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だから外国人は「新宿のゴールデン街」が大好き…ごみごみした東京の街並みに外国人が注目するワケ

プレジデントオンライン / 2022年9月5日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fotoVoyager

■外国人観光客が東京に惹かれるワケ

東京は不思議な街だ。清潔さと猥雑さが同居し、世界中のあらゆる旅行客を惹きつけている。その代表例が新宿だ。

高層ビルが並ぶ新宿副都心はモダンな街並みの最たる例だ。新宿駅の反対側、東口を出て歌舞伎町へと足を踏み入れれば、ネオンきらめく雑居ビルに囲まれた異空間が広がる。

表通りを抜けてさらに路地裏へと迷い込めば、瞬く間に碁盤の目は崩れ、縦横無尽に延びる路地に点在する小さなバーや商店との新たな出会いが待っている。

近年盛んな大規模再開発の事例を除き、東京の街並みの多くは自然発生的に発展してきた。新宿など大都市に限らず、比較的小さな東京の駅においても、ランダムに延びる入り組んだ道沿いに住宅と商店がないまぜになって存在している光景はおなじみだ。

これに外国人観光客は熱い視線を向けているようだ。

こうした東京の街並みは、都市計画に沿って整然と整備されたニューヨークやシカゴ、パリ、マドリードなどと比較すると、猥雑で暮らしにくいように見える。だが、無秩序に広がる都市の姿が実は非常に合理的に機能していると、海外で再評価されている。

■「東京は2つの顔をもつ都市である」

ブルームバーグは今年7月、東京のユニークな都市構造を分析する記事を掲載した。

東京は政府主導の計画によって鉄道網整備や安全な街づくりが進んだと同時に、入り組んだ薄暗い路地裏では自然発生的に店が発生し、都市を活気づけているとの分析だ。トップダウンの計画と無秩序な活気が同居することから、記事では「東京は2つの顔をもつ都市である」と指摘されている。

訪日外国人がこぞって足を運ぶ新宿・ゴールデン街は、後者の好例といえる。決して広くない敷地に個性豊かな店舗が200軒ほどひしめいており、日本酒をとことん楽しめる飲み屋やカレーに力を入れた店、そして猫と触れ合えるバーなどが所狭しと並ぶ。薄暗い路地を歩きながら興味津々に店を巡る観光客がいる一方、常連は慣れた足取りで2階のさらにディープな空間へと通う。

東京の路地裏は、活気ある地元ビジネスの原点となっているようだ。慶應義塾大学のホルヘ・アルマザン准教授(空間・環境デザイン工学)らは、4月に刊行した新著『Emergent Tokyo(原題)』において、手狭なバーや商店がひしめく東京の路地裏を都市機能の観点から高く評価している。

■住宅地と近接する「裏路地」

書名にもある「エマージェント」は創発とも訳され、ボトムアップの形で自然発生的にものごとや機能が沸き起こり、トップの調整者がなくとも自然にうまく作用し合うことを意味している。まさに東京はこの形で成り立っているようだ。

アルマザン准教授はブルームバーグの取材に、東京には怪しくも魅力的な「横丁」と呼ばれる路地があり、バーやレストラン、ブティックや工房などが開かれていると説明している。2階に住む高齢のオーナーが1階を若者に貸してコーヒーショップとするなど、非常に柔軟な空間利用が可能だという。

新宿に限らず、住宅地にかなり近接した区域でもこの形態は都市計画上許可されている。「アメリカに住む人にとっては突飛にも感じられるかもしれない」ほどユニークな施策だとの評価だ。このような「マイクロスペース」にひしめく柔軟な店舗こそが、都市を活性化しているのだという。

■飲食店が軒を連ねる雑然さと力強さ

ゴールデン街の極小スペースに詰め込まれた数々のバーも、雑然とした光景がただ海外客に衝撃を与えているだけではない。およそ大規模店を構えるには至らない地元のオーナーたちに、優れた商機を与えている。

新宿のゴールデン街
写真=iStock.com/Mlenny
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mlenny

厳密にはゴールデン街は、戦後の新宿に現れた無許可店舗を計画的に移設した経緯があり、完全な創発(自然発生)とは異なる。ただ、戦後当時の混乱のなかで立ちあがろうとした店舗が原点となっており、その雑然さと力強さの面影をいまも残す。

新宿の著名な路地としてはこのほか、西口の「思い出横丁」が挙げられる。こちらも戦後の闇市を出発点としており、現代でも細く入り組んだ路地裏に数十の飲食店が軒を連ねている。アンダーグラウンドながらどこか温かい空気が人々を惹き寄せるのだろう。パンデミックまでは新宿のオフィスワーカーに加え、多くの訪日客を集めていた。

こうした路地裏が日本独自の魅力を放っているほか、都市部ではよくみられる雑居ビルも、日本らしい空間利用だとして海外で注目されているようだ。カナダ・トロント在住の建築家で都市計画家のナーマ・ブロンダー氏は、カナダの不動産ニュースサイト「ストーリーズ」に寄稿し、トロントの都市設計は東京のアプローチに学ぶべきだと主張している。トロントでは小さな土地が余ると、ただ空き地となる傾向が強いのだという。

