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なぜ一人だけホームランを量産しているのか…ヤクルト・村上宗隆と他の日本人打者との決定的な違い

プレジデントオンライン / 2022年9月10日 13時15分

3回、50号の先制3ランを放ったヤクルトの村上宗隆=2022年9月2日、神宮球場 - 写真=時事通信フォト

東京ヤクルトスワローズの村上宗隆選手は、今シーズン53本塁打(9月9日現在)を記録し、ホームラン王だけでなく、打率、打点の「三冠王」を期待されている。スポーツライターの広尾晃さんは「並外れた集中力が結果に繋がり、日本では敵なしの状態だ。もしメジャーに挑戦するのであれば、身体を『魔改造』する意識が必要になる」という――。

■破天荒としか表現できない今シーズンの成績

ヤクルトの村上宗隆は、空前の成績を残しつつある。9月6日、124試合目にして53本塁打を記録したが、このペースをキープすれば、2013年に元同僚のバレンティンがマークしたシーズン60本塁打のNPB記録に並ぶ。しかもここまで7人11例しかない「三冠王」の可能性もある。破天荒としか言いようがない。

2018年、台湾で行われたアジアウインターリーグで、ヤクルトの新人村上宗隆は、同期のロッテ安田尚憲と中軸を組み、大活躍した。筆者は台中で、現地の新聞記者から「村上は同期の清宮幸太郎(日本ハム)よりも凄いんじゃないか」と言われた。村上に注目し始めたのはこの時からだ。

■前評判は早実・清宮の方が上だった

2017年のドラフトの目玉は早稲田実業の清宮幸太郎だった。7球団が1位指名、くじ引きで日本ハムが指名権を得た。清宮のくじに外れた6球団のうち、ヤクルト、巨人、楽天が九州学院の村上を指名、ヤクルトが引き当てた。つまり清宮の「外れ1位」だった。

当時の村上の評価は「強打の捕手」。高校通算52本塁打だが、1年の夏に甲子園に出場したものの4打数無安打でチームも敗退。この時点では、毎年何人かは出る「スラッガー候補」の一人であり、清宮との前評判の差は大きかった。また捕手としては「身体が大きく、足が長すぎる」との声もあり、入団後は内野コンバートがほぼ決まっていた。

1年目、清宮は19歳で7本塁打を記録「大物の片鱗見せる」と言われたが、村上は一軍はわずか6試合、1本塁打に終わる。しかし二軍では17本塁打(2位)、70打点(2位)、打率.288(3位)をマーク、順調に成長していた。

■日本人記録の184三振

そして2019年、村上はブレークする。開幕から6番三塁でスタメン出場し、36本塁打96打点と10代、高卒プロ入り2年目のNPB記録を更新した。

それ以上にすごいのは184もの三振を喫したこと。NPBのシーズン三振記録は1993年の近鉄ブライアントの204だが、村上の184三振は日本人では史上最多。山のように三振を積み上げても臆することなく、平然とバットを振り続ける村上の肝の太さに感嘆した。この年、新人王。

翌2020年、村上はさらに進化を見せる。コロナ禍で試合数が減ったこともあり本塁打は28本に減ったが、打率は前年の.231(30位)から.307(5位)と大幅上昇。三振数は115に減少した。

さらに2021年村上は39本で巨人の岡本和真と本塁打王を分け合い、リーグ2位の112打点。チームはリーグ優勝、日本一にもなり村上は最年少(21歳)でリーグMVPに輝く。

世間は「久々に表れた日本人スラッガーだ、ライバルの岡本和真と時代をつくるだろう」と誉めそやしたが、何の何の、今季は、岡本を遥かに突き放し、異次元の数字を叩きだしているのだ。

