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超小型カメラの普及で被害が拡大…数百億円の「市場規模」がある盗撮マーケットの悪質な実態

プレジデントオンライン / 2022年9月16日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BestForLater91

盗撮した写真や動画を販売する「盗撮サイト」の被害が深刻化している。共同通信の田村崇仁記者は「人気の盗撮サイトでは1カ月1万円弱で会員登録ができ、さまざまな『盗撮動画』を閲覧できる仕組みになっている。市場規模は数百億円ともいわれており、盗撮手法も巧妙化している」という――。(第3回)

※本稿は、共同通信運動部編『アスリート盗撮』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

■大型DVDショップで展開されている「盗撮コーナー」

電器店が並ぶ街の東京都内最大級の大型DVDショップ。4階の盗撮コーナーに足を運ぶと、陸上や水泳、体操、新体操、テニス、バドミントン、バレーボール、ビーチバレーなど多種多様なスポーツの競技別に「盗撮シリーズ」が品揃えされている状況に驚かされる。

スポーツを応援する「チアリーダー」を対象にしたものもマニアに人気が高いようで、競技別から全国高校総体や大学の応援団まで細分化されて種類が豊富だ。ブラジルの情熱的な踊りで有名なサンバも対象で「サンバ盗撮」の特設コーナーも存在している。日本では最大級の「浅草サンバカーニバル」が知られ、ダンサーたちは本場ブラジルの露出が多いタイプの衣装を着用してサンバ文化を日本に発信している思いも背景にあるが、地下マーケットの闇は深刻な現実でもある。

今の時代、ネットを検索すれば、アスリートの性的画像や盗撮サイトは大量に情報があふれ、競技別や年代別で動画も販売されている。人気サイトに行くと、1カ月1万円弱で会員登録できる仕組みでさまざまな「盗撮動画」が閲覧可能だ。こうしたビジネスは当然ながら、需要と供給のバランスで成立するものである。

世の中に大量に出回る盗撮サイトは大半が「やらせ」との指摘もある。だが有料盗撮サイトが氾濫するのは「リアルな盗撮もの」があり、ネットビジネスに精通した関係者によると、相場はまちまちとはいえ、画像や動画が数千円から数十万円で個人間の「言い値」により取引されている現実があるからだ。

■強固な情報交換のネットワークを持つ盗撮マニアたち

盗撮を含めてネット上の実情に詳しい人物は「ツイッターが国内で認知、一般化し始めた11年前後から既にこうした問題を把握していた。アスリート盗撮に限って言えばその中でもごく一部のマニアのものであり、撮影にそれなりの技術や機材を要する」と指摘。そのうえで盗撮する側の目的は「性的嗜好(しこう)」「金儲け」「個人的な不満の解消(復讐(ふくしゅう)心)」の3つに大きく分かれると分析する。

「盗撮」は「逆鳥」「逆さ鳥」などの隠語があり、全国のどこでも小さなイベントがあれば、盗撮マニアが集まるといわれる。情報交換するネットワークは水面下で強固につくられ、現場で撮影カメラマンをスカウトすることもあるという。

スマホの普及を背景にした盗撮の増加やネットビジネスの現状については「それ(盗撮写真)を売りにする紙媒体は昔から存在しているため、技術の発達により撮影も販売も「個人」が簡単にできるようになっただけ。需給状態や市場構造が変わったわけではないと考える」と説明した。

暗い所でスマホを使用する人の手元
写真=iStock.com/Mindful Media
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mindful Media

1980年代から撮影しているという男性の盗撮サイトでは性的画像の定義や近年の取り締まり強化に疑問を呈し、定期的な「作品」のリリースを「知恵と工夫が必要なマラソンのような営み」と表現。「表現の自由」を訴える記載もあった。

■10年以上前から盗撮画像は売買されていた

11年11月、千葉市の幕張メッセで行われた新体操の全日本選手権。観客席の最前列に3人組のカメラを持参した学生がいた。体操関係者は「明らかにカメラを構える角度や撮影の方法がおかしかった。典型的なカメラ小僧タイプだった」と当時を振り返る。

かつて体操界は観客の撮影を許可していたが、一部雑誌やネットで選手の望まない画像や動画が掲載される被害が相次ぎ、00年から撮影は申請制に移行。04年からは観客による撮影の原則禁止を定めた。しかし、当時のケースは「規制の網」をすり抜けて会場入りした形だった。

