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金持ちが富を独占している…韓国でハイリスクの株式投資に手を出す人が増える悲しすぎる理由

プレジデントオンライン / 2022年9月5日 9時15分

韓国の尹錫悦大統領=2022年8月17日、韓国・ソウル - 写真=EPA/時事通信フォト

■「それだけ追い込まれる人が多いのでしょう」

最近、韓国の個人投資家の中で、投機的な“一発逆転”の発想で投資を行う人が増えているという話を耳にする。中には、家族の生活に必要な資金のほとんどを、テスラなど米国の株式に投資する投資家もいるという。韓国人の友人の一人は、「それだけ韓国では追い込まれる人が多いのでしょう」という。

そうした行動の背景には何があるのだろう。おそらく、貧富の差の拡大や不動産価格高騰による家計の債務負担の増加など複数の要因が思い当たる。それに加えて、韓国では世界最速のペースで少子化が進み人口が減少している。多くの国民にとって、将来に希望をもつことは難しくなり、先行き不安は急速に高まっているようだ。その状況下で一発逆転をかけてハイリスクな投資(投機)に踏み切ろうという人が増えているのかもしれない。

問題は、韓国の政治が、閉塞感高まる社会の状況に明確な回答を出せていないことだ。その状況が続けば、社会心理は一段と悪化し労使の対立が先鋭化するなどして経済運営に負の要素が増えるだろう。国内経済が停滞し先行の明るい展開を期待しづらいというのは、わが国にも当てはまる。韓国の個人投資家を取り巻く経済と社会の問題は、わが国にとって他山の石といえる。

■上位層10%が46.5%の富を独占している

近年、韓国では株式や仮想通貨などハイリスク・ハイリターン型の投資を選好する個人が増えてきたといわれることが多い。投機色の強い取引を好む人は多いようだ。ブルームバーグによると、8月17日時点で、韓国の個人投資家は、テスラの発行済み株式の1.6%程度を保有している。株主ランキングでの順位は第7位に位置する。

昨年11月以降、連邦準備制度理事会(FRB)はインフレ退治に徹底して取り組まざるを得ない状況に追い込まれ、大幅な追加利上げが実施された。それと同時に量的引き締め(QT)も進められている。金利上昇によって期待先行で上昇したテスラ株は下落し、足許の値動きはかなり荒い。そうした状況であるにもかかわらず、韓国ではテスラ株投資が苦しい生活環境から抜け出すための有力な手段であると考える個人投資家は多いといえる。

■新卒で有力企業に入れなければ人生が決まってしまう

ハイリスクな投資によって人生の一発逆転を狙わざるを得ない人々が増えた背景には、複数の要因が影響している。特に、経済格差が拡大していることは大きい。“世界不平等データベース”によると、2021年の時点で韓国の所得上位1%の層が全体に占めるシェアは14.7%だった。同年の韓国において所得上位10%の層が全体に占めるシェアは46.5%に達した。大学を卒業してもサムスン電子など給与水準の高い大手財閥系企業に就職できる人は限られている。

また独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査(資料シリーズNo.258 韓国の非正規労働政策の展開と課題―正社員転換を中心に―)に掲載されたグラフを見ると、2017年以降の韓国では契約終了に直面する非正規雇用者の割合が上昇した。その一方で継続雇用される非正規雇用者の割合が低下した。

韓国では新卒学生として有力な企業に就職することができない場合、自力で所得水準の向上を目指すことはかなり難しいという一つの見方が浮かび上がる。その状況下で豊かな人生を送ることを想定することは難しいだろう。そうした苦境から脱するために、投機を行って一発逆転にかけざるを得ない人が増えているようだ。

■都心のマンション価格の上昇が止まらない

それに加えて、韓国では経済と政治の中心地であるソウルを中心に、不動産の価格が高騰している。特に、文前政権下の韓国では、マンションなど不動産価格の上昇がそれまで以上に勢いづいた。世界的な低金利環境、より良い就業機会などを求めた首都圏への人口集中が重なり、ソウルなどのマンション価格は上昇し続けるという“神話”が醸成されたといえる。韓国の国民銀行の集計によると、2022年8月のソウルのマンション(統計上の表記はアパート)購入価格は、前年同月比5.1%上昇した。

