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「現実逃避からネット依存に陥る」男性より女性で深刻化する危ないスマホ脳の実態

プレジデントオンライン / 2022年9月9日 13時15分

8月下旬に発表された総務省調査によれば、コロナ禍で日本人のネット利用時間がテレビ視聴時間を逆転したことがわかった。統計データ分析家の本川裕さんは「10、20代の若年層だけではなく30、40代以降の壮年層にもネット依存が確実に広がっている。また、若い世代の女性のほうが男性より現実逃避でネットに走る割合が高い」という――。

■ネット利用時間とテレビ視聴時間がついに逆転

インターネットの利用手段がパソコンからタブレット、携帯電話、スマホへと広がっている。加えて、この2年余りは、コロナ禍による外出控えの生活変化もあって、若年層を中心にホームページ、メール、SNS、動画配信などのインターネット利用時間が大きく伸びており、だんだんと中高年に限られてきていたテレビの視聴時間をついに上回った。

今回は、こうした情報通信メディア状況の変化を示すデータを分かりやすく紹介するとともに、それが引き起こしている社会的問題の一端について解説することとする。

総務省の情報通信政策研究所は、インターネット、テレビ・ラジオ、新聞・雑誌、電話などの情報通信メディアの利用時間と利用時間帯、利用目的及び信頼度等について調査するため、2012年から「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(注)を実施している。

(注)手っ取り早く実施できる登録会員対象のインターネット調査がおおはやりであるが、この方式では対象者の多くがネット習熟者となるため、調査内容がネット利用を含む実情である場合は、バイアスがかかりすぎて、実情を把握することが難しい(例えばネット利用時間は通常よりも長くなると考えられる)。
そこで、総務省のこの調査では、13歳から69歳までの男女1500人を層化した全国125地点から無作為抽出し、訪問・調査票留置方式で毎年、調査を実施している(調査時期は年度後半)。調査票は毎15分ごとの生活行動・情報行動を記す「日記式調査票」とメディアの利用目的、信頼度等の項目を含む「アンケート調査票」からなっている。ずいぶんと手間のかかった調査を毎年実施しており、結果についてはかなり信頼の置けるものとなっている。

この調査の最新時点である2021年度の結果が、8月26日に公表された。今回、紹介するのはまだほやほやのデータであり、たぶん新聞などに登場するのはもう少し経ってからだろう。

図表1には、まず、全体として、テレビを見る時間や新聞を読む時間と比べてインターネットを見る時間がどのように変化してきているかを図示した。

国民1人当たりの平均で、2004年に1日当たりのインターネットの利用時間は2000年の9分から37分にまで増加し、初めて、新聞を読む時間の31分を上回った。その後、2019年までに、新聞は8分まで落ち込む一方で、インターネットは2時間を超えるまでに急増している。

一方、テレビの視聴時間(録画による視聴を含む)は、2000年代の前半にはほぼ3時間半ぐらいだったのが、2010年代は微減傾向をたどり3時間前後にまで減少した。

そして、ついにコロナ禍の影響で家庭でのメディア利用時間の増えた2020年には、テレビの視聴時間はそれほど伸びない中でインターネットの利用時間は大きく増加し、その結果、テレビとインターネットがほぼ同等となった。そして2021年にはテレビの視聴時間が大きく落ち込む中で、ネットが伸び続け、ついに大逆転を果たすこととなった。

まさに、時代の転換点を示す変化であると言ってよいであろう。

■若い層からはじまり中高年に達した大逆転

以上のような国民の平均時間でのネットとテレビの逆転データでは、世代ごとのダイナミックなメディア利用の状況変化が可視化されていないという弱点がある。

そこで、2012年からのテレビとネットの利用時間の動きを10代から60代までの世代ごとに示した図を図表2に掲げた。最近の2020年と21年については、試行調査として国民平均には含まれていない70代の結果も同時に示した。

【図表】若い世代から進行し、ついに中高年に達したネットの対テレビ逆転

テレビ視聴時間とインターネット利用時間の推移を世代別に見ると、インターネットの利用時間は、スマホ利用の普及・拡大に伴い、いずれの年齢層でも増加傾向にあるが、20代では一日4時間を超えており、3時間程度の30代~40代、2時間前後の50代~60代と比べて、特に顕著である。

テレビの視聴時間については、かねてより、高齢者ほど長いという特徴があったが、近年の動きとしては、高齢層では視聴時間がほぼ横ばいに近い動向を示しているのに対して、若い層では、むしろ、短くなる傾向が目立ってきている。2020~21年には、特に、この動きが加速した。

こうした動きの結果、2010年代を通して、10代、20代でいち早く、テレビの視聴時間とインターネット利用時間が逆転し、さらに最近、30代~40代でも両者が逆転している。そして、最近は、若い世代ではネット利用時間がテレビ視聴時間の3~4倍に達している。

