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高齢者が高血圧になるのは当たり前…「長生きするには血圧を下げなくてはいけない」のウソ

プレジデントオンライン / 2022年9月10日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nd3000

専門家の意見はどこまで信用していいのか。生物学者の池田清彦さんは「健康や医学に関する常識の中には、専門家にとって都合のいいウソも含まれている。特に、血圧を基準値以下に下げなければいけない、という風潮は高齢者にとってリスクになることも知っておくべきだ」という――。

※本稿は、池田清彦『専門家の大罪』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。

■専門家は正しいに違いないという思い込み

世の中に出回る健康法というのはまさに玉石混交で、時には正反対の主張が同時に流行していることさえある。

例えば朝食ひとつとっても、毎朝きちんと取ったほうがいいという説がある一方で、朝食を食べるから不健康になるという説もある。りんごを毎朝食べろという説があるかと思えばバナナのほうがいいという説があったり、もっと肉を食べろとか逆に肉は食べるなとか、何が真っ当な情報かさっぱりわからない。

なぜそんなことが起こるのかというと、食や栄養に関する専門家と称する医師や栄養士によって言うことが違うからだ。これらの人々こそが健康に関する専門家であり、そんな専門家が言っていることなら正しいに違いないという世の中の思い込みが、矛盾するさまざまな健康法を次々と生み出している。

ただ、その手の本をじっくり読んでみると、「○○健康法」というのはさまざまな情報のごく一部だけを過剰に切り取っているケースも少なくない。

■「ウソの常識」で不健康になることもある

一般大衆に向けた情報は、わかりやすいに越したことはないため、マスコミは「カリウムにはナトリウムを排出する効果がある」という話を、「バナナをたくさん食べれば血圧は下がる」といった単純な話にして伝える。確かにバナナにはカリウムが多く含まれているからまったくデタラメではないけれど、結局これも、専門家の意見の中でセンセーショナルにあおることができそうな部分だけを、都合よくつまみ食いしているパターンである。

とはいえ、食べるものをちょっと変えたくらいで、健康にたいした影響はないので気になるなら試してみればいいというだけの話だ。バナナに毒があるわけじゃないし、まあこの程度の話なら、別に目くじらを立てる必要はない。バナナが血圧を下げるというのは一種のおまじないみたいなもので、実害があるというわけではないからね。

問題はむしろ、大多数の専門家が声をそろえて発する、正しそうに見える「医学常識」や「健康常識」のほうにある。なぜならそこには、専門家にとって都合のいい「ウソの常識」もたくさん含まれており、それを正しいと思い込まされたせいで、健康になるどころか、かえって不健康になることもあるからだ。

■地球温暖化のウソは悪影響が発生しないが…

本書の第2章で解説しているように、「地球温暖化の原因は人間が出すCO2だ」というのは政治経済的な力学のみで維持されている「ウソの常識」である。

ただ、極端な話をすれば、CO2を減らしたところで地球への影響は微々たるものなので、それによるデメリットのほうもさして重大ではない。余計な金がかかることや、それによって一部の連中だけが大儲けすることは確かにデメリットではあるが、一般の人たちが直接的な被害を被るとまでは言えないだろう。店でレジ袋がもらえなくなる、くらいのことは起こるとしても、少なくとも命にかかわるようなことではない。

つまり、「ウソの常識」を前提にCO2の排出を意図的に減らしたとしても特段いいことが起きない一方で、深刻な悪影響も発生しない。まあ、それこそが「脱炭素キャンペーン」のやっかいなところで、可もなく不可もない分、多くの人たちが延々と騙され続けてしまう「持続可能なペテン」なのである。

しかし、医療や健康における「ウソの常識」の場合そうはいかない。一般庶民の健康に直接関わりのある科学が医学なので、それを信じた人たちの健康が害されたり、最悪の場合は命が脅かされてしまうこともあるからだ。

■「高血圧」のウソは罪深く、看過できない

とりわけ罪深いと私が思っているのは、「高血圧」に関するウソである。

老化した血管は弾力を失うので、若いころより強い力で血液を送り出さなければ血流が保てなくなる。歳をとるにつれて血圧が高くなるのはこのせいで、つまり、血圧が高くなるのは、一種の老化現象なのである。以前は「上の血圧は年齢プラス90くらいがちょうどいい」ということも言われていたが、絶対的なものではなく、ただ血圧が高いというだけで医者に行くような人はいなかったと思う。

しかし、1978年に世界保健機関(WHO)が「160/95mmHg(最高血圧が160mmHg以上もしくは最低血圧が95mmHg以上)の人は高血圧である」と定義したことで、日本の医者たちもこれに従うようになり、血圧の高いことがあたかも「病気」であるかのごとく扱われるようになった。

そして2000年には、大学の医療研究者が委員を務める日本高血圧学会が、140/90mmHg以上とさらに基準を厳しくした。この時点で「高血圧症」とされる人は1600万人から3700万人に激増したのだ。

血圧が高くなるのは老化現象である以上、高齢者ほど高血圧になるのは当然で、今や男女ともに、60歳を超えると6割以上、75歳を超えるとなんと7割以上の人たちが「高血圧」と診断されている。自分が高血圧であるという自覚のない人も含めると、「患者数」は4300万人にも上るらしい。

