精神科医が証言、科学的に正しい「モチベーション」をアップさせる方法
プレジデントオンライン / 2022年9月9日 10時15分
やる気が出ないとき、私たちは「自分の意思が弱いから」「私はなまけ者のダメ人間だ」と自責の念に駆られがちです。でも悪いのは、本当にあなたの性根が根性ナシだからではありません。「やる気=モチベーション」が失われてしまうのは、人体機能のメカニズムに理由があります。
■「報酬系」がやる気をコントロールしている
私たちの脳には「報酬系」と呼ばれる神経回路があります。この回路は自分の欲求が満たされたときに活性化して、ドーパミンなどの神経伝達物質を放出し、幸福感や心地よいという感覚を引き起こします。
「やる気が起きる」というのは脳内でこの報酬系のメカニズムが働くためと考えられています。
自分が何かしたことでよい結果が得られると、うれしかったり、ワクワクしたりして、「また次もやるぞ」というモチベーションが高まりますね。これは、うれしいことがあるとドーパミンが出て、その結果ドーパミンの放出を再び求めて、脳が同じことをやりたくなるのです。
ドーパミン放出のきっかけとなるのは、脳にとっての「ご褒美」です。
ご褒美にはさまざまな種類があります。成果やお金、スキルアップが得られることもそうですし、褒められたり、人が喜んでくれることもご褒美になります。単純に「それをやっていると楽しい」とか「気持ちいい」といったポジティブな感情も大事なご褒美です。「これをすると、こんなご褒美がある」と頭でわかっていることで、やる気が生まれます。
逆にこの報酬系が機能していないと「何をしても報酬が得られない」ことになり、やる気もなくなってしまいます。ご褒美が得られない状態が続いていると、どんどんモチベーションは目減りしていくのです。「資料を作ったところで特に褒められない」「ジムに行っても全然痩せない」「資格試験まで先が長い」といった、ご褒美がおあずけであるどころか、あるかどうかもわからない状況に、脳の「報酬系」への刺激がなくなり、モチベーションが損なわれているのです。
報酬系のシステムを上手に活用するには、つねにワクワク感を得られるようにこまめにご褒美を与えることです。
健康のために運動を始めるのであれば、それを「義務」と捉えるのではなく、運動によって爽快感を得たり、体調が整うことで気分がすっきりしたり、仕事のストレスを忘れ気分転換ができたりといった、自分への「ご褒美」を考えながら取り組んでみましょう。
私の場合でいうと、YouTubeでチャンネルを開設しているのですが、そこでは登録者数が少しずつ増えていくのを見ることが楽しみで、それが「続けよう」というモチベーションになっています。また「いずれ収益化を狙ってみようか」といった、新たな目標を立てることによってもワクワク感があり、ご褒美を得ています。
■報酬100万円でも疲れてたらやる気は出ない
やる気が起きない原因としては、「ご褒美がない」ことのほかに、単純に「疲れている」ことが考えられます。
![モチベーションを下げる2大要因](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/1/1200wm/img_712f3ad6c7dc667e2fe90e95c86b0e2f790889.jpg)
疲れには、強度の高い運動を続けたとか、長時間立ち続けたといった肉体的な疲労と、睡眠が足りていないとか長時間集中し続けたといった脳の疲労があります。どちらの場合も結果的に報酬系が機能しなくなり、何かしようと思っても頭や体が動いてくれません。
体調不良はもちろん、ご飯を食べていなくてお腹がすいているといったときも同様です。疲れていたら、目の前に「ご褒美」が用意されていたとしてもやる気が起きないのです。
ほかにも「最近失恋して、そのせいでやる気がまったく起きない」というケース、身に覚えのある人もいるのではないでしょうか。
感情が原因でやる気が出なくなった場合は、「心が疲れている」というべきでしょう。誰しも憂鬱なときは、何もやりたくないものです。
私の場合も、仕事で意にそまない対応をしないといけなかったり、スタッフに大変な作業をお願いしなければいけなかったりしたときなど、精神的に疲れてしまって、その後やる気がなくなってしまうことがあります。
仕事で大きなトラブルがあったり、みんなの前で叱られたというようなときも、がっくりして心が疲れているものです。それが理由で気が乗らないとすればむしろ当然で、そうした場合は無理をせず先延ばしにすると、いずれまたモチベーションは復活してきます。
■とりあえず行動するとやる気はついてくる
やる気が起きないとき、何をすればいいのでしょうか。
精神医学では「感情は直接コントロールすることが難しい」と考えます。気持ちはくるくる変わりますし、気分も変わりますが、それを直接変えようと思って頭で努力しても、なかなか思いどおりにはなりません。
そこで治療では感情をコントロールしようとするより、「環境や行動をコントロールすること」を考えます。
環境や体調、行動は感情に影響を与えます。暗い部屋に閉じこもっていると、誰でも嫌な気分になってきますよね。そこでカーテンを開いて外の明かりを入れると、気分も明るくなってきます。さらに外に散歩に出ると、環境と肉体的状況が両方変化するので、気分転換しやすくなります。
感情そのものではなく、それを形づくっている体調や環境から対策を取ることで、心を整えるわけです。
