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橋下徹「安倍さんを評価する僕が『国葬』決定にあえて苦言を呈する理由」

プレジデントオンライン / 2022年9月9日 9時15分

早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。 - 撮影=的野弘路

元大阪市長・大阪府知事で弁護士の橋下徹さんであれば、ビジネスパーソンの「お悩み」にどう応えるか。連載「橋下徹のビジネスリーダー問題解決ゼミナール」。今回のお題は「賛否が大きく分かれるときの決断ノウハウ」です――。

※本稿は、雑誌「プレジデント」(2022年9月16日号)の掲載記事を再編集したものです。

■Question

岸田首相が「国葬」決定で間違えたこと

安倍晋三元首相の「国葬」が行われることになりました。ただ、強く国葬を支持する声に対して反対派の声もまた強く、全額を国費で賄う「国葬」ではなく、政府と自民党の合同葬などの形をとってもよかったのではないか、などとここへきて議論は混迷の度を深めています。こうしたとき、岸田文雄首相はどういう意思決定をするべきだったでしょうか。首相に限らず組織のリーダーの意思決定について、橋下さんの考えを聞かせてください。

■Answer

「桜を見る会」の構造とまったく同じ

まず、僕の立場を表明しておくと、個人的には安倍元首相の業績は、「国葬」に値すると思っています。ただし、これはあくまで僕個人の意見。安倍さんに関しては、多大な功績もある半面、森友学園や加計学園を巡る問題もあり、後者を批判する立場の人も多くいます。そうした声を半ば無視して、極めて短期間で一方的に「国葬」決定を表明したことについては、僕は反対です。

賛否が大きく分かれる問題に対し、リーダーはどんな決断を下すべきか。このことは、賛否の分かれる選択肢のうち「どちらを取るか」ということよりも、「どういうプロセスによって決めるか」のほうが大事です。

きちんとしたプロセスを踏まずに決めたことに対しては、とりわけ反対派の人たちに納得感を持ってもらうことができないからです。逆に、プロセスを踏んでいさえすれば、反対派もある程度は納得してくれ、その後の大きな混乱を避けることができるのです。

その観点から、今回、岸田首相は誤った判断をしてしまったと思います。

もちろん「国葬」判断の背景には、様々な要因があったでしょう。なんといっても前代未聞の衝撃的な悲報です。悲しみに沈む世論、世界各国から寄せられる哀悼の意、メディアが連日称える安倍さんの功績の数々、大きな“声”に押され、「国葬」にすべしという判断に傾いたと推察されます。

日本の女性が喪服を着て
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

しかし、今回批判されるべき点は、「安倍さんは国葬に値するかどうか」ではなく、シンプルに「手続き・基準のブラックボックス状態」にあるのです。誰が、どのような条件が重なったら日本国の「国葬」に値するのか。その基準が不明なまま、いわば世論と感情の波にのみ込まれて一気に「国葬」が決定されてしまった。その手続きの曖昧さ・不透明さが、多くの批判の声の源となっています。

これってどこかで見たような議論だと思いませんか。そう、当の安倍さんが批判の矢面に立った「桜を見る会」とまったく同じ構造なのです。

「桜を見る会」自体は、時の首相が1952年から主催してきた恒例行事です。ただし、当初は招待客規模も4000人超程度だったのが、安倍内閣時代には1万5000人以上に膨れ上がるなど、税金投入の是非が問われるようになりました。加えて招待者の基準が曖昧なことに対し、非難の視線が注がれたのです。

ここで改めて確認しておきたいのは、「桜を見る会」の主催者は日本政府であるということです。これが自民党や政治家個人が主催する政治イベントなら、誰を招待しようと、その基準がどれほど曖昧だろうと、政治家の政治的な判断に任せるしかありません。自分の支援者ばかりを呼ぶことが通例でしょうが、それはまさに政治活動そのものです。

しかし、どの政党・政治家を支持しているかを問わない全国民を対象にする行政イベントであるならば、招待者や参加者については、明確な基準が公表されるべきです。その点、特に安倍政権時代は不透明でした。

そして「国葬」は日本政府・国家を挙げての行政イベントです。特定の政党は関係ありません。そうであれば、岸田首相はこれを機に国会でしっかりと議論し、「国葬」の基準を明確化すべきだったのです。

どの組織でも同じですが、あるものごとを決める際、構成員が100%賛成することはほとんどありません。多数派が賛成しても、必ず反対者は存在します。しかし、そこで反対意見を無視すれば、後々禍根を残します。多数の賛成派が既成事実をぶち上げて、後から少数の反対派を説得するのはさらに困難な道のりです。

これは1億人を超える国家であろうと、10人程度の企業であろうと、同じ話です。どのような規模の組織であっても、リーダーが心がけておかなければならない重要なポイントです。

■「明確な基準」と「プロセスの可視化」

正直なところ、安倍さんが「国葬」に値するかどうかに関しては、万人の意見が完全に一致することはないでしょう。アンチはいつどの時代にも存在します。でも、たとえ反対派でも、そこに「明確な基準」と「透明性の高いプロセス」があればある程度納得感が高まることも事実です。

天皇陛下は代々、国葬です。もしある天皇は国葬だが、別の天皇は国葬しないとなれば、大激論ひいては大紛争に発展します。もちろん天皇陛下と首相を同列に論じるつもりはありませんが、「基準」はシンプルが一番です。在任期間の長さや、功績の多少で判断するなどの意見もありますが、結局それも判断する側の主観や感情が入りやすい。都度「検討委員会」を設置する案もありますが、時間と労力のコストもかかります。安倍さんを国葬にするならば、今後首相経験者は皆、国葬にするというのが一番シンプルで明確ではないでしょうか。

ただし、ここで立ちはだかるのが、「安倍さんを国葬に」と強く望んでいる保守派の人だったりします。というのも彼らは、「安倍さんは国葬にふさわしい」が、おそらく野党の首相経験者は「国葬にふさわしくない」と主張するだろうからです。

しかし、それこそ内輪の理論や感情によって国家としての行政イベントを牛耳っていると批判されかねません。公的場面において、「自分基準の別格」は、通用しません。

ちなみにアメリカ大統領は歴代、国葬です。共和党だろうと、民主党だろうと、シンプルに皆国葬となります。

組織で構成員から支持を受けるのは、「フェアな思考」を持つリーダーです。自らが一時の感情で動く人間ではないことを示し、組織の分断を避けるためには、「明確な基準」と「プロセスの可視化」の表明が何より大切なのです。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著書『最強の思考法 フェアに考えればあらゆる問題は解決する』(朝日新書)が9月13日に発売予定。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 構成=三浦愛美 撮影=的野弘路)

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