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燃費はイマイチ、ボディはでかすぎ…そんな新型ステップワゴンが王者トヨタのミニバンに唯一圧勝している点

プレジデントオンライン / 2022年9月9日 13時15分

新型「ステップワゴン」 - 筆者提供

ホンダが今年5月に発売した新型「ステップワゴン」が好調だ。自動車評論家の小沢コージさんは「大きいボディ、あっさりしたデザイン、燃費より走り味といったホンダ独自の路線は、ミニバンのはやりとは異なるが、その逆張りがウケているのだろう」という――。

■どの車がヒットするかは自動車評論家でもわからない

恥ずかしながら自動車評論の仕事はハズしの連続です。売れると思ってた新車が泣かず飛ばずだったり、ノーマークだったクルマが売れちゃったり。

具体的に言うと、2021年に生まれたトヨタの新型2代目アクアはすぐさま国内月販1位(登録車)になると勝手ににらんでました。

なぜならそれまで1位常連だったある意味兄弟車たるトヨタ・ヤリスのリアシートが狭すぎたからです。

2つの車を比べると、新型アクアはヤリスのネガ消しをしたような国内専用ハイブリッドコンパクト。今回はホイールベースを5cm伸ばしリアシートを広くしただけでなく、内外装の質感をバリバリに上げて明らかに国内対策。

しかも初代アクアは2011年にデビューするなり2013年から国内登録車で3年連続ナンバーワンを獲得した人気ブランド。末期でも売れてましたし、当然そちらの方が売れるはずだと。

ところが現状、アクアもそれなりに売れていますがヤリスを超えてはいません。

もちろんヤリスの販売実績はSUVのヤリスクロスと合算だったり、ハイブリッドにガソリン車も選べますが、21年の販売比率はヤリス21万台強に対してアクア7万台強。リアの狭さは、思ったよりもネックにならなかったようです。がっくり。

■新型ステップワゴンは売れないと思ったワケ

さて、今年は、トヨタの4代目ノア&ヴォクシーに加え、国産箱型ミニバンのパイオニア、ホンダの6代目ステップワゴン、さらには日産セレナも生まれ変わると言われている「ミニバン当たり年」。

その中で、個人的にはステップワゴンは売れると思っていませんでした。

というのも、もはやマーケットリーダーたるトヨタが1月に発売した新型ノア&ヴォクシーが非常によくできていたからです。

ポイントはざっくり3つ。

まずは今のミニバンの主流とも言えるワイルドな「オラオラ顔」をノア、ヴォクシーで見事に作り分けてきたこと。

ここ10年はラージクラスで圧勝を続ける、トヨタ・アルファードをみるまでもなく今のミニバン商戦を制すカギは顔のインパクトであり、ワイルドさ。そこをしっかり強化してきました。

オラオラ顔のヴォクシー
写真=筆者提供
オラオラ顔のヴォクシー - 写真=筆者提供

徐々に拡大する箱型ミニバンですが、サイズ感も適切です。全長は基本変わらぬまま全幅を3cmのみ拡大させて扱いやすさをキープしている点もいい。

さらに、トヨタ自慢のハイブリッドがさらに進化し、第5世代とも言われる1.8Lユニットを初搭載しています。この燃費スペックがまた凄く、国際的な燃費計測方法で実費に近い数値が出るWLTCモードで最良23.4km/Lを達成しているのです。

また、ミニバンならではの新アイデア機構、リアゲートを好きな位置で止められるフリーストップバックドアも凄い。

小沢は愕然としました。これは競合にはなかなか太刀打ちできないだろうと。

初期受注は1カ月で約3万5000台(約2カ月で約7万台)というのもうなずけます。

■ホンダの「オレ流」が足かせになっているのか

2021年の年間販売数を見ると、ノア&ヴォクシー&エスクァイア3兄弟が合算12万6000台、日産セレナが5万8000台なのに対し、ステップワゴンは3万9000台。

ホンダはトヨタの半分にも満たない惨敗っぷりです。なぜこのような差がついてしまったのでしょうか。

小沢の勝手な仮説ではありますが、「こどもといっしょにどこいこう」のCMで一躍国民の足となった元祖箱型ミニバンである初代ステップワゴンが、ここまで落ちたのはホンダが独自の個性化戦略を外せなかったからです。

1996年に登場するなり、月販1万台レベルで爆発的に売れた同車ですが、1999年にライバルの日産セレナがFFボディ化し、2001年にトヨタがFFミニバンの初代ノア&ヴォクシーを発表すると徐々に客が奪われていきました。

正直、私の目にはディーラー数約5000店と販売力で勝るノア&ヴォクシーや、広さと質感で追い上げるセレナに対し、ホンダは独自路線に執拗(しつよう)にこだわり続けているように映りました。

具体的には競合がいち早く採用した両側スライドドアに目を向けず、2代目でも片側スライドドアを採用。3、4代目モデルでは、他がやらない低床プラットフォームを採用し、背の高さを感じさせないシャープなハンドリングに必要以上にこだわったり……。5代目には、テールゲートに観音開きの個性たっぷりな「わくわくゲート」(第5のドアとして設置された横開き式の補助ドア)を採用。

