1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

もっと真摯に沖縄を掘り下げるべきだった…「ちむどんどん」が朝ドラ史上最悪の評判になっているワケ

プレジデントオンライン / 2022年9月13日 10時15分

画像=NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」オフィシャルページより

NHKの朝ドラ「ちむどんどん」をめぐってネット上での批判がやまない。コラムニストの木村隆志さんは「朝ドラとしては『毒にも薬にもならない作品』という程度なのだが、ネット上の批判が増え、『毒としか思えない』と感じる人が多くなってしまった。本土復帰50年の節目の作品として、もっと真摯に沖縄を掘り下げていれば、印象は違ったはずだ」という――。

■「#ちむどんどん反省会」の厳しいダメ出し

9月30日の最終話まで残り3週とゴールが見えてきた朝ドラ「ちむどんどん」(NHK)。同作は今後の朝ドラにも大きな影響を及ぼすであろう、とんでもないものを生み出してしまった。

それは一部の視聴者によって連日書き込まれる「#ちむどんどん反省会」。毎朝、放送終了後から書き込まれるツイートにつけられたハッシュタグのことであり、残りわずかになった現在まで、そのほとんどが厳しいダメ出しで占められている。

主に物語と登場人物がダメ出しされているのだが、放送が進むにつれてエスカレートし、脚本家・羽原大介や主演・黒島結菜を名指しで責める誹謗(ひぼう)中傷に近いものすら見かけるようになってしまった。

■「嫌なら見るな」は通用しない朝ドラ

ここまでダメ出しがエスカレートしたのは、朝ドラに「嫌なら見なければいいじゃないか」という理屈は通用しないから。「朝ドラは生活習慣の一部」「NHKには受信料を払っている」などの理由で「ダメだから」では許してもらえないのだ。

そんな状況を見た一部のメディアは、「大幅に再編集か」「打ち切りは?」などと報じたがるが、編成や撮影・編集のスケジュールを踏まえると、「批判を受けたから」くらいでそれらが行われることはありえない。むしろ、それなりに視聴率はとれているし、「NHKプラス」の再生数アップに貢献しているのだから、その意味では社内評価されるべきという声も聞こえてくる。

結果的になぜ“反省会”という名のダメ出しがここまで盛り上がってしまったのか。また、称賛を得るためには何が必要だったのか。ネット上の「駄作」という声に流されず、フラットな視点から掘り下げていく。

■「戦前・戦後の偉人伝」という勝ちパターン

このところ私のもとには、さまざまなメディアから「『ちむどんどん』の評価を聞きたい」という問い合わせが相次いでいる。

その中には批判的なコメントが欲しい編集者も、「褒めるところを挙げるとしたら」と逆をゆく編集者もいるが、私が必ず答えているのは「朝ドラとしては特に良くも悪くもない普通の作品」という言葉。あえて批判的に言うとしても、「毒にも薬にもならない作品」という程度で、わざわざ熱を上げて怒るほどのものではないと感じている。

朝ドラは2000年代前半まで30%に迫る世帯視聴率を叩き出していたが、2000年代後半に入ると、貫地谷しほり主演「ちりとてちん」、榮倉奈々主演「瞳」、三倉茉奈・佳奈主演「だんだん」、多部未華子主演「つばさ」と4作連続で10%台まで落ち込み、数字の低迷以上に「つまらない」などと内容を疑問視されていた。

その後、世帯視聴率は開始時刻が8時15分から8時に前倒しされた2010年の松下奈緒主演「ゲゲゲの女房」でV字回復。以降は、尾野真千子主演「カーネーション」、吉高由里子主演「花子とアン」、波瑠主演「あさが来た」、高畑充希主演「とと姉ちゃん」など、“戦前・戦後の偉人伝”を軸にした作品が放送され、高視聴率と支持を得続けてきた。

一昨年秋から昨年春に放送された杉咲花主演「おちょやん」まではその“戦前・戦後の偉人伝”路線だったが、この路線を10年にわたって放送したため、主人公のモデル探しや視聴者の「飽き」などの観点から、これまで同様のペースで続けていくことは難しい。

そこで東日本大震災を扱った清原果耶主演「おかえりモネ」、3世代100年を描いた上白石萌音・深津絵里・川栄李奈主演「カムカムエヴリバディ」というイレギュラーな2作を経て、現在の「ちむどんどん」に至っている。

つまり「ちむどんどん」は、「いったん“戦前・戦後の偉人伝”から離れようとしている中で生まれた作品」ということ。時代背景とモデル不在という意味では、V字回復した2010年代より低迷が叫ばれた2000年代後半の作品に近いのだが、たとえば前述した「瞳」「つばさ」と比べたとき、決して脚本・演出のレベルが低いとは思えない。

■「ちむどんどん」だけ出来が悪いわけではない

平たく言えば、かつてはこんな感じの朝ドラはたくさんあったのだ。そもそも時代背景だけを取ってみても、復興後の昭和・平成の物語は、大きな出来事が次々に起きる戦前・戦後よりも難易度が高いだけに、「『ちむどんどん』だけが飛び抜けて出来が悪い」と決めつけるのは一方的な見方ではないか。

ちなみに10月スタートの次作「舞い上がれ!」も、主に平成が舞台の物語で主人公のモデル不在だが、次々作「らんまん」と次々々作「ブギウギ」は、再び戦前・戦後の偉人伝に戻る。やはりこちらのほうが手堅く数字を稼げるほか、“反省会”という苦境に陥るリスクが少ないのかもしれない。

