最悪の場合は死に至る…カフェインの摂り過ぎが引き起こす悲劇
プレジデントオンライン / 2022年9月13日 11時15分
■「カフェイン中毒で死亡」のニュースが話題に
近年、「エナジードリンク」とよばれる清涼飲料水が多く販売されています。エナジードリンクにはカフェインが添加されており、朝の眠気覚ましや仕事や勉強の合間の気分転換などに飲用している方も多いようです。ジュース感覚で手軽に飲用できる一方、注意したいのがカフェインの過剰摂取です。
2015年に「カフェインの過剰摂取が原因で20代男性が死亡した」ことがニュースとなり、死亡した男性がエナジードリンクを常用していたことが報じられました(後に、この男性の胃から多量のカフェイン錠剤が見つかり、エナジードリンクとカフェイン含有薬との併用によるカフェイン中毒で死亡に至った可能性があることがわかりました)。エナジードリンクの摂取のみが死因となったわけではありませんが、それまで、カフェインが原因で死亡する可能性について、あまり知られていなかったこともあり、カフェイン中毒への注目度は高まりました。
■リラックス効果や頭痛緩和、パフォーマンス向上効果も
リスクについてご説明する前に、カフェイン摂取で期待できるメリットを確認しておきましょう。
第一に、眠気覚まし効果を期待してカフェインを摂取するケースが多いと思います。カフェインを摂取すると、私たちの体内で何が起こるのでしょうか。
カフェインの摂取で眠気が覚めるのは、カフェインが「アデノシン」という物質と似た構造をしているためです。アデノシンには神経を鎮静させ、脳に対して睡眠を促す作用があります。アデノシンは体内にある「アデノシン受容体」と結合することでその作用が働きます。ですが、体内に入ったカフェインはアデノシンと構造が似ているために、アデノシンの代わりにアデノシン受容体に結合することができるのです。
そしてアデノシンとは反対に、カフェインには興奮性の神経伝達物質を放出する作用があります。アデノシンの働きを阻害し、代わりにカフェインが働くことで脳が覚醒した状態となるわけです。
カフェインには眠気覚まし以外にも、リラックス作用や頭痛の緩和、パフォーマンス向上(頭がさえる、集中力アップ、運動機能アップなど)、代謝アップ、利尿作用(むくみ防止)、脂肪燃焼作用など、期待できる効果は多岐にわたります。
■死亡リスクを下げる効果も
カフェインはエナジードリンクのほか、コーヒーや紅茶・緑茶等に多く含まれています。これらのカフェイン飲料が、日常生活に欠かせないものとなっている方も多いのではないでしょうか。
健康面では、カフェインが死亡リスク減少に寄与する可能性も示唆されています。
コーヒー摂取と死亡リスクの関連についての調査では、コーヒーを全く飲まない人に比べ、1日3~4杯飲む人は、死亡リスクが24%低くなるという結果が出ました。(国立がん研究センター 多目的コホート研究「コーヒー摂取と全死亡・主要死因死亡との関連について」)同様の研究で、緑茶の摂取量が増えるほど死亡リスクが低下する傾向も見られています。(国立がん研究センター 多目的コホート研究「緑茶摂取と全死亡・主要死因死亡との関連について」)いずれの調査でも、死因別の分析では、特に心疾患、脳血管疾患、及び呼吸器疾患での死亡リスクが有意に低下していました。
これらの結果とカフェインの作用との因果関係は解明されていない点もあり、断言はできませんが、カフェインには血圧降下作用や血管の保護効果、気管支拡張作用などがあることが知られており、一因になったと考えられています。
■過剰摂取が引き起こす健康被害
カフェイン摂取により期待できるメリットを挙げましたが、これらはあくまで適量の摂取が前提です。カフェインの過剰摂取による健康被害については、国際機関や各国の保健機関などが注意を促しており、カフェイン摂取量の目安を公表するなど、国際的にも関心が高まっています。
次に、カフェインの過剰摂取が引き起こす症状について見てみましょう。急性中毒症状だけでなく、長期的な過剰摂取が将来の健康に影響を及ぼす可能性にも留意する必要があります。
急性作用:中毒症状で死に至る可能性も
急性作用は、短期間に多量にカフェインを摂取したことにより急激に発症する中毒症状です。冒頭でご紹介した、カフェインの過剰摂取で死亡したケースは急性作用に当たります。
具体的な症状としては、興奮、めまい、心拍数増加、震え、不安等が挙げられます。これらは中枢神経系(脳)が過剰に刺激された場合に現れる症状で、カフェインの、脳を覚醒させる作用が行き過ぎた結果と考えられます。消化器系に作用した場合は、下痢や嘔吐(おうと)などの症状として現れるケースもあります。
