手法はトランプそっくり、しかも若くて賢い…イーロン・マスクが乗り換えた次期大統領候補のすごい勢い
プレジデントオンライン / 2022年9月19日 7時15分
2022年7月26日、米国ワシントンD.C.で開催されたアメリカ・ファースト政策研究所の「アメリカ・ファースト・アジェンダ・サミット」で演説するドナルド・トランプ前米国大統領 - 写真=EPA/時事通信フォト
■トランプの出馬はほぼ決定的
【池上】8月8日、トランプ前大統領の自宅がFBIの家宅捜索を受けた、と報じられました。フロリダの自宅であるマール・アラーゴに、政府の公文書を持ち出したのではないかという疑惑に対する捜査です。
大統領経験者が、公文書の持ち出しで起訴されるなどということになれば、これは前代未聞の事態です。2024年の大統領選に出馬するか否かに注目が集まる一方、共和党内の強力なライバルであるフロリダ州知事のロン・デサンティス氏の人気上昇もあり、トランプ前大統の今後が注目されます。
トランプ前大統領は、2024年に行われる大統領選挙出馬への意欲をちらつかせながら、しかし明言は避けてきました。7月14日に公開された『ニューヨークマガジン』のインタビューでは、「(出馬するか否かを)中間選挙前に発表するか、後にするか迷っている」という言い方をしています。この発言を見る以上、出馬はほぼ決定的でしょう。
共和党としては、トランプが出馬宣言をするとすべての話題を持っていかれ、献金もトランプ前大統に集中してしまうので、「せめて中間選挙後にしてほしい」と祈るような気持ちでいることでしょう。
■ライバルの人気の高まりに焦るトランプ
【池上】ニューヨーク・タイムズとシエナ大学が実施した世論調査によれば、共和党予備選で投票する意向を示している有権者のうち実に49%がトランプ前大統を支持し、25%のデサンティス知事が続いています。2桁の支持率を得たのはトランプ前大統とデサンティス氏のみ。トランプ政権の副大統領を務めたマイク・ペンス氏は6%にとどまっています。
こう見ると圧倒的にトランプ前大統の方が強いように思えますが、トランプ前大統領自身としてはデサンティス知事の人気がどんどん高まってきているので、焦りを感じていることも確かでしょう。
![2015年のイーロン・マスク](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/e/1200wm/img_feeb966d2e4abee61420740b6c6adbdb497570.jpg)
デサンティス知事は、この4月だけで1.6億ドル(160億円)もの政治献金を集めたと言われています。確かに11月の中間選挙でまた州知事選挙に出るにしてもそれほどの献金がいるのかどうか。しかも各州の共和党候補の応援にも駆け回っており、これが大統領選出馬の地ならしとして、全国的に顔を売って歩いているのではないかとみられているのです。
【増田】デサンティス知事は下院議員を三期務めた後、知事に就任した43歳。トランプ前大統領とは二回り以上も下の世代です。
【池上】そのため、トランプ支持を表明していた米電気自動車大手テスラの創業者であるイーロン・マスクが、「トランプからデサンティス支持に乗り換えた」と発言したことも話題になりました。2024年にまたバイデン・82歳VSトランプ・78歳という高齢者対決になるくらいなら、若いデサンティスを対決させた方がいい、と判断したようです。
■トランプ的な手法をすっかりまねている
【池上】デサンティス知事はエール大学歴史学部卒、ハーバード大学ロースクール出身ですが、その実は「賢いトランプ」というべき政治スタンスです。差別的な表現や下品なことを公言はしないながら、トランプ的な手法をすっかりまねて、とにかく敵を作って叩く。激しく民主党批判を展開しています。そうすれば支持率が上がると見越しているのです。
特にLGBTに対しては非寛容で、今年7月には「幼稚園から小学3年までの授業で性的指向や性自認に関して教えることを禁止」する反LGBTQ法をフロリダ州で施行したことが国際的な話題になりました。
【増田】私が6月に取材に行ったハンガリーと同じですね。ハンガリーでは首相オルバーン・ヴィクトルが率いる与党が「学校内で同性愛や性転換などの、性の多様性について話すことを禁止し、違法とする」という内容の法律を提案し、圧倒的多数で可決されました。
![2020年1月22日、フロリダ州ペンサコーラの海軍基地本部でエスパー長官と会談したフロリダ州知事ロン・デサンティス](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/a/1200wm/img_da36b1905b1cc5320138b3d291ad8f46457459.jpg)
【池上】こうした法案自体が、共和党支持者向けのアピールとみられています。さらにデサンティス知事に一気に注目が集まったのは、先の反LGBT法以前に成立していた通称「ゲイと言ってはいけない法案」(子どもたちが学校でLGBTQに関する議論を行うことを禁止する法案)に対して、フロリダ州にあるディズニーランドのトップが反対を唱えたことに対する報復を行ったためです。
フロリダ州では、ディズニーランドは州法によって「特別自治区」のような権利を与えられており、州法の適用除外や、一部免税措置まで講じられていました。しかしデサンティス氏はこの「特別扱い」をやめる州法に署名。いわば報復として、ディズニーの特権を剝奪した格好です。
【増田】この件はかなり大きなニュースになりました。こうした報復を歓迎している共和党支持者にとっても、たとえばディズニーランドの入場料が高くなるとか、あるいは雇用への悪化など、マイナスの影響もあるのではないかと思うのですが。
■「共和党の悪夢」は起こるのか
