露天風呂に本物の鈴虫を放つ…ビジネスホテル「ドーミーイン」がやりすぎサービスを連発するワケ
プレジデントオンライン / 2022年9月1日 13時15分
■人気の大浴場は寮事業が礎となっている
ドーミーインは直近における顧客満足度調査の評価が高い。2021年の日本版顧客満足度指数(JCSI)調査によれば、ビジネスホテル部門で満足度1位を獲得している。
おもてなし溢れるサービスが評価されたことについて、ドーミーイン事業本部の水野貴史さんは「お客様と真摯に向き合い、どうしたら満足いただけるかを愚直に考えた結果だと思っている」と話す。
ドーミーインが開業以来、最も定番と言えるサービスが大浴場だ。
運営元の共立メンテナンスが、学生寮や社員寮などの寮事業を礎に成長してきたことから、“我が家のような寛ぎ”を追求し、ホテル経営においても「ビジネスマンが居心地よく過ごせる場を作ろう」と考えたそうだ。
「もともと全国に大浴場付きの寮を運営していたことから、大浴場を作るノウハウは持っていました。ビジネスホテルの客室にある手狭な浴槽よりも、手足が伸ばせる大浴場の方が疲れも取れ、お客様も満足してもらえるのではと思い、ゆったり寛げる大浴場を完備してきました。ホテル内に大浴場スペースを作ると、ワンフロアが潰れてしまって収益性の悪化につながります。ですが、お客様が喜んでくれてまたドーミーインに泊まりたい。そう思ってもらえた方がいいんですよ」(水野さん)
■サウナブームが来るより前から設置
また、昨今にみるサウナブームより以前から、ドーミーインではサウナ室もホテル内に設置している。
当時の社員が銭湯に足繁く通っていた際、サウナと水風呂に目をつけ、「ドーミーインでも導入できたら絶対、お客様は喜んでくれる」と思い、サウナ室を大浴場とともに取り入れたという。
かくして、サウナ付き大浴場がドーミーインを象徴するサービスとなり、出張族やサラリーマンの心をつかんでいったのだ。
■宿泊者との接点を増やすために「夜鳴きそば」を始める
さらに、約10年前に始めたのが夜鳴きそばの無料提供サービスである。
一見斬新に思えるが、「お客様との接点を増やし、会話が生まれる場が欲しかった」と水野さんは説明する。
「ビジネスホテルのチェックインは簡略的で、お客様と接客するのも、ほんのちょっとの時間しかない。それだと味気ないというか、もっとお客様に喜んでもらうためにできることは何かと考えたんです。そんななか、ドーミーインは全国に展開していますが、地域によっては遠くにしかコンビニがない立地の店舗もあるため、夜食や飲んだ後のシメをホテルで無料提供すれば、お客様の満足度向上につながるのではと思いました」
だが当初は、現場スタッフから困惑した声が上がったそうだ。
「夜は調理スタッフがいないので、『フロントスタッフですけど、ラーメン作るんですか?』と、現場のオペレーションに不安を抱えるスタッフもおりましたが、調理の技術がないスタッフでも作れるラーメンを開発することで、問題解決を図ったんです。メニュー開発は専門のフーズ開発チームが担当し、夜鳴きそばを作るオペレーションも極力負荷がかからないように意識しました」
■SNSや予約サイトの意見はしっかり確認する
そのほか、大浴場内には夏季限定でポカリスエットのジャグタンクを置いたり(ドーミーイン池袋のみ)、湯上り後に飲食したくなる乳酸菌ドリンクやアイスを無料で提供したりと、かゆいところに手が届くようなサービスがいくつもある。
こうしたアイデアはどのように生み出されるのか。
コーポレートコミュニケーション部の上遠野恵美さんはこう答える。
「弊社の創業者の石塚晴久はよく『宿泊料金以外のお金をお客様からとってはいけない』と言っていることもあり、社内には『そのアイデアはお客様が喜ぶかもしれないけど、お金をもらうのは違うよね』という企業風土が根付いているんです」
また、SNSやネットの口コミがアイデアの源泉になっていると水野さんは説明する。
「お客様からの要望もよく参考にしていますが、お客様に紙のアンケートを書いてもらうことはしていません。SNSの投稿や宿泊予約サイトの口コミを細やかにチェックし、満足度向上につながりそうであれば、すぐに導入してみる。そこからお客様の声や要望を受け止め、試行錯誤しながらサービス改善を続けているような状況です」
■「満足させたい」気持ちが強すぎて、思わぬ大失敗も
お客様が喜ぶサービスを積極的に導入していく姿勢は、ホテル宿泊時の満足度を高めることに寄与する一方、ときに失敗を招くこともあるだろう。
過去の失敗事例として挙げてもらったのは、大浴場で心と身体を癒やしてもらうための空間づくりだ。
