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日本だけの「専守防衛」は現実的にあり得ない…橋下徹が「グループ専守防衛論」を力説する理由

プレジデントオンライン / 2022年9月16日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/akiyoko

他国からの攻撃に日本はどう備えるべきか。元大阪市長の橋下徹さんは「専守防衛の範囲で集団的自衛権を行使するという政府の説明では、先制攻撃となりかねない。グループ専守防衛という考え方であればこの問題は解決できる」という。憲法学者の木村草太さんとの対談をまとめた『対話からはじまる憲法』(河出文庫)より、一部を紹介しよう――。

■「専守防衛は守りたい」という国民は多いが…

【木村】「専守防衛」という概念がありますよね。平成17年の防衛白書によれば、「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいう」とあります。

各新聞がやっている世論調査の大まかな傾向を見ると、「専守防衛を変える」は反対多数ですが、「集団的自衛権限定容認」は拮抗(きっこう)~賛成多数なんです。

【橋下】賛成多数なの?

【木村】そうなんです。「攻められない限りは攻めない」という専守防衛は守りたいけれども、攻められなくても集団的自衛権の行使はしてよいと考えている。相互に矛盾するはずの専守防衛と集団的自衛権とが、世論調査では同居しています。これは世論の戸惑いを反映しているのだろうと思いました。もちろん、新しい政府解釈が認めた集団的自衛権の範囲は、アメリカが日本のために戦ってくれている場合に限定されている、と国民が理解している可能性はありますが。

■集団的自衛権をお守りみたいに考えている

【橋下】ウクライナ侵攻のこともあって、国民が集団的自衛権というものについて自衛権の具体的な行使の場面を想定しているのではなく、やっぱりNATOのようなお守りみたいに考えているので、専守防衛概念との論理的整合性までを詰めていないんだと思う。専守防衛と集団的自衛権の論理的関係性なんて、法律家の中でもきちんと整理できている人は少ないからね。

他国に攻められないようにするためには、グループで守る、守られるの関係が必要だと。グループ内の他国が攻められた場合にこちらも協力するからこそ、自分も守ってもらえるのだと。

【木村】「他国も含めた専守防衛」という概念になってきていると。自他境界が曖昧になってきている。

■憲法論で語られてこなかった「グループ専守防衛」

【橋下】そう。グループだよね。今まで一国だけで専守防衛というものを考え、日本が攻められたときに反撃するという絶対的なスタートラインから自衛権論、憲法9条論を組み立てていたところから、グループ単位で専守防衛を考える自衛権論、憲法9条論へ。これは国際情勢の変化、安全保障環境の変化によって憲法論も当然変わってくるものだと思います。グループが攻撃を受ければ、グループで反撃する。

【木村】いわば「グループ専守防衛」論ですね。

【橋下】今まで憲法論で語られてこなかった視点ですよね。

【木村】そこは、現行憲法では越えてはいけない一線だったはずです。安保法制での政府の説明は、「専守防衛の範囲で集団的自衛権を行使します」というものです。専守防衛は日本が攻められない限り攻めないという話なので、他国が関係する集団的自衛権と一緒に語られるのは意味がわかりませんし、それがあくまで日本のためなのだとしたら、現在の政府の説明は先制攻撃的だと理解せざるを得ません。

他国を防衛するために集団的自衛権を行使するわけではなく、日本を守るためにやるのであって、その口実として集団的自衛権を使いますという説明ですから、先制攻撃的に見られてもしょうがないです。

■「他国が攻撃されたから反撃する」は無理がある

【橋下】そこは木村さんの言われる通りですね。結局説明がまやかしなんですよ。

これまでの政府解釈である日本一国の専守防衛論を前提として説明するから論理的に破綻してしまう。ここは国際情勢の変化からグループ専守防衛論に変わったことも含めて、そこから正直に説明しないと矛盾を突かれますよ。

安倍さんが平和安全法制を作ったことについては、一歩踏み出してくれたと思っています。でも論理の組み立ては粗かったと思う。一国専守防衛論を前提とする限り、木村さんがおっしゃるように、日本が攻撃されていないのに他国が攻撃されたことを理由に日本が反撃するのは、先制攻撃だと捉えられかねない。