たとえば職場の人間関係がうまくいっていないなどの原因で、心にモヤモヤがあって、やる気が起きないという場合があります。
気がかりがあってやる気が出ない場合、気分転換が有効です。このときも環境あるいは行動で気持ちを切り替えていきます。
私であれば、何か嫌なことがあると「サウナに行こう」と考えます。そればかり考えていると少し元気になります。みなさんも「嫌なことがあったら、これをやって忘れる」という、独自の行動を何か見つけてみてください。
仕事で大きな失敗をしたとき、多くの人はがっくりして一時的にやる気を失ってしまいますが、中には少しもめげずに、すぐに「がんばるぞ!」と復活する人もいます。
そういう人を「精神的にタフ」と言ったりしますが、実際には気持ちの切り替えが上手なのです。過去に起きたことにとらわれず、これからやることに気持ちを切り替えられれば、悪いことがあってもその影響を長く引きずることはありません。
日常でも「今日はもうあきらめよう。その代わり、明日からがんばろう」というふうに、前向きに気持ちを切り替えていくことが大事です。
スケジュールに余裕があるのならその日はもう仕事をやめてしまう。職場でやる気が出なかったら、「家に帰ってからやろう」と考える。家に戻ると環境が変わるので、気持ちも切り替えやすくなります。どうしても早くやらなければいけない場合は、シャワーを浴びたり、食事をしたりといった行動でリフレッシュします。
■人間はやる気がなくて当たり前である
あるときまでは一生懸命に取り組んでいたのに、ある時点を境に急にやる気を失ってしまうことがあります。
![ケース別チェックリスト](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/e/1200wm/img_aee4a94103d39b49f3e07b93864850851812021.jpg)
それが趣味であれば「飽きた」というだけですが、仕事についての働きぶりが変わってしまったとなると問題で、中には人生全般について、ある時点まであった猛烈に前向きな気持ちが失われ、何事にも投げやりになってしまうという人もいます。
「燃え尽き症候群」と呼んだりしますが、これは正式な医学用語ではありません。精神医学的に言えば、単純にやる気がなくなったということ。これも原因は同じで疲れてしまったのか、報酬系への刺激がなくなってしまったのか、どちらかです。
突然自分のやる気がなくなると異常事態かと思うかもしれませんが、そこまで心配する必要はありません。そもそも人間は、あまりやる気がないほうが普通なのです。
もちろんやる気がないといっても程度の問題で、「話しかけても返事もない」というのでは1度診察を受けるべきですが、基本的にやる気を持たないことは、むしろ人間として通常運転であるということです。
ガンガンにやる気があるというのは、人間の本来の状態から見るとテンションが上がりすぎで、精神科医としてはそういう人のほうが「ちょっと心配だな」と感じます。それはその人が「躁状態」にあると思われるからです。人間の心のエネルギーは容量が決まっているので、がんばりすぎると反動で落ち込んでしまうのです。
そうはいっても、日常生活においては、やる気を出さなければいけない場面も多いでしょう。どんな「ご褒美」が「やる気スイッチ」を押してくれるか、自分のなかで探してみてください。
■モチベ減退 CASE1
やらなきゃいけないのはわかっているけれども……直前にならないと火が付かない
締め切り直前にならないとやる気が出ない……実はそれは当然なのです。というのも人間の脳は「現状維持を好む」という性質を持っていて、何かを始めることは何もしないでいるより心理的ハードルが高く、つい「面倒だな」と感じがちなのです。
とりわけ「やっても何もいいことがない」と感じている場合は報酬系が弱いので、やる気が出ません。
会社から「この資格を取れ」と言われても、「取ったって別に給料は上がらないし、ただ忙しくなるだけだよな」と思えば、やる気は出ませんよね。
こうした場合、1つの方法として、「自分自身でご褒美を設定する」という手があります。資格試験の勉強であれば、「無事に試験に合格したら旅行に行こう」と決めて、それを楽しみに勉強する。「それをやるといいことが起こる」と感じられる決め事を自分でつくるのです。要は「どうしたら報酬系が機能するか」を考えるわけです。
やらなければいけないのにやれない場合、1つの要因として、「手ごろな目標がない」という可能性があります。
人は「これは難しそうだ」とハードルを高く感じると、「面倒だ、やりたくない」という気持ちになります。
物事には短期的な目標、中期的な目標、長期的な目標がありますが、長期的な目標とは最終目標であり、それだけ見ていると「ここまでやらなきゃいけないのか……面倒くさい」と、つい思ってしまいがちです。
そこで、たとえば「1カ月後までに50枚のリポートを書け」と言われたら、「1日あたり2枚書けばいいんだ」と小分けして考える。そうすると「1日800字書くだけなら、それほど大変じゃないな」と気が楽になってきます。長期的な目標を短期的な目標にブレイクダウンすれば、手をつけやすくなる。達成した後のご褒美があればなおよしです。
もう1つ。みなさんには「面倒だと思って敬遠してきたけど、ちょっとやってみたら、なんだかやる気になってきた」という経験はありませんか?
