1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「全裸で家をウロウロ」「トイレを流さない」80代認知症母を看る40代女性を救った小6息子のすごい声かけ力

プレジデントオンライン / 2022年9月10日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Martin Dimitrov

もともと心臓が悪かった父親がコロナ禍に他界した直後、今度は母親がおかしくなった。青年海外協力隊で出会った外国人男性と離婚して出戻った40代の長女は両親を必死に介護。認知症と診断され、日常生活が送れなくなる母親に振り回される日々。疲労困憊の中、癒やしの存在となってくれた存在のひとりが、小6になった息子だった――。
【前編のあらすじ】早瀬須美さん(40代・独身)は大学を卒業後、企業に勤めていたが、小さい頃から憧れていた青年海外協力隊に25歳の時に参加。西アフリカの小国で現地の男性と恋に落ち、帰国後に結婚。しかし約4年後に夫の不倫が原因で離婚すると、1歳半の息子とともに実家に転がり込む。仕方なく受け入れた様子の両親だったが、孫をかわいがる両親との生活は穏やかに過ぎていった。だが、2021年、父親が腰の痛みを訴え、救急搬送された――。

■父親の入院

それは2021年4月のことだった。深夜、「痛くて眠れないから救急車を呼んでくれ」という父親(86歳)は病院に救急搬送された。同居していた、長女で出戻りの早瀬須美さん(40代・独身)は入院手続きを終え、父親がベッドで落ち着いたのを見届け、母親(83歳)と息子(10歳)と帰宅した。

検査の結果、父親は腰の骨を圧迫骨折していたことが判明。しばらく入院することに。

3年前、早瀬さんはセミナーやカウンセリングをする会社を起業していたが、父親の入院を機に2日に1回、母親とともに病院を訪れる生活が始まり、仕事をセーブすることに。

6月。入院中の父親は、敗血症と心筋梗塞を起こして心肺停止に。慌てて早瀬さんと息子、母親が駆けつけると、父親は集中治療室で一命を取り留める。主治医によると、もともと弱かった父親の心臓が、年齢のため、さらに弱ってきているとのことだった。

7月。心筋梗塞を改善する手術を行おうとするが、体力的に難しいと判断し、断念。

9月。コロナで面会制限に。それでも早瀬さんは、母親を連れて、2週間おきにPCR検査を受けて父親に面会する。

10月。ひどい便秘が原因で大腸に穴が空き、手術。人工肛門に。

12月。父親は要介護5になっていた。血圧が非常に低く、足にもチアノーゼが起こるため、絶対安静状態。それでも父親は「自宅に帰りたい」と言うため、早瀬さんも、「帰してあげたい」と主治医に伝えていた。だが、なかなか許可がおりない。

「父はほぼ寝たきりでしたが、意識はしっかりしていました。父は入院中も自ら、『認知症予防』と言って、クロスワードや将棋などをやっていたので、その効果なのではないかと思います。自分でご飯を食べることはできましたし、リハビリを通して、ゆっくりなら5メートルくらいは歩けました。筋力はあっても、心臓への負担が原因で長くは歩けなかったのです。ただ、子どもは面会できなかったため、私が、『息子に会わせてあげたい』という気持ちもありました」

ようやく退院が決まったのは、2月の末のことだった。

ところが、その退院予定日の朝、早瀬家に病院から電話がかかってきた。酸素量が低く、呼吸がゼーゼーと荒いため、退院できないことに。さらにコロナ患者増加の影響により、2週間に1度程度に面会を制限される。

そして5月。父親の容態が急変。コロナ禍で面会ができない状況が続いていたが、病院の配慮で一人部屋へ移動できることに。電話を受けた早瀬さんたちが駆けつけると、2週間ぶりに父親と対面することができたが、父親はすでに息を引き取っていた。

早瀬さんたちが病室へ到着すると、担当医が死亡確認。その後、エンゼルケアが始まった。

「たまたま前日から兄が来ていて、帰る予定の朝のことでした。『きっとお父さんは、みんながそろっている日とわかってたんだね』と話していました」

■母親の異変

父親の葬儀や納骨などが終わると、母親がおかしくなった。

何時間も父親の仏壇の前に座ってぼーっとしていることが増え、フォークダンス教室などにも行かなくなり、人と会うことや外に出かけることを嫌がるようになってしまう。

早瀬さんは、息子や自分の仕事のことで忙しくしながらも、母親を気にかけていた。父親の死後、兄も月に2回は母親の様子を見に来てくれていた。

しばらくして、

・洗った後の食器類を元の場所へ戻せなくなった
・洗濯機のボタン操作ができなくなった
・冷やご飯が大量にあるのに、毎日ごはんを炊く
・鍋を火にかけて忘れる
・電子レンジで温めたものを、何日も入れっぱなしにして腐らせる

