どれだけ読んでも身にならない…本の内容が右から左に抜けてしまう人に共通する「残念な読み方」
プレジデントオンライン / 2022年9月1日 17時15分
※本稿は、山田竜也『神速で稼ぐ独学術』(技術評論社)の一部を再編集したものです。
■読書を生かせている人とそうでない人の違い
世の中には「読書家」と言われる人が山のようにいます。「博覧強記!」とまではいかなくても、相当な読書量と知識量を誇る人もいます。では、そのような人たちが世渡りが上手か、稼ぎが多いのか、もしくは自分自身の自己実現ができているのかというと、必ずしもそうとは限りません。「たくさん読書しているけど、職場では冴えない……」という人も多いでしょう。もっと不可思議なのは、
「この本に書いてあるのは知っていることばかりだ」
「この本も新しい視点がない」
と読書から得るものが少なくなっているのに、なぜか実生活の実践に結びつけることができない人たちです。
一方で、読書を自分自身の仕事の収入や、人間関係の円滑さ、技術力の向上に、どんどん活用している人もいます。この違いはどこから生まれるのでしょうか。
■「評論家的読書」では本の中身を実践できない
それは「当事者意識」の有無ではないかと私は思っています。読書が実践に結びつかない人は「評論家的読書」に陥っているのではないかということです。「この本に書いてあることは○○だなぁ」「この本の著者は○○だなぁ」という感じで、自分ごととは切り離された視点で漫然と読書している状態。これが
「この本に書かれていることで、自分で使えることは何だろう」
「著者と自分では状況が異なるが、いったい何が異なるか、応用が効く部分はどこにあるのか」
と常に当事者意識で本に触れると、得られる内容がまったく変わってきます。
また、私が本を読む際に心がけているものとして、「1冊読むごとに、何か1つは自分の行動を変えるネタを探して実行する」というものがあります。本を読む際にも意識が変わってきますし、本を読んだあとで実施した行動で効果が高かったものや定着したものがあると、もちろん人生に具体的にプラスになりますし、本の内容も忘れず、人に説明しやすくもなります。
■読書とネット検索で得られる情報の違い
本の持つ絶対的な魅力は3つあると考えます。
①企画編集→流通というプロセスを経ている質の高さ
本の最大のメリットともいえるのは、各分野の基礎のクオリティが高いことです。ある程度部数が売れるような内容が普及する傾向にあり、各ジャンルの入門書や、難しい本を噛み砕いた本が多く出版されるケースが多いですが、こういった質の高い基本は、Webの情報では足りないことがほとんどです。
Webで検索して出てくる情報は前後関係や思想が抜けたものが多く、網羅性に欠けるケースも多いです。特定の分野の入門的な本を数冊読むと、まずその分野の知識で複数の著者が共通認識として重要だと思われる情報が被ってくるので、スタンダードな情報が理解できます。また、各著者ごとに異なる複数の視点を学べるので、同じテーマの情報に対して異なるアプローチから学習を繰り返すことになり、格段に理解が深まります。
![パソコンの横に積まれた本](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/4/1200wm/img_540805b0569aba7e3bd6ece593151aed380782.jpg)
■本は読みやすく編集され、質も保証されている
本の持つ魅力は、本が世に出るまでのプロセスから生まれる面があります。まず、本はある一定の売れ行きと価値を市場に与えられるかどうかが判断されて、出版できるかどうかが決まります。また、著者が書いた原稿は、編集者、出版社の手を通して読みやすい形や、クオリティが高まるように手直しがなされます。
最近では特に医学分野などで、「売れる」という理由で、科学的根拠が乏しかったり、特定の効能を誇張するような内容の本が出てしまうこともありますが、客観的な目で検証される機会が増えることはまちがいありません。そうやってさまざまな関係者の手を通して、書店ないしは電子書籍(ダイレクトパブリッシングは除きます)を経て、本が私たちの手に渡ってくるのです。これらによって、あまりに事実無根なものや偏ったものは出版されにくくなりますし、質についても一定の保証がされることになります。
また、書店に行くと、時代を超えて長年売れ続けている本や、おすすめの本などを書店員がセレクトしてくれていて、私たちが質の高い知識に触れる機会を得やすい仕組みもできています。
