10年以内の心筋梗塞リスクが一目瞭然…受けっぱなしの健康診断を最適化する"魔法の表"
プレジデントオンライン / 2022年9月8日 15時15分
※本稿は、浅野拓『健康寿命を延ばす「選択」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■自分の体質に合わせた健康法でリスクを「見える化」する
「きれいな花には棘がある」ではありませんが、おいしい食事には中毒性があります。だから、理性で抑制することが大事ですが、健康志向で、あれもダメ、これもダメとすべてを制限してしまうと、幸福度が落ちます。だから、ここでも、自分にとっての優先順位を思い返して、食とうまく付き合っていくことが大事です。
それともうひとつ、とても大切だと思っているのが、自分が今抱えている「リスク」を見える化することです。
たとえば、「炭水化物を減らしてダイエットをしたら○○(大きな病気)のリスクが30%減りますよ」と聞いて、ある人が、毎日の食事をおかず中心に変えて、主食をほとんど食べずに空腹に耐えて頑張っているとします。でも、その人はもともと痩せていて、その病気を10年以内に発症するリスクが最初から1%足らずだったとしたら……?
その努力にほとんど意味はありません。むしろ、痩せすぎてしまって、かえって健康によくない可能性さえあります。
健康に良いと言われていることも、全員がやったほうがいいとは限りません。
自分の置かれている状況――ハイリスクなのかどうか――や、自分の体質に合わせて、どんな健康法・予防法が有効なのかを選択することが必要です。
ですから、まずは自分の今のリスクをはっきりと知るところから始めましょう。
■健康診断の結果から10年以内の心血管病リスクがわかる
生活習慣病をなぜ避けなければいけないのかと言えば、血管の老化(動脈硬化)を進めて、心筋梗塞や脳卒中といった命にかかわる重大な病気を引き起こしたり、全身に悪影響を起こしたりするからでした。
では、あなたは、動脈硬化が進んだ先にある心血管病(心筋梗塞や狭心症など)を10年以内に発症するリスクがどのくらいあるか、知っていますか?
ほとんどの人は知りませんよね。「え、わかるの?」と思うかもしれませんが、予測できるのです。
まずは最近受けた健康診断の結果を用意してください。いろいろな数値が記載されていますが、リスクの見える化に必要な数値は次の項目です。
・血圧
・コレステロール値(LDLコレステロール値、HDLコレステロール値)
これに加えて、「糖尿病」を持っているかどうか、「慢性腎臓病」に罹患(りかん)しているか(ステージはいくつか)がわかれば、予測することができます。
そのほか、年齢、性別、喫煙の有無も含めて、図表1に沿って点数を足していきます。その合計点によって、「10年以内に心血管病(冠動脈疾患)になる可能性がどのくらいあるのか」「リスクは高いのか、低いのか」がわかります。
これは、「吹田スコア」と呼ばれています。すでに冠動脈疾患をお持ちの方は予測することはできないのでご注意ください。
■スマホアプリ「これりすくん」も有用
先ほどは「年齢が○歳だから○点」「血圧がいくらだったら○点」……と、ご自身で各点数を足して合計点を出してもらいましたが、もっと簡単にリスクを教えてくれるツールがあります。
「これりすくん」という名前のスマホアプリです。
りすのキャラクターがアイコンになっているかわいらしいアプリですが、じつは日本動脈硬化学会が出しているもの。先ほどの吹田スコアをベースにつくられたアプリ(注)で、私も、ふだんの診療のなかで使っています。ただし、糖尿病・慢性腎臓病についての入力項目はなく、いずれかをお持ちの方はリスク計算の対象外であるため、アプリではなく図表1を使って計算するようにしてください。
(注)2022年7月に久山町スコアをベースにモデルチェンジし心血管病に加えて脳血管疾患の10年リスクも勘定するものになった。
このアプリでは、「総コレステロール/LDLコレステロール(どちらか一方でもよい)」「HDLコレステロール」「中性脂肪」「年齢」「性別」「喫煙習慣の有無」「血圧」「耐糖能異常の有無(わからないときには「不明」に)」を順に入力していきます。
このうち、耐糖能異常とは糖の負荷に耐えられないこと。食後に上がった血糖値を正常に戻す能力が弱いことを意味します。ここでは、「空腹時血糖値」が110~125mg/dL、または「75g糖負荷試験(OGTT)2時間値」(ブドウ糖を75g摂取した2時間後の血糖値)が140~199mg/dLに該当する場合、「耐糖能異常あり」となります。
入力が終わったら「計算する」というボタンを押すと、ポンと結果が出てきます。
・リスクは高いのか、低いのか
・10年以内に脳心血管病を発症する確率は何%あるのか
・同年齢、同性で最もリスクの低い人に比べて何倍確率が高いのか
これらを教えてくれます。
■「タバコをやめたら」などのシミュレーションも可能
このツールの便利なところは、「何から改善したらいいのか」がわかるところです。
まず、現状を入力して結果を出しますよね。その結果、リスクが高いことがわかったとしましょう。そうしたら、「前の画面に戻る」をタップして、また入力画面に戻り、コレステロールを下げたらどうなるのか、血圧を下げたらどうなるのか、タバコをやめたらどうなるのかといったシミュレーションを行うことができるのです(厳密なシミュレーションではありませんが、簡単に傾向を把握するには問題ないと思います)。
たとえば、血圧を下げたときにいちばん発症確率が下がったとしたら、その人にとっては血圧を下げることがとくに大切だということ。診察室では、そうしたシミュレーションを患者さんと一緒にしながら、「まずは血圧から頑張ってみましょうか」などとお話ししています。
また、吹田スコアを見ていただくとわかるとおり、年齢が上がると、点数が高くなります。
そこで、「この状態を10年後までそのままにしておいたらどうなると思いますか?」などと言って、年齢を10歳プラスしてシミュレーションしてみることもあります。そうすると、リスクがやや上がったりするのですね。
そうやって結果を見ると、患者さんは「今から血圧を下げておかないと」「ちゃんと治療をしよう」などと前向きにとらえてくれます。やっぱり、リスクが見えると、モチベーションにつながるのでしょう。
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聖路加国際病院・心血管センター 循環器内科医
1979年生まれ。2006年3月浜松医科大学医学部卒業後、聖路加国際病院の初期臨床研修を開始。心血管センターにて主に冠動脈疾患や弁膜症の診療に従事し、これまで術者として500人以上のカテーテル治療に当たる。急性心筋梗塞など緊急疾患の救命を目的とする診療を行う一方で、チーム医療、個々人のリスクに見合った治療選択、実践的な生活習慣を患者に提案することを重視している。2020年アムステルダム大学(University of Amsterdam)にて博士号取得。日本内科学会専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本循環器学会関東甲信越支部予防委員会委員。
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(聖路加国際病院・心血管センター 循環器内科医 浅野 拓)
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