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日本社会は「心理的安全性」が低い…日本人が「話し合いは苦手」とあきらめてしまう根本原因

プレジデントオンライン / 2022年9月12日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

「話し合いが苦手」と感じる人が多いのはなぜか。立教大学の中原淳教授は「『やらされ感』の漂う会議、何も決まらない打ち合わせ、沈黙だけが支配する学級会、紛糾する委員会。話し合いに対する人々の『絶望』が深まっている。その原因は、心理的安全性の低さにある」という――。

※本稿は、中原淳『話し合いの作法』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■話し合いが「瀕死」の状態に陥っている

「話し合いは、面倒くさい」
「話し合っても、何も決まらない」
「話し合いは、時間の無駄だ」

このような「あきらめ」が、社会全体に広がっているような気がするのです。あなたの学校や会社で、話し合いは今や「瀕死」の状態にありませんか。

「やらされ感」の漂う会議、何も決まらない打ち合わせ、沈黙だけが支配する学級会、紛糾する委員会。話し合いに対する人々の「絶望」が深まっています。

一方で、話し合いの大切さや意義が、これほどまでに認識されはじめている時代も、ありません。

社会には分断や争いが増え、不確実性が増す中で、それでも物事を決めなければならない局面が増えました。そう簡単にわかり合えない隣人と、それにもかかわらず妥協点を見出しながら、話し合いを交え、生きていかなければならない状況も生まれています。話し合いは、多様な人々がこの世に生を受け、他の人々と「ともに」生きるための知恵でもあります。

私たちは、話し合いがあるからこそ、さまざまな葛藤や矛盾を乗り越え、多様な人々と共生し、ときには協力し合い、独力では達成できないことすら達成できるのです。一見、絶望のようにしか感じられなかった話し合いの「その先」には「ささやかな希望」があります。

しかしながら、日本のビジネスパーソンも学生も皆、「話し合いが苦手」です。我が国において人々がなぜ話し合いが苦手になってしまうのか、これに影響を与える風土、慣習について深掘りしてみることにしましょう。その理由は多々あるとは思いますが、代表的な理由について述べていきたいと思います。

■「同調圧力の強さ」が話し合い下手の根本原因

日本人が話し合いを苦手としている原因の1つは、日本人が「単一」に近い民族から構成されていて(※注)、「同質性が極めて高い集団」の中で、お互いに同調行動(皆が同じような行動)をとりながら、日常生活を送っているからです。

※注……近年の人文社会科学の研究は、日本人が「完全に単一」の民族ではないことを明らかにしています。ですから日本人といっても、多様性に満ちています。なお、日本人というアイデンティティすらも、実は明治期以降の国民国家の形成によってつくられたものであることを付記しておきます。

かつて日本社会の集団特性について文化人類学的に考察したのは東京大学教授の中根千枝氏でした。中根氏は、『タテ社会の人間関係 単一社会の理論』(1967年、講談社)において、単一の集団からなる日本人は「場を共有すること」に執着する傾向があり、「場への全面的、全人格的なエモーショナルな参加」を、相互に求め合うことを指摘しています。つまり日本人は他者に対して、個のすべてをかけて集団に関わることをともに求め合う傾向があるというのです。

かくして「すべてを集団の場にささげ合う」ことの先に、その集団内部には強烈な「ウチ意識」が生まれます。反面、集団の外部に広がるいわゆる「ソト」には、「排除的」になる傾向があります。さらに、ウチの内部では「閉鎖性」が生まれ、人々がともに「同調行動」をとっていくこともあります。ここで同調行動とは、「人々が周囲の行動や意見に合わせて自らの言動を決める傾向」のことをいいます。

このことは、「出る杭は打たれる」という言葉に象徴されます。同調圧力が非常に強く、そこからはみ出す「出る杭」は、皆から打たれやすい傾向があります。

「話し合い」に関していえば、「みんなの前で、こんなことを言ってしまったら、後から刺されるかもしれない」と「出る杭」になる行為を恐れ、発言をためらいがちです。

■日本は「心理的安全性」が低い社会

これに関連してここ数年、日本でも「心理的安全性(Psychological Safety)」という言葉が注目されています。心理的安全性とは、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が、今から20年くらい前に、組織論(チーム研究)の中で用いた概念です。

エドモンドソン教授によれば、心理的安全性とは「この集団で、リスクを取って何かをしたとしても、対人関係上の危機が生まれない」ことです。話し合いで言えば、「心おきなく自分の意見を言っても、村八分にされないこと」です。

