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一発入試で決まる日本ほど夢のある社会はない…年収300万円台世帯から東大に進んだ私が言いたいこと

プレジデントオンライン / 2022年9月11日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/S-tomi

日本の大学入試は1回きりの筆記試験で合否判定される。この仕組みは理想的なのか。現役東大生ライターの布施川天馬さんは「筆記試験はどんな人にも公平だ。最近は経験などを評価できる推薦やAO入試を重視するべきという声も聞かれるが、そうなれば経験をカネで買える富裕層ほど有利になるだけだ」という――。

■話題になった「学歴重視から経験重視へ」のテレビ番組

みなさんは、大学受験にどのようなイメージを持っているでしょうか。僕は経験がないのですが、頭に「合格」と書かれたハチマキを締めて、朝も夜も血眼になって一心不乱に勉強し続ける……なんて想像をする方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれませんね。それは行きすぎだとしても、「大学受験=勉強」というイメージがある方は少なくないのではないかと推察します。

先日、テレビ朝日の特別番組「選挙ステーション2021」内での討論を巡って「学歴社会から経験重視の社会へ」と唱えた起業家の方がネット上で炎上していました。彼女は「偏差値の高い良い大学に入学できた人だけが高収入が保証された良い企業に入社できる」と日本の学歴重視社会を批判し、その解決策として、個々人の経験を重視する社会に変えるべきだと訴えていました。

この討論のテーマは「格差をなくすためにはどうすべきか」というもの。同番組に出演されていたイェール大学助教授の成田悠輔氏が「むしろそれは一番格差が広がる」と突っ込んでいたのが印象的でした。

なぜ「経験重視」だとむしろ格差が広がってしまいうるのか。これは行き過ぎた経験重視が問題になっているアメリカで教鞭をとっている成田氏だからこそできた発言なのだと思います。先ほど僕が述べたように、日本で「大学受験」といえば、「勉強」や「ペーパーテスト」というイメージが強いと思いますが、アメリカではむしろ経験を重視とした面接などによる入学テストを行っているのです。

■良い経験を得られるかどうかは親の財力に依存する

僕は学力をメインに測る現行のペーパーテストか、経験を重視するテストかを選択できるのなら、前者を選びます。もちろん、学力だけがあればいいという話ではありません。勉強ができるからと言って、あらゆる能力が高いというわけではないからです。

アルバイト先で「東大生なのにそんなこともできないの?」と言われてしまった、なんて話もよく聞きます。僕自身も一度言われたことがありますし、東大生だからといって、別にいきなり仕事がバリバリできるわけではありません。ペーパーテストが必ずしも優秀な人間を選抜できるとは限りません。

しかし、いまのアメリカのような「経験重視」よりはよっぽど社会にとってマシな結果を得ることができるだろうと考えます。それは、学力や偏差値はある程度個人の力でカバーすることができますが、入学試験にプラスになるような経験はほぼ完全に親の財力に依存してしまうからです。

■親ガチャで当たりを引いた人は経験を金で買える

「勉強だってお金をかけた方が有利」という声もあるでしょうが、経験に関しては、財力のアドバンテージが勉学のそれを大きく上回っています。つまり、簡単に言えば「学力はお金で買えないが、経験はお金で買える」のです。そして、そうした経験を基に選抜をしてしまうと、難関大学には裕福な家庭出身の子弟しか行けなくなってしまうのです。

ここで「経験重視」がいけないかのように語られていることに疑問を感じた方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれません。そもそも学力と実務能力は全く関係がありませんが、「実際に物事を経験してきた」という体験、そこでの活躍の大きさなどからは、実際にその人がどのような能力を持っているか、大いに察することができます。

となると、大学側、ひいては社会全体としては、「経験重視入試」の方が、より優秀で多様な人材を確保できるように思えるかもしれません。しかし、これが社会全体のためになるというのは大きな間違いなのです。それは、稀有な経験を積むことができるのは、それなりに恵まれた環境に生まれた人間のみ、過激な言葉を使えば「親ガチャ」に当たった人だけだからです。

教室で先生と話す女子生徒
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■東大の推薦入試合格者が面接でプレゼンした「経験」の中身

僕は世帯年収300万円台の家庭に育ち、1年間の浪人生活を経てペーパーテストに合格し、何とか東大に入学することができました。実は、数年前から東大にも推薦入試が導入されています。僕にも、推薦試験で合格してきた友人が何人もおり、ある時、興味本位から彼らに「どんな面接だったのか」と聞いてみたことがありました。

すると、僕にも想像もつかないような答えが返ってきました。生物系の学部へ進学していったある友人は、「ただ教授とおしゃべりしていたら受かった」なんて言っていましたが、話を聞いてみると、幼いころから生き物への興味を持っており、様々な動植物を、時には輸入しながら飼育しているのだと言っていました。

また、別の友人に聞いたところ、海外の貧困地域や紛争地域に深く関心を持っており、様々な文献やレポートを漁ってみたり、時には実際に現地に査察に行ったりして、かかわりを深めていったのだそうです。そうして得られたデータで論文とプレゼン資料を完成させて臨んだ面接で、なんとか合格できたと語っていました。

■アメリカでは富裕層に有利なペーパーテストが廃止に

僕は彼らのことをまったく嫌ったり僻んだりしているわけではありませんし、むしろその優秀さには本当に感服しています。とはいえ、まさか大学に入るまでにそんな経験を積んでいるとは思いませんでした。東京に生まれてから20年あまり、東大に行くまでは渋谷・新宿にすらロクに訪れたことの無かった僕にはあまりにも信じられない話が出てきたので、この時は心の底からビックリしてしまったことを覚えています。

