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なぜ私たちは「ヤクルト1000」が欲しくなるのか…ブッダが「食事の節度」について繰り返し説いたワケ

プレジデントオンライン / 2022年9月10日 12時15分

ヤクルト公式サイトより

心身ともに健康でいるにはどうしたらいいか。福厳寺住職でYouTuberの大愚元勝さんは「お釈迦さまは、節度ある食事をとる大切さを何度も説いている。ストレスを感じたときは暴飲暴食に走るのではなく、短い時間でも心を整える時間を持ってみるといい」という――。

■なぜヤクルト1000は売れ続けているのか

今、買いたくても買えない飲み物があります。あまりに人気すぎて、手に入らないのです。

その飲み物とは、「ヤクルト1000」。

ヤクルト1000には、生きて腸内まで到達する「乳酸菌 シロタ株」が、1mlあたり10億個、100mlに1000億個、ヤクルト史上最高密度で含まれており、「ストレス緩和」「睡眠の質向上」に効果があるとして人気なのです。

2021年4月に発売されて以降、爆発的に売れ続け、現在は生産が追いつかないとして「ヤクルト届けてネット」の新規注文を休止している状態です。

それにしても、なぜここまでヤクルト1000の人気が高まっているのでしょうか。

その根本には、人々の健康に対する意識の高まりがあると考えられます。

■「健康でありたい」という理想を叶える商品

「いつも、いつまでも、健康でありたい」

人々はその思いを実現すべく、さまざまな知識や情報を求めます。

企業はその思いに応えるべく、商品やサービスを開発します。

そんな流れの中、特に現代人にとって最も大きな関心事でもある「ストレス緩和」「睡眠の質向上」を堂々と謳って人気を博したのがヤクルト1000というわけです。

ネット上には、ヤクルト1000を飲んだ人々が発信するさまざまな体験談が溢(あふ)れています。それによると、「寝つきが良くなった。夜中に起きなくなった。寝覚めが良くなった。便通が良くなった。肌がキレイになった……」などさまざまです。

「美味しく飲むだけで、体調が良くなる」となれば、人気が出ないわけはありません。

しかし、よく考えてみると、ヤクルト1000のような商品が人気になるということは、それだけ普段身体の不調を感じている人が多いということでもあります。

特にヤクルト1000の売り文句である、「ストレス緩和」と「睡眠の質向上」の逆、つまり、「ストレスにまみれ」「睡眠の質が低い」ことに悩んでいる人が多いという現状があるのでしょう。

■現代人の健康を蝕む悪しき生活習慣

身体の状態は、日々の生活習慣の積み重ねの結果です。私たちの今日の身体の状態は、昨日までの生活習慣の表れでもあります。

善き生活の習慣を続けた人と、悪しき生活習慣を続けた人では、がんや心臓病、脳卒中、糖尿病など、生活習慣病への罹(かか)りやすさも、寿命も変わってきます。

代表的な生活習慣は、食事、運動、休養、喫煙、飲酒です。

仕事に追われ、食事が乱れ、デスクの前に座りっぱなしで運動する機会がほとんどなく、十分な睡眠も取れず、ストレスからの喫煙、飲酒がやめられない。気が付けば病気を患い、知らず知らずのうちに身についてしまった己の生活習慣を嘆く。

それが多くの真っ当なサラリーマンの現状です。

しかし、もしこれらの生活習慣が自然と正され、特にサプリメントを摂ったりしなくても、健康長寿でいられる職業があるとしたらどうでしょうか。

実は、そんな善き生活習慣を持つ職業の人々がいます。

「僧侶」です。

坐禅をする僧侶
写真=iStock.com/SAND555
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SAND555

■平均寿命が長い職業第1位は僧侶

臨済宗妙心寺派宝泰寺住職、藤原東演さんの著書『お坊さんに学ぶ長生きの練習』によれば、1980年~82年の国勢調査をベースにした報告では、平均寿命が長い職業の第1位は僧侶(宗教家)でした。