![心臓のケア](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/c/1200wm/img_ec3a98e006fb877739da6b6908d05cb1403608.jpg)
長期的影響:高血圧や骨粗鬆症、妊婦は胎児の低体重リスクも
肝機能が低下している人などでは、カフェイン摂取によって高血圧リスクが高まる恐れがあることや、カルシウム摂取量が特に少ない人において、骨(こつ)粗(そ)鬆(しょう)症発症の原因となる可能性が指摘されています。妊婦が高濃度のカフェイン摂取を続けると、胎児が低体重となり将来の健康リスクが高まる可能性も報告されています。また、カフェインは耐性がつきやすいため、日常的に摂取を続けると効き目を感じにくくなり、摂取量が増えやすいという問題もあり、健康な人でも摂り過ぎには要注意です。
日本では、厚生労働省や農林水産省がカフェインの過剰摂取について注意喚起をしています。(厚生労働省「食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~」)(農林水産省「カフェインの過剰摂取について」)
■コーヒーならマグカップ2~3杯まで
気になる摂取量目安ですが、日本独自の基準は現状定められておらず、各機関の基準値を引用する形がとられています。各機関により多少の差はありますが、悪影響のない1日当たりの最大摂取量として示されている基準をご紹介します。
妊娠中・授乳中の女性:300mg/1日
※400mgはコーヒーではおおむねマグカップ3杯、300mgの場合はマグカップ2杯までが目安とお考えください。
また、子どもはカフェインへの感受性が高いため、より注意が必要です。カナダ保健省の示す基準では、4〜6歳の子どもの最大摂取量は45mg/1日とされていますが、コーラ1缶(350ml)を飲むと、この目安量を上回る可能性があります。子どもの体重にもよりますが、1日1缶以内にとどめておくのがよいと思います。(内閣府食品安全委員会ファクトシート「食品中のカフェイン」より)
以上の、カフェイン摂取のメリットと過剰摂取の危険性を踏まえ、日常生活で上手にカフェインを利用するためのポイントを押さえておきましょう。
■カフェイン含有量表示に注意する
現状、飲料等のカフェイン含有量の表示は義務ではなく、事業者が任意に行うこととされています。そのため、製品ラベルにカフェイン含有量表示がない商品も多く販売されています。
また、エナジードリンクや眠気覚まし用の清涼飲料水の成分表示は、100ml当たりの濃度で書かれていることも多く、意図せずに多量のカフェインを摂取してしまう可能性もあります。表示がないものは販売者等のウェブサイトで確認する、製品1本当たりに換算してカフェイン含有量を正しく把握するなど、適正量の摂取にとどめるようにしましょう。
■酒、医薬品を一緒に摂取しない
カフェイン含有飲料とアルコールの同時摂取は避けてください。
カフェインが、アルコールによる機能低下を隠してしまうので、酔いが回らなくなると錯覚することがあります。しかし、カフェインはアルコールの代謝に影響しませんし、呼気中のアルコール濃度を低下させることもありません。むしろ、酔っぱらった感覚を持ちにくくなるために、お酒の飲み過ぎにつながってしまいます。
眠気防止薬などのカフェイン含有医薬品と、カフェイン含有飲料を同時に摂ることも禁止されています。カフェインの過量服薬となり、急性中毒などの健康被害につながる恐れがあります。医薬品の使用上の注意にも記載がありますので、確認して遵守されるようお願いします。
■「何時まで」と時間を決める
カフェインの感受性が高い方は、カフェインの影響で夜眠れなくなるということもあります。その場合は、摂取量に気を付けるほか、カフェイン摂取のタイムリミットを決めるのもよいと思います。
カフェインの効果は数時間で消えますので、午前中の摂取を過剰に心配する必要はありません。夕食以降はカフェインを控えるなどのルールを決めるのもおすすめです。カフェインの摂り過ぎを防止することにもつながります。
カフェインは嗜好(しこう)品の飲料に多く含まれており、適切に活用すれば生活を豊かにする助けにもなってくれます。カフェインを上手に活用するために、正しい知識を持っていただければと思います。
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産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。
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(産業医 池井 佑丞)
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