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飲めば飲むほど疾病リスクが高くなる…「少量の酒は体にいい」という定説を覆した最新研究をご存じか

プレジデントオンライン / 2022年9月11日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz

「適量の酒は体にいい」というのは本当なのか。聖路加国際病院循環器内科医の浅野拓さんは「少量のアルコールの健康効果を否定した研究もある。酒への反応は人それぞれなので、そういった研究もあると知った上で飲みすぎないことが大切だ」という――。

※本稿は、浅野拓『健康寿命を延ばす「選択」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■「適量の酒は体にいい」は本当か

お酒との付き合い方について触れたいと思います。

「お酒は適量に飲む分には体にいい」という話を聞いたことがあるかもしれません。その根拠となっているのが図表1です。横軸がアルコールの量、縦軸が死亡の相対リスクを表していて、まったくお酒を飲まない人の死亡リスクを「1」としたときに、1日あたりのアルコール量が増えるにつれて死亡リスクはどう変わるかを示しています。

【図表1】アルコール摂取とリスク①
出所=『健康寿命を延ばす「選択」』

点線が男性、実線が女性で、それぞれ3つずつ線がありますが、真ん中の線を見てください。他の2つは、「95%信頼区間」と言って、厳密ではありませんが理解しやすいように簡単に言うと「100人中95人はこの中に入りますよ」という意味です。この幅が狭いほど、ばらつきが少なく、信頼性が高いことを意味します。

男女を比べると、男性のグラフのほうが95%信頼区間の幅が狭いですよね。それは、男性のほうがデータの母数が多い分、信頼できるデータが蓄積されているということだと考えられます。さて、1日あたりのアルコール量と死亡リスクの関係はというと、男女ともに、少量であればむしろリスクは減って、量が増えるにつれてリスクが上がっていくという「Jカーブ」を描いています。

飲酒量の増加に伴って死亡リスクが増えるのは、心血管疾患や口腔がん、咽頭がん、食道がん、肝臓がんなどのがんのリスクが増えることが理由です。

■女性は1日2ドリンク、男性は4ドリンクまでなら死亡リスクは低い

では、どのくらいまでであればリスクが減少するのかというと、女性の場合は1日2ドリンク、男性の場合は1日3、4ドリンクあたりまでは、「飲まない人」よりもむしろ死亡リスクは低いのです。

ここで、「『1ドリンク』『2ドリンク』ってなんだ?」と思いますよね。

これはお酒の単位で、1ドリンクはアルコール量にして約10g。ビールの場合、中瓶やロング缶(500mL)の半分、ワインは1杯弱、チューハイ(7%)は350mL缶の半分が「1ドリンク」に当たります。

ということは、男性の場合は、1日にビールのロング缶2本程度であれば、ぎりぎり許容範囲内か――。そう、期待してしまう人がいるかもしれません。

■酒によるリスク低減効果がまったくない研究結果もある

ここで、もう一つ、別のグラフを紹介しましょう。先ほどのグラフよりも新しい研究結果で、『Lancet(ランセット)』という非常に権威のある医学雑誌に2018年に掲載されたものです。先ほど「ロング缶2本ぐらいはギリギリ大丈夫か」と期待してしまった人には、この結果は残念なお知らせになります。

【図表2】アルコール摂取とリスク②
出所=『健康寿命を延ばす「選択」』

図表2を見ていただくとわかるとおり、Jカーブが見られないのです。少量のお酒による死亡リスク低減効果は見られず、1日あたりの酒量が増えるにつれて、リスクは右肩上がりに上がっています。

この研究も、先ほど紹介した研究(グラフ)も、「メタアナリシス」といって複数の研究を取りまとめたもので、最もエビデンスレベルの高い研究結果です。より新しいものを含む592個もの研究結果を集めたのが、この2018年の『Lancet』の研究で、なおかつ、統計学的にもより精密な手法を用いてバイアスを取り除く試みがなされ、感染症や外傷を含めた23種の健康障害(疾病)とアルコール摂取量の関係を調べています。

この研究でも、虚血性心疾患では少量のアルコール摂取量ではリスクの減少が確認されましたが、その他の疾患では確認されませんでした。心血管疾患だけではなく、がんやケガ、結核等の感染症などを加味して総合的に評価すると、アルコールは少量からリスクを上げている(飲まないことが一番リスクが少ないこと)という結果の研究です。“少量のお酒の健康効果”が否定されてしまったわけです。

