は分からないですが、必ず「重い球」を投げるというのが入っています。極端な話、ボウリングの球を上から投げるなら、必ず胴体に近いところを通して投げるでしょう。そうやって、投球の際の腕の軌道を修正するというのです。最近の大谷翔平が先発登板前のルーティーンの一環で、壁に向かい何種類かの重い球を投げているのはそのためです。
大谷翔平のキャリア、野球人生はケガと挫折の繰り返しでした。決して栄光ばかりがあったわけではありません。私のようなアメリカ人記者の目から見たそんな大谷翔平の苦闘の日々を、ぜひ私の著書から感じ取っていただければと思います。
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1969年生まれ、カリフォルニア州ロサンゼルス在住。エンゼルス番として10年目を迎えたオレンジカウンティー・レジスター紙の記者。メジャー取材歴24年で、米野球殿堂入りを決める投票資格も持つ。2013年よりエンゼルスを担当し、大谷選手の取材に関してはMLBルーキーイヤーから4年間にわたって密着取材。15年からはアメリカ野球作家協会のロサンゼルス支部長を務めている。22年に『SHO‐TIME 大谷翔平 メジャー120年の歴史を変えた男』を日米同時発売。 >英語版Twitter<
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(エンゼルス番記者 ジェフ・フレッチャー 構成=タカ大丸)
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