【木村】そうなりますよね。やはり無理がある。

【橋下】それは官僚任せにしているからでしょう。一国を前提とした「個別的自衛権」と「専守防衛」というこれまで積み上げられた強固な論理の上で説明したから無理が出た。今「グループ専守防衛」なんて言っているのは僕ひとりのような気がするけども、それだと説明に無理は出ませんよね。

グループが攻撃を受けたときにグループで反撃する。これはいわゆる先制攻撃にはなりません。こうやって概念や論理を組み立て直して説明するのが、政治の役割だと思います。

■「密接な関係にある他国」とはどこか

【木村】その場合の「グループ」について、橋下さんはどれぐらいのものを想像していますか。

【橋下】安倍さんが制定した平和安全法制の存立危機事態では、「密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生したとき」となっていますよね。すなわち日本と密接な関係にある国がグループになってしまう。

【木村】政府答弁によると、ほとんどの国が「密接な関係」になるようです。

【橋下】そうそう。これは非常にまずい。木村さんの心配のタネである法律によるラインがまったくわからない状態。他方、密接な関係を事前にルール化することも不可能です。ここで僕の憲法観なんですが、事前にルール化できないことは手続きや仕組みで解決するというものを生かします。

僕が維新の会の代表を務めていたときに練り上げた平和安全法制の対案には、「条約を締結した国」を集団的自衛権のグループにすることを明記していました。きちんと集団的自衛権を行使し合う関係を認めた条約を結んだ国を、グループ専守防衛のグループとすべきです。

■意識していたのはオーストラリアとイギリス

【木村】日米安保を想定していたということですね。これから韓国とも結ぶかもしれないということですよね。

【橋下】特に意識していたのはオーストラリアでした。今オーストラリアとは、円滑化協定があり、いろいろと安全保障上の関係性が積み重なっているところです。さらにイギリスですね。グループ専守防衛論を考えるのであれば、きちっと条約化するべきです。

オーストラリアとイギリスの国旗
写真=iStock.com/MicroStockHub
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MicroStockHub

詭弁(きべん)と言われるかもしれませんが、日本一国専守防衛論からグループ専守防衛論にしておけば、グループが攻められたから反撃するということで説明がつくと思います。

グループで攻撃を受けた場合に反撃しているのだから、先制攻撃でもなんでもない。そうした理論の構築は、本来は政治家が主導しないといけなかったんだけど、日本の政治家たちは今までの政府答弁の積み重ねの上で無理して説明してきたから、憲法学者からするとやはりおかしく見える。

【木村】改憲すれば、そのような考えに基づいた制度設計もできそうですね。

■グループ専守防衛に国民がビビッてしまう理由

【木村】では、この橋下さんがおっしゃるような「グループ専守防衛」を組み込んだ改憲提案は、今の日本で通るのでしょうか。

【橋下】なかなか通らないでしょうね。まず政治家たちにグループ専守防衛という発想もないだろうし、これまで国民に対してエネルギーを込めて説明をしてこなかった。それは国民も、これまでのまやかしの説明ではなく、グループ専守防衛と真正面から言われると、ちょっとビビッてしまうんじゃないかな。

【木村】他の国の戦争に巻き込まれるのが嫌だという感覚が強いから?

【橋下】そうでしょうね。だけど、少なくともアメリカとの関係においてはグループ専守防衛論を真正面からやってもらいたい。僕は今政治家ではないですが、もし政治家だったら大阪都構想と同じくらいエネルギーを割いてやるくらいのテーマだと思います。でも今の政治家はやろうとしないね。

国会議事堂
写真=iStock.com/istock-tonko
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/istock-tonko

■集団的自衛権を最大限活用する議論は盛り上がらない

【木村】政治家というよりも、国民世論がまだ許していないということですよね。世論がイケイケドンドンであったなら、政治家だってできるはずで。

【橋下】そうそう。日本の国民は冷静なので、今のロシアによるウクライナ侵攻の状況があっても、グループ専守防衛として集団的自衛権をフルで使おうという議論は盛り上がらないと思う。大阪都構想のときも、最初は大阪府庁と大阪市役所をひとつにすることなんて誰も見向きもしていなかったんだけど、5、6年かけて賛否が拮抗するところまでになった。膨大な政治的エネルギーを費やしました。