歴史に名を残した僧侶たちの寿命を振り返ってみても、僧侶たちの長寿ぶりが分かります。

例えばお釈迦さま80歳、法然上人80歳、親鸞聖人89歳、栄西(えいさい)禅師74歳、一休禅師88歳と、40歳で高齢者と言われた当時の平均年齢からするとはるかに長寿です。

長生き僧侶たちが実践していたこととして藤原氏は、

1.呼:呼吸を整えること
2.食:食事の節度
3.心:心の切り替え。感情のコントロール
4.生:生活を整える。そのために毎日、決まったルーティンをセットして繰り返す
5.経:お釈迦さまの教えを、声を出して読む

を挙げておられますが、今回私が、健康長寿の秘訣(ひけつ)として特に強調したいことは、「食事の節度」と「心の切り替え」です。

■お釈迦さまは「食事の節度」について何度も説いた

「食事の節度」については、お釈迦さまの言葉を記した、最古の経典とも呼ばれる『ダンマパーダ』に次のような言葉が登場します。

この世のものを不浄であると思いなして暮らし、(眼などの)感官を抑制し、食事の節度を知り、信念あり、勤めはげむ者は、悪魔に打ちひしがれない。岩山が風に揺るがないように(中村元 訳『ブッダの 真理のことば 感興のことば』岩波文庫)

心のマスターであるブッダが、心のあり方や生きる姿勢を説いた教えの中に、「食事の節度」について教える言葉が何度も登場します。

食事が心身に与える影響を体験的に知っておられたのでしょう。

ご飯とみそ汁
写真=iStock.com/kazoka30
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazoka30

■修行によって体重が10キロ落ち、強い肉体へ

私も食事が体調に及ぼす影響を、身をもって体験しました。

私は大学を卒業した年、22歳で大本山總持寺へ修行に入ったのですが、朝起きてから寝るまでのすべての生活習慣が変化し、2週間で約10キロ体重が落ちました。

学生時代の私は、フルコンタクト空手の競技選手として大会にチャレンジし続けていたのですが、大柄な選手と打ち合っても打ち負けないために72キロの体重を維持していました。特に大学3年生から4年生にかけての2年間は、毎日のトレーニングはもちろん、食事やサプリメント、睡眠にも気を使って過ごしていました。人生であれ以上、自分の体型、体調維持に神経を使った時期はありませんでした。

それが、本山修行に入って一汁一菜を基本とする食事に変わり、運動量に対して食べる量が一気に減ったのです。脚気(かっけ)になり、体重が落ち、微熱や倦怠(けんたい)感などに襲われるも、冷暖房などはなく、雪が降っても裸足で過ごす生活。それが3カ月を過ぎた頃から、明らかに体調が変化していったのです。

その変化はもちろん、善き変化です。アスリートの食事についてさまざまな蘊蓄(うんちく)を語り、お金もないのに高価なサプリメントを摂取していた頃よりも、はるかに強い肉体へと変化していったのです。

「禅」とは、「余計な装飾を極限まで削り落とすことによって、物事の本質を見極めようとする」姿勢のことですが、まさに、身をもって禅を体験した感覚でした。

私たちはどうやら、「栄養、栄養と健康情報に煽られながら、余計なモノを食べ過ぎていたのではないか」「余計なモノを食べ過ぎることによってかえって体調を悪化させていたのではないか」と思い知らされた体験でした。

この「食事の節度」を守ることによって体調が良くなることについては、何も私に限って起きた特別な現象ではなく、再現性があります。現在私が住職を務める福厳寺では、修行僧の受け入れをしているのですが、入山から3カ月ぐらいかけて、修行僧たちの体の毒素が抜け、体が引き締まり、病気に罹りにくい体へと変化していきます。