この関係者によると、もう一人の大会関係者と一緒に学生を一人ずつ別室に呼んで「何を撮っていたんだ」と問いただすと、あっさり非を認めたためカメラのフィルムごとすべて抜き取ったという。「初犯だった」ということで、警察に突き出すことはしなかった。

当時、ネット上では無断で撮影された盗撮画像が売買されることは今ほど深刻化していなかったが、体操関係者は「学生同好会の彼らは各競技会場に手を替え品を替えてやってくる。規制をかけてもマニアにとってはやめられない。罰則をもっと厳しくする必要があった」と10年以上前から続く問題に疑問を投げかけた。

そんな時代からスマホの普及やネットビジネスの拡大に伴い、盗撮を巡る動きも大きく変化したということだろう。アスリート盗撮を取り巻く環境も急速に変わった現実がある。

■女子生徒のスカートを盗撮して販売した中学2年生の男子生徒

最近は盗撮加害者の若年化も指摘されている。20年2月、奈良県生駒市の市立中学校で、複数の中学2年の男子生徒が校内でスマホや小型カメラを使い、女子生徒のスカートの中や着替え姿を盗撮したというニュースが世間の話題となった。

男子生徒は無料通信アプリLINE(ライン)で画像を共有し、画像提供代として300~500円のやりとりがあった可能性も指摘された。学校と同市教育委員会が聞き取り調査を実施し、少なくとも十数人が被害に遭ったとみられ、学校側の聞き取りに男子生徒は「興味本位だった」と事実を認めたという。LINEで画像共有すれば外部流出の危険性もあり、売買までしたとなれば「中学生のいたずら」では済まされない事態だ。

こうした問題に2~3年前から危機感を強め、福岡県北九州市で盗撮の「防犯ボランティア」を務めるのは2人の子どもを育てる山内千春さんだ。

「最近はお小遣い稼ぎの感覚で盗撮できる環境があり、中高生が加害者になる逆転現象も増えている。子どもへの盗撮も予想以上に横行している。小さなビジネスかもしれないけど、罪の意識が薄いからできている。子を持つ親としてやらんといけん」と立ち上がった。

週1~2回は地道なパトロール活動を展開し、盗聴や盗撮を請け負う調査会社が開発した専用機材を使って公衆トイレや商業施設に高性能小型カメラが隠されていないかどうか点検。企業や学校と協力して啓発活動やイベント研修も実施し、盗撮防止を呼びかけるトイレットペーパーやステッカーも製作して注意喚起する。

■公衆トイレやコンビニなどが狙われやすい

見回りして気づかされるのは日常生活に「盗撮の危険性」が隠れているという実態だ。

「今、1000円台の安価で手に入る小型化したカメラの中に記録媒体があって、それを仕掛けておいて後から回収すれば簡単に盗撮できる。ペン型やUSB型、フック型の小型カメラもあり、ねじ穴の中にカメラが仕込まれることもある」と巧妙化する手口を解説。

「公衆トイレやコンビニ、カフェ、ファストフード店など女性とか子どもがよく使うところは狙われやすい。加害者側がこういうトイレにはカメラを仕掛けたくないとなれば、抑止につながる。盗撮の実態や現状を周知しないと予防もできない」と指摘した。

女性用の公衆トイレ
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

全国展開を目指すボランティアの代表として活動する中で、加害者側と偶然知り合ってコンタクトを取ることもあったという。「彼らが盗撮を繰り返す原因は、負の成功体験。最初はストレス発散や性的衝動から見つかるかも、と恐れながら成功したことで常習化していく。

盗撮をビジネス化している人たちはもっと単純でお金のためにやっている感覚。結構、タイプは二分化するのかもしれない。一度やめられた人でも何かをきっかけにして、またやりかねないという恐怖がある」と負のスパイラルにはまる現状を分析した。

■「超小型カメラ」の普及で盗撮行為が手軽になってしまった

近年はSNSや動画投稿サイトが広く使われ、選手の画像に卑猥な言葉を付けて投稿したり、選手の写真に体液をかけた画像を掲載したりするダイレクトな被害が深刻化している。新型コロナウイルス禍で「無観客開催」となった大会でLIVE配信したところ、ネットの応援メッセージ欄に特定の選手に対する性的な書き込みが増えた事例もあった。

