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「"死にたい"と言える人は自殺しない」は間違い…死を選んでしまう人たちの"本当の共通点"

プレジデントオンライン / 2022年8月31日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

なぜ人は自殺してしまうのか。ジャーナリストの渋井哲也さんは「自殺してしまう人たちには共通点がある。私が取材した当事者たちはほとんどが自傷行為や自殺未遂を繰り返していた。『死にたいと言っている人は自殺しない』とよく言われるが、これは迷信だ」という――。(第1回)

※本稿は、渋井哲也『ルポ自殺 生きづらさの先にあるのか』(河出新書)の一部を再編集したものです。

■周囲で死亡事故や自殺が起きていた少年時代

私がなぜ「自殺」に関心を持ち、取材テーマとして選んだのか。

自宅前は大きな街道が交差していて、子どもの頃は、ひっきりなしに大型車が通行していた。夜間になると、交通量が減るためにスピードを出したまま運転するため、単独の交通事故がよく発生した。交通死亡事故は1955年から64年にかけて、高水準になっていた。

59年には死者数は1万人を突破し、「交通戦争」と呼ばれたが、歩道や信号機が整備され、以降死者数は減少した(※1)。ただ、71年以降、再び、死者数が増加に転じ、80年には死者数は1万人を超えて、「第二次交通戦争」と呼ばれた(※1)。こうした時期に私は育ち、死亡事故を見ていた。

さらに、その交差点から南に行くと、橋があった。那須町と黒磯市(現・那須塩原市)を結ぶ橋で、那珂川にかけられている。橋はアーチ型(長さが127.8メートル、幅は8.7メートル、水面からの高さが23メートル)。2002年には栃木県で初めて、土木学会の選奨土木遺産に選ばれたが(※2)、自殺の名所となっていた。

小学生の頃だったと思うが、身近な人もこの交差点で事故に遭い、その家族がうつ状態になったのか、この橋から飛び降り自殺。さらに、その家族が後追い自殺をした。2010年、女子中学生がこの橋から飛び降り自殺した。当時、亡くなった女子中学生がいじめについて家人に伝えていたことで、それが原因ではないかとの話があった。彼女は部活の途中でいなくなったことがわかったが、学校は保護者に伝えていなかった。

また、一時はいじめを認めていたが、記者会見では「いじめはない」と教頭は言った。しかし、日付のない遺書があり、友人関係のトラブルがあったことが記されていた。

(※1)警察庁「交通事故発生状況の推移」
(※2)晩翠橋「とちぎ旅ネット」

■自殺リスクを高める8つの要因

身近な人が自殺で亡くなったこともある。私が自殺をテーマに取材をする前の1994年のことだ。長野県の新聞社に入社してすぐに知り合った男性が、自動車内で排ガス自殺した。周囲の人の話によると、1週間前、男性は、借りたものを返しに知人に顔を見せに来ていた。すでにそのとき、自殺を考えていたのだろうか。

「自殺」をテーマにした取材をするようになって、取材した人が実際に自殺、もしくは自殺の疑いで亡くなっている。当初、私は、言語化できる相手がいれば自殺しないのではないか、という仮説を立てていたが、正しくなかった。今となっては当たり前のことだ。

例えば、いじめや虐待、ハラスメントなどは、すぐには問題解決ができない。すぐに悩みが消えるわけではない。具体的なソーシャルワークにつなげても、メンタルヘルスのケアやサポートがなければ、自殺のリスクは軽減しない。一般に、リスク要因が多ければ、自殺リスクが高いと言われている。

その要因として、

1、自殺未遂歴(自殺未遂の状況や、方法、意図、周囲からの反応などを検討)
2、精神疾患の既往(躁うつ病〔双極性障害〕、人格障害、アルコール依存症、薬物依存など)
3、サポート不足(未遂者、離婚者、配偶者との離別、近親者の死亡を最近経験)
4、性別(自殺既遂者:男性〉女性 自殺未遂者:女性〉男性)
5、年齢(年齢が高くなるとともに、自殺率が上昇する)
6、喪失体験(経済的損失、地位の失墜、病気や外傷、近親者の死亡、訴訟など)
7、自殺の家族歴(近親者に自殺者が存在するか?)
8、事故傾性(事故を防ぐのに必要な措置を不注意にも取らない)

などがあげられているが(※3)、取材実感とも似ている。

(※3)高橋祥友『自殺のサインを読みとる』講談社、2001年、87頁

■「『死にたい』と言っている人は、実際には死なない」は迷信

私が取材をした中で亡くなった約40人の共通点をあげてみる。

自殺未遂(自傷行為を除く)を3回以上繰り返していたのは8割。この中で10回以上繰り返した人は2割いた。さらに言えば、30回以上、繰り返した人もひとりいた。常に「死にたい」と言っていた人も9割いた。

「『死にたい』と言っている人は、実際には死なない」というのは迷信だと言われている。少なくとも、取材経験から考えても、迷信だと断言できる。

「死にたい」「さよなら」「もう死にます」というメールやLINEが届く。また、ツイッターなどのSNSでつぶやく人もいる。そうした後に、自殺のリスクが高い行動を取ったり、実際に亡くなってしまう人もいた。取材した中で、自殺で亡くなった人の半数は、死ぬ直前に、私を含む誰かに予告めいたメールやLINEを送っている。深夜に自殺予告のメールが届いたことがあった。