若者のネット傾斜やテレビ離れが話題になることが多い。また、物心ついた時にはネットやSNSが当たり前となっていた世代である「Z世代」の動きが最近は関心を引くようになった。図表2はそうした世代の誕生を端的に示す基本データととらえられよう。

一方、50代以上の年齢層では、なお、既成メディアであるテレビがインターネットを上回っている。

2020~21年には年齢計には含まれない試行的調査結果として70代の値が得られるが、60代以上にテレビがネットを大きく上回っている。また、2020年にはコロナ禍の影響で在宅が増え、ほかにすることがないためか、テレビ視聴時間がかなり増えたことがうかがえる。

■若年層から壮年層へと深刻さを増すネット依存

高度成長期にテレビが登場し、急速にテレビ視聴時間が増加した時代、子どものテレビの見過ぎが親の心配事となり、目が悪くなる。ばかになるなどの弊害が論じられた。

インターネットについても、利用時間の急増の裏でネット依存(中毒)による弊害が生じている。そこで、これがどのくらい深刻なのかについての調査結果を見ておこう。

利用時間を調べている総務省情報通信政策研究所の調査では、ネット依存の状況についてもアンケート調査で毎年調べている。

まず、具体的な状況を知るため、調査対象者のうち現実逃避でネットを利用していると回答した人の割合を最近5年間について年代別に掲げた(図表3参照)。

【図表】無視できないほど増えている現実逃避のネット利用

結果を見ると全体として、若い世代ほど、また女性の方が男性より現実逃避でネットに走る割合、つまり精神安定剤としてネットが使われている割合が高い傾向にあることが分かる。

何と10代(13歳以上)の女性では半数以上が、20代女性では半数近くが現実逃避でネットを利用していると答えている。

この5年の動きを見ると10代~20代では上限に達しているようであるが、30~40代では現実逃避のネット利用が増えつつある傾向が認められる。

図表3に示した設問は、実は、ネット依存を判定する8つの設問(いわゆる「ヤング8項目基準」)の1つである。その8設問は図表4に示した通りである。

【図表】ネット依存傾向を判定する8設問

この8設問の5つ以上に「はい」と回答した者をネット依存傾向者としてその割合の動きを年代別に図表5に示した。

【図表】コロナ以後、中年にも広がってきたネット依存

全体として若い世代ほどネット依存が多いという状況が認められるが、最近までの動きは世代によっていささか異なっている。

10代、20代の若者のネット依存傾向は2014〜16年から2017〜19年に大きく増加し、コロナ後は横ばいか低下に転じた。コロナ後の2020~21年には10代の16.3%、20代の9.8%がネット依存と判定されている。

一方、30代、40代の壮年層では、2014〜16年から2017〜19年にかけてはネット依存傾向の者は増えていなかった。ところが、コロナ後の2020~21年には急拡大し、30代の6.1%、40代の3.7%がネット依存と判定されている。

図表2でも見た通り、10代~20代も30代~40代もコロナ後にインターネット利用時間は大きく増加しているが、10代~20代の場合は、それでネット依存が深まったわけでもないのに、30代~40代の場合は、ネット利用時間の増加の一定部分が依存(中毒)によるものだと考えられるのである。

いずれにせよ、ネット依存が若年層から壮年層に広がり、深刻さを増していることは確かであろう。

■ワクチンデマの事例:メディア影響力の世代間差の克服

最後に、単に利用時間、視聴時間の逆転というだけでなく、ネットとテレビ・新聞の影響力の逆転を表しているデータを次に見てみよう。

一般に、デマは、①多くの人と関係するテーマ、②専門性が高く不安の解消が容易でない、③メリットよりデメリットが目立つ。こうした場合に広がる可能性が高まる。新型コロナウイルスの流行は、まさにこうした条件に合致しており、WHOテドロス事務局長は「われわれは感染症だけではなく、“インフォデミック“とも戦っている」と述べた。

ワクチン接種についても同様であり、副反応のデメリットがはっきりしている一方で、感染しなかったとか重症化しなかったとかいうのが、ワクチンを打ったからなのかどうかは個人レベルでは基本的にわからない。

そこで、「ワクチンは有害物質が入っている」「ワクチンを打つと不妊になる」といったような話が広まりやすくなってしまう。さらに、「ビル・ゲイツがワクチンによって人口減少をもくろんでいる」とか「新型コロナウイルスはそもそもワクチンを広めるための茶番だ」といった陰謀論も世界的に流布した。

このように新型コロナのワクチン接種に関しては、さまざまな誤情報やデマが飛び交った。公益財団法人「新聞通信調査会」が2021年8~9月に実施した「メディアに関する全国世論調査」によると、55.5%の人が「新型コロナワクチンに関して不確かな情報やデマと思われる情報を見聞きしたことがある」と答えた。この数字は、世代や性別でそれほど大きな差がなかった。

