なぜエラい人の話は長くなるのか…残念なリーダーほど「ダラダラ演説」をやってしまう納得の理由
プレジデントオンライン / 2022年9月14日 16時15分
※本稿は、中原淳『話し合いの作法』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。
■会議で上司だけがしゃべり続けてしまう理由
会議や打ち合わせの場で、参加メンバーに上下関係があると、上司や先生といった目上の人ばかり話していることがよくあります。「皆さん、ディスカッションしましょう」と言っても、1時間の間、ほとんど上司がしゃべっていた……なんてことも少なくありません。
ただ、目上の人がしゃべりまくるのは、その人が、空気が読めないからとは限りません。むしろ沈黙を恐れ、沈黙になりそうな空気を読んでいるからこそ、発言を続けてしまうこともあります。例えば次のような例です。
【話し合いケース】新たなオフィスのあり方を話し合う場で
リーダー 今日は新たなオフィスのあり方について少し話してみようか。じゃあ、Aさん、どう思う?
Aさん そうですね、ちょっと、どういったらいいかな……(Aさんが考え込むようにして沈黙が続く)
リーダー (沈黙を1秒と待たずに)ごめん、ごめん。ちょっとテーマが抽象的だったかもしれないね。Aさんにはまた後で聞くので、考えておいてくれるかな。じゃ、Bさんはどうだろう?
Bさん 私ですか。そうですね、まずは整理を……(Bさんも言葉に詰まり、沈黙が続く)
リーダー 整理つかないよね。そうだよね。なかなか難しいテーマだよね。例えばだけど、私はこんなことを考えているんだ。例えば、新しいオフィスのあり方として、フリーアドレスオフィスってのは、どうだろう。ノンテリトリアルオフィスなんていう言い方もされるみたいなんだけどね。自由闊達(かったつ)に意見がでるし、創造的にもなれるかもしれない。(しばらく自分の意見を述べる)……というわけなんだけど、Cさんはどうだろう?
Cさん えっ……えーとその……いい案だと思います……(また沈黙)
リーダー ありがとう。あ、そうだ。もう1つ、これについて私の考えを言うと、サテライトオフィスを実現するというのも手だよね……。
以上の例では、リーダーが一方的に話していますが、リーダーは決して「自分が話すことが好き」でこのような状況に陥っているわけではありません。リーダーの中には、話し好きな人もおられますが、そうでない方もいます。
それでは、リーダーは、なぜ、一方的に話してしまうのでしょうか。その理由の1つにあるのは「沈黙への恐怖」と「待つことへの苦手意識」があります。
■沈黙を恐れるとメンバーの「考える時間」を奪ってしまう
リーダーの中には、メンバーと会話をしているときに、沈黙が1秒、2秒、3秒と続くと、「コミュニケーションがうまくいっていないような気持ち」になり、焦燥感に駆られる人もいます。そのようなリーダーは、メンバーの中に沈黙が続くと、それに耐えられず、何かを話して「沈黙=間」を自ら埋めようとするのです。そのようなリーダーは、メンバーの中に意見が熟成してくる時間が「待てない」のです。
しかし、本来、リーダーが問いをメンバーに投げかけたときには、メンバーには考える時間(Thinking time:思考時間)が必要です。とりわけ、対話で推奨されるオープン・クエスチョンを投げかけられたときには、メンバーは、問いの意味を解釈し、それに対して自分の意見をまとめなければなりません。
しかし、この「思考時間」がくせ者です。
メンバーにとっては「思考時間」は、文字通り「頭をフル回転させて考えている時間」なのですが、問いを投げかけるリーダーにとっては、それは単なる「沈黙=間」として体感・認識されてしまうことがあります。
そして、この「間」が長く感じられるのです。沈黙は果てしなく続くように感じられます。そして、「体感された沈黙」に恐怖を感じ、ここに焦るのです。
リーダーが「沈黙=間」を埋めてしゃべり続けていると、参加しているメンバーは「リーダーは話したいのかもしれない」と慮って、さらにしゃべらなくなります。このモードに入ってしまうと、リーダーだけがずっとしゃべり続けることになるのです。
![【図表1】リーダーが一方的に話してしまう理由](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/b/1200wm/img_0bb0353ce65ebcbe529698eefa0162a5246696.jpg)
このような事態を招かないためには、リーダーはメンバーに「思考時間」を保障することと、「間を怖がらないこと」が重要です。多少沈黙が続いても、誰かがしゃべってくれる可能性を信じて、じっと待つことが大切です。待てないリーダーには、対話を生み出すことができません。