■村上の真骨頂は試合中の集中力

筆者は村上の試合を数多く見てきたが、感心するのはその「集中力」だ。

サードを守る村上は1球ごとに守備位置を変え、内野に指示を与え、マウンドの投手を激励する。ヤクルトのレギュラー陣では22歳の村上は20歳の遊撃手長岡秀樹に次ぐ若輩のはずだが42歳の石川雅規にも臆することなく声をかける。

相手ベンチに近い三塁手だけに、敵の変化をいち早く察知して声を上げる。昨年などは阪神の矢野燿大監督やコーチから「ゴチャゴチャ言うなや!」と怒鳴られたが、平然としていた。

また、打席ではどっしりと構えて、微妙なボールも悠々と見送る。今季の村上はリーグ4位の105三振。三振はホームランのコストなだけに依然として多いが、四球数はほぼ同数の102、ダントツのリーグ1位だ。敬遠数もリーグ1位の19と多いが、同時にボール球にはめったに手を出さない選球眼があるのだ。

さらに言えば、盗塁も12。50本塁打で二桁盗塁は、1950年の松竹、小鶴誠(51本塁打28盗塁)以来、史上2人目。つまり村上は、守備に就いても、打席に立っても、塁上にいても、一切集中力を切らさず、試合に入り込んでいるのだ。

このあたりも、常にのんびりした表情の清宮幸太郎とは対照的だ。

「中学時代から注目を集めてきた清宮選手は、アドバイスする人がたくさんいたから、それに合わせて体を動かしている感じだね、でも村上選手は自分から情報を取りに行って、自分で考えて動いている。その差が出始めたんじゃないか?」

ある大学野球指導者の見解だ。

■レフト側へのホームランは進化の証し

村上の進化の一端を示す数値がある。本塁打の方向だ。

●2021年 39本塁打
左方向 13本(33.3%)
中堅 4本(10.3%)
右方向 22本(56.4%)

●2022年 53本塁打
左方向 17本(32.1%)
中堅 13本(24.5%)
右方向 23本(43.4%)

左打者の村上にとって真ん中から反対方向(左方向+中堅)への本塁打が、2021年は43.6%だったのに対し、今年は56.6%と大幅に増えている。

「大谷翔平がMLBで評価されるようになったのは、真ん中から反対方向に大きなホームランを打てるようになったからだ」

アメリカのAAA(MLBの一つ下)で強打者として鳴らし、今は横浜で杉本裕太郎(オリックス)などの強打者も通う「野球道場」を経営する根鈴(ねれい)雄次(ゆうじ)氏は語る。

一見振り遅れのように見える反対方向に大きな当たりを打つためには、ボールを的確にとらえる技術と、球速に負けない腕力が必要だ。そして引っ張るだけではなく、広角に長打が打てる打者は、さまざまな投球に柔軟に対応できる。投手にはまことに厄介な存在になるのだ。

■王貞治のHR記録を更新できるペース

50本塁打はNPB史上9人目、15例目だ。しかし王貞治、野村克也、落合博満らが活躍した時代、本拠地球場は両翼90m中堅115mが標準。本塁打の2割程度は100m以下の飛距離だった。

野球殿堂博物館の王貞治のレリーフ
野球殿堂博物館の王貞治のレリーフ(写真=Captain945/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

それが1988年に東京ドームが開場して以降、日本の球場は大型化し、両翼100m中堅120mが標準となっている。100m以下の本塁打はほぼ根絶した。それ以降に50本を打ったのは5人、7例だけ。日本人選手では2002年の松井秀喜に次いで2人目だ。

史上最年少の22歳で50本を打ち、さらに本塁打を積み上げようとする村上宗隆は、今後、どんな記録を打ち立てていくのか?

