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ひどい物忘れの原因は「認知症」ではない…気づかないうちに高齢者の心身を蝕む"本当の病名"

プレジデントオンライン / 2022年9月15日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jelena83

年齢を重ねるとなぜ物忘れが始まるのか。老年医学の専門家である和田秀樹さんは「認知症のせいだと思う人が多いが、実は老人性うつ病の症状かもしれない。高齢だから仕方ないと放置しておくとどんどん悪化するので、予防と早期発見が重要になる」という――。

※本稿は、和田秀樹『60歳からはやりたい放題』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

■夜中に目が覚める、物忘れが始まるのは「うつ病」

認知症と並んで、歳を重ねたときに気を付けなければならない病気が「老人性うつ」です。老人性うつは、非常に自覚が難しい。だからこそ、危険なのです。

たとえば、最近、食が細くなって、夜中に何回も目が覚めるというお年寄りの話を聞いたとき、あなたはどう思うでしょうか。あるいは、物忘れが始まって、その上、着替えもしなくなり、お風呂にも入らなくなったお年寄りの話を聞いたとき、どう思うでしょうか。

「年齢だから仕方ない」「おそらく認知症だろう」と思う方がほとんどだと思います。しかしながら、これらは「うつ病」の症状でもあるのです。

「もう生きていたくない」「早くお迎えがきてほしい」などというネガティブな発言を若い人がしていれば「これはうつ病の症状ではないか」と気付かれるものですが、高齢の人が似たようなことを呟いていると「また気弱なことを言って。でもお年寄りにはよくあることだから」と見過ごされてしまうこともあります。

■加齢のせいにして本人すら自覚できないことも

気力ややる気の低下も、若いうちであればうつ病の症状だと誰もが気が付きますが、高齢者の場合は、「歳を取ったのだから当たり前だ」と加齢のせいにして、本人すら自覚できないことも多いのです。

老人性のうつ病の存在は、あまり問題視されていません。それゆえに、今日もあちこちで自殺などの悲劇が生まれています。何より怖いのが、こうした事実を知らず、本人や周囲が「認知症かも」と誤診してしまうこと。認知症の場合、中期以降では本人はつらくないことが一般的ですが、うつ病は本人がつらい思いをしています。

適切な診察を受けて、薬を飲むなどすれば良くなることも多いのに、高齢だから仕方がないと放っておくとどんどん悪化していき、次第に脳も変性して、今度は本当の認知症へとつながってしまうことも珍しくありません。

■老人性うつを回避するには体のケアが重要

老いを回避することはできません。“老人性”のうつ病に関しても、予防は難しいと思われていますが、高齢者に不足しがちなたんぱく質をたくさん摂取して、太陽の光によく当たる、適度な運動を毎日して、入浴の際は湯船に浸かるといった、体のケアによって予防になるというのが私の考えです。

心の病の場合、病気とそうでないものの切り分けがとても難しいものです。先述した通り、認知症であるのか、それともただの加齢であるのか、判断が付きづらいため、その病気の「疑い」は本人の自覚や、その周囲の人の印象によって左右されてしまいます。そのため、認知症だと決めつけて病院に行き、治療を受けていたが実はうつ病だった、といった悲劇が起こりうるのです。

ある程度、高齢者を専門にしている医師を選ばないと、誤診を受ける可能性もあります。自分の親がうつ病だという疑いが出たときに、どこの病院にかからせるかといった病院選びは事前にしておいたほうが賢明です。

なお、若い人にはあまり効果がないとされる抗うつ剤ですが、高齢者に関してはかなり効果があると私は考えています。セロトニンやノルアドレナリンを増やす薬を投与すると、記憶力が回復したり、寝つきが良くなったり、やる気が起きたりという効果が出る人が多いのです。

いきなり精神科に行くのはハードルが高いかもしれませんが、「やる気のなさ」や「記憶力の低下」を感じたら決して軽視せず、一度「高齢者のうつ病」を疑ってみてください。

■60代以降、うつ病リスクが上がる理由

アメリカの老年医学の教科書によると、65歳を過ぎてうつ病を患う人は5%に上るといわれています。

60代以降、うつ病リスクが上がるのは、非常に納得できる話です。60代以降は若いときよりも様々な面で個人差が非常に広がってくる年代でもあるからです。

たとえば、現在77歳の吉永小百合さんのようにいつまでも若々しく美しい上、社会的にも活躍している人もいれば、寝たきりになって自由に動くことすらままならない人もいます。それが、シニア世代です。