ただし、「出版社を通す」というプロセスにはマイナスの側面もあります。採算が取れない本を出版するわけにはいかないので、おのずと一定の需要が見込めるテーマの本しか世の中に出回りにくくなります。この点には注意してつきあう必要があります。
■本のメリットは読書中に考え込めること
②インプットすること自体が即アウトプットになる
難解な本や、自分がくわしくないテーマの本を読んでいると、途中で考え込んでしまって、読書が進まないという経験はないでしょうか。それは、決して悪いことではありません。むしろ読書のメリットです。
本は自分のペースで読み進めていくため、読書中に考えごとをしてしまったり疑問が浮かんだりすると、本との対話、自分自身との対話が発生します。本の内容をインプットしている過程で、一種のアウトプット作業が発生しているのです。読む過程で本に線を引いたり自分の考えのメモをとったりすると、アウトプットとしての側面がより強くなるでしょう。
テレビやWebメディアの動画などは徹底的にわかりやすく加工されており、かつ自動で話が進んでいくため、私たちがこういった時間を得ることはほとんどありません。考えないでいいように重要な箇所にはテロップがついていたり、面白い部分はリピートしてくれたりと、受動的に消費できるコンテンツになっています。
本は、SNSやWebのブログ記事などとは異なり、長文であることから、前後の辻褄や流れなど、思考を整理するタイミングが多く、本との対話が発生する頻度が大変多いコンテンツです。本を読むと思考力が高まりやすい1つの理由はここにあります。
■本は効率的に高い学習効果を得られる
③著者の視座や思想を学ぶことができる
本の価値で、私が特に優れていると感じているのはこの点です。本1冊を書くために、著者は特定の1つのテーマで数万~数十万字の長文を記す必要があります。そうなると、どのような章立てにするか、どんな内容をセレクトするのか、1つ1つに著者の個性が出ますし、著者の向き合い方がわかります。
世の中には「フラットな情報」というものは存在せず、情報には必ず発信する人の意図や思想、視座が存在しています。高い知見を持っている専門家の視座を知ることができるのは、本の最大の利点です。
本の持つ3つのメリットを挙げてきましたが、こういった内容の本が、新書や文庫であれば1000円前後、一般のビジネス書であれば2000円以内で購入できるのは、驚異的なパフォーマンスです(学術書ですともっと高価ですが……)。後に触れますが、Webの情報は高いリテラシーがないとゴミばかりを拾うことになりかねませんし、罠も多いのですが、本にはそういったリスクが圧倒的に少ないのもポイントです。
つまり、高いリテラシーがなくても効率的に高い学習効果を得られるというのが、本の持つポイントです。金銭的コスト、時間的コストの両面から高いメリットがあるメディアと言えます。
■本というメディアが愛され続けている理由
「本には著者の思想が現れやすい」という話をしましたが、このことは読み手の私たちの好奇心やモチベーションを高めることにも役に立ちます。あなたも、自己啓発本を読んで、強くやる気を刺激されたことがないでしょうか。自己啓発というジャンルがなぜ本という形式で最も普及しているかというと、著者の思想や、ちょっとスピリチュアルな表現を使うと「心のエネルギー」が乗りやすいからです。フラットな表現をすると、著者の思いや感情が文章全体を通して伝わりやすいとも言えるでしょう。
セミナーも同じように感情やエネルギーの共有感からモチベーションを上げやすいですが、情報の質や量のバランスは本のほうが優れているでしょう。「本を読んで人生が変わった!」という経験のある人は多いですが、「ブログ記事1つ読んで人生が変わった」「SNSのこの投稿を読んで人生が変わった」という人は、本に比べるとあまり聞きません。
読後にモチベーションが高まり、かつアクションにつながるような適切な情報もある。その2点が揃っているのが、本の持つ優位性です。これも、長い歴史の中で本という形式が愛され続けている理由の1つと言えます。
![壁一面の本棚](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/f/1200wm/img_cf7191f1ad301343fc36da4e77d1b079380207.jpg)
■ネット記事ばかりを読む人が陥りがちな思考
ネット上で情報を調べると、比較的短い数百文字~長くて3000字程度の記事を目にすることが多いでしょう。TwitterなどのSNSに至っては、もっと短文です。そのような文章を短時間で目まぐるしく行ったり来たりするのが、Webサイトの情報収集の一般的なパターンです。場合によっては、気になったWeb記事に貼られた外部サイトへのURL(ハイパーリンク)をクリックして、気がつけば本来調べていた情報とは異なるような情報を読んでいた、という経験はだれにもあるでしょう。
