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だから地域政党から脱皮できない…野党第1党を狙う「日本維新の会」が支持を集めきれない根本原因

プレジデントオンライン / 2022年9月6日 9時15分

日本維新の会の新代表に選出され、記者会見する馬場伸幸氏(右)。左は松井一郎前代表=2022年8月27日、大阪市中央区 - 写真=時事通信フォト

8月27日に日本維新の会の代表選が行われ、馬場伸幸・衆院議員が新代表となった。ジャーナリストの尾中香尚里さんは「松井一郎・大阪市長が代表を辞任する意図が不透明だ。馬場氏は自身を『(松井氏が投手なら)8番キャッチャー』と評したが、それでは古い自民党となにも変わらない」という――。

■「8番キャッチャー代表」が示すもの

日本維新の会の代表選が8月27日に行われ、新代表に馬場伸幸氏が選ばれた。新代表の就任記者会見で、こんな場面があった。「馬場カラーは『松井(一郎前代表)カラー』と言ってもいいのか」という記者の質問に対し、馬場氏はこう答えたのだ。

「松井ピッチャーの球を受けることを専門にやってきた。馬場カラーとは何か、と言われても『8番キャッチャー』としか言いようがない」

筆者は軽い驚きを覚えた。代表として最初の記者会見での言葉がこれなのか。

自らの意思で「松井路線を継承する」までなら、まだわかる。でも「8番キャッチャー」とは何だろう。代表になっても、前任者たる松井氏の隠然たる指示をいちいち受け取っては、その意のままに動く、ということなのか。

実際、馬場氏はその後、松井氏に顧問就任を要請。松井氏は要請を受ける考えを示した。松井氏は結局、表の代表から「裏」に潜っただけ。見事な「傀儡」の誕生だ。

■傀儡政権は過去にも存在した

こういう政党の代表は、確かに他党にも存在した。55年体制下の自民党の中曽根政権も、初期には背後にいる田中角栄元首相の存在感が大きく「田中曽根政権」とやゆされたし、現在の岸田文雄首相も、亡くなる前の安倍晋三元首相の影響を陰に陽に受け続け、「岸田カラー」を打ち出しそうになるたびに、いつの間にか「安倍色」に塗りつぶされていくのを、今も目の当たりにしている。

しかし、就任早々こうもあけすけに、自分が松井氏の傀儡であることを明言してしまう代表は、さすがに過去にもなかなかいなかったのではないか。

結党10年にして初めてとなる維新の代表選は、これまで大阪の首長が国政政党の代表を務めてきたいびつな政党のかたちを改め、代表を国会議員にすることで「大阪の地域政党」から脱却し、真の「全国政党」への脱皮を図る姿を国民にアピールする絶好の機会となるはずだった。だが、代表選の主役は結局、松井氏。こんな代表選をやってしまったことで、維新はみすみす大事な機会を無駄にしてしまったと思う。

■松井氏は本来代表を辞任する必要はなかった

維新は、国政選挙か統一地方選の後に「代表選を実施するかどうか」を党大会で決める、という独特のシステムを持っている。直前の選挙結果をその都度評価し、代表を代えるべきか否かを毎回確認する、という意図なのだろう。昨秋の衆院選の際は、議席が公示前より大きく増えたこともあり「代表選の必要なし」となった。

参院選を終えた今回も、本来なら同様の評価にするのが筋だろう。維新は参院選でも議席を倍増させた。野党第1党への足がかりとして掲げた「比例票で立憲を上回る」目標をクリアした。松井氏に引責辞任する理由はないし、むしろすべきではない。

ところが松井氏は、参院選の投開票日の7月10日、開票作業を最後まで見守ることもなく辞意を表明した。松井氏の独断による辞意表明によって「やらなくても良いのにやることになった」代表選は、最初から最後まで「主役」の3候補以上に、松井氏自身にスポットライトが当たり続けた。

辞意表明の段階で「自民党が圧倒的に強かった。負けを認めざるを得ない」と述べ「敗軍の将」の如く振る舞っていた松井氏は、代表選を終えた後はころっと言いぶりを変えた。馬場氏とともに記者会見に臨んだ松井氏は、改めて心境を問われると「政治の源泉は怒りだったが、大阪市役所や府庁の体質も変わり、今は怒ることもない。だから(政治にかかわるのは)終了」と満足げに語った。

参院選の投開票日の発言は、一体何だったのか。まるで花道を堂々と引き上げるかのようなその姿に、筆者は強い違和感を覚えた。

■代表選で浮き彫りとなった自民並みの古臭い体質

この間の松井氏の言動を振り返ると、だいたいこんなところだろう。

どういう理由か知らないが、松井氏は単に「代表を辞めたくなった」自己の都合のみで、勝手に代表選を発生させた。そして、代表という「表」の場から姿を消しても「裏」で影響力を保持できるよう、後任の代表選びには深く関与した。自らの「傀儡」として馬場氏を出馬させ、事実上の「後継」に指名したばかりか、立候補の動きをみせた他の議員の出馬を表だってけん制し、結果として出馬断念に追い込んだ。

キャッチャー
写真=iStock.com/quavondo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/quavondo

