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「たぶん、死刑になってもやる人はいます」ゲーム感覚でスカートの中を撮る"盗撮常習犯"の実態

プレジデントオンライン / 2022年9月15日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sorapop

警察庁の統計によると、2021年の盗撮事犯の検挙件数は5019件で過去最多を更新した。共同通信の田村崇仁記者は「日本は『盗撮大国』とも呼ばれており、学校や職場などで深刻な問題になっている。再犯率は4割に迫り、逮捕されるケースは氷山の一角だ」という――。(第2回)

※本稿は、共同通信運動部編『アスリート盗撮』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

■検挙件数が過去最多を更新している「盗撮大国」

「盗撮大国」とも呼ばれる日本ではアスリートの性的画像被害だけでなく、駅やショッピングモールなど商業施設で盗撮のニュースが連日のように世間を騒がせ、学校、職場、航空機内でも深刻な問題になっている。

警察庁の統計によると、盗撮事犯の検挙件数は2010年の1741件から21年は3倍近い5019件で過去最多を更新。そのうち約8割に当たる3950件がスマートフォンによるものだ。ごく普通の会社員ばかりでなく、警察官や教職員が逮捕されるケースも少なくない。いくら被害の対策を強化しても、加害者が減らなければ問題解決に近づかない実情がある。

日常的なスポーツニュースの業務と並行してアスリート盗撮の記事を編集するデスク作業に追われながら、ずっと心に引っかかっていたことがあった。勇気を出して声を上げた女性アスリートがいる一方で、盗撮する加害者の実態にも目を向けなければ、問題の本質には立体的に迫れないのではないか。再犯率は4割に迫るという盗撮の動機はどこにあるのかと――。

■「心理的なハードルも低く、ゲームに近い感覚でした」

盗撮と一口に言ってもさまざまなケースがあり、動機もひとくくりにはできないが、盗撮事件を起こした経験のある40代男性Aさんに直接会って取材する機会を得た。22年6月2日。顔を合わせることに多少の緊張感や構えるところもあったが、実際に会ってみると、むしろこちらが拍子抜けするほど礼儀正しく、もの静かな印象だった。

事件化した当時、スマホには女性の盗撮画像データが過去5~6年分で2000枚近く残されており、いわゆる常習犯だ。動機を聞くと、静かに語り始めた。

「痴漢は触るけど、盗撮はばれなければやっていないのと一緒と思っていました。心理的なハードルも低く、相手の尊厳を傷つけるという意識もなかった。ゲームに近い感覚でした」

19年秋、電車の中で女子高生のスカートの下にスマホを差し込み、下半身を動画で撮影した。いつも通り誰にも気づかれないと思ったが、近くにいた乗客の男性に「携帯見せて」と声を掛けられ、初めて現場を取り押さえられて事件化した。

「頭真っ白になりましたね、一瞬。一つの人生が終わったな、どうすればいいんだろうと」

もともと中学の教師として「清く正しく」をモットーに15年近く生徒を指導してきたが、職場に連絡が行くとほどなく懲戒免職になった。「盗撮で捕まる半年前に、電車の中で痴漢を捕まえたこともある。職場で紹介され、女性の味方ね、なんて言われていた」と打ち明ける。

駅に配置されている警察官
写真=iStock.com/coward_lion
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/coward_lion

■「盗撮をやっているときはパーンと全部飛ぶんですよ」

本来の自分の姿とのギャップに葛藤も抱えながら「明日はわが身、と見ている自分がいてプレッシャーだった」。それが今度は一転して自分が警察で取り調べられる立場に。結局、被害者不詳のまま書類送検された。

「盗撮をやっているときはパーンと全部飛ぶんですよ。スイッチがパーンと入ると全部忘れる。周りが見えないんです」何度かやめようと思ったことはあった。でもやめられなかった。「一生墓場まで背負っていかなくちゃいけないんだ」と追い込まれ、どんどん心の闇を深めていった。

最初に手を染めたのは大学時代。「ガラケー」と呼ばれる従来型携帯電話にカメラ機能が付いたのがきっかけだった。「最初は好奇心。撮りたくてカメラ付きを買ったのでなく、やってみたら撮れた」

