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中高生のスポーツが性的な好奇心の対象に…陸上の女性選手たちを苦しめる「卑猥なコメント」の数々

プレジデントオンライン / 2022年9月14日 11時15分

陸上・日本選手権混成競技の会場で、スタンドに設置された盗撮禁止を呼びかける掲示。アスリートを性的な目的で撮影した画像が拡散される被害が問題となり、JOCと日本スポーツ協会は、盗撮防止などに取り組んでいる=2021年6月12日、長野市営陸上競技場 - 写真=時事通信フォト

女子アスリートに対する盗撮行為や性的な嫌がらせが、共同通信の報道でようやく問題視されるようになった。共同通信の鎌田理沙記者は「陸上競技をしているだけで、性的な関心の対象にされてしまう。たとえば全国大会の中継サイトには大量の卑猥なコメントが寄せられたこともあった。そうした被害をみて、陸上競技を避ける人も出てきている」という――。(第1回)

※本稿は、共同通信運動部編『アスリート盗撮』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

■女子選手の盗撮被害を受けて動き出したJOC

女子選手に対する盗撮や、SNSにみだらな文章や画像を拡散されたりする被害拡大をまとめた共同通信の一報から、世の中は大きく動き出した。

2020年10月13日、当時の橋本聖子五輪相はスピードスケートと自転車で五輪に7度出場したメダリストの立場として「撮影行為で心を傷つけられた選手もいると思う。安心して競技に打ち込める環境作りが一番重要。関係者間で検討が進められ、何よりも選手に寄り添いながらしっかりと防止につなげていっていただければと思っている」と競技横断的な対策に乗り出すことを歓迎した。

日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長は各競技団体から実態や意見を聞く方針を明らかにし、日本スポーツ協会や全国高等学校体育連盟(全国高体連)とも幅広く協力していく考えを示した。それから3日後の16日、スポーツ庁の室伏広治長官が、陸上の全国中学生大会の視察で訪れた横浜市の日産スタジアムで取材に応じた。

「鉄人」と呼ばれる陸上男子ハンマー投げの五輪金メダリストは約20年前から続くとされる根深い問題に「(被害があると)認識していた」と言及。「選手を守っていくことが大切。しっかりスポーツ庁としても取り組んでいきたい」と鋭いまなざしで決意を表明した。

JOCや日本スポーツ協会など7団体が被害撲滅に取り組む共同声明を発表したのは、報道が世の中に明るみに出てからちょうど1カ月後の11月13日。それにしても驚くばかりのスピード感だった。JOCなどは今回の問題を「アスリートへの写真・動画による性的ハラスメント」と位置付け、声明では盗撮や写真・動画の悪用、悪質なSNS(交流サイト)投稿を「卑劣な行為」と厳しく非難し、犯罪として処罰される可能性があると警告。誰もが安心してスポーツに取り組める環境を守るため、理解と協力を呼び掛けた。

作成されたポスターは「盗撮」「悪用」「悪質」の言葉に赤丸を付けて強調し、日本語と英語でメッセージとして「安全な環境を、すべてのスポーツ愛好者のために」と添えられた。

■全国大会の動画配信サイトに書き込まれた“卑猥なコメント”

SNSの普及でアスリートの盗撮問題は全国の中高生にも広がる。SNSで中傷被害を受けたとしても、転載が容易なネット上の投稿すべてに対して、選手が煩雑な削除要請の手続きを行うのは現実的な解決策ではない。抜本的な解決策へスポーツ界だけでは限界があり、行政機関との連携も不可欠だった。

「今のご時世、被害は一気に広がるから深刻。今後のスポーツ界のためにも一石を投じる必要がある」。長期戦も覚悟の上で、JOCから要望書を受けた室伏長官が「大きな一歩」として協力態勢を強調したのは大変心強く、その意義は大きかった。

性的画像問題のニュースが世の中に出ると、各方面で過去にさかのぼった検証も始まり、さまざまなメディアで意見が飛び交うようになった。最初にB、C選手に話を聞いた取材で、二人が気になることを言っていた。

「全カレでライブ配信していたじゃないですか。けっこう卑猥なコメントが多かったんですけど、日本学連(日本学生陸上競技連合)で公式配信していて、そのコメントを見ていないのかな」

陸上トラックのスタートライン
写真=iStock.com/majorosl
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/majorosl

全カレとは、毎年秋口に行われる陸上競技の大学生の全国大会だ。この年は新型コロナウイルスの影響で新潟の会場は入場制限を設け、その代わり動画配信サイトで大会主催の日本学連が配信を行っていた。しかし、心ない人によって、配信のコメント欄が荒れていた時間帯があったのだという。さらに日本学連に確認すると、その書き込みが大会後の総括会議で問題視され、議題に上がっていたというのだ。

■選手の顔写真と、他人の裸体を合成された画像が出回り…

被害は一部のトップアスリートだけが対象になっているわけではなく、学生にも根深い問題として影響が広がっていた。話を聞かせてくれた大学の女性選手は、自分の顔写真が、他人の女性の裸体に合成された画像をネット上にばらまかれたことがあったという。