韓国銀行(中央銀行)がインフレ退治のための追加利上げを余儀なくされているにもかかわらず、住宅価格は高止まりしている。そのため、借り入れに頼って住む場所を手に入れなければならない人が増えている。首都近郊で思うような物件を手に入れられず、地方に移住せざるを得ない人もいる。

それに加えて、ウクライナ危機発生以降の韓国では天然ガス価格の高騰などによって電力料金など生活費の負担が増している。その結果として、韓国ではハイリスク・ハイリターンの投資を行い、人生の一発逆転を狙う個人が増えたと考えられる。

■無謀な賃上げで失業者を生んだ前政権の失策

韓国では人口減少も深刻だ。2021年、韓国の合計特殊出生率は0.81に低下した。世界銀行によると韓国の出生率は世界最低である。2021年に韓国の人口は減少に転じた。今後、人口減少ペースは加速するだろう。存続が困難になる自治体が急速に増えるなど、雇用・所得環境は一段と不安定化する可能性が高い。

韓国ソウルの繁華街の明洞
写真=iStock.com/pius99
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pius99

本来であれば韓国政府は労働市場の流動性を高め、起業支援を強化するなどして、人々が中長期的な目線で新しい取り組みを能動的に進めようとする環境を整備しなければならない。

しかし、文前政権は経済成長率を大きく上回る賃上げを行った。その結果として中小企業などの経営体力が奪われた。急速な賃上げの結果、韓国では雇用を減らす企業が増えた。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権も人々の先行き期待を高める政策を打ち出すことはできていない。その状況下、国民が将来に希望をもち、結婚し、子供を育てつつ自己実現を目指すことは容易ではない。

■国民の無力感を解消する政策を打ち出せていない

また、韓国では大手企業や物流業界などで労使の対立が激化している。例えば、現代自動車の労働組合は業績状況にかかわらず賃上げを求め、要求が受け入れられない場合はストライキを決行するという姿勢をとり続けていた。ストは結果的に回避したが、韓国の企業経営者が従順な労働力を確保して事業運営の効率性を高めるためには、海外に生産拠点を移さざるを得ない。

すでに韓国から脱出する海外の企業は増えている。その結果として、若年層の就業機会が一段と少なくなるなど雇用・所得環境の悪化懸念は高まるだろう。

その状況下、韓国の政治は就業機会の創出など人々の先行き懸念や無力感を解消するための有効な手立てを打ち出せていない。これまで韓国企業にとって重要顧客だった中国企業は、競争上の脅威に変わり始めた。不動産バブル崩壊などによって中国経済の成長率も低下している。韓国が中国の需要を取り込んで経済と社会の安定を目指すことは一段と難しくなるだろう。

■日本も同じ状況に直面している

コロナ禍によって海外からの観光客が減少したことも、飲食や宿泊などのサービス業を中心に雇用環境を下押しする。韓国の社会全体で閉塞感はさらに上昇する展開が予想される。それが現実のものとなれば、株式投資などによって事態の打開を目指さざるを得ないと考える個人は追加的に増えるだろう。

ただし、今後の世界経済の展開を予想すると、リスクテイクには慎重になるべきだ。FRBなどの追加利上げによって世界的に金利には上昇圧力がかかりやすい。世界的に株価が下落し、韓国の個人投資家が想定外に損失に直面する展開は否定できない。

先行きの明るい展開を予想することが難しく、将来への悲観や虚脱感、無力感にさいなまれるという社会心理の高まりは韓国だけの問題ではない。1990年の初頭以降、わが国では産業の転換が進まず、賃金がほとんど増えていない。少子化、高齢化、人口減少によって経済も縮小均衡している。中国経済の成長率低下は、わが国経済にとってもマイナスだ。韓国の個人投資家が直面する厳しい経済・社会環境はわが国にとって対岸の火事ではない。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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