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医学×工学で「理系の東大」を目指す…東工大と医科歯科大が異例の合併を急ぐ切実な事情

プレジデントオンライン / 2022年9月7日 10時15分

東京医科歯科大学医学部付属病院=2018年7月30日、東京都内 - 写真=時事通信フォト

■「勝ち組」の2つの大学が融合する

東京工業大学と東京医科歯科大学が統合協議を開始すると発表した。医科歯科大は医学部、東工大は情報理工学院という工学系学部が、それぞれ大手予備校による偏差値ランキングの最上位に並ぶエリート大学だ。そのいわば「勝ち組」の両大学が、医療系と理工系を融合することによって、さらに抜きんでた研究力の強化に取り組むという。狙いは「理系の東大」か。いずれにしても大学の勢力地図が大きく塗り替わることは間違いない。

東工大と医科歯科大は一橋大学、東京外語大学とともに「四大学連合」を組んでおり、かねてより統合が取り沙汰されてきた。その脈絡からみれば両大学の統合に違和感はない。しかし、「四大学連合」に至る道のりは平坦なものではなかった。

四大学連合の嚆矢は1990年代の終わりに、東工大、東京外国語大、一橋大の学長が集まり、連携を模索したことに始まる。競争力のある単科大学が集まれば面白い総合大学ができるというのが原点だ。そこに医科歯科大と東京芸術大学が加わって、1999年秋に5大学による連合構想が打ち上げられた。

しかし、構想が具体化するにつれ教授会の反対もあり芸大が離脱、東京外大もいったん、距離を置いたものの、その後復帰し、2001年に現在の「四大学連合」が誕生した経緯がある。

■「打倒東大」の裏で生き残り合戦が始まった

その意味で、今回の東工大と医科歯科大の統合は大きな大学再編の序章に過ぎないともみられる。同時に、表向きは医学系と工学系を合わせて東大に立ち向かうという“下剋上”のようだが、その中身は生き残りをかけた大学ファンドの分配争奪戦という、泥臭い顔も有している。背景にあるのは少子化の進展と行政の圧力だ。

大学統合では、古くは2007年10月に大阪大学と大阪外国大学が統合し、新生・大阪大学が誕生。旧帝大で唯一、外国語学部を備えた大学となったことがあげられる。その後、2020年には名古屋大(名古屋市)と岐阜大(岐阜市)が統合し、「東海国立大学機構」が誕生したのは記憶に新しい。

この統合劇が起爆剤となって22年に入り、小樽商科大学、帯広畜産大学、北見工業大学の北海道の3大学が統合合意し「北海道国立大学機構」を立ち上げたほか、奈良教育大学と奈良女子大学が統合を決めた。

そもそも国立大学は、戦後、各都道府県に最低一つの総合大学が設置された。大学を運営するのは「国立大学法人」で、現行制度では一法人が一大学しか運営できない。しかし、少子化や財政難から、地方大学の中には単独で生き残ることが難しいとみられるところも少なくない。国からの交付金も減少し続けている。

■「10兆円ファンド」の運用益を狙った統合か

そうした中、全国の国立大学でつくる「国立大学協会」は18年1月、各県に一つの国立大学を維持しつつも、法人再編の必要性を盛り込んだ提言案をまとめていた。さらに文部科学省は18年4月に、国公私立の枠を超えた大学再編を促す制度案を公表した。新たに設置する一般社団法人「大学等連携推進法人(仮称)」の下に、複数の大学がぶら下がる案が提言されている。

今回の東工大と医科歯科大の統合は、こうした行政の環境整備に応えた面が強い。とくに統合により研究力の強化が評価され、国から世界レベルの卓越した研究ができる「国際卓越研究大学」に選ばれれば、政府の大学ファンド(10兆円)の運用益の配分を受けられる。「大学ファンドは年間3000億円の運用益が予定されており、その何割を配分されるかにかかっている。大学統合はそのための条件づくりであり、分捕り合戦を意図した大型統合がこれからも起こり得る」(大手証券幹部)と見られている。

■海外大学は自前のファンドで運営資金を回している

10兆円規模を目指す政府の大学ファンドは、欧米の大学に比べ研究力や専門人材が低下している日本の大学を資金面からバックアップするのが狙いで、科学技術振興機構(JST)の下に設置された。資産規模は当初4兆5000億円からスタートし、「大学改革の制度設計等を踏まえ、早期に10兆円規模の運用元本にまでもっていく」(内閣府)という。すでに種銭として政府出資5000億円(2020年度第3次補正予算)、財政投融資4兆円(2021年財投計画)が措置されている。

欧米の主要大学のファンドは巨額な資金を運用し、その果実を大学運営に活かしている。例えば、ハーバード大の約4兆5000億円はじめ、イエール大約3兆3000億円、スタンフォード大約3兆1000億円、ケンブリッジ大約1兆円、オックスフォード大約8200億円(いずれも2019年数値)を運用している。日本の大学もそれぞれ単独で資産運用しているが、これら欧米の大学に比べ、その規模は大きく見劣りする。このため国が音頭をとって官製大学ファンドを創設して、その差を埋めようというわけだ。

