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ようやく世界が日本に追いついた…欧米メディアが「日本の昆虫食」を熱心に取り上げるワケ

プレジデントオンライン / 2022年9月14日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MarsBars

■楽しみながら昆虫を食べる日本の食文化

ミンミンゼミが大合唱する夏が過ぎゆき、ヒグラシがわびしさを奏でる秋へと移ろうとしている。コオロギがオーケストラを奏でる季節も近い。

四季を盛り上げる昆虫だが、近年、期待の食材として人々の耳目を集めるようになった。海外メディアの注目度は高く、日本のユニークな「昆虫食」が繰り返し報じられている。

なんでも食糧危機の回避と環境保護に有効とのことで、畜肉への依存を解消する手段として注目されているという。いまではウクライナ情勢で小麦と原油価格が高騰し、食糧危機に拍車をかけたことで、いっそう切り札として期待が高まるようになった。

昆虫食は、特に欧米で試みが先行している印象だ。欧米ではセレブがメディアに出演し、ミミズやバッタをほおばる姿をたびたび披露している。

しかし実際のところは、環境問題や食料問題に熱心な人々を中心で、一般の人々は及び腰だ。人々が食卓に取り入れるには至っていない。正直なところ、「気持ち悪い」とのイメージが根強いのだという。

日本では、昔から郷土料理としても昆虫が活用されてきた。近年では高級レストランで取り入れられたり、飛行機の機内食として出されたりしている。イベントごととして楽しみながら昆虫を食べる日本人――。これに海外メディアは熱い視線を向けているのだ。

■コオロギ粉末の機内食「空飛ぶ昆虫食」が大ウケ

今年、「空飛ぶ昆虫食」として話題となった機内食がある。JAL傘下の格安航空会社(LCC)のジップエアは、7月から食用コオロギを使った機内食の提供を始めた。

その機内食とは「トマトチリバーガー」(1500円)と「ペスカトーレ」(1500円)の2品目。国産の食用コオロギの粉末がパンとパスタに練り込まれている。味は悪くないようだ。砕いたコオロギは風味が高く、エビの殻の風味にも似ているのだという。

C. TRIA Originals「グリラスパウダー」
食用コオロギを使用した「グリラスパウダー」(写真提供=グリラス)

もちろん、搭乗客全員がこれを食べる必要はない。LCCなので食事はオプションであり、事前に注文しない限り提供されることはない。コオロギ粉末を使わない別の機内食メニューも豊富に用意されている。

ジップエアはこれまで、機内食を事前注文制とすることで、食品ロスの軽減に努めてきた。その考えをさらに進め、飼育による環境コストが畜肉よりも低いコオロギを取り入れることにしたのだという。

コオロギ粉末を使用したバーガー
写真提供=グリラス
コオロギ粉末を使用した「トマトチリバーガー」 - 写真提供=グリラス
コオロギ粉末を使用したパスタ
写真=グリラス
コオロギ粉末を使用したパスタ - 写真=グリラス

■環境に優しく、栄養価も高いと高評価

斬新な機内食は、海外でも報じられた。非常に好意的な文脈だ。

国際航空ニュースサイトのシンプル・フライングは、「旅の楽しみとやりがいのひとつは、ふだんであれば食べないものに挑戦することです」「日本のジップエアは、遠い空港からやってきた旅人たちに、よくあるランチにちょっとした工夫を加えたものを提供すると約束しています」と報じている。

時期尚早だった可能性もあるとチクリと指摘しつつも、環境負荷の軽減に貢献しているとの評価だ。1〜2年後にこの試みがどれほど受け入れられているか興味深い、と記事は結んでいる。

海外の科学ニュースサイトであるZMEサイエンスもこの件を取り上げ、コオロギはカルシウムや亜鉛など豊富に含み、脂肪が少ないとの利点を解説している。

同記事は、牛など畜肉と比べて環境対策に優れるとも述べている。最終的に取れる肉に対して要する飼料の量を示す「飼料要求率」が低いためだ。

■かつてはアリをまぶしたコース料理が話題に

もちろん昆虫食にチャレンジする機会は、機上だけではない。2015年には、東京のホテルで高級コース料理に昆虫を取り入れた試みが話題となった。

世界一のレストランとも評されるデンマークのNoma(ノーマ)が、都内のホテルに期間限定のポップアップ店舗を出店し、アリを使った料理を提供している。

同レストランは、英『レストラン』誌が毎年選出する「世界ベストレストラン50」の上位常連だ。2014年、2021年など、これまでに5回首位に選ばれている。

そのNomaが東京の臨時店舗で、生きたエビにアリをまぶした料理を出して注目を集めた。氷が盛られた皿のうえに、まだ生きているむき身のボタンエビを1尾置き、上に7匹ほどの黒アリを散らしたものだ。