2022年時点での日本の人口は約1億3000万人だから、日本人の3人に1人は高血圧というわけだ。2019年の国民生活基礎調査によれば、男女ともにデータが確認できた2000年以降、通院者率1位の傷病は「高血圧」なのである。

健診結果
写真=iStock.com/Yusuke Ide
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide

■老化現象を改善するのはなかなか難しい

高血圧そのものは本来、病気とは言えない。しかし、基準を超えた人は治療対象だから医者へ行けというのが日本高血圧学会の言い分である。仕方なく医者に行けば、「血圧が高いと動脈硬化がどんどん進んで、ほっておくと虚血性の心疾患とか脳卒中になりますよ」と脅される。それは確かに一大事だから、多くの人は「なんとかして血圧を基準値以下に下げなければ!」と考えるに違いない。

若い人たちなら食事の塩分を減らすとか、運動をするなどの生活習慣の改善でそれなりに下げられるだろうが、高齢者の場合はそもそも歳をとったから血圧が上がっているわけなので、生活習慣をちょっとやそっと変えたくらいじゃ下がるはずがない。

そこで登場するのが、「降圧剤」である。

降圧剤は文字どおり血圧を下げる薬なので、飲めばそれなりに効果はある。血圧が順調に下がっていけば「よかったですね~」などと医者に褒められて、いい気分になるかもしれないが、歳をとることは止められないわけだから、薬をやめればまた血圧は上がっていく。だから一度飲み始めた降圧剤をやめられる人はあまりいない。

■「高血圧は長生きの敵」は正しいのか

しかも、血圧が下がるのは、決してよいことばかりではない。

血管の老化にあらがって血流を維持するための「高血圧」なのだから、それを無理に解消すると、血流が滞ってしまう可能性はかなり高い。そのせいで脳の働きが落ちたりとか、免疫機能に影響が及ぶことだって、十分に考えられる。また、高齢者の場合は血圧が下がることで転倒のリスクが高まることもよく知られている。

実際、降圧剤を飲んでいない521人の高齢者(75~85歳)を対象に行われたフィンランドでの調査によると、80歳のグループで5年生存率が最も高かったのは最高血圧が180mmHgを超えた人たちだったらしい。

もちろんこのデータだけで、血圧が高いほうがいいとまでは言い切れないが、「長生きするためには絶対に血圧を下げなくてはいけない」という医者の言い分は必ずしも正しくないことがよくわかる。

■知られざる降圧剤ビッグビジネスのカラクリ

ところが多くの医者は、「血圧が高いと虚血性の心疾患や脳卒中のリスクが上がる」というデータだけを見せながら、せっせと薬を処方する。そのかいあって、日本の降圧剤市場はものすごい勢いで拡大している。

池田清彦『専門家の大罪』(扶桑社新書)
池田清彦『専門家の大罪』(扶桑社新書)

少し古い記事になるが、2017年11月14日付の日刊ゲンダイヘルスケアの記事によると、長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科の永田宏教授が厚生労働省のNDBオープンデータをもとに試算した結果、処方量の上位100品目までの降圧剤の合計金額はなんと5492億円にもなるらしい。

永田教授は「降圧剤はよほどオイシイ商売なのでしょう」と書くにとどめているが、「降圧剤をオイシイ商売にするため」に製薬会社が政治家やWHO、そして学会などに働きかけ、無理やり基準を厳しくさせたというほうが明らかに合点がいく。

そういえば2014年に、日本人間ドック学会が約150万人のデータをもとに、147/94mmHgまでは正常とする新しい基準の提唱を行った。すると案の定、2000年から「140/90mmHg以上は高血圧だ」と言い張っている日本高血圧学会は激怒したのだが、そのとき、医療費削減を目論む行政側の陰謀ではないかと一緒になって猛反発したのが製薬会社だったのである。

上の血圧は147mmHgまで正常です、ということになると患者の数は全然違ってくる(1800万人減少するという試算もある)のだから、その分売り上げが落ちてしまうしね。

■「正しい基準値」を必死に広報する学会

結局このバトルは、「自分たちは将来の合併症発症の観点で基準値を決めている」と主張する日本高血圧学会の勢いに押されたのか、日本人間ドック学会のほうが「あくまで健康の目安であり、病気のリスクを示したものではない」という言い訳をして、事実上折れるかたちで決着したようだ。

しかし、日本高血圧学会のほうは、世間に「間違った基準値」が広まって降圧剤をやめる人が続出したら大変だと思ったのか、「高血圧学会から国民の皆様へのお願い」なる声明文まで発表し、また、147とか94という数字に大きな「×」印をつけたパンフレットまで作成して、「正しい基準値」の広報に全力を尽くしたのである。

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池田 清彦(いけだ・きよひこ)
生物学者、評論家
1947年、東京都生まれ。東京教育大学理学部生物学科卒。東京都立大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学。専門は、理論生物学と構造主義生物学。早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。フジテレビ系「ホンマでっか!?TV」への出演など、メディアでも活躍。『進化論の最前線』(集英社インターナショナル)、『本当のことを言ってはいけない』(角川新書)、『自粛バカ』(宝島社)など著書多数。

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(生物学者、評論家 池田 清彦)

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