もちろん、すべての推薦生がこのような仰天体験をしているわけではないでしょう。とはいえ、推薦入試の場合には、ペーパーテストでなく面接や書類審査による選抜が行われる分、どれだけ魅力的に映る経験値を積むことができているかが重要になる部分も大いにあるのではないでしょうか。

実際、アメリカの入試では、ペーパーテストよりも個人の課外活動実績などが非常に重視されています。特にカリフォルニア州などは、高等裁判所から「ペーパーテストは貧困層などの弱者にとって不利になっている」という理由で、ペーパーテスト禁止令が出されています。基本的に「一発勝負」である日本の大学入学共通テストと違い、アメリカのテスト(有料)は何回も受け直すことができ、「お金持ちほど繰り返し受験できるから」という理由のようです。

ですが、個人の実績勝負なんて話になったら、貧乏人に勝ち目なんてありません。国内の狭い一地域に閉じ込められていて、物理的にも精神的にも拘束が多い状況下にある子どもと、国内外問わず自由に移動して見聞を深められ、少なくとも金銭的に自由な子ども、どちらの経験が豊富になりうるかと言えば、やはり後者でしょう。

前者の学生の経験と、後者の学生の経験とは全く質が違うものですから、そもそも同じ軸で評価すること自体がおかしいことではあります。ただ、後者の方が、箔(はく)をつけやすい環境にあるという点で、有利になりやすいのです。

■日本の入試も学力重視から経験重視へ変わりつつある

そして、冒頭で述べた「日本はペーパーテスト重視」という常識も、もはや過去のものになりつつあります。ここ20年程度のなかで、私大を中心として、推薦入試やAO入試による入学者数の割合が激増しているのです。

文部科学省が公開しているデータによれば、2000年からの20年間で、AO入試、推薦入試による合格者数が1.5倍近くにまでも増加していることが分かります。これは国公立大学と私立大学を混ぜたデータであり、私立大学に限れば、2019年時点で半数以上の約55%がAO推薦入試を経ての合格者となっています。

私立大学を除いたとしても、国公立大学も含んだすべての大学において、AOや推薦入試による合格者数が、割合としても実数としても増えていることが分かります。僕にはこれが、日本の入試もどんどん経験重視になっているように思えて仕方がないのです。

■経験重視型の社会は社会的弱者を排除してしまう

短期的には、経験重視型の入試の方が、合格者の多様性確保などの面で様々な効用があるかもしれません。しかしながら、経験重視型の入試を下手に導入してしまうことは、社会的な弱者を排除してしまう結果になります。これは貧困層に限りません。

例えば、お金があったとしても持病の関係であまり活動ができなかったり、時には介助者が必須となる方もいらっしゃるでしょう。実際に、僕が東大に通っていた時にも、移動式のベッドに乗ったまま介助者の方と登校されて授業を熱心に受けていらっしゃる学生の方がいました。

推薦入試といえば「多角的な視点から多様な人材を」というような、魅力的で進歩的で甘美な響きを想像してしまいがちですが、むしろこれは人材の幅を減らすものであると考えるべきだと思います。もしもこの入試制度を日本でも大きく導入していきたいのであれば、やはりその枠の大きさを調節したり、審査基準をある程度公開するなどして透明性を担保したりする必要があるでしょう。

■ペーパーテストは積んだ努力の分だけ結果が返ってくる

入学試験の日に向かって、学生たちはみな一様に努力をし、研鑽を積みます。その結果が、何が悪かったのか、なぜ落ちたのかなども分からないままに経験重視の試験ではバッサリと否定されてしまう。これは、理不尽すぎる失敗体験を積ませてしまうという点で、教育上よろしくないことのように思えます。

布施川天馬『東大式節約勉強法』(扶桑社新書)
布施川天馬『東大式節約勉強法』(扶桑社新書)

確かに、ペーパーテストでも採点ミスや出題のミス、採点基準などで理不尽な落第を食らってしまうこともあるでしょう。しかし、大学によっては採点後の点数や順位を一般受験者にも公開するなど、少なくとも公平性の担保という面においては、AO推薦入試よりも高く保証されていると思って間違いありません。

僕自身、受験生のときはそうでしたが、学生たちはやはり決死の思いで受験戦争に挑んでいくものです。努力は時に裏切られることもありますが、それでもなるべく出自や生まれ持った環境には関係なく、あくまで公平に、積んだ努力の分だけ結果が返ってくるような仕組みが理想と言えるのではないでしょうか。推薦入試の枠がどんどん増えている現状をみていると、むしろ、一般入試によるテスト選抜が少なくとも半数以上を占めるようにならなければ、と考えてしまいます。

激化する大学受験戦争ですが、少なくともお金のような子どもにとってどうしようもないリタイア要因が増えることだけは、なんとしても避けてほしいものです。

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布施川 天馬(ふせがわ・てんま)
現役東大生ライター
世帯年収300万円台の家庭に生まれ、金銭的余裕がない中で東京大学文科三類に合格した経験を書いた『東大式節約勉強法 世帯年収300万円台で東大に合格できた理由』の著者。他にも『人生を切りひらく 最高の自宅勉強法』(主婦と生活社)、『東大大全』(幻冬舎)、『東大×マンガ』(内外出版社)、『東大式時間術』(扶桑社)などがある。

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(現役東大生ライター 布施川 天馬)

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