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結局は死に際で後悔することになる…「今はまだ大丈夫」と不健康を放置する人に医師が伝えたいこと

プレジデントオンライン / 2022年9月7日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Fertnig

ダイエットや禁煙など、健康づくりをする際に意識すべきことは何か。聖路加国際病院循環器内科医の浅野拓さんは「人間は将来の大きな利益よりも目の前の小さな利益を取ろうとする。誘惑に負けそうなときは『不健康がたたって死ぬ間際の自分でもその行為を許すか』と自問してみるといい」という――。

※本稿は、浅野拓『健康寿命を延ばす「選択」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■仕事ができる人でも健康への「合理的な判断」はできない

健康な人生を選ぶための考え方の一つに「合理的に選ぶ」というものがあります。

私たちは大の大人で、仕事などでは合理的に物事を選択しているはずなのに、こと生活習慣に関しては「運動はもう少し涼しくなってから」「ダイエットは明日からにして、今日は自由に食べよう」などと先延ばしにする心理が働きがちです。誰もが生活習慣病になりたくないと思っていて、健康に良いことと良くないことが頭ではわかっているはずなのに、好きなものを好きなだけ食べたり、タバコを吸い続けていたり、お酒を飲みすぎたりする人は少なくありません。

診察室で患者さんと話していても、よく不思議に思うのです。企業の社長など、バリバリ働いていて、かなりリテラシーの高い人であっても、「今はまだ大丈夫」「来るべきときがきたら、ちゃんとする」などとおっしゃって、すでに血圧や血糖値、コレステロール値といった数字が上がっていても、何も行動を変えようとしない人が結構おられます。果たしてその「まだ大丈夫」という選択は、仕事で行っているような合理的な判断に基づいたものなのか……。

こうしたことは医者にも当てはまります。むしろ医者のほうが、質(たち)が悪いかもしれません。医者の不養生とよく言うように、他の人よりもリスクをわかっているはずなのに、自分の生活習慣は顧(かえり)みない人が多いのです。

■「自分だけは大丈夫」と思ってしまう理由

どうして頭ではわかっていても、いい生活習慣を選択することは難しいのでしょうか。

私は、行動経済学の本を読んでいて、その「なぜ」が理解できました。人間というのは、そもそも不合理な行動を選択してしまう生き物のようです。

ちなみに、行動経済学とは、これまでの経済学に心理学の要素を取り入れたもので、人々の不合理な行動が経済にどのような影響を与えるのかを追究する学問です。

たとえば、予期しない事態が起こったときに、自分に都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりして「自分は大丈夫だろう」「まだ大丈夫だろう」などと判断してしまうことを、「正常性バイアス」と呼びます。バイアスとは、思い込みや情報の偏りなどによる認知の歪みのこと。

自分に都合の悪い情報に直面すると、誰しも、大なり小なり正常性バイアスが働くようにできているようです。

この根拠のない「自分は大丈夫」「まだ大丈夫」というバイアスは、先ほどの診察室の例にもあるように、医療においてもよく見られます。

たとえば、血圧や血糖値、コレステロール値がかなり高くて、「この先10年以内に心筋梗塞を起こす確率が20%ありますよ」と言われたとします。

20%ということは5人に1人です。かなり高い確率ですが、これを合理的に解釈するのではなく、「自分には起こらないだろう」「20%に入ることはないだろう」と、なぜか自分に都合よく解釈してしまいやすいのです。

■ケーキのおいしさは想像できるが心筋梗塞のつらさは想像できない

また、ダイエット中だったり、血糖値やコレステロール値を気にしていたりしても、目の前においしそうなケーキがあれば、つい手を伸ばしてしまう人は多いですよね。あるいは、お酒のおつまみで、つい揚げ物を頼んでしまう、とか。

そうした行動の背景には、「現在バイアス」や「損失回避バイアス」があります。現在バイアスとは、将来に得られる大きなベネフィットと、今すぐ得られる小さなベネフィットを天秤にかけると、後者を選択してしまいやすいという心理です。

甘いものや、脂肪分の多いものを食べすぎてはいけないことはわかっていて、将来の健康を損なうかもしれないと思いつつも、長生きや健康といった将来得られる大きなベネフィットよりも、目の前のケーキ・揚げ物を選んでしまう。将来のベネフィットは遠くて見えづらいので、つい目の前のおいしいものを高く評価してしまうわけです。

たとえば、「そのままでは将来心筋梗塞になるかもしれませんよ」と言われても、一般の人は、「心筋梗塞になったらどうなるのか」がわからないので、将来の健康のありがたみをリアルに想像することはなかなかできません。その一方で、目の前のケーキや揚げ物のおいしさはリアルに想像できるので、両者を天秤にかけている意識もないまま、後者を選んでしまうわけです。

