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「自分の娘と同じくらいかわいかった」女子生徒を自死に追い込んだ男性教師の"あきれた言い訳"

プレジデントオンライン / 2022年9月1日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

教師による性加害行為が原因で自死した女子生徒がいる。ジャーナリストの渋井哲也さんは「沖縄県の高校で、女子生徒に対する男性教師の性加害行為が起きた。女子生徒は教師を慕っていたが、男性教師によるボディタッチやキスなどでパニック障害を発症。体重も約10キロ減少し、最後には自ら死を選んでしまった」という――。(第2回)

※本稿は、渋井哲也『ルポ自殺 生きづらさの先にあるのか』(河出新書)の一部を再編集したものです。

■男性教師による性加害行為から自殺にいたった女子生徒

教師からの性被害に関連して、自殺に至ることもある。

2014年12月29日深夜、沖縄県那覇市在住の高校1年生の泉日和さん(享年16)が自殺した。実は、中学時代に40代の男性教師(学年主任)による性加害行為があった。性加害行為については、市教委や学校が作成した資料で詳細が明らかにされている。ただ、高校では心機一転で学校生活を楽しんでいた矢先の出来事だった。しかし、高校1年の11月頃、性被害について高校で噂になった。

時折、自宅のベランダに佇んでいた。母親のさつきさん(42)は当時の様子をこう話す。

「日和が部屋にいるときには心配だったので、常に耳をすまし、教科書などのページをめくる音がしなくなったら、すぐに見に行っていました。あるとき、部屋を覗くと、ベランダに立っていました。『また風にあたっているの?』と聞くと、『風にあたっているだけだよ』との返事がありました。もしかしたら、飛び降りるべきかどうか、自分でも葛藤していたのかもしれません」

12月29日、さつきさんが寝ているすきに、日和さんがベランダから飛び降りた。たまたま歩いている人が見つけて110番通報。警察が団地一軒一軒回っていたことで、さつきさんは気がついた。

「亡くなったときは夜中の2時頃。日和は寝ているはずでしたが、警察が来たことでいないことに気がつきました。翌日、中学時代の仲良しで、部活の友達7人と会う予定でした。高校生になって一度も会っていませんでした。そのうちのひとりと『明日、会えるかな? ゆっくり話そう』と電話していましたが、待てなかったのかもしれません。飛び降りたときには楽になりたかったのかな。日和が亡くなった後は、後追いをしようと思ったこともありました」

■「今日はどうした?」と声をかけ、準備室に呼び出し…

市教委作成資料によると、2013年11月14日朝、学校内の理科室でわいせつ行為が起きた。

理科室の顕微鏡
写真=iStock.com/urbancow
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/urbancow

テニス部に所属していた日和さんは、成績が低迷している部員を対象にした朝の勉強会に参加していた。対象者は3人。他の2人は寝坊で来なかった。日和さんも遅れ、加害教師は理科準備室にいた。同教師は日和さんに「今日はどうした?」などと声をかけ、準備室に呼び、急にキスし、椅子に座らせて頭を撫でた。日和さんは泣き出し、教師は落ち着かせようと、もう一度キスした。

日和さんは動揺し、泣いて、トイレに駆け込んだ。そこで生徒会役員の友人2人と出会い、事件のことを話した。その後、同教師は「落ち着こう」と話し、事件のことを謝った。保健室へ行くが、担任は養護教諭に、「日和さんの意向で何も聞かないでほしい」と告げた。

10時半頃、ようやく教室へ戻る。移動教室で誰もいないとき、幼馴染に「話したい」と、事件を説明した。話を聞いた日和さんの彼氏も保健室に来た。そして養護教諭も事実を知る。夕方、複数の女性教師が事情を聞く。このとき、日和さんは「こんなことになるなら、幼馴染に話さなければよかったかも」「校長先生に言うの?」「私が転校したら、(加害者の)先生は転勤しなくて済むの?」などと話した。

■「日和さんを守るため他言しないでほしい」

「当日は何も知りませんでした。彼氏が送ってきてくれましたが、『今日だけでいいので、寝ないで見守ってください。自分の口からは何があったのか言えません』と言ったんです。翌朝も、何事もなかったかのように学校へ行きました。校長と教頭、養護教諭の3人がその夜、突然来ました。土下座して謝られました。校長に『日和さんを守るため他言しないでほしい』とも言われました」(さつきさん)

14日のわいせつ行為以前、その教師と日和さんはドライブをしていた。日和さんは情緒不安定になったのか、11月5日、心療内科でパニック障害との診断を受けた。教師は「病院の話を聞きたい」とドライブに誘ってきた。

資料によると、11月5日は前日の合唱コンクールの振替休日。午前中、この教師は日和さんとメールをしている。夕方、日和さんが住む集合住宅の近くで待ち合わせをして、2人きりでドライブした。学校生活や病院の受診について“相談を受けた”。その後、5時半まで公園におり、6時頃、集合住宅の前で日和さんを車から降ろした。

