中高年は知らない…若者がLINEで句読点がついた文を心底嫌悪する本当の理由
プレジデントオンライン / 2022年9月7日 11時15分
■若者たちは、LINEで句読点をつけたがらない
「若者はメッセージのやりとりで句読点をつけない(つけたがらない)し、そうした文章に好印象を持たない」という話題がツイッター上で拡散していた。
結論からいえば、これはぼぼ間違いなく事実である。個人的な観測とも一致するし、当事者たちからも同様の証言をいくつも受けたことがある。ツイッターを活発に利用する人は主として中年層が多いせいか、この事実は多くの人にとって大きな衝撃を与えることになった。「嫌われていたなんて知らなかった」「キモがられないためにはどうしたらいいのか」などと困惑と動揺の声が方々からあがっていた。
なぜかれらが句読点を――とりわけ句点[。]を――忌避、もっといえば嫌悪するのか。それは、句読点(が用いられた文章)には「冷たい印象」を受けてしまうからだという。
若者からすれば、句読点は「大人(中高年)」が自分たちに向ける“文書”に用いられているものであり、往々にしてその内容は目的志向的で、なにより批判的なニュアンスが含まれていることが多い。だからこそ、LINEなどのメッセージアプリ上で句読点がある“文書”を目にすると、そこに自分の責任を追及されているような、いうなれば「詰問」に近いニュアンスを感じてしまい、嫌なのである。
LINEなどのメッセージアプリにおいて年長者たちは「~ですか。」「わかりました。」など、きちんと句読点を使う。口語表現であろうが“文書”であれば当然あるべき句読点を使っているだけでそれ以外の他意はないのだが、一方で若者たちはそれらに「詰められている」「追及されている」「批判されている」という印象をうけている。
このような句読点に対する印象とニュアンスのズレは、若者層と年長者の間ではLINEをはじめとする「メッセージアプリ」に対する基本的な認識が異なっているからこそ生じる。
すなわち、若者たちにとってそれは「会話の一形態」であるのに対して、年長者たちは「簡易版メール」のような感覚を持っていて、つまり手紙やメールの延長上にある「文書送信の一形態」なのである。
■若者たちはLINEで「会話」をしている
句読点は文章作成において使われるツール(あるいはルール)であって、日常のくだけた会話では必ずしもそうではない。
若者からすればLINEで仲良く和気あいあいと「会話」することを想定しているチャンネルで唐突に「文」を突き付けられたような気分になって、たじろいでしまうのである。えっ⁉ なんでいきなり“文章”を送ってくるの⁉ といった具合に。
![スマホのメッセージアプリの画面を見せる二人の手元](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/e/1200wm/img_5efd0b261bba99306383e5b6af782689490404.jpg)
余談だが、いわゆる「おじさん構文」「おじさんLINE」と揶揄(やゆ)されてしまう、中高年のメッセージに特有とされるコミュニケーション様式は、「句読点が用いられた、『会話』ではない『文』のはずなのに、『会話』で使われる絵文字やネットスラングがある」というアンバランスさが多くの若者たちに強烈なインパクトと違和感を残したことでミーム化した。
若者たちはLINEやInstagramで使っているようなネットスラングをリアルな対面状況における音声会話でもそのまま使う。「~草(くさ)」とか「~してもろて」などのネットスラングが対面コミュニケーションの場でそのまま発音されている場面は、中高年どころかそれこそ30代くらいの人でも驚くかもしれない。
いずれにしても、それくらい「LINE的コミュニケーション」と「会話」に垣根がないのである。逆にいえば、日常の音声会話とほとんど区別のないコミュニケーションの場に、いきなり句読点が満載した“文書”がぶつけられてしまったら、かれら若者がそれを見て当惑するのも無理もないことがわかるだろう。
いずれにしても「ネット通信を介したメッセージ交換」に対する根本的な前提のズレがこのような不幸なすれ違いを生んでいる。若者たちは会話の延長として、おじさんたちはEメールの延長としてそれを認識している。
■そもそも「おじさん的なもの=悪」いつから決まった?
