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「5000万円の家を追い出されたうえ、計3600万円仕送り」無職49歳長男に貯蓄と家を奪われた老父の絶望

プレジデントオンライン / 2022年9月3日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Robin Beckham

現在76歳の元自営業者の男性には、貯蓄3000万円と評価額5000万円の家という財産があったが、ほぼすべてを失った。原因は49歳の無職長男。中学時代から暴力癖があり15年前には親を自宅から追い出して、月20万円の仕送りをさせた。家を担保に借金し、賃貸暮らしをする男性の収入は年金だけ。要介護3の74歳の妻や、ネット通販工場でバイトする47歳の長女を抱え絶体絶命の危機にファイナンシャルプランナーが伝えたアドバイスとは――。

■15年前から自宅を長男が占拠 妻の介護で肉体的に限界

関東地方のある都市に住む小林浩平さん(仮名・79)は、長年、長男(49)の暴力に悩まされ続けてきた。高校を中退して以降、働いたことがない長男は、15年くらい前から自宅(戸建て)を占拠して、ひとりで暮らしている。

自宅にはゴミが堆積するなど、近所でもゴミ屋敷ではないかと噂されるようになってきている。自宅を占拠される前から続く長男からの金の無心によって、山本家の貯蓄は底を突きかけている状態だ。

そのような中で、追い打ちをかけるように浩平さんの妻(74)の要介護状態が重くなった。今までは自宅で介護をしてきたが、最近、要介護3と診断され、自宅での介護は限界に近付いている。実は小林さんは、私の知人の友人である。長男の暴力と妻の介護で疲れ果てている小林さんのことを知人が心配し、その知人を介してお会いすることになった。

[家族構成]
小林浩平さん(仮名・76歳)
妻(74歳)要介護3
長男(49歳)15年前から自宅を占拠
長女(47歳)同居
次男(40歳)結婚して、別に世帯を持つ
[収入と資産の状況]
・浩平さんの年金額は、月に約12万円
・妻の年金額は、月に3万5000円程度
・長女のアルバイト収入は月に8万円
・世帯の貯蓄は100万円を切っている
・抵当権は付いているが、評価額が5000万円くらいの自宅を保有

■働かない長男が暴れ、父母と長女は逃げ出した

小林家は夫婦で商店を営み、暮らし向きは豊かといえないまでも、子供たちが幼い頃は、それなりに安定した生活を送っていた。そんな小林家の問題は、高校を中退してから一度も働いたことがない長男のことだ。

長男は幼い頃から、かんしゃく持ちの子供だった。気に食わないことがあると、その場を動かなくなり、機嫌を取るのも一苦労だった。中学生の頃からは、長男にとって気に障ることが起こるたび、父や母に暴力を振るってきた。学校でも問題行動をたびたび起こし、小林夫婦は学校に呼び出される機会も少なくなかったという。

暴力は徐々にエスカレートし、クラスメートに暴力を振るったことが原因で高校は中退している。小林さんの家の中は、長男が壊した跡がいたるところに残っているそうだ。写真を見せてくれたが、とても人が住める状態ではないほど、荒れ果てていた。

小林さんは長男が高校を中退した頃から、自治体に助けを求めている。自治体の職員が家を訪れて、病院の受診を勧めてくれたり、自治体の介入によって何度か措置入院をしたりしたこともあったそうだ。

しかしながら、長男の暴力は一向に収まることはなかった。措置入院から戻ると、入院させたことを恨んでかえって暴力がエスカレート。そんな長男のことを嫌って、次男(40)は大学の途中で家を出ており、もう何年も顔を見せていない。

歩道を歩く二つの人影
写真=iStock.com/AlexLinch
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AlexLinch

長女(47)は家業を手伝っていた関係で、親元で我慢しながら暮らしていたが、長男の暴力が長女にも及び始めたため、15年くらい前に、父と母、そして長女の3人は逃げるように家を出た。自宅近くに賃貸マンションを借りて、現在まで、父、母、長女の3人で暮らしている。

長男の状態について話を聞く限りは、精神的な病気の存在を感じられるが、長男は「自分は病気ではない」と言い張って、20年以上病院の受診を拒んでいる。病名によっては障害年金の受給につながるはずなのだが、障害年金の申請に進める状況ではなかったという。

