だから日本の高校生は世界で勝てない…「甲子園だけ金属バット」という謎ルールは今すぐ見直すべきだ
プレジデントオンライン / 2022年9月7日 12時15分
■高校野球は甲子園で終わりではない
第104回全国高校野球選手権大会は、仙台育英高校の優勝で幕を閉じた。東北勢の初優勝は大きな話題となったが、実は高校野球はこれで終わりではない。
9月9日からアメリカ、フロリダで第30回WBSC(世界野球ソフトボール連盟)U-18ベースボールワールドカップが開催される。日本からは甲子園で活躍した選手などが選抜され、WBCなどと同じ「侍ジャパン」のユニフォームで世界の同世代と戦うのだ。
■なぜ世界大会で日本の高校生は負け続けるのか
夏の甲子園は、間違いなく「世界最大の野球大会」だ。減ったとはいえ、参加校数は3547校、13.1万人の選手が参加する(ベンチ入りは約6万人、2022年のデータ)。6月半ばから2カ月もの期間をかけてトーナメントを行い、優勝チームを決める。
韓国で硬式野球部がある高校は約90校程度、台湾で190校ほどだ。すそ野は比較にならないほど小さい。またアメリカは1万校前後とされるが、真剣に野球をしているのは800校ほど、そして州大会が頂点で、全国大会は行われていない。
ライバルの顔ぶれからも、U18大会では日本が圧勝してもおかしくないように思われるが、本格的に参加した2012年以降、日本はただの一度も優勝していない。
2012年(第25回・韓国、ソウル)6位
2013年(第26回・台湾、台中)2位
2015年(第27回・日本、大阪)2位
2017年(第28回・カナダ、サンダーベイ)3位
2019年(第29回・韓国、キジャン)5位
2019年は大船渡の佐々木朗希(ロッテ)、星稜の奥川恭伸(ヤクルト)、興南の宮城大弥(オリックス)などが参加したが日本はスーパーラウンドで5位に終わり、決勝に進めなかった。
「長い夏の大会を終えた日本選手には『甲子園疲れ』があり、実力が発揮できない」という声もあるが、関係者はもっとはっきりした原因があると見ている。
それはバットだ。
■世界で日本の高校生だけが金属バットを使う
日本では金属バットを使用している。
しかし、U18大会など国際大会は木製バットだ。他国は木製バットか、木製バットの仕様に近づけた低反発の金属バットを使用しているから大きな違和感はないが、日本選手は使い慣れないバットに持ち替えることになる。
今夏の甲子園でも28本の本塁打が出たが、その背景に「高反発の金属バット」がある。真芯に当たった打球だけでなく、前でさばいた打球がスタンドに飛び込んだり、こすったような当たりが本塁打になったりしている。木製バットではありえない打ち方で本塁打が出ているのだ。
だがバットの異なる国際大会では、日本の高校生はさっぱり打てなくなる。筆者は2015年と2019年のU18大会を観戦したが、日本選手は外野で失速する打球が多かった。勝手が違うのか、首をかしげる選手もいた。
実はアメリカでもかつては高反発の金属バットを使っていた。しかし打球速度が上がり、怪我の危険が高まったとして2012年から木製バットか、反発係数が木製と同じ程度になるバット(BBCOR0.5規定=Batted Ball Coefficient of Restitution、0.5は反発係数)しか使用できなくなった。
台湾は2004年から主に木製バットを使用している。韓国も以前は金属バットだったが、2000年から木製バットにした。
反発係数が高い金属バットで野球をしているのは、今や日本の高校生と一部の中学生だけ。(大学、社会人も、プロ、独立リーグも木製バット)このハンデがあるため、世界大会で日本の高校生が活躍するのは望み薄だ。
■高校を卒業するとパッタリ打てなくなる
世界で通用しないだけでなく、球児の将来にも深刻な影響を与える。
高反発金属バットを使っているのは中学、高校だけ。大学、社会人も、プロ、独立リーグも木製バットだ。
多くの高校球児は上のレベルに進んで、バットの違いで活躍できなかったり、調子を落としたりする。高校で本塁打記録を作った打者が、プロでくすぶることもしばしばだ。
