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別荘と高級外車を「お前にやる」と言われたが…父親からの「財産相続」に息子が頭を悩ませるワケ

プレジデントオンライン / 2022年9月9日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CHENG FENG CHIANG

あなたは親がどんな資産を持っているか、把握しているだろうか。FP相談サービス執行役員の佐藤健太さんは「親が持つ資産の中には今すぐ手放したほうがいいものもある」という――。

■父親がこっそり持っていた別荘の維持費に驚愕

日本の相続税は遺産の額によって税率が異なる累進課税で、取得する遺産の額が大きければ大きいほど税率は高くなる。1000万円以下の税率は10%と低いものの、6億円超に課される最高税率は55%だ。いかなる資産家も「3代で普通の人になる」と言われるほど相続時の負担は大きい。

だが、死別前であっても生活が大きく狂うことがあるのはご存じだろうか。高度経済成長の恩恵を受けた親が一財産を築いたものの、老後に維持費が払えなくなり、相続前の子どもが家計を圧迫されるケースだ。「うちは普通の家だから大丈夫」と高をくくっている人も、思わぬ資産で痛い目を見るかもしれない。

「えっ! これは俺が払わなければいけないの?」。東京・世田谷区の二世帯住宅で父親と暮らす40代のサラリーマン男性Aさんが驚いたのは、父がこっそり持っていた「資産」だった。

デジタル広告を専門とする会社で働くAさんは年収約500万円で、専業主婦の妻と娘2人の4人暮らし。8年前に母親が他界し、父親と暮らすために千葉県から引っ越して二世帯住宅を構えた。手取りは月33万円ほどで、10万円弱の住宅ローンや娘たちの教育費などを払えば着飾る余裕もない。

Aさんは、父親が所有する別荘の維持費に驚愕した。大手商社を約15年前に退職した父は、退職金を元手に静岡県熱海市にマンションを購入していた。間取りは2LDKの約60平方メートル。高台にある部屋はバルコニーから海や市街地が見下ろせる絶好の位置にあり、「終の棲家」にしようと約2000万円を投じたという。

■管理・修繕費、水道高熱費、固定資産税、そのうえ…

父親とは別に生計を立ててきたAさんが思わぬ資産に気がついたのは、郵便ポストに入った1通の封筒がきっかけだった。「管理費等が指定口座から引き落としできませんでした」。読み進めると、月額約3万円の管理費と約1万3000円の修繕費を2カ月分滞納していることが理解できた。Aさんに秘密で購入していた父親は生活費用の銀行口座とは別の口座を指定しており、要介護認定された半年前から管理費の分を移動させることが困難になっていた。

「あのマンションは自分が『もう死ぬかもしれない』という時のために買っていた。でも、熱海に住めば今の通院先に向かうことが大変になる。もう俺は年金生活者になったから、あとは頼む」。父親から一方的にこう告げられたAさんには当初、「海が近く、夏は最高。娘たちが大学生になったら友達と行くのも良い」と喜びを見せる余裕もあった。

東京駅から東海道新幹線で約45分と近い熱海は、若者から高齢者まで人気でその物件価格は上昇している。国民の平均年収約433万円を若干上回るレベルのAさんにとって、別荘保有者になることは夢にも描いていなかったことだ。しかし、この段階では相続したわけではない。「あとは頼む」とは、Aさんが維持・管理をしていくことを意味した。

バブル時代に建築されたマンションは、サウナや温泉大浴場があるなど豪華な造りが魅力的だが、その維持費は高い。4万円を超える管理・修繕費に加え、水道など光熱水費は使用量がゼロであっても1カ月当たり9000円超、固定資産税は年間約14万円もかかる。加えて、熱海市は「別荘等所有税」を徴収している。

昭和51年に導入された独自の税で、延べ床面積1平方メートルにつき年額650円が課税される。建物の共有分も案分して課税対象になるため、課税床面積は約90平方メートルで税額は約6万円に上り、市民税や県民税も加算される。火災保険料などを含めれば、1カ月あたり7万円超の維持費が必要となる計算だ。