ホンダ開発陣が、「ホンダらしさ」であり「オレ流」にこだわるのは昔から有名ですが、歴代ステップワゴンも「ホンダにしか作れないミニバン」にこだわり続けた結果、それがアダとは言わないまでも、決して売り上げに効果的とは言えない状態を生み出しているように見えました。

ゆえに、6代目発売の一報を聞いても、長らく評価低迷中のステップワゴンが挽回するとは思っていませんでした。

■新型ステップワゴンに「マジかよ?」と思ったワケ

新型ノア&ヴォクシー発表直後に行われた「東京オートサロン2022」で先行お目見えした新型ステップワゴン。小沢は実車を見て、その個性派路線にシビれると同時に、「マジかよ?」と思いました。ノア&ヴォクシーとはことごとく真逆の戦略できたからです。

まずはデザイン。見れば分かる通り、新型ステップワゴンは競合とは真逆のシンプル路線。ワイルドでギラギラメッキのノアヴォクをこってりとんこつ醤油ラーメンとするなら、ステップワゴンはシンプルな塩ラーメンです。明らかに時代の流れに逆行してます。

すっきりした塩ラーメン顔の新型ステップワゴン
写真=筆者提供
すっきりした塩ラーメン顔の新型ステップワゴン - 写真=筆者提供

しかも開発責任者の蟻坂篤史氏(本田技研工業 四輪事業本部ものづくりセンター)いわく、「マーケット調査をしたところ、ミニバンユーザーの3割ぐらいはシンプル&クリーン路線を求めるお客様がいる。それなら将来あり。イケるかもしれないと賭けました」。

ウケ狙いのこってりオラオラ顔が苦手なのもわかるけど、マジでマーケットのたった3割に賭けるの? 正直小沢は目を疑いました。

■でかすぎるボディ、燃費もイマイチ

ボディも極端に拡大。衝突安全基準が高まったこともあり、シンプル&クリーン顔の「AIR」グレードが全長4.8m、顔のメッキ帯が太めの「SPADA」グレードが4.83mと極端に長い。全幅もノア、ヴォクシーを超えて1.75mと広い。

今までの5ナンバー箱型ミニバンとは使い勝手が大きく異なる、でかめサイズを採用してきたのです。

燃費や走りに対する姿勢もトヨタと大違いで、蟻坂氏いわく「実質、リッター20kmを超えれば十分だろう」と2モーター式ハイブリッド機構「e:HEV」モデルが最良で20km/Lと旧型と変わらずかグレードによっては落ちるレベルで、ガソリンターボモデルも同様。

露骨に、燃費より走り味優先のホンダ新個性派路線を採用しているのです。

3列目のシートもゆったり座れる
写真=筆者提供
3列目のシートもゆったり座れる - 写真=筆者提供

個人的にはシンプル&クリーン顔で、ホンダならではの電動感溢れるシリーズハイブリッド「e:HEV」のすっきりとして滑らかな走りは好みではあります。

とはいえここ10年のワイルド顔ブームや、昨今のガソリン高からくる低燃費指向をみると、どう考えてもステップワゴンは逆張り中の逆張り。

面白いけど、ホンダファンがある程度買ったら売れなくなるだろうな? と予想してました。

■個性化戦略は成功している

すると発売後1カ月受注が2万7000台と月間販売計画の5倍以上のスタートダッシュに成功。直近7月の登録台数を見てもステップワゴン5708台に対し、ノア5010台、ヴォクシー4034台と大健闘。(一般社団法人日本自動車販売協会販売会、乗用車ブランド通称名別順位より)

もちろんノアヴォクを合算すれば負けますし、その上にモデル末期のセレナが来ていることを考えると、人気以上に生産遅れが響いてるのを感じさせますが、いろいろ差っ引いても新型ステップワゴンは健闘しているのです。

もちろん今後ステップワゴンが惨敗する可能性もありますが、私がスタート予想をハズしたのは事実。それは世の中のミニバン顔面趣味が本当にオラオラとんこつ醤油指向から、さっぱり塩ラーメン指向に移って来ているのか? 燃費指向が薄れているのか? 単なる気まぐれか? はよくわかりません。

強いて言うなら高級感でしょうか。乗るとわかるのですが、ドアの開閉の重厚感や、ほぼ100%電動駆動によるなめらかで力強い加速は、ノアヴォクよりも高級感があり、車としてしっかりした印象があります。そうした点が、ミニバンに高級感を求める層にウケたのかもしれません。

とにかくホンダの個性化戦略が成功しているのは事実。世の中、逆張りを信じて頑張るのも1つの手ではあると勉強になりました。クルマビジネスってホントに面白いですね。

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小沢 コージ(おざわ・こーじ)
バラエティ自動車評論家
1966(昭和41)年神奈川県生まれ。青山学院大学卒業後、本田技研工業に就職。退社後「NAVI」編集部を経て、フリーに。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。主な著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)、『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はホンダN-BOX、キャンピングカーナッツRVなど。現在YouTube「KozziTV」も週3~4本配信中。

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(バラエティ自動車評論家 小沢 コージ)

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