■愛されないヒロインとその家族

ではなぜここまでダメ出しを受ける結果を招いてしまったのか。

今や社会現象のように加熱しているだけに、その理由は1つではなさそうだが、最有力視されるのは「国民的ヒロインになるはずの主人公・暢子(黒島結菜)」が愛しづらいキャラクターだから。

2015年8月22日、映画『at Home アットホーム』公開初日の舞台あいさつに登壇した女優の黒島結菜さん(東京都新宿区のバルト9)
2015年8月22日、映画『at Home アットホーム』公開初日の舞台あいさつに登壇した女優の黒島結菜さん(東京都新宿区のバルト9)(写真=時事通信フォト)

料理人を目指して上京後、「オーナーや先輩料理人に反発しすぎ」「髪を束ねず不衛生」「略奪で恋を成就させた」「婚約者の母への押しつけ弁当」など、その未熟さをダメ出しする形で反省会が盛り上がっていった。

もともと朝ドラのヒロインは、「未熟な状態から努力を重ねて成長していく姿を見せていく」のがセオリーだが、当作の暢子は努力するシーンが少ない上になかなか成長しない。折り返し地点を過ぎても、最終話が近づいてきても、未熟な振る舞いを繰り返す姿に、視聴者が不満を抱いているのだ。

その「愛しづらい」という点では、暢子の家族も同様だろう。繰り返し詐欺に遭って家族を窮地に追い込んだほか、助けてくれた養豚場の父娘を何度も裏切る兄・賢秀(竜星涼)、その兄を甘やかして金を与え続け家計を逼迫(ひっぱく)させる母・優子(仲間由紀恵)、勤務先でも嫁ぎ先でも常にいら立ち自分の考えをぶつける良子(川口春奈)。

■制作サイドの問題

「ちむどんどん」は放送前から「家族の物語」であることを打ち出していただけに、なぜこれほど視聴者が愛しづらい設定ばかりにしてしまったのか。その点は理解不能であり、視聴者を「感情移入も応援もできない」という心理状態にさせている。

なかでも賢秀の設定に関しては、「ダメな家族を入れてヒロインの物語を動かしていく」という朝ドラの定番を踏襲したものだが、ネット上の反響を狙ってダメ男ぶりをエスカレートしすぎた感は否めない。この点は制作サイドが「安易だった」とダメ出しされても反論できないはずだ。

■負の感情を増幅した「反省会」

また、冒頭に挙げた「#ちむどんどん反省会」が盛り上がったことが、ダメ出しの数を雪だるま式に増やしてしまったのは間違いないだろう。

連日ダメ出ししやすいところだけをピックアップして、よかったところはスルー。人々が競い合うようにアップしていくため、これまでなら気にならなかったレベルのものまでがダメ出しの対象となり、それに「いいね」が押されることで「ありえない」「ひどすぎる」という負の感情が増していく。

前述したように「毒にも薬にもならない作品」という程度のはずが、「毒としか思えない」と感じる人が多くなってしまったのは、負の感情を日々積み重ねていったところが大きいのではないか。

■ただそれっぽいものを放り込んだだけ

では、「ちむどんどん」が称賛を得るとしたら、何をどうすればよかったのか。

その答えは至ってシンプルで、「もっと真摯(しんし)に沖縄を掘り下げる」こと。当作は沖縄本土復帰50年の節目に制作された作品であり、放送前は誰もが「それが放送意義なのだろう」と思っていた。

しかし、ふたを開けてみたら、本土復帰の様子や当時の心理描写はさほど描かれず、第5週で暢子が上京して以降は、沖縄のシーンそのものが激減。時折、実家、優子が務める共同売店、良子が務める小学校が映されるくらいで沖縄のイメージは薄く、歴史や文化、復帰前後の県民感情などが描かれることはほとんどない。

沖縄を感じさせるのは、オープニングのアニメーションと、「でーじ」(すごく)、「あきさみよ」(あらまあ)、「まさかや」(本当?)、「まーさん」(おいしい)、「ぼってかす」(バカ)などの沖縄ことばくらい。ただこれらは本土復帰という節目とはほとんど関係なく、「ただ沖縄っぽいものを放り込んだだけ」という印象が強い。

■評価を上げるラストチャンスは沖縄の扱い方

決して制作サイドが沖縄を軽視したわけではないだろうが、美しい自然を含め、せっかくの舞台を消化しきれなかったことが、称賛を得るチャンスを逃したように見える。

もし制作サイドが「沖縄よりも食を優先させたかった」としても、それなら料理修業やメニュー開発などのシーンをもっと増やし、その色を鮮明にすべきだったのではないか。

沖縄、食、家族。結果的にどれも掘り下げたようにも見えず、その優先順位もあいまいなため、どれも魅力を感じづらかったこと。それが細部までダメ出しされる背景になった感は否めない。

12日からの第23週では店の建て直しが描かれる予定だが、残る最後の2週はどんな物語を見せてくれるのか。

暢子の出産と子育て、賢秀と清恵(佐津川愛美)、歌子(上白石萌歌)と智(前田公輝)の恋は当然描かれるとして、それ以外で「沖縄にまつわる魅力的なエピソードをどれだけ見せられるのか」が称賛を得る最後のチャンスかもしれない。

----------

木村 隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、エンタメ、時事、人間関係を専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、2万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

----------

(コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者 木村 隆志)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください