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「遅い、決めない、どうなっているのか」中国の火鍋チェーンに叱られたパナソニック役員が痛感したこと

プレジデントオンライン / 2022年9月16日 10時15分

「スマートレストラン」事業について記者会見し、握手する(右から)パナソニックの樋口泰行専務、海底撈インターナショナルホールディングスの張勇董事長、北京瀛海スマート自動化科学技術有限公司の総経理の山下純氏=2018年10月25日、東京都中央区 - 写真=時事通信フォト

日本企業の強みはどこにあるのか。パナソニックコネクトの樋口泰行社長は「中国の火鍋レストランのチェーンと仕事をしたときに、『遅い、決めない、どうなっているのか』と何度も叱られた。確かにスピードでは中国企業に負けるかもしれないが、われわれには『ややこしいところ』を解決するチカラはある」という――。

※本稿は、樋口泰行『パナソニック覚醒』(日経BP)の一部を再編集したものです。

■「遅い、決めない、どうなっているのか」

ソリューションだ、レイヤーアップだ、現場プロセスイノベーションだ、と旗印を掲げることは大事ですが、実際にはそれだけでビジネスが動き始めるわけではありません。

大事なことは、徹底的に何ができるかというアイデアを出し合うことであり、ディスカッションすることであり、実践例を作っていくことでした。

そして実践しながら、改めて自分たちの向かう方向を確認できた、というのも事実です。

例えば、印象深いものとしては、2018年の中国の火鍋レストランのチェーン「海底撈(ハイディラオ)」との協業があります。中国で急激に成長していたチェーンでしたが、CEOと知り合う機会があったのでした。

中国企業とのビジネスはとても難しいですが、CEOからは「松下幸之助を尊敬している」「パナソニックと仕事をするのが夢だった」と語られていたので、これがうまくいかなければ中国では何もできない、という思いで取り組みました。

しかし、驚いたのはそのスピードの速さです。まだカルチャー&マインド改革の途上だった私たちは、とてもついていけなかった。

「遅い、決めない、どうなっているのか」と何度も叱られました。

ただ、私たちもだんだんスピードが上がっていって、後には「速くなった。自分たちよりも速くなったかもしれない」と言ってもらいました。

■「自分たちの強み」を発見

いろいろなものを提案しました。店舗のディスプレイ、空調、プロジェクションマッピング……。

しかし、「すべて中国製でできる」と言います。しかも、品質はいいのかもしれないが高い、と。

そして最後に残ったのが、火鍋に入れるおかずを注文通りに自動的にトレイに乗せていく装置でした。

複雑な作業をこなす技術でした。おかずの乗った皿をロボットアームでつかんで移動させるのですが、フタがバーンと開いておかずが飛び出してしまったりするのです。

しかも、ややこしい現場の状況においても間違いなくおかずの乗った皿をピッキングできなければいけない。そんなソリューションが求められていました。

これだけは、中国メーカーにはできなかったそうでした。何度やってもうまくいかなかったと言います。

しかし、これをプロセスオートメーション事業部が軸になって、完成させたのです。中国メーカーにもできなかったことをやり遂げたのです。

これには喜んでもらえたと同時に、改めて自分たちの強みを実感しました。

ホットペッパーの多くが付いたおいしいスパイシーな鍋
写真=iStock.com/VivianG
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/VivianG

■ややこしいところを見つける

単にモノを売るのではなく、複雑な現場のビジネスの課題を解決するソリューションを提供する。中国企業にもできない高い技術力を使って、ややこしいプロセスで現場が困っているところを担うということです。

そうすれば、メンテナンスのビジネスも生まれるし、他社も入ってこられない。

火鍋レストランに限らず、例えば病院や介護施設のように、患者によって配膳を間違ってはいけない場面で役立つかもしれない。

現場プロセスこそ最も立地がいいビジネスと、確信できたプロジェクトでもありました。

一方で、オーディオビジュアルやセキュリティカメラなどはデジタルでチップ化でき、組み立てたら終わり、といった状況になっていたことを改めて痛感しました。また、クラウドベースのスケーラビリティーの高いソフトウェアは、GAFAのようなIT企業がすべてカバーしています。