「なんで先生が? と思ったんですが、日和は先生を信頼していました。将来の夢について話したこともあったようですし、(母子家庭のため)お父さんが欲しいという話もしていたこともありました。病院に行くことも先生は前もって知っていました。心配してくれている感じでしたが、『手をつなごうか』と言われ、手をつないで散歩をしたと聞いて、そこから注意をするようになりました」(同)

■加害教師は異動もせず学校に残り続けていた

過呼吸が起きるようになったのは、わいせつ行為が発覚する数カ月前。その頃からボディタッチが多くなってきていた。同級生の証言として、「もともと日和は気さくなタイプ。先生のお気に入り」。日和さんも「お父さんみたい」と話していた。

渋井哲也『ルポ自殺 生きづらさの先にあるのか』(河出新書)
渋井哲也『ルポ自殺 生きづらさの先にあるのか』(河出新書)

「お父さんのように慕っていた先生だったのですが、日和が過呼吸を起こすようになったのは、ボディタッチしか考えられないです」(同)

資料によれば、同教師は日和さんがパニック発作を起こすことを心配し、「何かあったら連絡して」とメールアドレスを教えた。教師は週3~4回連絡をしていた。また、パニック発作を起こしたとき、教師は日和さんを理科準備室に呼び出し、2人だけの状態になったことが3回あった。落ち着かせるために、手を握る、背中をさすることもあった。担任に報告はあったというが、生徒会室でも、日和さんを膝の上に乗せて足をさすっているところも目撃され、他の女子生徒に不審がられていた。

ただ、この事件があっても、日和さんは「内申点が下がる」と言い、受験もあるために通学した。帰宅すると、泣き続けることもあった。そんなとき、さつきさんは後ろから抱きしめた。

「加害教師は異動もせずに学校にいました。娘は、その教師に会わないように、始業のチャイムが鳴ると、走って移動教室に向かっていたことを聞きました。娘はだんだん痩せていきました。体重も40キロ台から30キロ台と、減っていきました。自殺願望も強く、ベランダから何度も飛び降りようとしたこともありました」(さつきさん)

■「君のせいで、僕の昇進がなくなったんだ!」

その後、加害教師と校長、教頭、養護教諭と話し合いがされた。その場で校長は同教師に対し「君のせいで、僕の昇進がなくなったんだ!」と言った。さつきさんは「他言しないように言ったのは、校長の保身だったのでは?」と感じ、怒りが校長にも向いた。

このとき、こんなやりとりもあった。

【さつきさん】「どうしてこんなこと?」
【加害教師】「自分の娘が、日和さんと同じ年齢。同じくらい可愛かった」
【さつきさん】「恋愛感情は?」
【加害教師】「ないです」

「ますます納得いきませんでした」とさつきさんは振り返る。市教委からも「訴えてください。訴えられてもしかたがないことをしてしまった」と言われ、謝罪された。

教師による性的な被害に関しては、「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」が2021年6月に施行された。教職員による児童生徒との性交等を「性暴力」と位置づけ、性暴力が心理的外傷を及ぼすとして、刑事罰にならないとしても、禁止行為とした。行った場合、免許を失効することがあり得るようになった。失効した者のデータベースも整備することになる(※1)

(※1)「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律の公布について」(通知)2021年6月11日

・参考:電話やSNSによる相談窓口の情報
#いのちSOS(電話相談)
チャイルドライン(電話相談)
生きづらびっと(SNS相談)
10代20代女性のLINE相談(SNS 相談)

・相談窓口の一覧ページ
厚生労働省 まもろうよこころ
いのち支える相談窓口一覧(都道府県・政令指定都市別の相談窓口一覧)

・孤独・孤立対策の支援制度や相談窓口の検索サイト
あなたはひとりじゃない 内閣官房 相談窓口等の案内
支援制度・相談窓口の検索
18歳以下向けの検索ページ

 

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渋井 哲也(しぶい・てつや)
ジャーナリスト
1969年、栃木県生まれ。長野県の地方紙「長野日報」の記者を経て、フリーに。子どもや若者を中心に、自殺や自傷、依存症などのメンタルヘルスをはじめ、インターネットでのコミュニケーション、インターネット規制問題、青少年健全育成条例問題、子どもの権利、教育問題、性の問題に関心を持っている。東日本大震災でも、岩手、宮城、福島、茨城、千葉県の被災地を取材している。中央大学非常勤講師。著書に『ルポ座間9人殺害事件』(光文社新書)、『学校が子どもを殺すとき』(論創ノンフィクション)、『ルポ平成ネット犯罪』(ちくま新書)、『ルポ自殺 生きづらさの先にあるのか』(河出新書)などがある。

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(ジャーナリスト 渋井 哲也)

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