NPBで野球を続け、王貞治の通算868本塁打の更新を狙うのも一つの道だろう。高卒5シーズン目での通算本塁打数は157本、これは清原和博の163本に次ぐ史上2位、王貞治の115本を凌駕している。アンタッチャブルと言われた記録の更新に期待したい思いがある。

■MLBで日本人打者が成功しないワケ

同時に、MLBへの挑戦も見てみたいところだ。

ただ、その道は非常に厳しい。ただ1人の例外を除いて、日本人打者はMLBに行けば「小型化」する。以下はMLBに挑戦した主要なNPBの強打者の長打率の変化。()内の数字は増減率。

イチロー NPB.522 →MLB.402(-23.0%)
新庄剛志 NPB.432 →MLB.370(-14.4%)
松井秀喜 NPB.583 →MLB.462(-20.8%)
城島健司 NPB.508 →MLB.411(-19.1%)
中村紀洋 NPB.469 →MLB.179(-61.8%)
青木宣親 NPB.456 →MLB.387(-15.1%)
福留孝介 NPB.487 →MLB.395(-18.9%)
秋山翔吾 NPB.454 →MLB.274(-39.6%)
筒香嘉智 NPB.528 →MLB.339(-35.8%)
鈴木誠也 NPB.570 →MLB.420(-26.3%)

長打率(SLG)は、0.500でオールスター級、0.450で中軸打者というところだが、イチローや松井秀喜のような強打者を含めNPBの各打者は軒並み数字を落としている。また、秋山以降の最近の打者の方が、下落率が大きいことがわかる。

ここ数年、MLBでは「フライボール革命」が起こり、打撃が革命的に変わっている。日本人選手はそんな流れについていけないのだ。

しかし、ただ一人、NPB時代より数字を上げている選手がいる。

大谷翔平 NPB.501 →MLB.537(+7.2%)

大谷翔平は激変するMLBに対応して数字を残しているのだ。その上、先発投手としてリーグ屈指の活躍なのだから言葉を失うが、とにかく大谷だけが「例外」なのだ。

■大谷と日本人打者の決定的な違い

大谷翔平と他のNPBの強打者は何が違うのか?

2018年、MLBに移籍した当時と、最近の大谷は身体の大きさが全く違う。大谷はMLB投手の100マイルの剛速球に対応するため、パワーアップに励み、小山のような上体を作った。

さらに大谷は毎年オフにシアトル近郊にある「ドライブライン・ベースボール」というジムに通い、動作解析などのデータをもとに自分の投球を「デザイン」している。打者としても主戦級の投球も調べ上げ、それに対応できるスイングも創り上げている。

MLBのトップクラスの選手の多くは、こういう形で自らの「投打」を創造しているのだ。

重要なことは、大谷はこうした「魔改造」を、自分の意志で行っているということ。誰かの言うことを聞くのではなく、自分で問題意識をもって、身体や技術を進化させている。もちろんその過程で専門家の意見には耳を傾けるだろうが、最終的には自分の意志なのだ。

■来年3月のWBCでの進化に期待

村上宗隆がMLBで通用するかどうかの「鍵」もここにある。彼はNPBでは向かうところ敵なしになったが、それはあくまで日本でのことだ。

多くの打者は「NPBで実績を残したのだから、MLBでもそこそこ通用するだろう」と思って海を渡るが、そうではなくて「1からMLBの野球に対応できる身体、技術、マインド」を身に付けることができるか、がカギなのだ。

22歳の村上が現状に満足することなくグレードアップできるなら、MLBでの可能性も開けるだろう。

村上宗隆の現時点での長打率は.589だが、MLBに行ってどんな数字を残すだろうか?

来年3月には第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)が行われる。今年はアメリカが本気で、若手の強打者が早くも参加を表明している。

侍ジャパンの不動の4番打者になるであろう村上宗隆にはマイアミで行われる準々決勝以降で、MLBの「最新のスター選手」たちの野球に触れて刺激を受け、さらなる「進化」を目指してほしい。

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広尾 晃(ひろお・こう)
スポーツライター
1959年、大阪府生まれ。広告制作会社、旅行雑誌編集長などを経てフリーライターに。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』、『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』(共にイースト・プレス)などがある。

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(スポーツライター 広尾 晃)

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