【池上】共和党支持者にとっては、そういうことは大した問題ではないのでしょう。これでデサンティス知事はすっかり人気になり、大統領候補としての支持率がトランプに次ぐ25%まで高まったというわけです。
ところが共和党としては、難しい局面が続いています。「共和党の悪夢」がささやかれていて、それは何かというと、共和党内の大統領候補選びで仮にデサンティス知事が選出された場合、トランプ前大統領が「冗談じゃない!」と激怒して、「共和党をぶっ壊す」とばかりに独立候補として出馬するのではないか、と。
こうなった場合、共和党の保守票が分裂することになり、民主党の候補は楽々、大統領選に勝利できる。これが共和党にとっての悪夢なのです。
【増田】民主党側では、カリフォルニアのギャビン・ニューサム州知事が注目されています。ニューサム知事も54歳と、バイデン大統領よりは世代がずっと下で、7月22日には銃規制を強化する州法に署名した、典型的な民主党の政治家です。もしニューサムとデサンティスの対決になれば、カリフォルニアVSフロリダという州知事対決になるかもしれませんね。
■「4年後を狙おう」と不出馬にして失敗した人も
【池上】アメリカは州知事クラスが大統領選に出るケースがかなり多いんですよね。ロナルド・レーガンはカリフォルニア州知事。ジミー・カーターはジョージア州知事。ジョージ・ブッシュはテキサス州知事。ビル・クリントン大統領もアーカンソー州知事でした。これまでの大統領選候補者には上院議員経験者も少なくありませんが、どうもアメリカではあまり長く上院議員をやっていると「ワシントンの悪弊が染み込んでいるのでは」と疑われて、マイナス評価になってしまうようです。
![ロナルド・レーガン米国大統領の公式肖像画](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/c/1200wm/img_eceec679e2b5f2ae301a7b82f1277c8d393818.jpg)
アメリカの有権者は全く新しい人、しがらみのない人、あるいは州知事経験者を評価する傾向があるので、トランプ前大統領とデサンティス知事、あるいはバイデン大統領とニューサム知事が競る可能性は十分、考えられます。
「デサンティスも、ニューサムも、まだ若いから次の大統領選でもいいのでは」と思われるかもしれませんが、大統領選出馬のチャンスというのはそう簡単にめぐってくるものではありません。
オバマが大統領候補になった2008年の大統領選の際に注目されたニュージャージー州のクリス・クリスティ知事は、「今回はオバマが強いから、4年後を狙おう」と言っている間にスキャンダルが出て失脚してしまいました。しかもそのスキャンダルの内容が、政敵への報復として、ニュージャージー州とニューヨーク州を結ぶジョージ・ワシントン・ブリッジの一部車線を閉鎖し、意図的に大渋滞を起こした、という実に些末なもの。失墜後、2015年に一度出馬表明をしたものの撤回し、トランプ支持を表明することになってしまいました。
■現在の支持率は拮抗
![ジョージ・W・ブッシュ米国大統領の公式肖像画](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/7/1200wm/img_8732f4dade1c4f454bb6e932132b7e56416010.jpg)
【増田】現在、民主党と共和党の支持率は拮抗しています。あくまでも中間選挙に関する世論調査ですが、ウォール・ストリート・ジャーナルが8月17日から25日まで行った世論調査では、民主党支持が47%、共和党支持が44%でした。確かに、他の記事などを見ても「共和党優勢」と報じているものはあまりありません。
【池上】それはさすがに、今年6月に米連邦最高裁が「中絶は女性の権利」としてきた49年前の判断を覆したことが大きかったのでしょう。保守派判事が増えたことによる判断でしたが、中絶の賛否以前に、決めるのはそれぞれの州であるべきだ、という反発も大きく、「最高裁判所までもが民主党と共和党の争いに巻き込まれたのか」と感じ、失望した米国民が多かったようです。
こうした分断が中間選挙、そして大統領選にどう影響するか、注目です。
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ジャーナリスト
1950年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、NHK入局。報道記者として事件、災害、教育問題を担当し、94年から「週刊こどもニュース」で活躍。2005年からフリーになり、テレビ出演や書籍執筆など幅広く活躍。現在、名城大学教授・東京工業大学特命教授など。計9大学で教える。『池上彰のやさしい経済学』『池上彰の18歳からの教養講座』『これが日本の正体! 池上彰への42の質問』など著書多数。
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ジャーナリスト
神奈川県生まれ。國學院大學卒業。27年にわたり、高校で世界史・日本史・現代社会を教えながら、NHKラジオ・テレビのリポーターを務めた。日本テレビ「世界一受けたい授業」に歴史や地理の先生として出演のほか、現在コメンテーターとしてテレビ朝日系列「大下容子ワイド!スクランブル」などで活躍。日本と世界のさまざまな問題の現場を幅広く取材・執筆している。著書に『新しい「教育格差」』(講談社現代新書)、『教育立国フィンランド流 教師の育て方』(岩波書店)、『揺れる移民大国フランス』(ポプラ新書)など。
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(ジャーナリスト 池上 彰、ジャーナリスト 増田 ユリヤ 構成=梶原麻衣子)
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