今後起こり得ることの重大さを実感していただくために、よく外来で「心筋梗塞は命を奪われる病気です。20%のリスクですから、1つだけ弾を残した銃を5人で回すロシアンルーレットをしているようなものです。5人中4人は弾が出ません。でもあなたはその生活習慣を続けるためにそのロシアンルーレットを勧められたらやりますか?」というと大概の患者さんの目の色が変わります。

倒れた高齢男性に駆け寄る女性
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

■1万円を拾った嬉しさよりも落としたショックのほうが大きく感じる

もうひとつの損失回避バイアスは、報酬よりも損失のほうを大きく評価してしまうこと、つまり“得する”ことよりも“損しない”ほうを選んでしまいやすいという傾向です。

たとえば、あるとき道端で1万円拾い、その数日後、1万円落としたとしましょう。どちらが心理的なインパクトが強いかというアンケートを取ると、「落としたほう」と答える人のほうが多いということがわかっています(保有効果)。同じ額であっても、損失のショックのほうが大きいのです。

だから、損失を避けたいという心理が働くので、先ほどの例でいえば、目の前のケーキや揚げ物を食べる機会は捨てがたく、それらを選ばなかった先に得られるはずの健康は見えなくなってしまいます。

こうした心理的背景があるので、私たちは、大の大人でありながら、なかなか合理的な選択ができないのです。

■「死ぬ間際の自分でもその行為に同意してくれるか」

そこで、日々の選択の際に考えてほしいのが、「今行っている選択は、将来の自分も同意してくれるのか」です。

私は、循環器内科の医師として、心筋梗塞などを起こして救急車で病院に搬送されてくる患者さんたちと日々接しています。そして、これまでの自身の選択を後悔している人もたくさん見てきました。

何を食べるか、どのくらい食べるか、タバコを吸うか、空いた時間に何をするか……といった日々の選択は、選択しているという意識もなく、流れるようにしているのかもしれません。でも、少し立ち止まる瞬間があれば、10年後、20年後、30年後の自分が、その選択に対して「オッケー」と言ってくれるか、考えてほしいのです。

あるいは、死ぬ間際の自分が同意してくれるか、でもいいと思います。

たとえば、医者からは禁煙を勧められているけれど、タバコを吸い続けているとします。その選択に対して、死ぬ間際の自分も「自分にとってタバコはすごく大事だから、もしタバコが原因で人生が短くなったのだとしても私は後悔しないよ」と思うだろう、と考えるのであれば、その人にとっては決して間違った選択ではありません。

■長い人生の中の自分の優先順位を書き出してみる

ちょっと大げさですが、将来の自分と合意形成ができるのなら、それはそれで良いと思うのです。

生活習慣病対策というのは、「○○はやめましょう」「○○は控えましょう」「○○を摂りましょう」などと、得てしてきれいごとを並べるようなものになりがちです。

そのすべてをパーフェクトに守ることなんて、まずできません。私自身もできませんし、患者さんにそれを勧めたところで机上の空論に終わります。だから、パーフェクトである必要はないと思います。

ただ、「自分が将来どんな日々を送りたいか、どんな人生を歩みたいか」を見つめて、熟考する時間をもち、そのためには今の自分はどんな選択をしていくのか――。そう考えることは必須だと思います。

浅野拓『健康寿命を延ばす「選択」』(KADOKAWA)
浅野拓『健康寿命を延ばす「選択」』(KADOKAWA)

そのためには、長い人生を見通したうえで、自分の優先順位を書き出しておくといいでしょう。健康、仕事、家族、友人、趣味、休暇、お金、地位、使命――。自分が何をいちばん大事にしたいのか、どんな順番で大事にしたいのか、漠然と考えるだけではなく、これもまた書き出して見える化しておくことをおすすめします。

そして、些細なことでも日々の選択で迷ったときには、自分の優先順位を思い出し、「今しようとしている選択は自分の本心に合致しているか」と考えるのです。

多くの人は、健康を優先順位の上のほうに置くでしょう。それは、仕事をするにも、趣味や休暇、家族や友人との時間を楽しむにも、やっぱり健康がベースになるからです。

では、将来の健康を守るには今どんな選択をしていくのか。それを考えるには「高血圧や高血糖を放置するとどうなるのか」「喫煙を続けるとどうなるのか」といったことがハッキリ見える化できていないといけません。

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浅野 拓(あさの・たく)
聖路加国際病院・心血管センター 循環器内科医
1979年生まれ。2006年3月浜松医科大学医学部卒業後、聖路加国際病院の初期臨床研修を開始。心血管センターにて主に冠動脈疾患や弁膜症の診療に従事し、これまで術者として500人以上のカテーテル治療に当たる。急性心筋梗塞など緊急疾患の救命を目的とする診療を行う一方で、チーム医療、個々人のリスクに見合った治療選択、実践的な生活習慣を患者に提案することを重視している。2020年アムステルダム大学(University of Amsterdam)にて博士号取得。日本内科学会専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本循環器学会関東甲信越支部予防委員会委員。

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(聖路加国際病院・心血管センター 循環器内科医 浅野 拓)

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