英ガーディアン紙は当時、この料理が4万円のコース料理の一皿目として提供されたと報じている。見た目のギミックが目を引くだけでなく、味のマッチングも考え抜かれており、アリのもつ蟻酸(ぎさん)がエビに風味を添えるとの解説だ。

同紙はまた、実際に料理を味わったジャパン・タイムズの記者のコメントを引用している。頬張ったあとの感覚は、「恐怖から喜びへと、嵐のあとの海原のように変わってゆく」とのことだ。異様な見た目におっかなびっくりとなるが、いざ食べてしまえば豊かな味わいを楽しめたようだ。

■ドイツメディアが驚いた日本の昆虫食ビジネス

楽しみながら昆虫を食べるための試みは、ほかにも日本各地にみられる。

東京にはスズメバチの幼虫などを提供する常設の飲食店があり、熊本では自販機で食用のタランチュラ(厳密には昆虫ではないが)が販売されている。日本では昆虫食がすでにビジネスとして成立しつつあるとして、海外メディアが注目している。

ドイツ国営の国際放送局であるドイチェ・ヴェレは今年1月、「なぜ日本では虫が一大ビジネスになってきているのか?」と題する記事を掲載した。

記事は例として、日本の食材専門店では、クモやコオロギ、セミなど、あらゆる昆虫を使った食材がそろうとしている。また、昆虫食の通販企業であるTAKEOは昨年10月、浅草に実店舗の軽食レストラン兼販売所の「TAKE-NOKO」をオープンした。タガメ1匹がそのままの姿で入ったサイダーや、コオロギ入りのアイスもなかなどを提供している。

ドイチェ・ヴェレによるとTAKEO社は、「通常より冒険好き」な人々が好んで来店していると説明している。食料問題解決のために昆虫を食べた方がよいという義務感よりも、めずらしい体験をしたいと心を躍らせて来店する人々が多いようだ。

■昔から食文化の一部だった

このように日本では、昆虫食をより気軽に楽しむための土壌が整っている。社会への浸透度は、環境問題を声高に叫ぶ欧米以上ともいえそうだ。

その背景として、昆虫への抵抗感の低さが挙げられるだろう。日本では遅くとも江戸時代から庶民に浸透していたほか、戦中・戦後の食糧難の時代にイナゴを佃煮にして貴重なタンパク源とするなど、虫を食卓に取り入れてきた経緯がある。今もなお、郷土料理として長野などに根付く。

イナゴの佃煮を箸につまみ見つめる男性
写真=iStock.com/petesphotography
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/petesphotography

ドイチェ・ヴェレは、「日本には昆虫を消費してきた長い歴史がある。田舎の多くの町では、揚げたり砂糖をまぶしたりしたコオロギが子供のおやつとして売られている」と説明している。もちろん、実際には日本のすべての土地で昆虫を食べているわけではないが、かなり浸透しているとのイメージがあるようだ。

現在ではその実体験をもつ人は限られるようになったが、こうした文化を私たちは少なくとも知識としては知っている。そのため、昆虫食への抵抗は比較的少ないのかもしれない。

日本以外でも、欧米よりはアジアの国々で昆虫食が比較的広く受け入れられているようだ。英BBCは、「アフリカ、南米、アジアの国々では、合計でおよそ2000種の昆虫が食用されている」と報じている。

記事はまた、「しかしヨーロッパやアメリカの多くの人々は、味も素晴らしく環境面と栄養面で利点があるにもかかわらず、昆虫を食べることに気乗りしない。食品のカーボンフットプリントを削減する機会を逃している」と指摘する。BBC記者は2021年までの2年間イギリスに住んでいたというが、「食用バッタを買うのに苦労した」と嘆いている。