氏は一方で、東京は「革新的な設計」により狭小地にもかなり高さのあるビルが建つとし、「このコンセプトは東京などの場所で大変な成功を収めている」と論じている。幅のない雑居ビルが並ぶ光景は決して美しいものではないようにも思えるが、都市空間を活用する「クリエイティブなアプローチ」だとブロンダー氏は捉えたようだ。

■自然発生した人間中心の街づくりへの評価

住宅のごく近隣にバーや商店が並ぶ光景は、海外客や商店主にのみ恩恵をもたらしているわけではないようだ。必ずしも碁盤の目に整備されておらず、地区利用も雑然としている日本の街並みは、時代と共に都市がボトムアップで発展してきたことの証左でもある。その街の住民がいきいきと暮らせる人間らしい街づくりを体現しているとして、オーストラリアの専門家の注目を集めている。

シドニー大学のレベッカ・クレメンツ研究助手(交通・インフラ運営学)は、豪ニュース・評論メディアの「カンバセーション」に寄稿し、オーストラリアの都市は日本の都市設計に学ぶべき点があるとの見解を発表している。

オーストラリアでは車通学が70%を占めるが、日本では徒歩と自転車通勤を合わせると全体の約98%に達するという大きな違いがあるという。このようなデータをもとに、日本では車が不要な範囲に、人間を中心とした街並みがまとまっていると論じている。

氏は、日本ではスーパーブロックが自然発生的に体現していると考えているようだ。スーパーブロックとは都市計画の概念のひとつであり、住宅、商店、公共サービス施設などを街区内に配置し、身近な範囲内で暮らしやすい都市を設計する手法だ。これは通学の利便性にもつながっている。子供がひとりで通学する姿は日本ではおなじみだが、オーストラリアでは徒歩通学は必ずしも多数派ではない。

今年は日本のテレビ番組「はじめてのおつかい」(日本テレビ)がNetflixで配信され、海外の視聴者の間で注目を集めた。保護者が車で送迎する通学スタイルが主流の現地では、子供がひとりで街を歩き登校する様子に目を疑ったようだ。

日本の治安のよさも徒歩通学の要因となっているが、根本的には住宅と学校が生活圏内に近接しており、車を必ずしも必要としない人間中心の街が自然と出来上がっている影響が大きいだろう。

■電車に乗ってどこでも行ける利便性

鉄道を中心とした公共交通の充実も、日本の都市の長所として認知されている。都市評論家のコリン・マーシャル氏はカルチャー情報サイトの「オープン・カルチャー」への寄稿を通じ、「しかし、日本の首都独特の際立った都市計画を地面の下から支えているのは、比喩的にも実際にも、その地下鉄網である」と解説している。

JR線や地下鉄の電車が走る東京
写真=iStock.com/Champhei
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Champhei

同氏は、アメリカでは自動車中心の街づくりが進み、都市の多くのスペースが駐車場に奪われたと述べ、公共交通の活用に成功した日本の事例と対比している。

前掲のトロントの都市設計家であるブロンダー氏も、日本では発達した鉄道網に加え、鉄道駅が都市のハブとして機能していると評価している。東京など日本の都市は、駅を拠点としてオフィスやレストランなどを組み込んだ複合施設を開発する「Rail Integrated Communities(鉄道統合型コミュニティー)」の手法の成功例が豊富だと氏は述べる。

トロントの一部でも同様の開発手法が採用されはじめている模様だ。ブロンダー氏は、「トロントがこの分野をリードする東京に続き、正しい道を歩んでいるかもしれないという希望をもてる兆候だ」と前向きに評価している。

なお、トロントでは70%が車通勤だが、東京は30%に留まっていると氏は指摘する。高い公共交通の利用率が駅の利便性をさらに高める循環になっているようだ。

もっとも、駅ビルなど集積的な再開発は、『Emergent Tokyo』で主張されている創発的な都市像とは正反対の姿となる。しかし、公共交通を中核とした街づくりという意味においては、これもまたひとつの東京の良さだと受け止められているようだ。

■雑然とした街にある合理性が魅力に

日本の都市は海外に比べてごみごみとした印象は拭えないが、日本を訪れる海外客にとっては、その雑然さこそが名だたる観光地・東京の魅力となっている。

ひしめくネオンが単に写真映えする光景を作り出しているだけではなく、新宿の路地裏などに代表される小さな店舗や住居一体型の商業スペースが都市にフレキシブルな空間を与え、スモールビジネスが活況を呈している。

雑然とした路地が続く住宅地においても魅力が海外で再評価されており、生活圏におよそすべてが揃う人間的な街として都市の専門家たちの関心を呼んでいるようだ。アメリカやオーストラリアではスーパーまで車を飛ばさなければならないような都市も多い。

一方、日本の都市部では駅を降りれば歩いて飲み屋街へ行くことができ、通勤も電車で済ませることが可能だ。このような生活スタイルは、どこか新鮮な感覚をもたらすようだ。

もちろん地下鉄はニューヨークなどにも走っており、電車通勤が日本だけの習慣ということではない。だが、政府や自治体が大掛かりな計画で鉄道網の整備を進めた一方、都市の細かいデザインは、戦後に自発的に延びていった路地や飲み屋街の跡を色濃く残している。

トップダウンの交通網と自発的に発展した街角の景色が絡み合い、結果として人々が生活しやすく時代の変化にも柔軟に対応できる都市が形成されている。雑然としてみえる東京の街角には、時を経て自発的に形成された、ある意味での合理性が秘められているようだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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