欧米対比で見劣りする日本の大学の運用だが、キャッチアップに積極的な大学がある。東京大学だ。

■スタートアップ140社に積極的に投資

東大は昨年末、研究成果をもとに起業する大学発のスタートアップに投資する600億円規模のファンドを創設する構想を打ち上げた。大学本部のある東京・本郷地区を「本郷インテリジェンスヒル(仮称)」と銘打ち、スタートアップや投資家が集まる一大拠点にする計画だ。欧米の有力大学に遅れをとっている大学発のベンチャーを資金・インフラの両面から支援強化する。

東京大学
写真=iStock.com/YMZK-photo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/YMZK-photo

東大はすでに民間ベンチャーキャピタルの東京大学エッジキャピタルパートナーズと組んで、140社超のスタートアップに投資してきた。科学技術や経営に知見のある人材がスタートアップ経営陣と伴走し、創業前後から支援するのが強みだ。

国立大学は原則、スタートアップには直接出資できないが、21年の通常国会で成立した改正国立大学法人法で、22年4月から東大のほか京都大や東北大など指定国立大9校は出資が可能となる。東大のスタートアップ投資ファンドはその嚆矢となるもので、スタートアップに直接投資することも検討するという。まず東大が100億円程度を拠出し、外部の投資家らの資金も含めて10年間で600億円規模に拡大させる方針だ。

■大学の再編・統合は「まさに銀行再編のよう」

また、東大出身の上場企業経営者らでつくる「東大創業者の会」は、在学生や卒業生が立ち上げたスタートアップに投資する「同窓生ファンド」を新設。20億円規模のファンドに育て上げる計画だ。同ファンドでは東大出身者が創業した不動産仲介サイトのグッドデイズホールディングスなどが出資する見通しで、同窓会のミクシィ創業者の笠原健治氏やユーグレナの出雲充氏など先輩起業家の知見も共有する。

経済産業省によると、国内の大学発スタートアップは、東大が最多の累計323社、京都大が累計222社(2021年度)と続くが、米国の有力大では年間1000社規模でスタートアップが創業されている。そのひらきの主因のひとつが投資力の差で、日本の大学スタートアップが調達する資金額は欧米に比べて見劣りする。

こうした大学の再編・統合について、メガバンクの幹部は、「まさに銀行再編をみるようだ」と指摘する。例えば、名古屋大と岐阜大の統合では、「地銀の再編を見ているようだ。大学名を地元地銀に置き換えても違和感のない統合劇じゃないのか。有名大学も地銀と同様に追い込まれている証だろう」(メガバンク幹部)というわけだ。

また、ある地銀幹部は、「持株会社となる東海国立大学機構のネーミングは、かつての東海銀行を想い起こさせますね。中部地区の金融機関が大再編して東海銀行を復活させてはどうかという構想は地元でいまも根強く燻(くすぶ)っています」と感慨深げに語った。

■統合の“アメ”を狙う構図はまったく同じ

東海銀行は、戦前、中京地区を地盤としていた愛知銀行、名古屋銀行、伊藤銀行の3行が、1941年に政府の「一県一行主義」に基づき合併して誕生した名古屋を本店とする銀行で、戦後、都市銀行の中位行として中部地区の経済を支えた。

しかし、バブル経済の崩壊を契機とした不良債権の増加もあり、旧三和銀行と統合してUFJ銀行となった。そのUFJ銀行も東京三菱銀行と統合し、現在の三菱UFJ銀行とつながっていく。この間、本店は東京に移され、名古屋を本店とする都市銀行は消滅した格好となった。

銀行の統合の最終章は、かつて13行あった都市銀行が三菱UFJフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループの3グループにほぼ集約されたことにある。その統合劇はいま地銀で展開されようとしている。

テコとなるのは統合により手にすることができる「公的資金」だ。金融庁は地銀が再編し、競争力を高め、効率化することを条件に金融機能強化法に基づく前向きな公的資金の注入を認めている。まさに統合の“アメ”だ。大学の統合もまた、「国際卓越研究大学」に選出され、大学ファンドの果実の分配にあずかろうとする様は瓜二つだ。

■日本の大学は“メガユニバーシティ”に集約されるのか

しかし、現実は地銀の統合は遅々として進んでいない。とくにガッチンコの合併は役員の数が減るなど間接部分の合理化が行われるため数は多くない。「経営の効率化を図るためには完全合併が好ましいが、企業文化も違いも考慮してまず持株会社形式でその傘下に両行がぶら下がるケースが多い」(地銀幹部)という。

業態は違え、大学の再編も同じだ。先の名古屋大と岐阜大の統合の場合も、「東海国立大学機構」という持株法人の傘下に両大学がぶら下がる「アンブレラ」方式が採られているのもこのためであろう。

今後、大学でも総論では統合賛成となっても、具体的な条件交渉となると大学間のエゴが表面化して破談となる可能性も出てこよう。だが、少子化の進行や国際的な競争力の低下を踏まえれば、大学の統合・再編は避けて通れない。いずれ大学もメガバンクグループと同じように、巨大なメガユニバーシティが誕生すると予想される。

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森岡 英樹(もりおか・ひでき)
経済ジャーナリスト
1957年生まれ。早稲田大学卒業後、経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

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(経済ジャーナリスト 森岡 英樹)

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