など、おかしな行動が増えた。

電子レンジ
写真=iStock.com/frantic00
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/frantic00

「母は、父に対しても文句が多かったですが、仲は良かったと思います。父は、自分の身の回りのことや家事は全くできないので、母に全部やってもらっていました。そのため、母にやかましく怒られながらも、感謝はしていました」

長年連れ添った相手との死別による悲嘆により、元気を失くしてしまう配偶者は少なくない。早瀬さんの母親もそうだった。

心配した早瀬さんが、「体操教室やフォークダンスに行ったら?」と声掛けするも、母親は動かなかった。友人たちに相談すると、「お父さんを亡くしたショックだろうから、3カ月もすればまた元気を取り戻すのでは?」と言われ、様子を見ていた。

2021年12月。年末に帰省した兄と相談し、早瀬さんは地域包括支援センターに問い合わせ、面談。何となく「母親は認知症ではないか」と思っていた早瀬さんは、母親の世話が大変になっていくことに備え、仕事を休止した。

「母1人の世話はまださほど大変ではありませんでしたが、潔癖で他の人に自分のものを触られたくない息子のものを、母が使ったり触ったりするため、監視が必要なことや、あればあるだけ炊いてしまうので、お米を隠さねばならないこと。母と息子の食事時間や、好みのメニューが全く違うこと。母はゴミの分別ができないので、出す前にいちいち確認して分別し直さなければならないこと。母が勝手に片付けたものがどこにあるかわからず、宝探しのような作業がいつも発生すること。歯磨きを毎日促すことや入れ歯のつけ外し介助などなど、細々したことが積み重なって大変になっている感じでした」

2022年1月。週1回、兄が来てくれるようになる。来ると兄は母親と一緒に過ごし、徒歩圏内にあるスーパーに連れ出すなどしてくれた。

実家から電車で1時間ちょっとのところで暮らし、タクシードライバーを務める兄は、早瀬さんより4歳上だ。マメではないが、細かいことにはこだわらず、おおらかで自由人な兄とのきょうだい仲は、昔から悪くなかった。

そして2月。病院を受診し、母親は認知症と診断。3月には介護認定の面談を受け、4月に要介護1と認定された。

■日々何かにイライラ

4月末、母親は週2回デイサービスに通い始める。

その頃の母親は、

・新しいことを覚えられない
・家中のものを片付けたがるが、どこへやったか忘れる
・介助を嫌がり、「放っておいて」と言う

という症状が出ていた。

早瀬さんは、口数が少なく、何を感じ、何を考えているのかわからない母親にイライラしていた。

「父の生前、『だらしない!』と非難していたことを、今母自身がやっている時、特にカッとしてしまいます。細かいことですが、使ったタオルや脱いだ服をそこら辺に置きっぱなし、左手にコップを握りしめてご飯を食べる、同じ服や下着を着続ける、髪の毛などで洗面所を汚してもそのまま、裸で家中をウロウロする、トイレを流さない、などがそうです。息子より何をしでかすかわからない母を優先してしまうため、息子に我慢させてしまったことにも罪悪感を覚えますし、日々何かにイライラしている自分が嫌になります」

流しているトイレ
写真=iStock.com/frantic00
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/frantic00

母親に洗濯物干しを頼むと、半分以上を干さないでそのまま放ったらかしにして数時間経過。それを早瀬さんが発見して干し直すと、さらにそれを母親が干し直すということもしばしば。

母親は、歯磨きは早瀬さんが言わないとやらず、朝晩歯磨きの声かけをしているが、声かけしてもなかなかしようとしない。何度も声かけすると、「わかったわよ!」といら立つ母親。早瀬さんもイラッとした。

早瀬さんがイライラさせられるのは、キッチンに1つでも食器があると洗う几帳面な母親だったが、洗い残しを見つけたとき。冷蔵庫や冷凍室などを開けっぱなしで長時間ゴソゴソ中を物色し、結局何も取り出さないとき。分別できないので、「やらなくていい」と言ってもゴミの整理をしようとするとき。歯磨き、食器洗いなどの時、水を出しっぱなしにするときだった。

■イライラを解消するために

「日々のイライラをなんとかしなくては」と思った早瀬さんは、「介護者の集い」という地域包括支援センター主催の会合に参加し、他の介護者の経験談を聞くことや、自分の悩みを話すことで多少楽になった。

「母に唯一お願いしている洗濯物干しですが、干し方が日に日に変になってきたので、いちいち私が手直ししなくてはならなくて面倒でした。会合で相談したところ、家事や仕事を取り上げることで認知症が悪化した失敗談をうかがうことができ、できることはやってもらった方が良いことがわかりました」