やはり、ややこしいところを見つけていくしかない、と思いました。

■「事業部制」が足かせになっている

長く外資系企業で過ごしていて、日本の経営に感じていたことがあります。

それは、日本企業はマーケティングとIT、人事の近代化が遅れているということです。

経理や法務もそうであるケースもありますが、いわゆる各領域を横断できる水平ファンクションの生産性が高まっていないのです。

背景にあるのは、いわゆる事業部制的な組織だと感じています。

パナソニックセンター風景豊洲
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

事業部制にはもちろん利点もたくさんあったと思います。だから、パナソニックでも歴史的に活用されてきた。

炊飯器や洗濯機を製造するときには、製品ごとに自己完結していたほうが効率のいい面もありました。そして全体として、ブランド広告などで企業イメージアップを図っていく。

これは事業部制のポジティブ面でもありますが、「自分たちの思い通りにやる」というスピリッツがどうしても強くなります。そうなると、なかなか横の連携ができなくなっていく。ほかの事業部とつながらなくなっていくのです。

これが行き過ぎると、事業部のリーダーに「自分のお城」のような感覚が生まれかねません。

事業部に属する人間はすべて自分のほうを向いて仕事をせよ、などという空気まで広がりかねない。業者の選定まですべてリーダー自身がやる、なんてことにもなっていく。

これでは、組織として、とても不健全です。

そしてリーダーが自分の事業部のことしか見なくなるとどうなるのかというと、部門横断的であるべき部署もバラバラになっていくのです。マーケティング、IT、人事が特にそうです。これでは、会社全体として仕事がスケールアップしませんし、効率も上がらない。経営の近代化も進みません。

■経営の遅れは「経営者自身の問題」

実際、マーケティングはかなり遅れているという印象がありました。

当社でも、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)も不在でしたし、IT予算は限られていて生産性を落としていました。

樋口泰行『パナソニック覚醒』(日経BP)
樋口泰行『パナソニック覚醒』(日経BP)

当カンパニーの中にはいくつもの事業がありましたが、あまりにも「自分のお城」意識が強いリーダーは、これからは適さないというメッセージを発信していきました。

同時に、このままではいけないと感じ、部門を横断する機能のマネジメントに関しては、スキルを持つ外部人材を採用することにしました。社内にはスキルセットを持つ人材がいなかったからです。

そして、しっかりとガバナンスしていくという選択をしました。

実際、マーケティングもITも外資の経験者が、適切なガバナンスを効かせる体制にしました。そして、私がしっかり支えました。そうしないと、現場は言うことを聞きませんから。

場合によっては、各部門のマーケティング、IT部門からの直接レポートをまずはトップがすべて集約する。そこまでやってもいいと思っています。

経営の近代化が遅れているのは、経営者自体の部門横断的な機能へのマインドシェアが低かったから、ということでもあります。マーケティングやIT、人事に関して、もっとガバナンスを効かせなければいけないというマインドを強く持っておく必要があるのです。

業績に直結するのはセールスや開発だと考えてしまいがちですが、実は部門横断的な機能も経営と表裏一体である、という考え方が外資系企業では主流なのです。

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樋口 泰行(ひぐち・やすゆき)
パナソニックコネクトCEO
1957年兵庫県生まれ。80年大阪大学工学部卒業後、松下電器産業(現パナソニック)入社。91年ハーバード大学経営大学院(MBA)修了。92年ボストンコンサルティンググループ入社。94年アップルコンピュータ入社。97年コンパックコンピュータ入社。2002年日本ヒューレット・パッカードとの合併に伴い、日本ヒューレット・パッカード執行役員に。03年同社社長就任。05年ダイエー社長、07年マイクロソフトに入社し、08年マイクロソフト日本法人COO就任。11年2月日本マイクロソフトに社名変更、15年執行役員会長就任。17年4月パナソニックに入社し専務役員就任。その後コネクティッドソリューションズ社社長就任。同年6月代表取締役専務執行役員就任。22年4月より現職。著書に『パナソニック覚醒』(日経BP)、『僕が「プロ経営者」になれた理由』(日経新聞出版)、『変人力』(ダイヤモンド社)など。

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(パナソニックコネクトCEO 樋口 泰行)

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