■長男へ月20万の仕送り、すでに3000万円を大きく超えた

長男の暴力から逃げるために、自宅を出た小林さん夫婦だが、自宅を出てからも、長男から金の無心は続いている。毎月20万円程度の仕送りを強いられ、仕送りが遅れると「お前たちの家に押しかけるぞ」と脅しのような電話がかかってくる。現在住んでいる賃貸マンションに長男が押しかけてくると、自分たちが住みづらくなることもあって、長男からの金の無心を受け入れてきた。

怒鳴る男性の顔のシルエット
写真=iStock.com/caracterdesign
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/caracterdesign

賃貸マンションに引っ越した頃は、3000万円を超える貯蓄があったが、引っ越しから15年もの月日が経過し、その貯蓄も現在では100万円を切るまでに減っている。自宅からマンションに引っ越したことで、商店は畳まざるを得なくなり、父と母は転居後にそれぞれ近くの飲食店で働きはじめ、長女はネット通販の工場でアルバイトをしている。

3人で働いて、何とか自分たちの生活費をまかない、長男が占拠する自宅の固定資産税も支払ってきた。長男の生活費は、貯蓄を取り崩しながら支払ってきたが、貯蓄だけでは足りなくなり、自宅(5000万円の評価額)を担保に入れて借り入れもおこなっている。

自宅を担保にしてお金を借りたものの、すでに限度額まで借りており、利息の支払いさえ滞っている。早晩、自宅は明け渡さなければならない状況に追い込まれているのだが、長男が自宅を占拠していることもあって、明け渡すことさえ困難な状況に置かれている。

■妻の認知症が進行し、特養入所が決まったが…

さらに小林家には、別の問題も発生している。

5年くらい前、70歳手前だった妻に認知症の症状が出始めて、介護が必要な状況になっているのだ。妻の介護は、小林さんと長女で協力しておこなってきたが、少しずつ重くなってきており、負担がかなり重くなっている。そのため、浩平さんも継続して働くことが難しくなっている。現在は夫婦の年金収入(月計15万5000円)があるとはいえ、勤労収入は長女のアルバイト代(月8万円)だけになっている。

最近、妻は要介護3と診断された。これ以上、自宅で妻を介護するのは難しいと判断した小林さんは、地域包括支援センターに相談。長男のことで日ごろから自治体のさまざまな部署と連絡を取り合っていることもあってか、小林家の事情が考慮されたようで、特別養護老人ホームへ入居を申請したら、数週間ほどで入居が認められた。

だが、入居は認められたものの、妻の入居費用を支払うことが、現実的には難しい状況である。そこで、前出の知人は「奥さんを特養に入居させるには、どうしたらいいか?」という相談を私に持ちかけてきたわけである。実際に小林さんにお会いしときに、長男の問題でも困っている話をうかがった。

窓に映る男性のシルエット
写真=iStock.com/liebre
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/liebre

急を要する妻の入居費用については、妻は、小林さんと長女とは世帯を分けて、生活保護の申請をおこなうことを検討した。長男が占拠しているとはいえ、小林さんと同一世帯のままにしておくと、居住地の自治体の基準を超える自宅を保有していることになり、生活保護の受給が見込めなかったからである。

ちなみに自宅を保有していても、居住地が定める基準額以下であれば、住宅扶助(家賃分)を受給しない代わりに、自宅の保有は認められる。しかも、固定資産税は法定免除になり、支払わずに済むのである。

だが、小林家の場合は、不動産の評価額が基準額を上回っているために、妻はひとり世帯にならないと、生活保護の申請が却下される可能性が高かった。

申請の結果、妻の年金が少ないことや妻名義の貯蓄は数万円しかないこと。さらには、小林家の困窮ぶりを自治体が把握していたこともあり、妻の生活保護の申請はスムーズに通った。生活保護費から、妻が受け取っている年金額は引かれるものの、特別養護老人ホームにかかる費用は生活保護費でまかなえるめどが立ったのである。

■障害年金の申請を急ぎ、ひとり暮らしの資金にする

長男の問題に話を戻そう。

前述の通り、長男が占拠している自宅を明け渡さなくてはならなくなっているが、長男は小林さんの話を聞こうともしない。小林さんは何度も自宅に足を運んで話し合いを試みたり、置き手紙で状況を説明したりしているのだが、話は聞いてもらえず、手紙は読んでいるかすら、わからない。

手紙をしたためる手元
写真=iStock.com/c11yg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/c11yg