■「周囲との差」がうつ病につながってしまう

70代は世代全体の10%が認知症になる一方で、残りの9割の人は頭が中高年の人と大して変わりません。また、外見にしても若いときと変わらずに背筋がぴしっと伸びている人もいれば、すでに車いす生活に突入している人もいたりと、健康な人とそうでない人の差が顕著に出る世代です。

仕事にしても、定年退職して家で隠居生活を送る人もいれば、いまだに社長や専門家として活躍し、その業界の権威として辣腕を振るう人もいます。

そのため「あの人に比べて自分は生きている価値がないのではないか……」と引け目を感じやすい年代ともいえます。

一方、自分は健康であっても、同級生の病気や死などを垣間見る機会が増えていくため、「自分もああなってしまうのではないか」という恐怖感を抱いてしまうことも。こうした感情が積もり積もってうつ病を患う人は少なくありません。

日本の中年男性
写真=iStock.com/Masafumi_Nakanishi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Masafumi_Nakanishi

■「社会から相手にされていない」という絶望感

60代以降の人がうつ病になりやすい理由の一つは、愛する対象を失いがちな時期であることも関係しています。

精神医学ではうつ病を患う最大の要因は、愛する対象を失ったときだと、長い間いわれてきました。親や配偶者の死は、人生における最大の喪失体験になります。60代以降は、親が80代、90代を迎え、親の死と直面することの多い年代です。配偶者の不慮の死は、それよりは少ないですが、ショックの度合いははるかに大きなものです。

また、もう一つの大きな喪失体験となるのが、定年です。

精神科医の間では、「定年後にうつになる人が非常に多い」というのは、よく知られた話です。

特に日本の男性は、仕事を通じた人間関係が非常に濃密に作られています。お酒を飲む相手も、ゴルフに行く相手も、麻雀をする相手も、すべてが会社に関係した人間関係であることが多いため、定年退職した途端に人間関係を失ってしまう人が少なくありません。こうした喪失体験で心にダメージを受けて、うつ病につながってしまうのです。

また、仕事を通じて、自分の存在を認めてもらったり、仲間意識を抱いたりすることが多いので、会社を離れることで、自己愛が満たされずに気持ちが落ち込んでしまうケースもあるでしょう。

特に、管理職や役員などの高い地位にいた人ほど、会社内で丁重に扱われることが多かったので、会社を辞めてそのような人間関係をすべて失ってしまうと、「社会から相手にされていない」「無視されているのではないか」と絶望感を抱いてしまいやすいのです。

■「会社以外の居場所」を作っておこう

60代のうつ病を避けるために、まず意識してほしいのが職場以外の人間関係を育んでおくことです。

和田秀樹『60歳からはやりたい放題』(扶桑社)
和田秀樹『60歳からはやりたい放題』(扶桑社)

会社の仕事が忙しかったとしても、定年後にやりたい趣味をリサーチしておいて、事前にそのサークルに加入しておく、あるいは、地元の町内会に入って役員になったり、ボランティアなどに参加したりしておくのもいいでしょう。

そのほか、英会話スクールに行ったり、カルチャースクールに通ったりして、新しい人間関係を構築するのもおすすめです。なんらかの「会社以外の居場所」を作っておくことで、会社を辞めたときの喪失感を回避することができます。

自分の居場所を新たに作る場合、できれば60代の時点からスタートしてほしいと思います。本書でもお伝えしてきましたが、70代以降は前頭葉の働きがかなり弱まっているので、柔軟性が減り、新しいことを取り入れることに少し困難が生じるからです。60代から始めて基礎を作っておけば、70代、80代になっても継続してその人間関係を育めます。

もちろん「もう70代だから、チャレンジするのは諦めよう」と思う必要はありません。ゼロからチャレンジしたいことがあるのであれば、ぜひ挑戦してみてほしいと思います。そのほうが、前頭葉も活性化するし、新たな知見を得られるはずです。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授
1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院・浴風会病院の精神科医師を経て、現在、国際医療福祉大学赤坂心理学科教授、川崎幸病院顧問、一橋大学・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。

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(精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授 和田 秀樹)

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