松井氏は今後、党代表という「表」の立場で当然担うべき責任から逃れ、馬場氏を通じて党内に隠然とした影響力を行使することが可能になる。

こういう政治は、前述した「田中曽根政権」や、岸田政権に裏で影響力を及ぼそうとした安倍派と、全く同根ではないか。何のことはない、自民党を含む既存の政治を「古い体質」だと口を極めて罵ってきた維新の党内政治の姿は、実は自民党並みに古臭かった。

そんな維新の体質を改めて露呈させたのが、今回の代表選だったと筆者は思う。

■大阪都構想では住民投票を行うのにカジノではしない

松井氏が維新の代表を降りることにあえて肯定的な意味を見出すとしたら、前述したように、代表が「大阪の首長」から「国会議員」に移ることによって「地域政党が国政にかかわる」いびつな状況を改め「普通の国政政党」となることだっただろう。

維新は「大阪府と大阪市で行政の長を務めている」ということを強調することで「国政でも政権担当能力がある」とアピールしてきた。松井氏や吉村洋文大阪府知事が、コロナ禍などで行政トップとして東京のメディアに取り上げられることで、こうした印象操作はある程度機能した。参院選の応援演説で使われた「大阪の改革を○○でも」というのは、まさに「大阪でまともな行政をやってきた維新」という印象操作そのものだ。

一方で、大阪の行政が実際にどういう状況なのかは、東京のメディアではまともに取り上げられない。コロナ禍で大阪府の死者数が、人口比で全国的に突出したことなどは「知る人ぞ知る」状況になったが、維新の政治のおかしさはそれだけではない。この代表選のさなかだけでも、維新の政治姿勢にはいくつもあ然とさせられた。

例えば、カジノを含む統合型リゾート(IR)施設の大阪誘致をめぐり、その是非を問う住民投票を実施するための条例案を、大阪府議会が大阪維新の会などの反対多数で否決したことだ(7月29日)。条例案は大阪市の市民団体が、条例制定を求めるのに必要な人数を上回る署名を集めて府に直接請求したのだが、吉村洋文知事は議会提出の際に「住民投票を実施することに意義を見いだしがたい」との意見書をつけた。

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写真=iStock.com/ViewApart
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ViewApart

ちなみに、吉村知事は今回の代表選を経て、日本維新の会の副代表から共同代表に「昇格」している。

大阪都構想のように自らが推進したい施策のためには、住民投票で一度否決されても2度目を行う(これも否決)くらいに熱心に「住民の意見を聞こうとする」のに、自らが進めたい施策にとって不都合な場合は、こうやってあっさりと住民投票条例案を否決させる。見事なダブルスタンダードである。

■議会軽視の専決処分を乱発

まだある。大阪府がコロナ禍や物価高の影響を受けている事業者らを支援するため、総額約31億円の補正予算を専決処分したことだ(8月24日)。

いくら緊急性が高い予算だったとしても、議会の承認を得ずに、行政が勝手に予算を決めてしまうのは議会軽視であり、ひいては背後にいる住民の軽視だ。補正予算には「大阪の魅力を海外に発信するプロモーション事業費約1億6000万円」なども計上されており、緊急性も疑わしい。いくら府議会で維新が圧倒的多数を占め、可決が確実だったとしても、議会できちんと審議すべきではなかったのか。

専決処分は最近、大阪府だけでなく、東京都などでも乱発されているが、コロナ禍で麻痺してしまったのか、最近はメディアもあまり問題にしない。2010年ごろ、鹿児島県阿久根市で市長が議会を開かず専決処分を乱発して全国的な大問題になっていたことが、今では嘘のようだ。

■トップの進退は自分の都合で決めるべきものではない

そして参院選の応援演説である。コロナ禍で大阪の住民が塗炭の苦しみをなめている時に、松井氏や吉村氏らが公務をほったらかして頻繁に他の自治体に入り、選挙応援に走ったことは「国政政党の幹部」の行動としては正しくても、「地方自治体の長」としては、どう見ても間違っている。

こういう維新のおかしな政治が10年間もまかり通ってきたのは「地方自治体の長が国政政党の長も務める」いびつな党のかたちのせいだと言ってもいい。

もしも維新が将来野党第1党になれば、代表は「次の首相」候補となる。参院選の時のような行動は許されない。維新はどこかで党のかたちを改めなければならない段階に来ていた。今回の代表選は、そのための良い機会にすることもできたはずだ。

しかし、松井氏一人のせいで、すべてぶち壊しになった。

政党トップの進退について、政界では昔から「政治家が自らの責任で決めること」という価値観が根強く、松井氏の辞任もさほど問題視されていない。

しかし筆者は、この価値観そのものに異を唱えたい。政党のトップたるもの、選挙に負けたり不祥事があったりして有権者からの求めで退陣を決断するとか、病気などのやむを得ない事情で退くとかいったことがない限り、定められた任期を最後まで務め上げ、その職責を果たし、任期全体の業績について審判を受けるべきなのだ。

代表選が世間的に全く盛り上がらなかったため、すでに忘れかけられている感もあるが、それではいけない。今回の代表選が「松井氏の、松井氏による、松井氏のための代表選」になってしまったことについて、本当にそれで良かったのか、維新の関係者はそれぞれが再び自分の胸に問うべきだ。

そして松井氏は、改めてなぜ自分は「辞任しなければならなかった」のか、その理由を自ら、誰にでも分かるように語るべきではないのか。

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尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト
福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)。

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(ジャーナリスト 尾中 香尚里)

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