■欧米ではセレブが昆虫食を発信するものの…

欧米の昆虫食事情に目を向けると、プロモーションとしての性格が強く、まだまだ一般には浸透していないのが実情だ。

英ミラー紙は、昆虫食にチャレンジするセレブが増えていると報じている。

同記事によると、オーガニックの家庭菜園にも力を入れる豪女優のニコール・キッドマンは、TVカメラの前でミミズやバッタなど虫を使った料理4種を平らげた。オスカー女優のルピタ・ニョンゴは、ロスの高級レストランで蛾を味わっている。人道支援活動にも熱心なアンジェリーナ・ジョリーは、子供と一緒に時々コオロギを食べているようだ。

映画『アイアンマン』の主演を務めたロバート・ダウニー・Jrは、プロテインシェイクにミールワームを混ぜたものを愛飲しているという。ロバートは、「われわれが乗り換えれば、大きな大きな発明になる」と述べ、昆虫食を推奨していると英ミラー誌は報じた。

米フード情報サイトのマッシュドは、アメリカのある著名シェフがカブトムシの仲間を愛食していると述べ、バターでソテーして塩を振るとエビに似た味になると紹介している。ほかにもソーセージ味のシロアリなど、一般的な食品に味が似ている昆虫は意外にあるのだという。

だが、著名俳優などがメディアを通じてハッパをかける一方、規制と抵抗感が普及を妨げている。米フォーブスは昨年やっと、EUで食用ミールワームの販売が認可されたと報じている。それまで食用用途での流通・販売は禁止されていた。

欧米社会では、まだまだ嫌悪感が根強いようだ。同誌は、「(世界では)25億人が日常生活の一部としてよく昆虫を食べているが、西洋の国の人々はこのアイデアを『不快』と感じることが多い」と指摘している。

■昆虫食が注目されるようになったワケ

昆虫食は、畜肉に頼っていた食糧の供給危機を回避し、また、生育過程でのCO2排出量を削減する手段として期待されている。

BBCが報じたデータによると、1kgの良質な動物性タンパク質を生産するためには、6kgの植物性タンパク質を家畜に与えなければならない。

このような地球規模の問題は、正直なところ実感が湧きづらい面もあるだろう。ただ、より身近な問題としては近い将来、コスト面で昆虫食を選ぶメリットが出てきそうだ。

BBCによると、畜肉の価格は2050年までに30%上昇すると考えられているという。昆虫は味がよく、栄養も豊富なことから、牛・豚・鶏肉の代用として高いポテンシャルを秘めているようだ。

パンデミックによる物流の混乱と、ウクライナ情勢による物価上昇も、昆虫食拡大の契機となる可能性がある。米フォーチュン誌は、ウクライナでの戦争の終結後も、気候変動を原因とした不安定な収穫状況が続くとみる。

同誌はその際、動物性タンパク質を安定して供給できる昆虫ファーム(昆虫繁殖工場)が、代替タンパクの安定した供給源になるだろうと予測している。

■図らずも昆虫食の先進国になった日本

日本の一部地域で根付いてきた昆虫食の文化は、当時の食料事情を受けて発展してきたものだ。必ずしも21世紀の気候変動を見据えての取り組みだったわけではないだろう。

だが現在、くしくも世界では、今後の地球環境にマッチした試みとして昆虫食に熱い視線が注がれている。偶発的な要素があったとはいえ、結果的には日本やアジアは欧米社会を差し置いて、昆虫食を先駆的に取り入れている国のひとつとなっている。

もちろん現状では全員が昆虫を食べているわけではないが、イベントごととして楽しみながら受け入れる下地があるといえそうだ。日本ではコース料理やおやつの一部、そして土地の魅力を味わう郷土料理として、昆虫食を自発的に楽しむ機会に溢(あふ)れている。

食卓
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

これは他国の昆虫食事情とは少し異なる。アフリカではバッタなどが好んで食用されているが、食料不足を補うという性格も強い。他方、アメリカやヨーロッパでは環境問題を念頭に、半ば「正しいこと、なすべきこと」としての義務感のようなニュアンスを伴っている。

もしも畜肉価格が現実に30%上昇するならば、いずれ食品に昆虫由来の成分を取り入れる時期がやってくるだろう。その際、世界のなかでも比較的楽しみながらその変化を受け入れることができるのは、意外にも日本なのかもしれない。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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