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現在地、自宅、勤務先のすべてが筒抜け…それでも若者が「位置情報共有アプリ」をスマホに入れる理由

プレジデントオンライン / 2022年9月8日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tonktiti

若者に人気の位置情報共有アプリ「Zenly(ゼンリー)」が「数カ月後にサービスを終了する」と発表した。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「運営会社Snapのアプリ『Snapchat』にも類似機能があり、そちらに統合したいと考えた可能性がある。自分の居場所を共有する需要は高く、今後も類似サービスは増えていくだろう」という――。

■少年はどうやって少女の自宅を突き止めたのか

ことし8月、福岡県北九州市で母親と高校1年の娘(15歳)が自宅に帰宅したところを刺される事件が起きた。一部報道によると、娘と犯人とされる17歳の少年はSNSを通じた知り合いで、娘は「少年は位置情報共有アプリで得た情報から自宅を特定したかもしれない」と証言しているという。

事件は次のようなものだ。2人が自宅で刺された後、現場から約700メートル離れたJR南小倉駅近くの踏切で人身事故が起き、東京に住む17歳の少年が死亡。女子高生は「刺したのは少年」と話している。

事件前、女子高生は怖さを感じたため少年との連絡を絶っていた。そしてある日突然、少年が自宅に現れて母娘を刺したというのだ。つまり、SNSだけしかつながりのない相手と位置情報共有アプリを利用したことで、傷害事件につながった可能性があるというわけだ。

■友人たちと「たった今いる場所」を共有

位置情報共有アプリの中で一番人気が高いアプリが「Zenly」だ。Zenlyはフレンドになることで、たった今いる場所だけでなく自宅や学校の場所、スマートフォンの電池の残量を共有できる仕組みとなっている。

Zenlyでは、利用開始してから約72時間が経つと自分の行動範囲が判定され、夜間を過ごした場所に「家マーク」、勤務先と判定された場所に「パソコンマーク」、学校と判定された場所に「帽子マーク」が自動的に表示される。つまり夜間を過ごした場所を自宅、日中などに長時間過ごした場所を学校または勤務先等と判定しているのだ。

「STRATE」が2021年に行ったアンケート調査では、全国の15歳~29歳の男女のうち、Zenlyなどで恋人とお互いの位置情報を共有している10代は30%に上った。20代は16.5%で、10代の若者を中心に利用されていることがわかる。

筆者も使ってみたことがあるが、自動的に正確な自宅の位置が地図上に示されたため、ヒヤっとした。ゴースト機能の「あいまい」と「フリーズ」設定を使えば特定の相手に対してマークを非表示にできるが、設定しなければフレンドには筒抜けだ。しかも滞在している時間の長さまでわかってしまう。

大体の位置ではなく、正確にどの道を通っているのかもわかるので、待ち伏せも容易にできると感じ、やはり恐ろしくなった。友人にはここまで正確な位置情報を共有したいとはとても思えなかったが、家族同士で共有するならたしかに便利そうだと感じた。子どもの居場所を見れば、どこで何をしているのかなどが連絡しなくてもわかるだろう。

■ある中学校ではクラスの半数が利用

SNSで知り合っただけの相手と位置情報共有アプリでつながるというのは、大人世代からすると驚きを感じるかもしれない。しかし、若者の間で流行しており、ある中学校で聞いたところ、クラスの半数近くが利用していたこともある。

SNS上で気軽にフレンド募集し、SNSにおける知り合い同士がつながることも珍しくはないのだ。北九州市の事件で被害に遭った女子高生のケースも、相手との距離が「福岡―東京」と離れていたことも、あまり警戒感を持たずにつながる理由となった可能性がある。

なぜ若者たちは、自分の位置情報をフレンド同士で共有するのだろうか。例として、ある女子高生の使い方をご紹介しよう。

■「今どこ?」と尋ねる親に返事をするのが面倒

「友達とつながってると、待ち合わせ場所を詳しく決めなくても会えるから便利」と彼女は言う。「○時に渋谷」くらいの約束をしておき、Zenlyで正確な場所を確認して会うのだそうだ。また、「今いる場所だけでなく、移動速度や滞在時間もわかるので、それによってわかることも多い」という。

「『今ひま?』とか聞かなくても、『ずっと自宅にいるから暇そう』『バイト先にいるから今は無理だろう』とかわかる。『この速度なら自転車か歩きかな』とか、『駅前で何人か一緒にいるから、今行けば合流できそう』とか」。スマホをなくした時に、友達にZenlyで探してもらったこともあるそうだ。