以上が「若者がLINEで句読点を嫌がる理由」の解説になるが、そもそも論として釈然としないこともある。なぜそうまでして「若者に嫌われたくない」「若者とのズレをなくしたい」と、最近の中高年層は思うのだろうか。
いったいなぜ「若者的であることが善」で「おっさん的であることが悪」という価値観を所与のものとする雰囲気がこの社会全体に広がってしまったのだろうか。私はそれこそ「年齢差別」そのものであると考えているのだが。
年長者は年長者らしい「わきまえ」を持って、堂々としていればそれでよい。若者からどう思われようが、それでいちいち自分の言葉づかいやLINEのメッセージを「若者に好意的に見てもらえるように」変えようとすること自体がおかしい。「おじさんLINE」とか「おじさん構文」と揶揄されようが「だからなんだ?」と言い返してやればよい。
時代感覚が違うこと、時代先進が違うことを、はっきりと胸を張って示してやることも、大人としての権利であり同時に責務のひとつである。矜持といってもよいだろう。
![スマホでタイピングする女性の手元](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/e/1200wm/img_fe350a2c6106ad2b56a7a90f76d88ea6344508.jpg)
若者たちに対してことさら傲慢になれ、あからさまに抑圧してやれ、意地悪をしてやれと言っているのではない。かれらと違うからといって短絡的に「悪いこと」だと結論して、恐れたり隠したりするべきではないということだ。大事なのは、かれらとの「違い」や、かれらの「言い分」をメタ的に理解し、ときに受け入れながら、それでも自分たちとの時代の違いをはっきりと伝える役割を引き受けることだ。
年長者は若者とは時代精神も価値観も違う。慣れ親しんだテクノロジーも違う。当たり前のことだ。後輩たちとの「違い」をはっきりと示して、そうしていつの日か彼らに「超えられる役目」をまっとうして時代の先頭を譲る。そうして、世の中は前に進む。胸を張って「老害」をやって、しかし最後には敗れて去っていく。それが年長者の権利であり、託された尊い仕事でもある。LINEの文章をキモがられないかどうかとか、若者の顔色を窺っている場合ではない。もっと大切なことがある。
■「大人不在の世界」にしてはいけない
私は仕事柄、自分より年下の若者に会う機会が多く、かれらとの対話のなかでたくさんの学びを得ている(本記事も、かれらとのコミュニケーションの機会で得られた知見によって書かれている)。
だからといって、若者たちにとって不快感のない、心地よいコミュニケーションをしてあげようというサービス精神は持ちあわせていない。世代の異なる者同士の対話のなかで「考え方が違うな」「価値観が合わないな」「関心が異なるな」といった感覚を頻繁に味わうが、それを悪いことや恥ずべきことだとは考えない。時代が変わる、世代が隔たるとは、得てしてそういうものだからだ。
![スマホでメッセージを送る女性の手元](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/0/1200wm/img_c0e19da06a509dfaa3d683a158f31f1a324800.jpg)
いつまでも若者と同じ精神性のままでいて、若者に共感や好印象を持たれることが年長者たちにとって目指すべき「善」となってしまったら、いったいだれが「大人」という嫌われ者の(しかし社会の健全な更新と継承に必要不可欠な)役割をやるのか。だれも社会的責任を取らない「大人不在の世界」ができあがってしまうだけだ。
「大人不在の世界」では、口先では若者に好かれようとするが、肝心なところで若者のために責任を取ることも「老害」と嫌われる損な役割を引き受けることも拒否する、見た目だけ年寄りで中身は幼稚な、異様な存在がやたら生み出されてしまうだけだ。これでは社会は停滞してしまう。
世の中で「若者から嫌われたくない」「オジサン風だと思われたくない」などと憂う年長者ほどには、私はかれら若者と年齢は離れていないが、しかし堂々と「時代の違い」を示す。それでよいと考えている。なぜならそれが「大人」としての責務だと思うからだ。
私は彼らより少し先に「越えられる役目」がやってくる。しかしかれらだっていずれ年をとって「大人」をやらなければならない。結局は順番なのだ。
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文筆家・ラジオパーソナリティー
会社員として働くかたわら、「テラケイ」「白饅頭」名義でインターネットを中心に、家族・労働・人間関係などをはじめとする広範な社会問題についての言論活動を行う。「SYNODOS(シノドス)」などに寄稿。「note」での連載をまとめた初の著作『矛盾社会序説』(イースト・プレス)を2018年11月に刊行。近著に『ただしさに殺されないために』(大和書房)。「白饅頭note」はこちら。
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(文筆家・ラジオパーソナリティー 御田寺 圭)
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