このような文章ばかりに触れていると身体に染み込んでしまう思考の癖を、私は「ハイパーリンク的思考」と呼んでいます。インターネットのハイパーリンク=外部URLへのリンクを次々クリックするように、短期間で答えを探し、目まぐるしく変化するような思考です。
このような思考は、答えが決まっていてすぐに調べられるようなものに向き合うときには向いています。
また、大量の情報を短期間に浴びることで、思考に化学反応を起こす可能性も秘めています。一方で、答えがなかなか導き出せない問題を考えるときには向いていませんし、思考があちこちに飛んで集中力に欠けるタフさのない思考でもあります。近年、本を読まずにネットに多量に触れている人には、このようなタイプの思考法の人が増えているように思います(それ自体が決して悪いわけではなく、そういった傾向があることだけにとどめておきます)。
■長文的思考は本を読まないと身につかない
ネットの情報に対して、教養書やビジネス書は、文字数が少ないものでも4万字、分厚いものになると12万字程度のボリュームがあります。たった1つのテーマで、それだけの文字数が、1人の著者の視点でまとめられているのが、1冊の本なのです。学術書になると、場合によってはさらに膨大なボリュームになります。
![山田竜也『神速で稼ぐ独学術』(技術評論社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/8/1200wm/img_186411858cc6d069dfcdf351c24e3810251953.jpg)
ここでポイントになるのが、「1人の著者が書いた」「特定の編集方針を決めた」コンテンツに長時間接することです。これは、先ほど触れたハイパーリンク的思考とまったく逆のベクトルです。ネットで情報収集する場合は、ささっと1文を読んでしまったり、わからないところや納得がいかないところは飛ばしてしまったり、目まぐるしくテーマの違うコンテンツを行き来したりと、忙しない学習になりがちです。それに対して、本を読む時には次のものが身につきます。
・1つのテーマに対して長い時間掘り下げた視点
・著者の思考
・著者の考えていることに疑問を感じ、立ち止まり対話しながら読み進めていく批判能力
本を読んでいるときは、どうしてもわからないところや難解なところ、著者の考えと合わないところがあると、私たちは一度立ち止まって考え込んでしまいます。また、1つのテーマに対して複数の章から1人の著者の複数のアプローチでの視点に触れることができ、情報に対する縦の深さと横の広がりを得ることができます。このような思考法を、私は「長文的思考」と呼んでいます。これは、普段から本を読んでいないと身につかないものです。
■長文的思考はAIにはまねできない
長文的思考は、かんたんに答えが得られないような問題に向き合う能力を身につけるのに最適です。昨今、答えが決まっていて導き出せるようなものは、AIなどの機械学習がどんどん効率的に処理できるようになってきています。逆に、答えがかんたんに出せないような複雑なテーマや課題には、私たち人間の能力が必要とされ続けます。
本で身につく「長文的思考」というのは、ひと筋縄ではいかない複雑なテーマを考え抜くのに極めて適した能力とも言えます。逆に言うと、ただ単に知識を丸暗記するような読み方をしてしまうとこのような能力が身につかないので注意が必要です。
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ウェブマーケター
同志社大学哲学科卒業後、3年半の会社員生活を経て独学でWebマーケティングを学び、2007年にフリーランスとしてWebマーケティング専門会社パワービジョンを立ち上げ。中小企業から東証プライム上場企業まで幅広くWeb事業のコンサルティングを手掛ける。著書に『すぐに使えてガンガン集客!WEBマーケティング123の技』(技術評論社)、『フリーランスがずっと安定して稼ぎ続ける47の方法』『小さな会社のWeb担当者になったら読む本』(日本実業出版社)などがある。
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(ウェブマーケター 山田 竜也)
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