■「休肝日を設けつつ2ドリンク」なら許容

とはいえ、少量のお酒に健康効果はあるのかどうか、結論が出たわけではなく、「ある」とも「ない」とも現時点ではまだ言えません。

また、お酒に対する反応は人それぞれ違うので、こういう研究結果が出ていることを知った上で、選ぶことが大事です。

私個人の見解としては、休肝日を設けつつ1日2ドリンクぐらいまでは良いだろうと考えています。

2ドリンクの目安は次のとおりです。

●ビール・発泡酒(5%) 中瓶・ロング缶1本(500mL)
●チューハイ(7%) 350mL缶1本
●日本酒(15%) 1合
●ワイン(12%) グラス2杯(200mL)
●焼酎(25%) 100mL
●ウイスキー(40%) ダブル水割り1杯(原酒で60mL)

少量のお酒の健康効果についての結論は出ていませんが、少なくとも飲みすぎが体に良くないことは確かですから、お酒との付き合いは量を選びましょう。

■ビール・日本酒でも血糖値はそこまで上がらない

お酒好きな人にとっては、お酒と血糖値の関係も気になるところでしょう。血糖値を気にする人は、糖質を含むお酒、つまりはビール、ワイン、日本酒などの醸造酒ではなく、焼酎、ウイスキー、ブランデーなどの糖質を含まない蒸留酒を選ぶという人もいるかもしれません。

浅野拓『健康寿命を延ばす「選択」』(KADOKAWA)
浅野拓『健康寿命を延ばす「選択」』(KADOKAWA)

醸造酒は、本当に血糖値を上げるのでしょうか。結論から言えば、そこまで上がりません。たとえば、ビールは、デンプン質を多く含む麦からできています。そうすると、糖質が多くて、血糖値を上げそうな気がしますよね。

ところが、ビールに含まれるデンプン質はモルト製造の段階で「麦芽糖(マルトース)」に分解され、さらに酵母の段階でアルコールに変換されます。ビールの糖質量というのは、アルコールに変換されなかった麦汁の量で決まるのです。だから、エールビールのようにアルコール度数の高いビールは、逆に糖質量は少なくなります。

というように、ビールの種類によっても異なりますが、総じて、ビールの最終的な糖質量はそんなに多くありません。ごはん1膳(150g)の糖質量が55.7g、食パン1枚が28gなのに比べると、ビール1杯(500mL)の糖質量は15gです。なおかつ、麦芽糖はブドウ糖が2つ結合したものなので、ブドウ糖に分解するまでに少し時間がかかります。

■「何を飲むか」よりも「何と飲むか」「何杯飲むか」

実際に、フリースタイルリブレ(注)で“実験”を行ってみたのが、図表3です。まず、初日は17時頃に夕食を終え、その後、血糖値が下がったタイミングでビール350mLを飲みました。少し血糖値が上がっていますが、気にするほどではありません。

(注)グルコース値の測定器

【図表3】ビールは血糖値を上げるのか――サンプル
出所=『健康寿命を延ばす「選択」』

2日目の夜は、中グラスのビールとともに焼き肉をいつもどおり食べました。ただし、ごはん(米)は食べていません。グラフを見ていただくとわかるとおり、ほとんど血糖値は上がっていません。「ビール+焼肉」と聞くと、血糖値を上げそうなイメージがあるかもしれませんが、むしろ、対象実験としてこの日の昼食に食べたうどん(もちろん1人前)のほうがよっぽど食後高血糖を引き起こしています。

別の日には日本酒でも“実験”を行ってみました。そのときには、刺身をつまみに日本酒1合を飲んだのですが、ビールと同様に飲みはじめの血糖と比べて20mg/dL程度しか上がりませんでした。日本酒の原料は米なので、「血糖値の高い人は飲まないほうがいい」といわれますが、決してNGではないと思います。

お酒は何を選ぶかよりも、「何と飲むか」のほうが大事。あとは、量を選ぶことですね。ビールも日本酒も思いのほか血糖値を上げないといっても、量を飲めば上がります。やっぱり「2ドリンクまで」にしましょう。

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浅野 拓(あさの・たく)
聖路加国際病院・心血管センター 循環器内科医
1979年生まれ。2006年3月浜松医科大学医学部卒業後、聖路加国際病院の初期臨床研修を開始。心血管センターにて主に冠動脈疾患や弁膜症の診療に従事し、これまで術者として500人以上のカテーテル治療に当たる。急性心筋梗塞など緊急疾患の救命を目的とする診療を行う一方で、チーム医療、個々人のリスクに見合った治療選択、実践的な生活習慣を患者に提案することを重視している。2020年アムステルダム大学(University of Amsterdam)にて博士号取得。日本内科学会専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本循環器学会関東甲信越支部予防委員会委員。

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(聖路加国際病院・心血管センター 循環器内科医 浅野 拓)

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