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「ダイバーシティ、女性登用なんて、迷惑です」パナソニックの女性社員が担当役員にそう伝えたワケ

プレジデントオンライン / 2022年9月12日 10時15分

パナソニックショウルーム東京のロゴ=2021年5月10日 - 写真=AFP/時事通信フォト

なぜ日本では女性登用が進まないのか。パナソニックコネクトの樋口泰行社長は「人任せにしていてはダイバーシティは進まない。心の中で否定している人がいたとしても、トップは絶対に諦めてはいけない」という――。

※本稿は、樋口泰行『パナソニック覚醒』(日経BP)の一部を再編集したものです。

■外資系企業を経ての「出戻り」

「まるで別の会社になった」
「変われなかった会社が変わった」

2017年4月に25年ぶりにパナソニックに戻ってから、6年目を迎えました。

新卒で松下電器産業株式会社(現パナソニックグループ)に入社したのは、1980年。その後、ボストンコンサルティンググループ、アップルコンピュータ株式会社、日本ヒューレット・パッカード株式会社、株式会社ダイエー、日本マイクロソフト株式会社と複数の企業を経ての「出戻り」は、日本の大企業には珍しいこともあって、メディアでも大きく取り上げられました。

同年6月にはパナソニックの代表取締役専務執行役員に就任しましたが、一方で私に委ねられたのは当時の4つのカンパニーのひとつ、パナソニック株式会社コネクティッドソリューションズ社の社長、カンパニー長でした(注、22年4月よりパナソニックコネクト株式会社)

主として企業向けのBtoBビジネスを手がけ、従業員が世界で約2万5000人、売上高が1兆円を超えるこのカンパニーは当時、経営的に厳しい状況にありました。

これをどう舵取りし、どう成長軌道に乗せていくか。

■パナソニックが変わった

私がとにかく強く意識したのは、20年、30年先、いや100年先のために今、何をするべきなのか、ということでした。

あれから5年が過ぎ、私が担当してきたカンパニーは「大きく変わった」「まったく別の会社になった」「変われなかった会社が変われた」といった声を内外からもらっています。

産休・育休から戻ってきたり、ほかのカンパニーから異動してきたりする社員は、本当に驚くようです。

私が何よりうれしいのは、「会社に来るのが楽しい」「日々の仕事が充実している」という声が、社員から次々に上がっていることです。

実際、大きく変わったのは、社内のカルチャーや社員のマインドです。

■「内向き仕事」を減らす

当初、私の目に見えたのは、利益を上げたり、顧客満足を高めたりする本来の仕事ではなく、社内調整などそれ以外の仕事に忙殺されている社員の姿でした。

アジアの女性ビジネスウーマン
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

しかも、それが当たり前になり、何の疑問も持たなくなっていました。

しかし、今では社内調整など内向きの仕事はどんどん減り、顧客起点の仕事へとシフトしています。与えられた仕事を無難にこなそうとしていた部署が、「必死で頑張るぞ」という空気を出しています。

紙の書類が詰まったキャビネットに取り囲まれ、誰もが毎日、同じ席に座っていたオフィスはフリーアドレスとし、部署の垣根も取り払いました。社長の私をはじめ役員も個室を持たず、いつでも上司に話しかけられる環境ができ、一気に風通しをよくしました。

スーツに代表される、誰もが何も考えずに着ていた画一的な服装をやめようと提案し、カジュアル化を推奨しました。カジュアル化によって、会社の雰囲気は明るくなりました。発想も、画一的から、間違いなく柔軟になったと感じています。

■まずはダイバーシティから

多くの日本企業が、まだまだ「昭和」の空気を引きずっているのが事実だと思います。

女性をはじめとした働く場におけるマイノリティの方々が、しっかり尊重されているか。

私はダイバーシティの進んだ外資系企業に長くいましたので、ここはしっかりフォーカスしなければいけないところだと考えていました。

女性の登用や管理職の女性比率を問う以前に、ハラスメントをはじめとした人権蹂躙的なことがまかり通っていたりはしないか、心配していました。それは絶対に許されないことです。その原点から、しっかり向き合わなければいけないと思っていました。