「親から『今どこ?』とか連絡もらって返事するのが面倒だから、親ともZenlyでつながってる。居場所はわかるし、返事しなくて済むから楽だし」

居場所を親や友達に知られていることはストレスではなく、居場所もコミュニケーション情報の一つであり、うまく使えば便利に使えるという考えなのだ。

グループの全員がスマホを取り出し使用している場面
写真=iStock.com/ViewApart
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ViewApart

■ゼンリー交換掲示板で「会える人いますか?」

Zenlyなどの位置情報共有アプリは、友人や家族などの親しい関係でならば、ご説明したように便利に利用できる。しかし、被害者の女子高生のように、よく知らない相手ともつながり、位置情報を共有するケースも少なくない。

私が話を聞いた女子高生も、SNSで知り合った相手とZenlyでつながっているという。「フレンドが少ないとつまらないから、増やしたかった。日本全国にいると楽しいかなと思って」と話す。

このような考えの若者は、実は少なくない。たとえば、「ゼンリー交換掲示板」というものがある。この掲示板をみると、自分のIDを不特定多数に公開している人が多いことがわかる。「誰でも!」などと誰でもOKとしている人もいるし、「会える人いますか?」「愛知です」「岡山近辺の人」などと地域を限定して会える人とつながりたいとしている人もいる状態だ。

「#ゼンリー交換」というハッシュタグをつけてTwitterでIDを公開、フレンド募集をしているユーザーもいる。Twitterなどでアプリのキャプチャを公開し、大体の居住地が分かる状態となっているユーザーも見つけた。また、Instagramで「#ゼンリー」を検索すると、ZenlyのIDがたくさん見つかる状態だ。

「#ゼンリー交換」のハッシュタグが付いたTwitterの投稿(画像の一部を加工しています)
筆者提供
「#ゼンリー交換」のハッシュタグが付いたTwitterの投稿(画像の一部を加工しています) - 筆者提供

■「楽しいけどやっぱりちょっとやばいのかな」

他のSNSやオンラインゲームでもこのような行動が見られるが、Zenlyの怖さは、フレンドになると自宅や学校、勤務先、現在地まですべて筒抜けになってしまうことだ。しかし、多くの若者たちがそのリスクについて深く考えていないようだ。

先ほど紹介した女子高生は「友人が自宅にいきなり来たことがある。Zenlyでつながっているから当たり前かもしれないけど、やっぱり驚いた」とも話す。

彼女の友人の中に、「○○さんですよね」と街角で知らない人に声をかけられたことがある子がいるそうだ。友人もSNSで知らない人たちと多数つながっていたという。「それを聞いて、楽しいけどやっぱりちょっとやばいのかなって」

■Zenlyのおかげで命が助かったケースも

一方で、位置情報共有アプリで命が助かったという人もいる。FNNの報道によると、2020年9月、タクシーの運転手の女性が53歳の男にナイフを突きつけられ、両腕を縛られてトランクに押し込められる事件が起きた。

当日の最高気温は34度を超えており、熱くなるトランクの中で女性は身の危険を感じたという。女性は隠し持っていたスマホで家族に「トランクの中。死ぬかも」とLINEで助けを求めたそうだ。

そこで使われたのがZenlyだ。女性は夫とZenlyで居場所を共有していたのだ。夫が警察に連絡して居場所を特定、女性は助けられた。男は強盗の疑いで逮捕されたという。

■需要がある限り「ネクストZenly」が台頭してくる

運営会社の米Snap(スナップ)は現地時間8月31日、Zenlyのサービス終了を発表した。Snapはスマートフォン向けアプリ「Snapchat」なども運営している企業で、収益悪化による事業の見直しを理由としている。

ZenlyのTwitterアカウント(@ZenlyJP)も日本時間9月1日に「日本でも多くの方々にご利用いただいているzenlyですが、親会社の事業の再構築と再集中化にともない、数カ月後に提供を終了いたします」と投稿した(現在は削除)。SNS上では利用者からは「なくなると不便になる」「待ち合わせのときにどうしよう」など、惜しむ声が多く寄せられた。

こういった反応からもわかるように、位置情報共有アプリは人気が高く、需要も高い。Zenlyがサービスを終了したとしても、現在すでに複数ある類似サービスがさらに増え、乗り換えが進んでいくだろう。

位置情報共有アプリは、うまく使えば楽しく便利なものだ。ただし、不特定多数やよく知らない相手に公開することで大きなリスクにつながることを知り、つながる相手は厳選するべきだろう。保護者はぜひ、子どもに知らない人と位置情報を共有するリスクを教えてあげてほしい。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。

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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)

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