実は人間の脳には、「何もしないと興奮しない」という性質があって、何もやっていない状態からやる気を出すのは難しいのです。そこで体を少し動かしてやると、皮膚や眼球から脳に刺激が入ってきます。
すると脳の側坐核という部分が反応し、神経伝達物質の1つアセチルコリンの分泌が促されます。アセチルコリンには人に積極的な行動を起こさせたり、集中力を高める作用があり、結果として「動き始めただけ」で、やる気が湧いてくるのです。これを「作業興奮」と呼びます。例えて言えば、車のアイドリングのようなものです。
ありがちな「やる気が出てからやる」という発想は、実は順番が間違っています。物事は始めることによってハードルが下がるので、なかなかやる気が出ないときこそ、「とりあえず5分だけ」と、机に向かってみましょう。
1度行動を始めてしまえば、その現状を維持することは変えることより楽なので、「止まろう」という気持ちよりも「前に進もう」という気持ちが勝ってきます。「とりあえず、ここまで終わらせようか」といった目標も出てきて、それもやる気につながります。
そして気がつくと、「参考書の見開き2ページを読み終えた」とか「問題が1問解けた」といった、小さな成果が出てきます。すると脳は達成感を感じてドーパミンを放出、それがさらなるやる気につながっていくという、いい精神的サイクルが生まれるのです。
【対策】短いスパンで目標を設定し達成感を頻繁に味わう
■モチベ減退 CASE2
体や手を動かす気にまったくなれない……手をつけても長続きしない
「普段はもっと長く集中できるのに、今日はどうも集中できない」という場合は、単純に疲れている可能性が高い。つまり報酬系への刺激不足が要因ではなく「疲れ」の問題です。
疲労への対策は休憩すること。疲れているのに無理やり続けても能率は上がりません。「やる気がなくなったら、とりあえず1度やめる。そして休んだ後にまたやる」ことをお勧めします。
■「今日はだめだな」と感じた日は無理をしない
人間の体調は一定ではありません。「今日はダメだな」と感じるときもあれば、「調子がいいな」ということもあります。大事なのはそうした「自分の心の声」をしっかり聞き、逆らわないことです。朝起きたとき、「今日はだめだな」と感じた日は無理をしない。「今日は元気だ」という日は、少し多めに仕事をこなしてもいいでしょう。
肉体ではなく脳が疲れている場合、集中力が途切れてしまい、やる気がなくなってしまうということもあります。もともと人間の集中力はそう長い時間は続きません。集中が続くという人でも、数時間以上はまず無理。本当に集中している時間は5分あるいは10分くらいで、よくても30分程度でしょう。脳や体が疲れていると、集中できる時間は当然さらに短くなります。
ですから体調が万全でないときにモチベーションが途切れてくるのは自然なことで、「これぐらいでやる気がなくなってしまうはずはない」などと思わず、素直に休みを取ることが、結果的によい成果を挙げる秘訣です。
完全にやめるのではなく、5分間だけ休憩するとか、一時的にしばらく目をつぶるということでも効果はあります。そうしているうちに、自然とまたやる気がみなぎってくるはずです。
もし、やる気を一定時間持続させたいと思うなら、「今日はここまで」と予め終わりを決めておくことも有効です。「ここまで終えたら、あとは休憩していい」とゴールが見え、モチベーションを保ちやすくなります。
「今日は勉強しようと決めたのに、10分だけやったら、残りの時間はついネットサーフィンをしてしまった……」と後悔した経験は誰にでもあるのではないでしょうか?