ですから、意識の改革と、いろんなアクティビティの呼びかけを行うのと同時に、数値目標を設定して、ドライブをかけていく必要があると考えていました。

ダイバーシティといえば、多くの場合、人事セクションが担当します。もちろん最終的には人事の領域になるわけですが、ダイバーシティは人事マターにしてはいけないと考えていました。

それは、人事の仕事になった瞬間、他人事になってしまうからです。「ああ、人事がやる仕事だよね」となってしまうのです。

人事にとってダイバーシティは自分事です。しかし、それ以外の人たちにとっては、自分事にはならなくなってしまう。やらなければならないのは、他人事だと思っている多くの社員を巻き込んでいくことです。

出典=『パナソニック覚醒』より
出典=『パナソニック覚醒』より

■担当役員をつけ、自分事にする

そのために考えたのが、ダイバーシティ担当の役員をつけることでした。しかも、人事担当ではない役員です。彼らがダイバーシティを牽引する。事業部長にはダイバーシティ推進リーダーになってもらい、各事業の中でもダイバーシティが推進されるような仕掛けを考えていく。

一気に全社で大きく変えていこう、というのは簡単なことではありません。そこで、自分の担当する組織からスタートする、スモールスタートを意識しました。本社は温度感が高くても、ローカルの事業部となると、なかなかそうはいかないからです。

そこでダイバーシティ担当役員が、キャラバンとしていろんな事業所を回り、話を聞きにいったり、いわゆるエヴァンジェリスト活動をしたり、推進リーダーをお願いしたりしました。

LGBTQ(性的少数者)にフォーカスしたトピックでのイベントを開催するなど、さまざまな働きかけをしていきました。

■まずは管理職の女性比率30%を

担当役員に聞いて、ひとつ興味深かったのは、キャラバンで行った先で、驚きの声をかけられたことでした。

女性から「ダイバーシティ、女性登用なんて、迷惑です」と言われたというのです。

しかし、よくよく聞けば、そういった活動をやめてほしいというわけではなかった。

これまでも、さんざんダイバーシティだ、女性登用だ、と言われて期待したのに、結局、進まなかったというのです。

いろいろなプロジェクトがあっても、続かなかった。これは本気で取り組まなければいけない、と改めて感じました。

日本の大企業では、女性の採用を増やしたとしても、終身雇用でやめる人が少ないこともあって、なかなかその割合が増えていきません。

樋口泰行『パナソニック覚醒』(日経BP)
樋口泰行『パナソニック覚醒』(日経BP)

その比率が30%まで増えれば、理解度も高められる傾向があると言われていますが、そこまでは管理職を増やし、役員も増やし、発言も増やせるようにしっかりと活動を主導していく必要があります。

ダイバーシティがポジティブであることは、今や間違いないことです。職場のマイノリティがどんどん活躍すれば、新しいアイデアも出てくるし、会社の中も活性化してくる。

雰囲気もガラッとオープンになり、フェアになる。

結局、多様性のある組織が強くなる、ということはすでにはっきりしていることです。世界の一流のグローバル企業の条件でもある。

心の中で否定している人がいたとしても、トップは絶対に諦めないことです。

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樋口 泰行(ひぐち・やすゆき)
パナソニックコネクトCEO
1957年兵庫県生まれ。80年大阪大学工学部卒業後、松下電器産業(現パナソニック)入社。91年ハーバード大学経営大学院(MBA)修了。92年ボストンコンサルティンググループ入社。94年アップルコンピュータ入社。97年コンパックコンピュータ入社。2002年日本ヒューレット・パッカードとの合併に伴い、日本ヒューレット・パッカード執行役員に。03年同社社長就任。05年ダイエー社長、07年マイクロソフトに入社し、08年マイクロソフト日本法人COO就任。11年2月日本マイクロソフトに社名変更、15年執行役員会長就任。17年4月パナソニックに入社し専務役員就任。その後コネクティッドソリューションズ社社長就任。同年6月代表取締役専務執行役員就任。22年4月より現職。著書に『パナソニック覚醒』(日経BP)、『僕が「プロ経営者」になれた理由』(日経新聞出版)、『変人力』(ダイヤモンド社)など。

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(パナソニックコネクトCEO 樋口 泰行)

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