■年長者は経験が豊富なので話が長くなる
リーダーが恐怖から一方的に話している場合もありますが、もちろん、年を取り、職位があがったリーダーがずっと場を支配して、一方的に話しているパターンもあります。
人は、年齢や職位があがると話が長くなる、とよく言われます。なぜ長くなるかといえば、大きく分けて3つの理由があります。
第一の理由としてあげられるのは、単純に年齢を経て、経験が増えるので、話す素材が増えてくるということです。
年齢を重ね、酸いも甘いも、さまざまな経験をすれば、その経験を他人に語りたくなるのは当然のことです。経験値の少ない若い頃であれば、1つの経験を開示するだけで足りていました。
しかし、年を重ねると、多くの経験を積み重ね、それらを比較したり、引用したりしながら、重層的に主張を行えるようになります。よって、経験が増えれば増えるほど、話す話題を整理しなければ、話が長くなるのは当然です。
■年長者の話を聞くのは権力に屈しているから
第二に「権力への甘え」があるからです。
![中原淳『話し合いの作法』(PHPビジネス新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/d/1200wm/img_8d0009725044cee566191648a0e1bbdd327747.jpg)
年齢があがり、ある程度の権力を持つようになると、立場上、人前で話す機会はどんどん増えます。自分以外のメンバーは、その人の持っている「権力」に屈服して、やむなく、話を聞いているだけなのですが、ここで「派手な誤解」が生じます。
「自分の話は誰もが聞きたいに違いない」と誤解し、「みんな、ありがたく聞いてくれる」と思って、ダラダラとしゃべり続けてしまうのです。
要するに年齢にともなって強くなる「権力」に甘え、「少しくらい話が長くなっても許されるだろう、みんな聞いてくれるだろう」と思うようになってくるのです。
かくいう私も今年47歳になります。20年前の若造のときよりは、登壇機会も増えましたし、皆さんの前で挨拶する機会も増えました。権力に甘えてしまってはいけない。自戒をこめて、そう思っています。
■年を取るとフィードバックが受けにくくなる
第三に、これは第二の理由と関係しますが、権力を持つと、第三者からのフィードバックを受けにくくなるからです。若い頃なら、話が長くなったり、その要点が不明瞭になったりしたときには、上位者や先輩が助言やフィードバックをくれました。「もう少しポイントをしぼって話そう」と言ってくれる「誰か」がいたのです。
しかし、年齢があがると、それがなくなります。どんなに話がつまらなくても、どんなに話の要点が不明瞭で、長くても、誰ひとりとして本人にネガティブフィードバックをくれる人はいません。そういう経験を3年も繰り返していれば、いつしか「裸の王様」になってしまうのです。
![上司と部下の会議](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/8/1200wm/img_f815050e9278302ab601112783b07f38409363.jpg)
■意図的に「謙虚になること」を選択する
では、これはどのように防止することができるでしょうか。
端的にいえば「謙虚になること」を意図して選択することです。
しゃべるときには、なるべく権力を持たない人にボールを与え、待っていればいい。そして発言するときには、シンプルに語ればよい。もちろん、決めつけや結論づけてしまってはいけませんが、こうしたことを「意図的に選択できるか、どうか」は極めて重要です。簡単なことです。意図をもって半歩下がるだけなのですから。
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立教大学経営学部教授
東京大学教育学部卒業。大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター、米MIT客員研究員、東京大学講師・准教授などを経て、現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究している。『職場学習論』(東京大学出版会)など著書多数。
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(立教大学経営学部教授 中原 淳)
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