それを見越して、高校時代から練習試合などでは木製やBBCOR0.5仕様の金属バットを使わせる指導者もいる。
それでも、高反発の金属バット使用が続いているのはなぜか。
1982年、蔦文也監督率いる徳島県立池田高校は、金属バットの特性をフルに活かすために選手に筋トレを徹底させ「やまびこ打線」という球史に残る強力打線を作った。
これが人気爆発したことから関係者の間に「本塁打が多いほうが視聴率、観客動員がアップする」という定説ができた。そのために「本塁打を減らす」政策になかなか踏み切れなかったのだと言われている。
■ようやく2024年に新基準が導入されるが
日本高野連もこの状況を座視していたわけではない。2019年夏の甲子園で投手が顔に打球を受け骨が折れる大けがを負った事件を受けて、有識者会議で金属バットの反発を抑えるべきと声が上がり、見直しに着手した。
そして今年2月、日本高野連は2024年春から新基準の金属バットに完全移行することを決めた。
新基準ではバットの最大直径は64ミリと現在から3ミリ細くなり、本体は、単層管(単層構造)で打球部の肉厚は、1ミリ厚くなり4ミリ以上となる。測定によれば打球の平均速度は現行モデルと比べて96.3%、初速は96.4%に抑えられる。
しかしこの仕様変更に筆者は大きな懸念を持っている。
■独自仕様のバットの開発にこだわる
すでにアメリカにはBBCOR0.5規定の金属バットがある。アマ球界ではこれ以外の金属バットは認められないため、全メーカーがこの仕様のバットを製造している。ミズノもアメリカではBBCOR0.5のバットを製造販売している。
国際基準に合わせるなら、このバットを導入すればよいずだ。しかし日本高野連は独自の仕様でのバットの開発にこだわった。
あるスポーツメーカーの担当者は
「ミズノ以外の日本メーカーはBBCOR0.5規定の金属バットを作っていない。このバットを承認すれば、ルイスビルやイーストンなど外国製品が日本に入ってくる。国内メーカーのシェアを守るために、新たな基準を作ったのではないか」と語る。
そのためにコストも時間もかけるのは問題なしとはしないが、それでも本当にバットの「飛びすぎ」を抑えることができるのなら、良いとは思う。
日本の野球メーカーは高校野球のために多大な貢献をしてきたのだから、その市場を守ることも必要かもしれない。
■根本的な問題解決になっていない
日本高野連がバットの仕様を見直したのはこれが初めてではない。
2001年に打球速度を下げるために900g以下の金属バットの使用を禁止した。これによって2001年の春夏の甲子園の81試合で50本出ていた本塁打は2003年には22本に減少した。
しかし2009年には78試合で48本、2018年には90試合で71本とむしろ増加した。
この原因は、高校球児たちが重いバットを振ることができるように筋トレなどに取り組んで、パワーアップしたからだと言われている。
しかし、それだけではなく日本のバットメーカーは900g以上という仕様を守りつつ、重心の位置を変えるなどの工夫で、重くてもボールに負けないヘッドの効いたスイングが可能で飛距離が出る金属バットを開発したのだ。
伝統的に日本のスポーツメーカーは「規格内でより高いパフォーマンスが期待できる用具」を開発するのが得意だ。
ゴルフでは「飛びの○○」などのキャッチフレーズで飛距離が出るクラブを開発してきた。金属バットでも同様なのだ。
■メジャーリーガーも「飛びすぎ」を懸念
軟式野球界では硬式野球とは対照的に、打球が飛ばず、ロースコアの試合が多いことが問題になっていた。そこで全日本軟式野球連盟は2002年、ミズノに「飛距離の伸びる軟式バット」の開発を依頼した。こうしてできたのが「ビヨンドマックス」だ。
FRP製のバット本体の打球部にエーテル系発泡ポリウレタンが使われており、反発係数は8%も向上した。ミズノはその後も開発を続け、最新モデルでは従来の金属バットよりも約30%も反発係数が向上している。4万9500円(税込)と非常に高価だが、草野球では飛距離自慢の選手の必携になっている。
これで競技人口が増えるのなら、悪いことではない。しかし青少年の野球でこのバットが使われることは問題だ。
