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最後まで揺るぎない安定感があった…エリザベス女王と子供たちの振る舞いを分けた「学歴」という要素

プレジデントオンライン / 2022年9月9日 18時15分

王室メンバーとともにバッキンガム宮殿のバルコニーで、エリザベス女王の在位70年を記念する式典を見守る女王(左から3人目) - 写真=PA Images/時事通信フォト

イギリスの女王エリザベス2世が死去した。96歳だった。約70年という英国史上最長在位だったが、最後まで揺るぎない安定感をもち、英国民からの人気も高かった。国際教育評論家の村田学さんは「学校教育ではなく、家庭教師から帝王学を授けられたからこそ、子供たちとは違う安定感が生まれたのではないか」という――。

■学校に通ったことがないエリザベス女王

英国王室は9月8日、エリザベス女王の崩御を発表しました。96歳でした。在位は約70年で英国史上最長です。

エリザベス女王が即位したのは1952年の6月2日、25歳の時です(※1)

以来、東西冷戦のなかで起きたスエズ危機、EC加盟(のちのEU)、フォークランド紛争、ポンド危機、中国への香港返還、EU離脱、コロナ禍など――戦後の激動の歴史の中を、英国領主の君主として任務を全うしてきました。長男のチャールズ新国王の離婚とダイアナ元王太子妃の死、三男・アンドリュー王子のレイプ疑惑、孫のヘンリー王子の王室離脱など、家族のスキャンダルには頭を悩ませてきましたが、エリザベス女王自身は、抜群の安定感で国民の信頼と尊敬を集め、女王としての任務を全うしてきました。イギリスには「鉄の女」と呼ばれた故・マーガレット・サッチャー首相がいますが、エリザベス女王は「鉄の女」も超える鋼のメンタルを持っていると言えるのではないでしょうか。

この鋼のメンタル、抜群の安定感はどのように育まれたのでしょうか。

若くして即位したエリザベス女王でしたが、生まれた時から「女王になるべき」人生を歩んでいたわけではありませんでした。なぜなら、エリザベスの父ヨーク公(後のジョージ6世)には、兄であるエドワード8世がいたからです。しかし、エドワード8世は、王太子時代から交際のあった離婚歴のある米国人女性ウォリス・シンプソンとの結婚を望み、世論の強いバッシングにあいます。そのため、即位から1年も経たずに退位。父であるヨーク公がジョージ6世として、英国王に即位することとなりました。

そこからエリザベス女王は、次の王としての期待が寄せられるようになり、帝王学が開始されました。エリザベス女王は、父ジョージ6世の指示により、妹と共に家庭教師マリオン・クローフォードから学びました(※2)。なんと学校に通うことなく帝王学が授けられたのです。この家庭教師によって授けられた帝王学こそ、エリザベス女王の鋼のメンタルを育んだと筆者は考えています。

ちなみに父であるジョージ6世は、吃音に悩まされ、その様子は2010年に製作された映画『英国王のスピーチ』でも紹介されました。映画のキャッチコピーは、「英国史上、もっとも内気な王」。そのように揶揄されたジョージ6世ですが、エリザベス女王の安定の礎を築いた素晴らしい王であったと思います。

※1 https://www.royal.uk/coronation
※2 https://www.royal.uk/the-queens-early-life-and-education

■国語に重点が置かれたカリキュラム

エリザベス女王が受けた帝王学とはどのようなものだったのでしょうか。

クローフォードが宮廷家庭教師として過ごした日々を回顧した『王女物語 エリザベスとマーガレット』(著者マリオン・クローフォード 訳者中村妙子 みすず書房)やイギリス政治外交史が専門の歴史学者・君塚直隆氏の『エリザベス女王 史上最長・最強のイギリス君主』(中公新書)という本を参考に紐解いていきたいと思います。

図表1の時間割は、『王女物語 エリザベスとマーガレット』より筆者が作成したものです。10歳にもならない子どもの頃のものですが、想像以上にぎっしりと詰め込まれています。時間割には、未来の国王として身に付けるべき帝王学が集約されています。

『王女物語 エリザベスとマーガレット』より筆者作成
『王女物語 エリザベスとマーガレット』より筆者作成

眺めてみてわかるのは、文系に重きが置かれているということです。「算数」は入っていますが、自然科学、物理、化学などは学んでいません。

「文法」「書道、作文」「文学」「詩」など、読み書きをしっかり学ぶ内容になっています。国王として国民の心をひとつにまとめていくために、言語能力に重きが置かれていることがわかります。法体系を正しく理解するためにも言語能力は重要です。

「歴史」「地理」は、国王として国の成り立ちを知るために不可欠な科目です。これらを学ぶことで、英国王室の立ち位置を知り、自分を見つめるとともに未来への見通しが立てられるようになったことでしょう。「聖書」も、国王は英国国教会の最高権威者を兼ねるため必須科目です。

■教養と心の安定を保つための芸術科目

午後を中心に「絵画」や「音楽」「歌唱」「乗馬」などの科目が入っているのも印象的です。国王として身に着けるべき教養であると同時に、生涯にわたって楽しめる趣味を持つためではないかと感じます。国王は孤独です。芸術を楽しんだり、乗馬のように動物と触れ合いながら運動もできる趣味を持つことで、精神の安定を図ることも考えられたのではないでしょうか。

ほかにも午後には年長者の王侯貴族と散歩やお茶をしながら交流する時間が取られています。ここで社交を学び、女王としてのふるまいを身に付けていきました。

また、この時間割りには入っていませんが、下士官としての軍務やガールスカウトなどで一般市民と触れ合いの機会も持たれていました。女王として、国民の生活や気持ちを知る機会もしっかり設けられていました。

■寄宿学校で学びいじめにあったチャールズ新国王

エリザベス女王は法律や憲政史についてはイートン校の教授研究室へ通って学んだそうです。しかし、基本的には家庭教師によって組まれたカリキュラムによって帝王学を学びました。

一方、子どもたちの教育では、これまでの王室の慣習を打ち破って、夫フィリップス殿下の出身校であるスコットランド寄宿学校のゴードンストウン校に長男のチャールズ新国王やエドワード王子、アンドルー王子を通わせました。孫のウイリアム王子やヘンリー王子も寄宿学校のイートン校に通いました。

では、王として学校に通うことが果たして良いことだったのでしょうか。

筆者は、エリザベス女王が前述したような家族のスキャンダルで頭を悩ませることになったのは、家庭教師による帝王学が途絶えたことが影響しているのではないかと思っています。

なぜなら、上流階級の子どもたちが通う名門の寄宿学校といえども、王家は特別な存在だからです。王子たちは学校でちやほやされるか、逆にいじめられるかのどちらかの扱いになってしまうのではないでしょうか。実際にチャールズ新国王は在学時にいじめられたといわれています。どちらにしても、人格形成に良い影響を与えないと感じます。

このことは日本の皇室においても、大いに参考になるのではないでしょうか。

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村田 学(むらた・まなぶ)
国際教育評論家
アメリカ生まれ、日本育ちの国際教育評論家。3歳でアメリカの幼稚園を2日半で退学になった「爆速退学」経験から教育を考え続ける。国際バカロレアの教員研修を修了し、インターナショナルスクール経営などを経てie NEXT & The International School Timesの編集長を務める。

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(国際教育評論家 村田 学)

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