だが駅のエスカレーターで「見つかったらどうしようとドキドキしながら」一度成功すると、そこからエスカレートしていった。

「性的な衝動というより、撮ることがメイン。毎日見返すこともほぼなく、撮れたかどうか見たら満足してしまう」

競馬や携帯ゲームにはまると、まったく撮らない時期もある。だが自身の「盗撮周期」に入ると、2~3カ月に1回から週1回、毎日、さらに電車を乗り換えるたびに実行するほど頻度が上がり、歯止めが効かなくなった。自分では気づかないほど盗撮の手法も大胆になり、撮ったものより撮る行為に「依存」するようになっていた。

■供給する人がいるから需要が生まれる

現在は盗撮行為の再発防止へ「わらにもすがる思いだった」と「自助グループ」に参加して悩みを共有し、回復を目指している。「自分を振り返ると、性に対するタブー意識がものすごかった。小学生ぐらいまで下ネタも一切駄目。エッチな話なんてお酒の席でもあり得ない」という人生だった。

共同通信運動部編『アスリート盗撮』(ちくま新書)
共同通信運動部編『アスリート盗撮』(ちくま新書)

「今、まったくそういう衝動が起こらないことはないんです。きれいな制服の着こなし方の女性がいたらドキッとしますし、撮れるかなと思っちゃったりする。ただ今は撮らないという選択ができるようになった」と心境を打ち明けた。アスリートの盗撮問題は、教員時代の20年前から知っていたという。自身はネットに画像をアップした経験もなく、何かを言える立場にないと前置きしながら見解を語った。

「どちらかというと供給する人がいるから需要が生まれる感じがする。日本っていう国、社会にはびこっている価値観。それが大きくて。ビーチバレーの写真でも性的な切り取り方をしている。日本人の女性に対する見方が今回のアスリート問題。厳罰化すればなくなるなんて、そんな単純なものでない。被害は減らない」

盗撮動画や画像の売買がネットで横行していることも把握していた。「お金になるかなと思った時期もあったけど、自分の中ではハードルが高かった」と足がつくリスクも考えて踏み込まなかったという。

■逮捕されるケースは氷山の一角

盗撮被害をなくすためにはどうしたらいいのか――。「法整備の厳罰化は抑止力になるか」と聞くと、少し考えて「たぶん死刑になっても、やる人はいます」と断言した。その上で問題を根っこから絶つには、元教員らしく「相手のことを思いやる丁寧な人権教育と治療しかない」と強調した。

「これ以上の加害者を増やさないこと。私1人捕まえて盗撮しないとなれば、仮に撮られたのが1人1枚だったとすれば、2、3000人の被害が減る。男性の意識が変わっていかないと。社会全体の構造を変えていかないといけない」と指摘した。

15年の犯罪白書によると、盗撮には常習性が伴う一方、初犯では実刑に至らないケースも多く、再犯率は36.4パーセント。実に3人に1人が再び犯行に及んでいる。平均年齢は37.4歳。婚姻状況が未婚の者の割合が約6割、教育程度では大学進学の割合が約4割と高いデータが示されていた。

確かに盗撮の常習犯でニュースになるのは医師や公務員、警察官や大学教授といった社会的地位の高い人も多い。盗撮事例に詳しい弁護士によると、非接触型の盗撮で逮捕されるケースはそれでも氷山の一角。動機として最も分かりやすいのが他人の下着や身体が見たいという性的な衝動だ。

職場や家庭でのストレスが要因のことも多い。次に女性に対する優越感やスリルを味わうことに目的が転化する場合があるという。さらに深刻化した場合、盗撮が病的に常習化してしまう傾向がある。

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田村 崇仁(たむら・たかひと)
共同通信 記者
1973年群馬県生まれ。早稲田大卒。96年入社。サッカーやプロ野球、JOCキャップを経てロンドン支局駐在。現在は運動部デスク。柔道女子の暴力パワハラ問題取材班(代表)で2013年度新聞協会賞受賞。

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(共同通信 記者 田村 崇仁)

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