もしグループ専守防衛論を国民に根付かせようと思うのであれば、大阪都構想に注入した政治エネルギーの何十倍ものエネルギーを注入しなければならないと思います。そうして最後に憲法改正を国民に問うことになる。政治はまだまだ努力が足りていませんよ。ただそこまでの真正面からの憲法改正にいかなくても、解釈でできる範囲はどこまでなのかを探っていくのも政治の役割だと思います。

【木村】国民世論に問うて、集団的自衛権なり、その限定容認なりを正面から認める憲法改正をしようとしても、見通しが厳しいということですよね。橋下さんのこの政治観はなかなか面白いですね。

【橋下】国会議員の3分の2の議席数も取れないと思う。国民投票にまでいかない。

■今の日本の政治家たちの手段となるのは怖い

【木村】きちっと説明すれば、橋下さんの言う理屈については理解してもらえると思いますよ。賛同を得られるかどうかは別ですが、議論にはなるでしょう。今は、よくわからないまま集団的自衛権の話が進んでいる状態で、理屈が通らないから「先制攻撃じゃないですか?」と追及されると、しどろもどろになってしまう。

それと同時に、具体的に何をやるための議論なのかを明確にしないと、国民を巻き込むのは困難でしょう。今の日本でグループ専守防衛論は怖いと思います。日本が攻められなくても、他の国が攻撃されたら立ち上がるという話ですから、巻き込まれる可能性の方が高い。相当に具体的で慎重な議論が必要です。

【橋下】理屈ではグループ専守防衛論を展開しましたが、現実的には僕も、今の日本の政治家たちにそういう手段を与えるのは怖い。憲法9条の改正を声高に叫んでいる政治家たちは、ウクライナ侵攻において、一般市民の国際秩序を守るためには一般市民の犠牲もやむなし! 命より大切なものがある! 自由、独立を守るために戦うことは尊い! どれだけ一般市民の犠牲があろうとも戦闘員が死ぬまで戦うことに文句を言うな! というようなことも叫んでいますからね。

■憲法の魂をしっかり発揮してくれる政治家に期待

ですから、いざというときのために自衛の手段は幅広く政治家に与えて、彼ら彼女らが間違った手段の選択や一般市民を犠牲にするような自衛権の行使をした場合には、ブレーキをかけられる仕組みを整えておくべきという論に至るのですが、本当にそれで大丈夫なのか……。正直葛藤しているところです。最後は政治家への信頼ですが、僕が政治家時代に見てきた日本の政治家の真の姿をもとに考えると、今はとてもじゃないけど自分の家族の命を預けようとは思わないですね(笑)。

だから、いざ有事になって実際に自衛権を行使する場面において、一般国民の命や自由を最大限に尊重する憲法の魂をしっかり発揮してくれる政治家たちにこそ、国会においてグループ専守防衛論を冷静、合理的に積み上げて、国民の理解を深めてほしいところです。

【木村】橋下さんは、はっきりするのが好きなんですかね(笑)。

橋下徹、木村草太『対話からはじまる憲法』(河出文庫)
橋下徹、木村草太『対話からはじまる憲法』(河出文庫)

【橋下】そう?(笑)。こういうの曖昧にしといたほうがいいのかな。

【木村】そういうことはあると思いますよ。だから政治家は、集団的自衛権のことをはっきりとグループ防衛とは言わない。改憲もしようとしない。私もはっきりさせた方がいいと思っているので、そういうところでは橋下さんと気が合っちゃうんですよ。

【橋下】だってそこを曖昧にしちゃうと、国民にとって不幸ですよ。考え方や見解の違いはあったとしても、はっきりさせないと。

【木村】立場を明確にして話すことによって、相手は反論もできるわけで。

【橋下】そうですね。そこからみんなに考えてもらいたい。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著書に『最強の思考法 フェアに考えればあらゆる問題は解決する』(朝日新書)がある。

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木村 草太(きむら・そうた)
憲法学者
1980年神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。同助手を経て、首都大学東京都市教養学部法学系教授。専攻は憲法学。『報道ステーション』でコメンテーターを務めるなどテレビ出演多数。著書に『自衛隊と憲法 これからの改憲論議のために』(晶文社)、『憲法の急所』(羽鳥書店)など。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹、憲法学者 木村 草太)

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