「それは本当に嫌だった。就職する会社の人が調べてそれを見つけたら(偽物だって)分からないじゃないですか。ツイッター社に通報したけど、なかなか消えなくて」

部活の指導者の男性監督は「彼女たちはやっぱり弱者で、声が小さい。嫌だけど我慢しているんです。ひどいことを言われるために陸上をやっているわけではなくて、かっこよくて、強い選手だなと、自分のやっていることを認めてもらうためにやっているわけです。だからそこが正確に認知されれば良いなと思います」と語気を強めて話した。

■「性的なコメントが多かった」「親とか見ていたら本当につらい」

以下に当時配信した記事を再録する。

9月に無観客で開催された陸上の日本学生対校選手権で、ライブ配信の応援メッセージ欄に出場選手に対する性的な意図の書き込みが相次ぎ、主催者による大会後の会議で問題として指摘されていたことが19日、関係者への取材で分かった。

新潟市のデンカビッグスワンスタジアムで行われた同大会は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて無観客で実施。来場ができない家族やファン向けに3日間ともライブ配信をしたが、無観客によって視聴者が増加。出場選手は取材に「性的なコメントが多かった」「親とか見ていたら本当につらい」「知り合いに指摘され、被害に気がついた」と答えた。

日本学生陸上競技連合の障子恵総務委員長(当時)は「選手や関係者を侮辱する行為は大変遺憾。書き込みは担当者のチェックで対応しているが、視聴者が増加したことで対応しきれない事態となってしまったことを重く受け止めている」と話した。法律の専門家は「内容によっては、名誉毀損(きそん)罪や侮辱罪に該当する行為だ」と指摘。「発信者情報開示請求という法的制度があることを知らずに、安易な書き込みをしている者も多いのではないか」としている。

日本オリンピック委員会(JOC)は女性アスリートの性的な撮影被害や画像拡散の問題について、日本スポーツ協会や全国高等学校体育連盟(全国高体連)などと連携して対策に乗り出す。加盟する各競技団体から実態や意見を聞く方針で検討を進めている。(共同通信 20年10月19日配信)

■1日に2~3件はSNSに卑猥なメッセージが届いている

女性アスリートの性的な撮影被害や画像拡散の問題は、トップ選手だけでなく学生スポーツ界にも広がる。交流サイト(SNS)を通じて卑劣な言葉が送られてきたり、加工した写真を性的な意図で流布されたりなど、嫌がらせの実態は深刻だ。日本オリンピック委員会は全国高等学校体育連盟などと連携して競技横断的な対策に乗り出すが、SNSの取り締まりには壁があり、法整備の課題も抱える。以下に当時配信した記事を再録する。

暗い所でスマホを見ている人
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages
▽いたちごっこ

「事実と反するうそなので、許せない。社会に出て就職した時に(検索されたら)困る」。大学の陸上部に所属する女子選手は、性交渉をしている他人の体に自分の顔を合成された動画が拡散された。ツイッター社に要請して消去される投稿はあったものの「私が何回削除要請しても違うアカウントでやられる。無くならない」と、いたちごっこの状況を訴える。

ツイッターやインスタグラムのDM(ダイレクトメッセージ)で、自分の体の一部がアップになった画像や、みだらな文言が直接届くことは日常茶飯事という。「1日2~3件は送られてくる」と選手。高校2年時から被害を受けていた別の陸上選手は「慣れるというよりかは見ないようにしている」と打ち明けた。害が及んでも相談できないのが実情だ。

「お母さんにも言いづらい。悲しむだろうし、親や先生に見られているのが嫌だ」と心境を語る。

■中高生までが性的な好奇心の対象にされている

▽名誉毀損罪も

ビーチバレー女子の坂口佳穂選手(24)=マイナビ/KBSC=は競技を始めた大学1年の時に、自身の画像が性的な文言とともにインターネット上で広がっていることを両親や友人から伝えられた。

共同通信運動部編『アスリート盗撮』(ちくま新書)
共同通信運動部編『アスリート盗撮』(ちくま新書)

「若ければ若いほど気にしてしまうと思う。そういう被害を見て、競技をやりたくないとなってしまうのが一番つらい」と言う。10月には人工知能(AI)技術を使って女性芸能人のわいせつ動画を無断で制作し、ネット上に公開したとして、名誉毀損と著作権法違反の罪で起訴された事例があった。こうした偽動画の技術は「ディープフェイク」と呼ばれる。

性犯罪被害に詳しい上谷さくら弁護士は「アイコラ(アイドルなど有名人の写真を加工する合成画像)やディープフェイクは、現時点ではせいぜい名誉毀損罪が成立する程度。明確に性犯罪という位置付けで立法化することが求められている」と指摘。「親に心配をかけたくないという心理も働くし、泣き寝入りしやすい。スポーツの場で、中高生までが性的な好奇心の対象にされて傷ついていることは重大な問題だ」と話している。(共同通信 20年10月31日配信)

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鎌田 理沙(かまた・りさ)
共同通信 記者
1995年東京都生まれ。早稲田大卒。2019年入社。松江支局で県警取材などを経て2020年本社運動部へ。現在は名古屋支社運動部。品川記者らと報道したアスリートの性的画像問題で2021年度新聞協会賞候補に。

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(共同通信 記者 鎌田 理沙)

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