犯罪被害者の支援などに当たる日本司法支援センター(法テラス)によると、最近の事例で3つの問い合わせケースがあった。

1つは駅のホームでスカートの中を盗撮されたが、加害者が未成年だったため処分できないのは納得できないというもの。2つ目は職場のトイレにカメラを設置され、その後に犯人は店長だったことが判明。慰謝料を請求できないかというケース。3つ目は流行している「マッチングアプリ」で出会った男性に無断で裸の写真を撮られたが、画像がネット上で流出する前に削除してほしいというものだった。

こうした身近な生活空間で盗撮行為が増えている理由に「超小型カメラ」の普及があり、ネットの通販サイトで簡単に「グッズ」が数千円の手軽な価格で買えてしまう実態がある。超小型カメラを検索すると、靴の先に小さな穴を開けて忍ばせるタイプやカバンに入れる典型的なもの、ボールペンに仕込むペン型、置き時計型の隠しカメラ、ボタン型やねじ型、USB型などさまざまなタイプのものが次々と出てくる。

超小型カメラ
写真=iStock.com/ploy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ploy

■盗撮グッズや無音アプリなど、手口が巧妙化している

21年2月、順天堂大の医師が逮捕されたケースは路上で女子高校生に背後から近づき、小型カメラを仕込んだ靴をスカート内に向けて盗撮した疑いだった。18年1月、30代の男性が名古屋市内の満員電車内で小型カメラを仕込んだスニーカーを女性の足元に差し入れ、下着などを動画撮影した疑いで逮捕されたケースもあった。

直径数ミリのレンズの黒いカメラを貼り付け、コードでつないだリモコンで録画操作したとみられている。これらの商品は「身近な防犯や会議・商談、ご自宅や職場などでの盗難やいたずらの証拠映像の撮影など様々なシーンで役立つ」との用途説明があるが、盗撮グッズとして使用されているケースも少なくない。

一方、最近では特殊な超小型カメラを買わなくても、スマホ一台で撮影時にシャッター音が出ない「無音アプリ」を盗撮で使用しているケースも多く、手口が巧妙化しているのが実情だ。スポーツの競技会場でも最近取り締まりを強化しているものの、盗撮グッズの性能が高まることで皮肉にも被害のパターンが広がり、いたちごっこが続く現実がある。

■盗撮サイト市場は数百億円規模ともいわれる

共同通信運動部編『アスリート盗撮』(ちくま新書)
共同通信運動部編『アスリート盗撮』(ちくま新書)

警察庁の資料によると、盗撮被害の犯行場所別検挙件数(21年)で最も多いのは「駅構内」で「電車」と二つを合計すると1413件となり、全体の約3割を占める。次いで多いのはショッピングモールなどの商業施設で1036件。専門家の分析では痴漢に比べて、非接触型の盗撮はリスクが低く、手軽なことも増加の背景にあるようだ。

さらに時代の変化で大きくなる盗撮サイト市場は数百億円規模ともいわれる。だがアスリートの性的画像や動画が水面下で実際どのぐらい拡大しているのか詳細なデータはない。前出のネット上の犯罪に詳しい人物は、盗撮に関する営利目的のサイトが増える市場規模について「露出の多いコスプレイベントでのローアングル盗撮やモーターショーのコンパニオン盗撮は比較的規模が大きいとされるが、その他は個人が学校や駅で盗撮した写真を売るというもの。盗撮のマーケットに関して客観的な規模は分からない」と説明した。

■一刻も早い法整備の見直しが必要

アスリートの盗撮サイトでは「インターネットサイトを見て興味が湧いた」との証言もあるように、個人の盗撮行為を誘発するケースが少なくない。ただ基本的に個人が各ジャンルで個別に販売しているケースが大半だ。

マニア向けの地下マーケットのため具体的な「市場データ」がないという現実もある。そこがこの問題の難しさでもある。今後は盗撮行為そのものに対する取り締まりだけでなく、一刻も早く盗撮サイトの対策を強化し、現行法では限界があるため法整備を含めた見直しの必要に迫られている。

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田村 崇仁(たむら・たかひと)
共同通信 記者
1973年群馬県生まれ。早稲田大卒。96年入社。サッカーやプロ野球、JOCキャップを経てロンドン支局駐在。現在は運動部デスク。柔道女子の暴力パワハラ問題取材班(代表)で2013年度新聞協会賞受賞。

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(共同通信 記者 田村 崇仁)

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