あえて、この流行語を用いて、日本人の傾向を表現するならば、「日本は、同質性が高く、同調行動が望まれることが多いが、心理的安全性が低い国」ということになるのだと思います。

かくして、人々は空気を読むことを重んじます。空気を乱すようなことを言うと、すぐに「出る杭」になります。このような環境があるために、何か皆の前で発言することに非常にリスクが高い、と感じてしまうのです。

■「仲がいい=心理的安全性が高い」ではない

このことは、大学生がグループワークなどで話し合う様子を見ていると、如実に感じ取ることができます。

一見、彼らは、仲がよい間柄で、お互いによいコミュニケーションをとれているように感じます。しかし、「仲がよいこと」と「心理的安全性が高いこと、低いこと」は、実は「別次元の問題(別軸の問題)」です。

次の図表1に見るように、縦軸にメンバー同士の「仲がよい/悪い」をとり、横軸に「心理的安全性が保たれている/いない」をとると、論理的には、次の①~④の4つの象限が生まれます。

【図表1】心理的安全性と仲の良し悪しにおける4象限
イラスト=『話し合いの作法』より

①仲がよく、かつ、心理的安全性が保たれている
②仲がよいけれど、心理的安全性は保たれていない
③仲が悪いけれど、心理的安全性が保たれている
④仲が悪く、かつ、心理的安全性も保たれていない

このうち、④の「仲が悪く、かつ、心理的安全性も保たれていない」のは論外です。③の「仲が悪いけれど、心理的安全性が保たれている」というのは、現実には、なかなか起こりえません。

本来は、①の「仲がよく、かつ、心理的安全性が保たれている」ことが理想的ですが、一般に大学生が陥りがちなのが、②の「仲がよいけれど、心理的安全性は保たれていない」空間です。一見仲がよさそうに見えても、「こんなことを言うと和を乱すかもしれない」と考え、お互いに言いたいことが言えない状況がそれにあたります。

大学で行われているプロジェクト学習、ゼミナール。読者の皆さんも、機会があったら、昨今の大学をぜひのぞいてみてください。これらの学びの場では、学生が4~5人のチームやグループを組んで課題解決や探究を行っていますが、そこでは一定の割合で、「一見、仲がよいけれど、心理的安全性は保たれていない」グループが散見されるはずです。

■心理的安全性は話し合いの基礎資源

また、これは多くの職場においても当てはまることのように思います。むしろ、長期雇用の慣行が支配するこの国では、同じオフィスで、いつものメンバーと、仕事の現場において長い時間を過ごさなくてはならないので、事態はより深刻かもしれません。

中原淳『話し合いの作法』(PHPビジネス新書)
中原淳『話し合いの作法』(PHPビジネス新書)

仕事の現場においても、一見、仲がよさそうにも見えるけれども、本質的な課題については意見を言わないようにする、といったことが横行します。日本の教育現場でも、オフィスでも、必ずしも集団内部で心理的安全性が確保できているとは言えないのです。

しかし、心理的安全性は、話し合いのための基礎的資源です。

話し合いでは、その過程において、話し合いのテーマに対して、お互いに自分の意見を表明する必要があります。お互いに、相手の意見や考えに対してリスペクトを持ちつつ、意見を表明し合うことが重要です。

よって、同調行動への圧力が強く、心理的安全性が低い日本では、話し合いをうまく進めることに困難を感じる人が少なくないのです。

■「言葉にすること」を恐れてはいけない

私たちは、アメリカやヨーロッパなどに比べれば人種や文化がそれほど多様でない島国に生まれて、過ごしてきました。価値観が似ている人が多いので、あうんの呼吸でコミュニケーションがしやすく、空気を読むというような「察するコミュニケーション」が大の得意です。そのため、話し合わなくても理解しようとすることをよしとし、話し合いを持つことを「野暮」、あるいは「空気を読まない行為」と考える人が少なくありません。

かくして、「言葉にするよりも感じること」「言葉よりも察すること」が重要視されてしまう傾向もあります。しかし、それだけではうまくいかない時代に、我々は突入しているのです。

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中原 淳(なかはら・じゅん)
立教大学経営学部教授
東京大学教育学部卒業。大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター、米MIT客員研究員、東京大学講師・准教授などを経て、現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究している。『職場学習論』(東京大学出版会)など著書多数。

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(立教大学経営学部教授 中原 淳)

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