この世論調査は、上で引用した総務省の調査と同様、訪問留置法で行われ、サンプル数は5000人と多く信頼性も高いが、上の問に続いて、そうした「不確かな情報やデマと思われる情報を見聞きしたことがある」人に、「どのようにして正しい情報を確認したか」をきいている。図表6はその結果を世代別に示したグラフである。

【図表】世代によって大きく異なる情報確認手段:ネットを信じるかテレビ・新聞を信じるか

利用時間だけでなく、こうした正しい情報の確認においても、若い世代ほどネット、高齢世代ほどテレビや新聞に頼っていることが分かる。これに対して、政府や自治体からの情報提供や家族や友人とのやりとりに関しては、世代に関わりなく一定の割合を占め、ただしネットやテレビ・新聞を下回る割合であるという特徴が認められる。

ただし、10代は20代よりテレビや新聞、あるいは家族や友人の割合が高く、親と同居している背景が影響していると考えられる。

なお、ネットでの情報確認の中でも、10代~20代はもっぱらSNSでの確認割合が高いのに対して、30代~40代は専門家のネットでの発言を挙げる者が多いという違いが認められる。

■情報収集における世代間のコミュニケーションに断絶

こうした情報収集における年齢ギャップによって世代間のコミュニケーションに断絶が生まれている可能性がある。

ワクチンデマの拡散に関してはSNSの影響がクローズアップされているが、速報性をもち、情報拡散の速いSNSの利用時間の長い若い世代では、誤情報やデマも広がりやすくなっているのは確かだと言えよう。

また、ネット上で発言する専門家の中にも誤情報に近い情報発信をする者が加わっていたり、時には、専門家の顔をしてデマを広げ、自分のサイトや書籍などの収入増を狙う不届きなやからもいたりするので、ますます話がややこしくなっている。

一方、高齢世代が依拠するテレビや新聞など既成メディアも情報の信頼性には高い評価が与えられている一方で、そうしたメディアの記者やディレクターの頭の中には一定のストーリーがあって、それに沿った取材や報道しか行わない傾向もある。

これが嫌われて若い世代からマスゴミなどと悪口を言われ、信用が得られない原因ともなっている。投票数が多い高齢層の依拠する既成メディアの社会的影響力が過当に高いと感じ、フラストレーションを抱く若者も多かろう。

健康に関する誤情報やデマに対して、正しい情報がなかなか得られないとき、最後に頼りになるのは政府や自治体などの行政であるはずであるが、図表6において、正しい情報の確認手段として挙げられている割合はそう高くない。

そもそも政府に対する信頼度が低いと、政府が新型コロナ感染症やワクチンの情報を出してもなかなか信頼されないという事情があろう。選挙で選ばれた政治家が支配する民主主義国の政府は、政治家が信頼されていない分、政府の発表も信頼されない傾向があり、かえって中国のような権威主義的な政府の方がこうした面で国民から信頼されている(信頼するしかない?)のは皮肉な状況である。

また、行政における体質的な不親切も影響している。新型コロナやワクチン接種で頼りになるはずの厚生労働省のウェブサイトは、情報がそこに置いてあるだけで「見せる」仕様になっていない。正確な情報は提供しようとするが、人々の不安を解消するような「分かりやすい情報」は載っていない。誤解を招いて責任を取らされないように行動する官僚独特の行動パターンが原因である。

政治的な責任まで含め全責任を引き受けられるような専門性を有するトップが率いる司令塔的な感染症対策の専門機関を作り、国民の中に生れがちな誤情報やデマを発生する度に打ち消し、国民の不安を解消できるような「分かりやすい」情報提供を行うことができれば事態は改善されたと思うが、そうはならなかった。

時代の転換点に生じた世代間の情報ギャップの解消に向けた今後の課題は大きいと言える。それぞれのメディアが相互に連携しながら改善に向けた抜本的な対策を講じることが肝要であろう。

若者が依拠するネット関連では、利用者自体が安易に不確かな情報を拡散しないような情報リテラシーを身に付ける必要があろう。学校教育での取り組みも重要である。また、SNSのアプリに「いいね」ボタンでなく、「まずいね」ボタンをつくるとか、有識者意見をその都度、表示させるとか、システムとして誤情報の拡散を抑制できるような仕組みを備えるよう運営者が努める必要があろう。

中高年が依拠するテレビ、新聞といった既成メディアでは、紋切り型のストーリーに沿った報道ばかりせずに、調査報道を増やすなどのクオリティ向上に努め信頼を回復しなければならない。そのためには大手紙や地方紙の大同合併やネット企業との合併といった抜本的な財政基盤強化が必要かもしれない。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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