昨年12月神宮球場で行われたNPB12球団ジュニアトーナメントで、小学生がこのバットを使ってさく越えの本塁打を打った。
現場で見ていたメジャーリーガーの筒香嘉智は「ちょっと考えられなかったですね。将来がある子どもたちは、しっかり芯で打たないと。あとあと苦労するのは子どもたちだと思います」と懸念を表明した。
どんな規格を導入しても、実際に「飛び」を抑制できなければ、仕様変更した意味はない。重要なことは「形状」「材質」ではなく「反発係数」の規定を設けることだ。
■なぜか国際的に常識の反発係数を規定に入れない
全米の主要な大学が加盟するNCAA(全米大学体育協会)は、BBCORバットに関する厳密な規制を設けている。
2020年5月に改訂された10ページに及ぶ規定書によれば、NCAAの各大学で使われるBBCOR金属バットは、形状や材質などに加えて、所定の機関で、バットに一定条件でボールをぶつける適合性テストを受けて反発係数の数値をクリアしなければならない。形状や材質が適合していても反発係数が高ければ、NCAAでは使用できない。そもそもBBCORとは「打球反発係数」のことなのだから当然ではある。
今回の問題について、日本高野連に質問状を送付した。手元に届いた回答を要約すると以下のようになる。
1.日本側(製品安全協会、全日本野球バット工業会、日本高等学校野球連盟)はアメリカと共同歩調を取りたいと考えていたが2011年にNCAAが独自にBBCOR0.50仕様のバットを開発した。
2.日本側は2020年から木製バット、少なくともBBCOR0.50と同等もしくはそれ以上とする方針で検討を始めたが、米の基準を日本で満たすには、検査環境、使用球などを整備しなければならない。これは経費面で難しい。
3.そこでBBCOR0.50と同等の性能とするためにバットの最大径を67ミリから64ミリとするなど独自の規格を設定した。
とのことだった。
日米で金属バット見直しの議論が起こり、アメリカNCAAが新基準を導入したのが2011年、日本が対応するまで10年以上もかかったのが驚きではある。
また「反発係数」も明記されていない。今回の改定にあたって日本高野連は、新規格バットの反発係数を測定するために「万能試験機(オートグラフ)」を使用したという。本来なら、全製品についてこの機器で計測した反発係数を規定に加えるべきだろう。
そうなれば、メーカーがどんな「製品改良」をしても飛びすぎるバットにはならないはずだ。「反発係数」に関する規定はぜひ盛り込むべきではないか。
木製バットは1本数千円から1万円ほどだが、金属バットは耐用性があるとはいえ、2~3万円する。全国の高校野球部ですべてを入れ替えるとすると、莫大(ばくだい)な費用だ。
何度も入れ替えることは不可能なのだから、重量規定が数年で意味がなくなった前回の轍(てつ)を踏むことなく、慎重に仕様を決めてほしい。
■日本の高校野球はガラパゴス化している
端的に言えば、異常に飛ぶ金属バットを使う高校野球は、海外や他のカテゴリーの野球とは「別の競技」になっている。
それに加え、炎天下での甲子園の試合や、「投げ放題」に近い7日500球の球数制限など、昔のままのスタイルは「野球界のガラパゴス」だという声もある。この現状を変えていかなければならない。
大事なのは「業界」や「大人の事情」ではない。将来ある野球少年のために、実効性のある改革を進めてほしい。
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スポーツライター
1959年、大阪府生まれ。広告制作会社、旅行雑誌編集長などを経てフリーライターに。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』、『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』(共にイースト・プレス)などがある。
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(スポーツライター 広尾 晃)
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