風情感じる露天風呂につかれば、出張で疲れた体を労わることができる。そこに、季節を感じる鈴虫の鳴き声も入れば、もっと安らげるのでは――。
そう思い、露天風呂に本物の鈴虫を放したところ、言わずもがな翌日には外に逃げていってしまったという。
「お客様に至福の癒しを届けたいと考えた末に生まれたアイデアで、結果としては失敗した形にはなりますが、現在は鈴虫の鳴き声がするBGMを導入し、好評をいただいております。このようにトライアル・アンド・エラーを重ね、何度も改善を繰り返しながら、サービスの改善に努めているんです」(上遠野さん)
■「ドーミーインなら○○」と言われるようなサービスを考える
その一方で、サービスの導入を決める際の決め手となる基準などはあるのだろうか。
水野さんは「新しいサービスを出す際は、会議を重ねて決めていく」と述べる。
「大前提として、お客様第一になっているか。そして、『ドーミーインなら○○だよね』と想起してもらえるかを重要視しています。コストやオペレーションの観点はいったん抜きにして、事業部の社員や現場のスタッフがアイデアを出し合える文化があるので、毎月10~20個くらいのアイデアが上がってくることもあります。
そこに良い案があれば、宿泊代金に含められるか(オールインクルーシブ)収益構造を考えたり、専門の部署でオペレーションに落とし込めるか検討したりと、具体化していく動きをとります。こうしたアイデアの結集があるからこそ、ドーミーインは、他のホテルとは異なる“異端児”のようなポジショニングを築いてこられたのだと考えています」
■クレームには代替案の提示とスピード対応を徹底
きめ細やかなサービスが随所に散りばめられているが、押し出してこない。こうした謙虚さは、寮事業の運営で育まれた「黒子精神」が端緒になっているという。
実際に筆者も「天然温泉 豊穣の湯 ドーミーイン池袋」に宿泊したが、水野さんに教えてもらわなければ気づかなかったサービスがたくさんあった。主だったサービス以外にも書き切れないほどのサービスがあり、ホテルに滞在するお客様のことを全方位で考え抜かれているのが伝わってきた。
しかし、図らずもお客様からクレームをいただくこともあるだろう。その際は「『できません』とは言わずに代替案を提案するのを必ず行っている」と水野さんは語る。
「できることとできないことを明確にし、代わりの案を返答した上で、できる限りスピーディーな対応を心がけています。そういう意味では、何か不満の声が上がったらすぐに実行できるような準備を日頃から行っているからこそ、素早く改善に動けるのだと思います。例えば、『大浴場に水分補給のペットボトルを持ち込んでもいいのか。コロナ禍だけれど話し込んでもいいのか』というお客様の意見に対しては、ルールをすぐに決めて、2~3日で全国のドーミーインに展開したんです。
コロナ禍でフルバイキング形式から小鉢に分けたセミバイキング形式に変更した際も、寮や高齢者住宅などのメニューも手がけるフーズ開発チームの知見や機動力を生かし、2週間で全ホテルの朝食メニューを変えることができました」
■ライフスタイルの提案ができるホテルを目指したい
競合他社よりも、お客様と向き合うことを大事にしているドーミーインだが、今後は「ビジネスユースや観光目的以外のライフスタイルを訴求できるようにしていきたい」と上遠野さんは意気込む。
「ここ数年来でサウナブームが到来したことで、開業以来のサービスであるサウナ付き大浴場の見方が変わり、あらためてその魅力に気づくことができました。今の時代、ホテルが選ばれる理由にアクセス良好や良質な朝食のほかに、サウナの有無も入ってきている。
つまり、出張や観光のみならず『サウナに入る』といったライフスタイルの提案ができるホテルを目指していきたいと思っています。ドーミーインには“DOMINISTYLE部活”と称したサウナ部や料理部、釣り部といったコミュニティがあるんですが、このような趣味のニーズを取り込んだ専用の客室を設けることで、新たなホテル滞在の形を見いだしていければと考えています」
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フリーライター
1986年生まれ。ビジネス、ライフスタイル、エンタメ、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。
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(フリーライター 古田島 大介)
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