また、認知症についてネットで調べたり、認知症講座に参加して理解を深めたりしたことで、肩の力を抜くことができたという。

「認知症にはアルツハイマー、血管性認知症、レビー小体型認知症などの種類があること、その中で母は『その他』の分類であることや、比較的症状が軽いということを知りました。また、母はまだ、排泄や食事が自分ででき、ずっとマシな状態であることが分かったため、随分気持ちが楽になりました」

ピースがばらばらになっている人の頭部のイメージイラスト
写真=iStock.com/Iryna Spodarenko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Iryna Spodarenko

認知症講座では、家族の気持ちの「4つの心理的ステップ」について学んだ。「4つの心理的ステップ」とは、川崎幸クリニックの杉山孝博院長が考案したものだ。

第1ステップは「とまどい」「否定」。第2ステップは「混乱」「怒り」「拒絶」。第3ステップは「割り切り」または「あきらめ」。第4ステップは「受容」。介護する側は、4段階のステップを経て、認知症家族と向き合っていく。

「まだ症状が軽いとはいえ、トンチンカンな行動をされるとイライラするし、余計なことをされて手間が増えることも少なくありません。軽い重い関係なく、家族が認知症になれば誰でも戸惑うし、イライラするし、悩むという段階を経ることを知って、納得できました」

さらに早瀬さんはSNSを通じて、愚痴をこぼしたり同じ境遇の人とつながることで、「自分だけじゃない」と励まされた。

■ひとりじゃない

中でも、母のトンチンカンな行動を、息子が笑いに変えてくれるのは何よりも救いだった。

小学校6年生になった息子は、優しく正義感にあふれ、運動神経抜群。よくしゃべりよく笑い、学校ではムードメーカー。一方で寂しがり屋な一面もあり、ママも亡くなった祖父のことも大好きだった。

母親がシャワーを浴びた後、全裸でうろうろしているのを見るなり息子は、「ばあば、服着なよ」と大笑いし、母親もつられて一緒に笑ったり、早瀬さんが息子と2人で外出して帰宅した時、母親が明かりも付けずに真っ暗な部屋からうっすら戸を開けて玄関を眺めていると、「ばあば何やってるの?! びっくりしたー!」と大笑いし、母親もつられて一緒に笑うなど、早瀬家に明るい笑いをもたらしてくれる。

また、週1か2週に1度来てくれる兄が愚痴を聞いてくれることも、ケアマネジャーが相談に乗ってくれることもストレス解消になった。

6月からは、デイサービスを週に3回に増やすことに。母親は、デイサービスが無い日も行こうと準備していることが増えたうえ、デイサービスが無い日は家にこもって誰とも話さずにぼーっとテレビを見ているだけ。「ならば、1回増やして少しでも外出させたほうが母のためではないか」と早瀬さんは考えたのだ。

増やしてみると、母親の調子が良いため、そのまま継続。

「母は、デイサービスに行けば、利用者と話をしたり、歩行運動したり、マッサージを受けたり、洗濯物を畳んだり、味噌汁やパンを作るなどのお手伝いができるので、デイサービスを仕事だと思って行っています」

座っているシニアの手元
写真=iStock.com/fzant
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fzant

早瀬さんは、5月には習い事を始め、8月には母親をショートステイに預け、息子と旅行へ出かけてみた。

「介護は1人ではできません。1人でやろうとせず、必ず誰かに助けてもらってください。時にはイライラや愚痴をこぼし、誰かに聞いてもらってください。わからないことや不安なことがあれば、先輩介護者の話を聞きに行って、アドバイスをもらったり、自分の悩みを相談してみたりすることも大切だと思います」

早瀬さん家の隣には、認知症の老婆とその息子、そしてその嫁が暮らしているが、嫁が老婆を怒鳴りつける声がよく聞こえてくるという。早瀬さんはイライラした時、それが反面教師となり、「あんなふうにならないように気をつけなければ」といつも自分に言い聞かせている。

「幸い母はまだ、私が作った料理を『おいしい』と言って食べてくれますし、私は母が朝起きてきてくれるだけでホッとします。トンチンカンでもできることはやってもらい、デイサービスに行ってもらって、なるべく母の認知症を遅らせられたらと思います」

早瀬さんの母親は現在84歳、要介護1。息子は11歳だ。まだまだ早瀬さんのダブルケアは続くが、早瀬さんはひとりじゃない。

----------

旦木 瑞穂(たんぎ・みずほ)
ライター・グラフィックデザイナー
愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。

----------

(ライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください