ハンコの必要な書類が3000以上もあった…パナソニックが「壮大なムダ仕事」に気付き、廃止するまで
プレジデントオンライン / 2022年9月14日 10時15分
※本稿は、樋口泰行『パナソニック覚醒』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■ワードで4、5ページもの週報
この仕事は本当に顧客価値につながっているのか。それを改めて強く感じたものに、「週報」がありました。これまでは、部下が1週間、何をしていたのか、上司が毎週レポートすることを要求していたのです。
しかも、これがけっこうなボリュームです。ワードファイルで4、5ページにもなる。
それまでに積み上げてきた進捗なども書くということでしたが、これだけのボリュームの週報を書くとなれば、部下にとってはひと苦労でしょう。
上司が見るわけですから、いい週報にするために工夫したいと考えていた部下も多かったようです。そして上司は、そのまた上司にも提出することになりますから、やはりいい週報が見たい。
週報は金曜日の提出でしたが、週も半ばになると、上司から「いいネタはあるか」「トピックスはどうか」などと問いが入ってくる。こうなれば、部下は週報を書くためにアンテナを立てなければならなくなります。
中には、金曜までにいいトピックスを集めたり、書き上げたりできず、土曜日に週報を書いていた、なんてケースもあったようです。
しかも週報を見た上司からのフィードバックは、週末に入る。見る上司も大変ですが、対応する部下も時間が奪われる。
私自身は週報を受け取る立場ではありませんでしたが、CSOの原田がその存在を教えてくれたのでした。「社員がすごい時間をかけて週報を作っている。これはもうやめようと思っているのだがどうか」と。
■「上司に怒られる」「やるべき仕事がなくなる」
話を聞いてわかったのは、どうやら週報が顧客価値につながっているとはとても思えないということでした。まさに内向き業務の最たるものだったのです。しかも、これにとんでもない時間とパワーをかけている。「やめましょう」とすぐに伝えました。
これには、反発もありました。部下にすれば、週報をやめたら上司に仕事を理解してもらえなくなる、急にやめたら上司に怒られてしまうのではないか、という怖さもあったようです。
一方で、実は仕事の多くが週報の作成だった、という社員もどうやらいたようでした。これが廃止となれば、やるべき仕事がなくなってしまうわけです。
ただ、多くの社員から週報をなくすことに対しての支持も受けました。なんのために大変な思いをしてこれを作っているのか、休みの日の週末に上司からフィードバックがくるのはおかしい、と週報に対して懐疑的な見方を持っていた社員も少なくなかったからです。
そもそも週報を頑張ったところで、業績が上がるわけでもないのです。
「週報をなくしましょう」と伝えて、次のオールハンズミーティングで「もうやってないですよね?」と確認をしたのですが、なんとまだ続いている部署もあったのでした。
週報から「ウイークリーレポート」と名前を変えて続けていたのです。
■必要がないならやめてしまえばいい
私は翌日、全社員にメールを出して、「週報をどうしても書きたい場合には、例外申請を私まで直接上げてください」と伝えました。
1件だけ、上がってきました。新入社員の文章を書く練習ということでした。教育目的なら、ということで、これは認めました。
ずっとやってきたから、という理由だけで続いているものが、歴史のある会社にはたくさんあるのではないでしょうか。しかし、顧客起点で見てみると、必要のないものが少なくないのではないかと思います。
必要ないのであれば、やめてしまえばいいのです。それだけで、生産性が一気に高まります。
■報告資料を減らし、できるだけ口頭で済ます
やめてもらったものといえば、もうひとつ、私に報告するためだけに作られた資料があります。カンパニートップの私への報告や連絡、相談があることは当然ではありますが、何か報告するためだけに丁寧な紙の資料が作られていたのです。
しかし、私に報告するためなら、口頭でも十分なケースも少なくありません。それなのに、時間をかけて、きれいな資料を作る必要がどこにあるのか。
私の資料を作るために使った時間は、顧客価値につながるのかどうか。業績を上向かせるのかどうか。
聞けば、かつては上司に報告する資料を作るために、ミーティングが行われていたこともあったそうです。そしてできあがった資料は、とても大量で網羅的なものになる。
これには理由がありました。
部下からすれば、上司から否定をされたくない。だから、上司がどんな反応をしたとしても、答えられるような資料になっているわけです。
逆に言えば、単純化はできるだけしない。それを否定されたときには、困ったことが起きてしまうからです。
一方で上司が何かを求めると、部下は2つ用意する。念のための案も必要になるからです。しかも、その部下に部下がいて、指示を出すと今度は部下が4つ用意しなければならなくなります。必要な資料は、どんどん膨れ上がっていくということです。
できるだけ社内資料は作らない。口頭で済む相談は口頭で済ます。上司への相談は、網羅的な内容でなく、単純化する。これで、時間的なロスをなくせます。
■押印業務を80%削減
社内決裁のプロセスも変えました。以前はカンパニー長のところに上がるまでには、少なくとも1カ月以上はかかっていました。課長、部長、事業部長などのチェックが入り、その都度、部下が上司に説明するプロセスだったからです。
決裁を進めるうえで押印を必要とする書類の種類も、3000以上ありました。部下からすれば、資料づくりのほかに、上司に説明して印鑑をもらう時間が必要だったのです。
例えば、部長の印鑑をもらいに行ったら、部長は席を外していた。机の上に決裁書類を置いておくわけにもいかないので、持ち帰ることにした。出直してみたら、また席を外している。仕方がないので、また持ち帰った……。
こんなことが社内のあちこちで繰り広げられていたわけです。数百、数千と積み上がり、トータルにすれば、どれだけ無駄な動きを生んでいたか。大きな時間のロスです。
非効率な承認プロセスは、権限委譲や電子化、廃止を含めて徹底的に見直しました。押印ペーパーレス化プロジェクトと名付けて、電子印鑑ソリューションなども導入し、それまでのような押印業務を80パーセント削減しました。
20パーセントは、お客さま関連でどうしても押印が必要でした。また、工場のラインで、デスクワークではなく現場で検査をした証としての押印は、このほうが効率的だというので残しました。
ただ、押印をなくすというのは、かなり思い切らないといけない取り組みです。それでも、ゼロベースで考えてみれば、大きな無駄に気づくことができます。
やらなくていいことは基本やらない。どうしても、というところだけやる。
このアプローチで大きく削減できます。
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パナソニックコネクトCEO
1957年兵庫県生まれ。80年大阪大学工学部卒業後、松下電器産業(現パナソニック)入社。91年ハーバード大学経営大学院(MBA)修了。92年ボストンコンサルティンググループ入社。94年アップルコンピュータ入社。97年コンパックコンピュータ入社。2002年日本ヒューレット・パッカードとの合併に伴い、日本ヒューレット・パッカード執行役員に。03年同社社長就任。05年ダイエー社長、07年マイクロソフトに入社し、08年マイクロソフト日本法人COO就任。11年2月日本マイクロソフトに社名変更、15年執行役員会長就任。17年4月パナソニックに入社し専務役員就任。その後コネクティッドソリューションズ社社長就任。同年6月代表取締役専務執行役員就任。22年4月より現職。著書に『パナソニック覚醒』(日経BP)、『僕が「プロ経営者」になれた理由』(日経新聞出版)、『変人力』(ダイヤモンド社)など。
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(パナソニックコネクトCEO 樋口 泰行)
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