たまにであれば仕方ありませんが、もしそれがいつものことになっているようなら、「この時間は絶対に資料作りしかしない」という自分ルールをつくり集中力をキープさせるのも1つの手です。
また、人によって集中しやすい時間帯があるので、頭を使う難しい仕事はそうした時間帯を当てるようスケジュールを組むと仕事のはかどり方が変わり、やる気も保ちやすくなります。
たとえば私の場合、本の原稿を書くのは朝一番と決めています。朝の早いうちだと脳が元気で、発想力も豊かであるからです。最近も、午後だったら4~5時間かかってしまうような執筆作業が、朝では1時間で完了してしまいました。実感値ですが、朝に作業したもののほうが出来がいいことが多い。午後書いた原稿は時間がかかったにもかかわらず、全部ボツにしたりします。このようなことを繰り返していたら、やる気は失われていきますよね。
集中しやすい時間帯と集中しにくい時間帯とでは、仕事の質や効率が大きく違うので、「難しい仕事は集中しやすい時間帯を選ぶ」と達成感を得やすく、モチベーションもキープして作業を続けることができます。
そもそも人間は、自分にとって楽しいことでないと、なかなか続けられません。報酬系への刺激が感じられないのであれば、思い切ってやめてみるというのも1つの選択肢です。
【対策】仕事を横に置いて休憩をとるか集中しやすい時間帯を選ぶ
■モチベ減退 CASE3
突然やる気の糸が切れました……がんばりすぎて電池が切れた
一生懸命取り組んでいたということは、始めたときにはモチベーションも体力もあったわけです。それが途中でやる気を失ってしまう理由としては、報酬系の刺激不足と肉体の疲労、両方が考えられます。
報酬系の問題としてはまず、「実際やってみたら、最初に思っていたとおりにならなかった」というケースがあります。たとえば「この仕事をやればみんなに貢献でき、褒めてもらえるだろう」と思ってやったのに、逆にクレーマーがいてケチをつけられたりしたら、やる気をなくしてしまいますよね。
同じ経験が繰り返されることによって刺激が薄れ、報酬が「目減り」してしまうこともあります。
欲しい服があって、それを手に入れるために調べまくり、あちこち回って何とか手に入れたとしましょう。その服を実際に手に入れたときはとてもうれしいと思います。しかし、いったん欲しい服を手に入れてしまうと、次に別な服を手に入れようと探しても、最初のときほどモチベーションが上がらないことが多いのではないでしょうか。
それは自然なことで、ご褒美は自分にとって新鮮な刺激であることが大事なのです。
ただ、どんな報酬も時間とともに目減りするのかというと、これについてはケース・バイ・ケース。次第に刺激が薄れていく場合もあれば、変わらずに続く場合もあります。
たとえば仕事量に比例してお金がもらえると、ある程度まではやる気が増します。しかしもらえる金額が増えていき、「これ以上もらっても同じかな」となってしまうと、金額はご褒美として機能しなくなってしまいます。
一方、中には研究者など、同じことを続けていても、モチベーションがいつまでも落ちない人がいます。
そういう人の多くは「それをすることが楽しい」と感じています。行為それ自体が報酬になっていると、同じことを続けても飽きません。それは傍からは同じ行為に見えても、内面的にはそこから常に新鮮な刺激を受けているからだと考えられます。
逆に「同じことをしているとモチベーションが続かない」という人は、気持ちのままに新しい対象を追いかけていけばいいでしょう。新しい情報に敏感で、興味の対象が常に変化している好奇心旺盛な人は、年を重ねても前向きな姿勢が変わらないものです。
■がんばりすぎると反動が来る
がんばっていたのに途中でやる気がなくなった場合、脳または体力が尽きてしまったことも考えられます。
職種によっては、繁閑の差が激しいことがあります。大事なコンペの前などには、夜中になっても「まだできる」と徹夜続きで仕事していたのに、あるとき突然やる気が起きなくなってしまう……。
これはよくあることで、人間の活動エネルギーは肉体的にも精神的にも容量が決まっていて、がんばりすぎると反動が来るのです。一言で言えば疲れが抜けていないので、1週間も休めばまたやる気が出てくるでしょう。
精神医学的には「反動で何日も放心状態になるほどがんばるのは、心の健康によくない」と考えられています。できればあまり大きな波をつくらず、毎日淡々と仕事をこなすことが望ましく、たとえ「今日は10できる」と思っても無理せず5で抑えておく、というのが健全な働き方です。
テンションを上げて、エネルギーすべてを費やすまで限界までやり尽くしてしまうというのは、むしろ効率がよくないのです。
【対策】新鮮な「ご褒美」を用意しほどほどのテンションで仕事をする
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精神科医
1978年生まれ。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医。医師免許取得後、大学病院の精神科医局に入局。現在はクリニックに常勤。近著に『精神科医Tomyが教える 心の荷物の手放し方』(ダイヤモンド社)。
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(精神科医 Tomy 構成=久保田正志)
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