■朝起きて最初に持つ感情が、1日の質を決める

次に、「食べ過ぎないこと」とともに、私が健康のために重要だと考えているのは、「思考、感情」の習慣です。

僧侶たちの日常には、「朝課(ちょうか)」が組み込まれています。朝課とは、御本尊さまの前で行う「朝のお勤め」のことです。朝課は、お釈迦さまをはじめ、歴代の先輩僧たちへの「感謝」と、生きとし生けるものの幸福を願う「祈り」と、仏法を受け継ぎ広めていく覚悟「誓い」の3つの念を込めて行われます。

朝起きて最初に持つ感情が、その日1日の質を決めていくと言われています。

朝起きて最初に、身体を整え、衣服を整える。そして読経を通じて、呼吸が整えられ、心が整えられる。さらに朝課だけに留まらず、日中の法要や葬儀などを通じて、知らず知らずのうちに、思考や感情が整理されている。

つまり自己反省と感謝、祈りと誓願(せいがん)の繰り返しが、僧侶の日常なのです。

■小さな心の汚れが悪しき生活習慣に育っていく

生きるとは、心に何かを思い(意)、思ったことを口に話し(口)、身体に行う(身)ことの連続です。

これら身口意で行う習慣を、業(ごう)と呼びます。

日々繰り返される複雑な人間関係の中で、嫌な思いをする瞬間(小さく心が汚れる瞬間)が誰にでもあります。

嫌な思いをすればつい、その嫌な思いを払拭したくて、刺激や刺激物を求めたり、暴飲暴食をしたりしてしまいます。

ほんの小さな意(心の)の汚れが、口の汚れとなり、行為の汚れとなる。その繰り返しが、生活習慣となって後に、心身の健康に大きく影響してくるのです。

だからこそ、1日のうち何度か、わずか1分でもいいから、自己(意)を振り返り、心を整える時間や空間が持てるならば、それが健康長寿につながってゆくのです。

僧侶は、お寺で生活し、お寺で仕事をする性質上、「心を整える」時間と環境が備わった職業なのです。

では、僧侶でない人はどうしたらよいのか。

■座禅や瞑想より手軽にできる「心の整え方」

実は日本には、僧侶でなくとも、日常的にお寺と関わりやすい環境があります。日本には仏教寺院の数だけでも、7万7000以上あるのです。

一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会が発表した数(2020年9月度)によれば、コンビニエンスストアの数が、5万5852軒ですから、コンビニより多いのです。

調べてみると、家のそばに、会社のそばに、通勤途中に、必ずと言ってよいほどお寺があるはずです。信仰がなくても、宗派を気にしなくてもいいのです。

お寺のそばを通りかかったら、そっと両方の掌を胸の前で合わせ、自らの心に向き合ってみてください。わずか10秒で心が整うのです。

寺で拝んでいる女性
写真=iStock.com/reorange
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/reorange

かつてグアム島で、この「祈りの力」を思い知らされた出来事がありました。

ホテルから、無料シャトルバスに乗って街に出たときのことでした。そのバスが満席だったために、運転席のすぐ後ろの立ち乗りをしていた私は、道中言葉を交わして、運転手さんと顔見知りになったのです。