■相続開始3年以内の贈与は相続財産に加算される

不動産情報サイトによれば、この中古マンションは1000万円弱で販売されている。さすがに年間100万円近い維持費を払い続けることは難しいと考えたAさんは、相続後に売却するつもりであることを父親に伝えた。知人の税理士は相続税対策として不動産贈与も選択肢になるという。

ただ、Aさんの頭に浮かんだのは父親の「寿命」だった。2年前に肺ガンが見つかり、医師からはそれほど長くは生きられないとの宣告を受けていたのだ。

生前贈与は相続税の課税対象を減らすことにつながるが、相続開始前3年以内の贈与は相続財産に加算され、「相続税逃れ」も疑われかねない。平均的なサラリーマンを自認するAさんは税務署に痛くもない腹を探られるのを嫌い、結局、維持費を払い続ける道を選択した。

■車の年間維持費は50万円超…カードローンで不足を補う日々

さらに「親の資産」による打撃は続く。車好きの父親は高級外車を保有している。電車通勤のAさんは車を持っていないが、父親の通院治療のため2週間に1回の割合で送迎していた。「これも、お前にやる」という。車の維持には自動車税や自動車重量税、自賠責保険料の他にも、車検料やオイルなどの消耗品代、ガソリン代などが必要となる。走行距離や等級などで決められる任意保険料も月額約1万5000円かかり、年間維持費は50万円超に達する。

赤いビンテージポルシェ
写真=iStock.com/clu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/clu

別荘に加えて、車の維持費までカバーするのは困難だ。しかし、父親の通院時に必要のため売却することもできない。「相続すれば資産は増えると思っていた。いつまで苦しい生活が続くのか……」。困窮したAさんはやむなくカードローンで不足分を補うようになった。

世話になった親には少しでも長生きしてほしいとの気持ちに変わりない。毎朝、顔を合わせればホッとしたような笑みを浮かべる父を見れば涙も込み上げる。しかし、住宅ローンに加えて別荘や車の維持費が重なり、家計は「火の車」状態だ。

父親が持つ土地などを含め相続時には1000万円近くを納税しなければならないことは税理士からも伝えられている。ただ、父親に残された現預金は少なく、それまでの維持費も考えれば相続税は分納せざるを得ないという。妻には予想される相続税額を伝えることもできないままだ。

■別荘や車の維持費を購入した本人が払えなくなったら、すぐに売却を

総務省によれば、富裕層のステータスといわれる別荘は、約5800万世帯のうち0.5%程度が保有している。不動産の相続は現預金と異なり、分割することが面倒な上、現金化できるまで時間を要することも多い。Aさんの父親のように思いを込めた物件だったり、自分が死んだ後の財産をどのようにするのか話し合うこと自体を嫌ったりするケースも少なくない。

しかし、相続を「争続」としないためには、親が元気のうちに計画的な話し合いをすることが欠かせない。Aさんは持ち続けるという選択をしたが、別荘や車の維持費を購入した本人が払えなくなったのであれば、すぐに売却した方が良いだろう。

世田谷区などの自治体では「要介護3」以上の人に福祉タクシー券を支給し、予約料(迎車料)を免除。公共交通機関を利用することが難しい高齢者や、病気のため電車やバスで通院することが困難な人は、タクシー代が医療費控除の対象になる。親の病院への送迎も距離や頻度によっては、カーシェアリングやタクシーに切り替えた方が年間にかかる費用は抑えられる。それが円満な家族を維持するための方法であり、親の最後の役割と言える。

あなたは、思いがけない親の資産を見つけた場合、どうしますか?

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佐藤 健太(さとう・けんた)
FP相談サービス執行役員・心理カウンセラー
ライフプランのFP相談サービス「マネーセージ」執行役員(CMO)。心理カウンセラー、教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。コラムニストとしても活躍。

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(FP相談サービス執行役員・心理カウンセラー 佐藤 健太)

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