家族では話が進まないだろうからと、現在は、長男となんとか話ができるという、自治体の職員を通して、状況を説明してもらうように依頼している。家族には手を上げるが、自治体の職員には暴力を振るわないことがわかっているからだ。

「家を担保にお金を借りたが、返せる見込みが立たないので家を明け渡さなければならないこと」
「病院を受診したうえで、障害年金の申請をしてもらいたいこと」
「障害年金の申請が通ると、過去5年分の障害年金をまとめて受給できる可能性があること」
「5年分の障害年金をまとめて受給できたら、そのお金でアパートを借りて、ひとり暮らしをしてほしいこと」

などを、職員の人から伝えてもらうことにした。

長男は措置入院の経験が複数回あるので、受診(初診)の記録は探せる可能性がある。障害年金の申請には、初診日の記録がとても重要になる。初診日から数十年も経過している長男の場合、未受給の年金のうち、時効になっていない5年分の障害年金をまとめて受け取れる可能性があるのだ。

5年分といえば、約390万円ものまとまった金額になる。5年分の障害年金を受給できれば、そのお金を基にして、長男はアパートを借りてひとり暮らしをスタートさせることが可能になる。

■障害年金の残高が尽きたら次は生活保護の申請を試みる

もちろん、5年分の障害年金をまとめて受給できたとしても、それだけで長男は残りの人生を暮らせるわけではない。ひとり暮らしがスタートした後、障害年金が底を突いてきたら、長男についても生活保護の申請をおこなうしか、生きるすべはないと考えられる。

生活保護に移行することを考慮して、アパートを借りる時は、居住地の自治体の住宅扶助内の金額のアパートを探すのが望ましいとアドバイスした。たとえば、居住地の住宅扶助額がひと月5万9000円だとしたら、5万9000円までの予算でアパートを探すということである。

障害年金の申請を先におこないたいのは、生活保護の申請の際、精神的な病気などで「働けない理由」があったほうが、通りやすいと考えたからだ。もちろん長男が働いて、自立するのが理想とはいえ、50年近い人生の中で1日も働いたことがなく、注意されるとキレてしまう長男が働き続けるのは現実的ではないだろう。また、長男の暮らしが安定しなければ、小林さんと長女は、この先もずっと苦しめられることになる。

障害年金を受給できたあとに、生活保護の申請が通った場合、生活保護費から障害年金の受給額は差し引かれる。生活保護の場合、ほかに活用できる資産がある場合には、必ず活用する必要があるからだ。

ちなみに、働いて収入を得た場合は、全額を差し引かれるのではなく、生活保護の制度に設けられている計算式に当てはめて、保護費から差し引かれる金額が決められる。働いて得た収入のすべてが保護費から引かれてしまうと、働く意欲を低下させてしまうため、働いて得た収入の一部は、手元に残る仕組みになっているからだ。

■長男の生活にめどが立たないと安心して暮らせない

小林さんのケースは、1~2回程度の相談で解決にたどり着くことは考えられない。そのため、私自身も長期戦になると腹をくくって、長男が生活保護の申請をする際には、「私も同行します」と提案している。生活保護の申請の際、初回は3時間近く生活状況について質問されるのが一般的なのだが、長男が話の途中でキレたり、答えなくなったりして、申請が進まない展開が想像できてしまうからだ。

いずれにしても小林家の場合、この先も親が長男の生活を支えるのは不可能である。障害年金、生活保護の順番で申請を前に進めるしか、長男が生きていく方法はないだろう。

自治体の協力も得ながら、長男の障害年金の受給やその後の生活保護の申請が認められたとしたら、その後にようやく小林さんは長女との新たな生活のプランを立て直せることになる。

残りの人生を穏やかに暮らしたいと、小林さんは切に願っている。同時に、認知症が重くなって長男のことが思い出せなくなってきている妻は、特別養護老人ホームで心穏やかに暮らしてほしいと、小林さんは願っているところでもある。

介護職員がシニアの手を握る
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

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畠中 雅子(はたなか・まさこ)
ファイナンシャルプランナー
「働けない子どものお金を考える会」「高齢期のお金を考える会」主宰。『お金のプロに相談してみた! 息子、娘が中高年ひきこもりでもどうにかなるってほんとうですか? 親亡き後、子どもが「孤独」と「貧困」にならない生活設計』など著書、監修書は70冊を超える。

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(ファイナンシャルプランナー 畠中 雅子)

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