運転手は非常に神経を使う仕事です。私もかつて幼稚園バスを運転していた経験がありますから、運転の仕事がいかに神経を使う、ストレスの多い仕事であるかが分かります。

しかし彼は、バカンスで来ている人々に楽しんでもらいながら、でも絶対に事故に遭わないようにと細心の注意を払い続けている、プロフェッショナルなドライバーでした。

その後も何度か、彼が運転するバスに乗せてもらったのですが、2度目に彼が運転するバスに乗った時、彼の安心感のある運転の秘訣を垣間見た気がしました。

■プロフェッショナルな運転手が必ずやっていたこと

やはり運転席のすぐ後ろに立った私は、彼のその陽気な「ありよう」を眺めていたのです。すると時折、彼が運転途中に、胸の前で手を一定方向に動かすことに気付きました。

その動きとは、「十字を切る」動きでした。

そう、彼は運転途中に教会が見えると、都度胸の前で十字を切っていたのです。

時間にしてわずか3秒。その瞬間、彼の心は「感謝と誓願」で満たされていたに違いありません。

「世界中から集う大勢の観光客を、安全に目的地まで連れていく」それが彼の仕事です。もちろん何も彼は、そこまで深く考えて運転していたわけではないと思います。

しかし、「教会が見えるたびに、胸の前で十字を切る」という、無意識のうちに彼が身につけたその習慣が、彼のストレスを和らげ、定期的にプロドライバーとしての緊張感を思い起こさせる。

教会のそばを通るたびに、「祈る」ことが、彼の心身を安定させていたとも言えるのです。

■腸内環境は体調やストレスと関係している

現代医学では、さまざまなことが分かるようになってきました。

例えば「脳腸相関」という概念があります。

脳と腸は自律神経系、内分泌系、免疫系の3つの経路を介して、互いに影響を及ぼし合っています。これが「脳腸相関」で、脳から腸への情報伝達(脳→腸シグナル)と腸から脳への情報伝達(腸→脳シグナル)が、双方向的に影響を及ぼしています。

腸内にはたくさんの細菌がいて、体の健康状態や病気の発症などとも関係しています。

体にとって有益であると考えられる細菌は善玉菌(乳酸菌やビフィズス菌など)、有害な影響を与える細菌は悪玉菌(ブドウ球菌やウェルシュ菌など)と呼ばれています。

ヤクルト1000は、この善玉菌を意図的に増やすことで、ストレス緩和や睡眠の質を向上させようとするものです。

また腸内細菌は、バランスを保ちながら共存しています。腸内フローラのバランスが崩れるとおなかが張ったり、便秘や下痢になったり、肌が荒れたりと体調を崩しやすくなりますが、これにはストレスとの関係も分かっています。

旅行に出かけると便秘気味になったり、試験前に緊張して下痢気味になったりするなど、脳と腸は迷走神経を介してつながっており、ストレスを感知して腸内環境が変動することで、腸内フローラのバランスが崩れて、体調を崩す可能性が示唆されています。

■「祈る」という習慣にはメリットしかない

腸内フローラのバランスを崩さないためには、「ストレスをためない」「リラックスする時間を持つ」ことが大切です。

人類はこのストレスから「心を守る」ことの重要性を体験的に知って、大切にしてきました。

「時間もお金もかけることなく、ストレスを和らげ、心にリラックスをもたらす秘訣」

それが「祈り」です。

古今東西、祈りを持たない民族はいませんでした。「祈り」に難しい理論や作法は要りません。「祈り」には副作用も副反応もありません。

両手を胸の前で合わせ「自らの心を見つめる」。ただそれだけで、心がリラックスし、ストレスに耐性を持つのです。

仏教系寺院だけで約7万7000軒。神社系の数は、約8万4500軒にものぼります。コンビニより多い、日本の神仏環境。

ストレスの多い日々の生活に、ぜひお寺や神社の前で「手を合わせる」という行為を取り入れてみてください。

その小さな「心の習慣」が、あなたの健康を守り、長寿に導いてくれることでしょう。

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大愚 元勝(たいぐ・げんしょう)
佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表
空手家、セラピスト、社長、作家など複数の顔を持ち「僧にあらず俗にあらず」を体現する異色の僧侶。僧名は大愚(大バカ者=何にもとらわれない自由な境地に達した者の意)。YouTube「大愚和尚の一問一答」はチャンネル登録者数29万人、5400万回再生された超人気番組。著書に『苦しみの手放し方』(ダイヤモンド社)、『最後にあなたを救う禅語』(扶桑社)、最新刊としてYouTube「大愚和尚の一問一答」のベスト版として書籍化した『人生が確実に変わる 大愚和尚の答え 一問一答公式』(飛鳥新社)がある。

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(佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表 大愚 元勝)

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