夜遅くベッドで電話を使う女性
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tero Vesalainen

その女性は、それまでにも自殺をほのめかすことがあった。朝起きて、メールを読むと、飲み合わせや量次第では亡くなってしまいかねない薬の名前が羅列してあった。すぐに連絡を取ったが、返事がない。しばらくすると、その女性の知人から連絡があり、亡くなったことを知った。

その女性がメールをしてきたときに、私に何かできたことはなかったかと思い悩み、知人の精神科医に連絡を取った。そのメールが送られてきたときに薬を飲んだことを前提にしても、助かった可能性が低いほど、飲み合わせが悪いものだったと聞いた。それでも、「メールに返信をしていれば」「すぐに電話していれば」と今でも思うことがある。

■「自傷行為は、死ぬための行為ではない」と考えられていたが…

私が油断したひとつは、その女性は「自傷行為」を繰り返していたこと。1990年代後半から2000年代にかけて、「自傷行為は、死ぬための行為ではない。生きるための行為だ」という意味づけが強かった。私の当時の実感も、その言説に近かった。

渋井哲也『ルポ自殺 生きづらさの先にあるのか』(河出新書)
渋井哲也『ルポ自殺 生きづらさの先にあるのか』(河出新書)

自傷行為経験者の多くは、自殺未遂として行っていない。自傷行為はそれ自体、自殺リスクは低い。しかし、取材をしていて、自殺で亡くなった人のうち、「自傷行為」の経験者は9割。このうち、リストカットは8割だ。繰り返すことで死に近づくこともある。

精神科の通院歴の有無についてだが、取材後、自殺で亡くなった人の全員が、精神科への通院歴があった。もちろん、バイアスがある。それは、男性2割、女性8割と、ほとんどが女性であること、年齢も40代以下がほとんど、つまり男性、中高年が少ない。また、私の取材対象は精神疾患をカミングアウトしている人が多い。一度計画をした自殺を実行しているように見える場合もあれば、背景が見えず、なぜ自殺するのかわかっていない場合もある。

取材経験からは、女性のほうが、死にたいと思うきっかけとなる出来事から、自傷行為や自殺未遂までのプロセスには物語的な流れがある。一方で、男性の傾向として、出来事があったとしても、自殺願望までの流れとは結びつかず、物語化されていない場合も少なくない。

■自殺者が抱える10の共通点

どんな自殺であれ、共通するものがある。全米自殺予防学会の創設者で、心理学者のシュナイドマンが、10の共通点をあげている(※4)

1、自殺に共通する目的は、解決策を探ることである。
2、自殺に共通する目標は、意識を止めることである。
3、自殺に共通する刺激は、耐え難い心理的な痛みである。
4、自殺に共通するストレッサーは、心理的要求が満たされないことである。
5、自殺に共通する感情は、絶望感と無力感である。
6、自殺に共通する認知の状態は、両価性である。
7、自殺に共通する認識の状態は、狭窄である。
8、自殺に共通する行動は、退出である。
9、自殺に共通する対人的行動は、意図の伝達である。
10、自殺に共通する一貫性は、人生全般にわたる対処のパターンである。

自殺を企図する側にとっては、自殺は、論理的に説明できない行為とはいえない。一方、自殺について理解できないと思う人もいるだろう。衝動的な行為という面のみを見て理解しようとする人もいるかもしれない。選択の結果だと思う人もいるだろう。ただし、苦痛から逃れ、一定の解決をしたいという心情は自殺を企図しない人とも共通する。

ストレスがかかったとき要求が満たされないというのも誰にでも起きうる。愛や憎しみ、希望と絶望といった「両価性」も、一定程度、誰もが感じている。

(※4)エドウィン・S・シュナイドマン『シュナイドマンの自殺学 自己破壊行動に対する臨床的アプローチ』高橋祥友訳、金剛出版、2005年、36頁

・参考:電話やSNSによる相談窓口の情報
#いのちSOS(電話相談)
チャイルドライン(電話相談)
生きづらびっと(SNS相談)
10代20代女性のLINE相談(SNS 相談)

・相談窓口の一覧ページ
厚生労働省 まもろうよこころ
いのち支える相談窓口一覧(都道府県・政令指定都市別の相談窓口一覧)

・孤独・孤立対策の支援制度や相談窓口の検索サイト
あなたはひとりじゃない 内閣官房 相談窓口等の案内
支援制度・相談窓口の検索
18歳以下向けの検索ページ

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渋井 哲也(しぶい・てつや)
ジャーナリスト
1969年、栃木県生まれ。長野県の地方紙「長野日報」の記者を経て、フリーに。子どもや若者を中心に、自殺や自傷、依存症などのメンタルヘルスをはじめ、インターネットでのコミュニケーション、インターネット規制問題、青少年健全育成条例問題、子どもの権利、教育問題、性の問題に関心を持っている。東日本大震災でも、岩手、宮城、福島、茨城、千葉県の被災地を取材している。中央大学非常勤講師。著書に『ルポ座間9人殺害事件』(光文社新書)、『学校が子どもを殺すとき』(論創ノンフィクション)、『ルポ平成ネット犯罪』(ちくま新書)、『ルポ自殺 生きづらさの先にあるのか』(河出新書)などがある。

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(ジャーナリスト 渋井 哲也)

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