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マッチョで男らしいだけではダメ…韓国でスター俳優となるためには「学歴」が不可欠とされるワケ

プレジデントオンライン / 2022年9月21日 14時15分

アニメ版「冬のソナタ」の完成披露会見で、手を振る韓国の俳優ペ・ヨンジュン(左)と笑顔を見せる女優のチェ・ジウ(右)=2009年9月29日、東京 - 写真=AFP/時事通信フォト

韓国でスター俳優となるためには、厳しい条件がある。作家の康熙奉さんは「180センチ以上の身長、低くて重い声、それに大学の演劇・映像専門学科を卒業という3つの条件を備えていなければ、ほとんど成功の可能性はない」という――。

※本稿は、康熙奉『韓国ドラマ! 愛と知性の10大男優』(星海社新書)の一部を再編集したものです。

■なぜ韓国の俳優たちは180センチ超えばかりなのか

韓国の芸能界において、スターはどのようにして誕生してくるのか。

最初に取り上げたのが身長である。

たとえば、人気男優を自分なりに10人ピックアップしたと仮定すると、間違いなく、その10人の平均身長は180センチを超えているはずだ。選び方によっては、185センチ近くになる場合もあるかもしれない。

一流のアスリートでなくても、これだけ背が高い。

その理由は明らかだ。

スターになったときに、たまたま背が高かったわけではない。もともと、背が高いという特徴を持った人が、スターが立てる舞台に上がっていける、と考えたほうがいい。つまり、「高身長」が先なのだ。

究極的に言えば、歌が上手な人や演技が巧みな人は、韓国では数えきれないほど潜在的にいる。

しかし、それだけでは足りない。さらに、身体的な持ち味がある人がその先の選抜ルートに入っていける、というわけだ。

だからこそ、スターは背が高い人たちばかりなのである。もっとわかりやすく言えば、高い身長はスターへの必須条件になっている。それに見合った男性たちが韓国ドラマの男性主人公を彩っている。

■求められる「低くて重い声」

とはいえ、高い身長だけでは足りない。もう一つ重要なのが声だ。

韓国のテレビを見ていると、男性アナウンサーの声質はほとんどが低くて重い。それが、韓国で受け入れられる「望ましい声質」なのだ。堂々たるイメージをかもしだすためには、声は低くてよく響かなければならない。

その鉄則を多くのスター俳優たちも受け継いでいる。彼らは特別な訓練を経て「低くて響く声」を獲得している。そのために、発声を磨いている。

生まれ持った素質だけで彼らが今の地位を得られているわけではない。「素質+訓練+努力」が今の彼らを際立たせているのだ。

■1987年は韓国にとって象徴的な年

次に、生まれた年を見てみよう。

今のスター男優を見ていると、1987年生まれや1988年生まれが多い。

特に「1987年」という年に注目したい。

この年は韓国現代史で特別に重要な年になっている。それは、韓国社会を重く苦しく縛っていた軍事政権が終わった年を示している。

なぜそれが終わったかというと、韓国全土を巻き込んで激しいデモが吹き荒れた「民主化抗争」が勝利したからである。

それによって、韓国は完全に民主化されるようになった。ここで重要なのは、民主化の勝利によって言論・表現の自由が保障されて韓国は後のエンタメ大国への道を歩み始めた、ということだ。

そういう意味で、1987年生まれは「民主化の申し子」とも呼べる。

そんな彼らが今や韓国ドラマの華々しい主役になっている。本当に象徴的な現象だと言うことができる。

■俳優として成功するために必要な「学歴」

韓国の俳優たちの略歴を見ていると、多くの共通点を見つけることができる。大学の演劇・映像専門学科を卒業している俳優が圧倒的に多いのだ。

これは韓国で俳優として成功するための方法論を如実に物語っている。とはいえ、俳優という職業の場合、特別に学歴が必要なわけではない。それでも、韓国では学歴を重視する伝統が社会に根づいていて、その風潮がはっきりと俳優の世界にも及んでいる。

そのことは、現実を直視すると、事情がよく見えてくる。なにしろ、演劇・映像・放送に関する専門学部(あるいは学科)を設置する大学が40校ほどあるのだ。この数は、人口5000万人の国としては驚くほど多い。それだけ、芸能分野も学術的に体系化されている。

その中に自分自身を組み込まなくては、俳優になることも難しい。したがって、俳優になりたければ、まずは大学受験をめざすのである。

今は芸能専門の学部は非常に人気があって、特に名門となると難関校となっている。それでも、無事に難関を突破できれば大学で中身の濃い専門指導が受けられる。

そして、俳優を数多く輩出する名門大学としてよく知られるのは、東国大学、中央大学、漢陽大学、檀国大学、ソウル芸術大学の5つ。すべて私立である。

この中でいくつかの大学の講義の内容を見てみよう。

■有名大学に通う意外なメリット

伝統の中央大学の演劇学科では、理論から実技までを体系的に学ぶ。1・2年時に演劇概論、韓国演劇史、演劇文献研究などの講義を受け、話術や舞台技術などの実技も磨いていく。3・4年時には、作品制作実習、演出実習、演劇制作などの講義を受ける。演技者はもちろん、演出家の立場からも作品制作を学ぶ。本当にカリキュラムが充実している。

韓国の中央大学
韓国の中央大学(写真=Chunganguniversity/CC-BY-SA-3.0/Wikimedia Commons)

次に、これまでの韓国芸能界で最も多くの著名な俳優を送り出してきた東国大学の演劇学科の特徴は、専門性にこだわった英才教育に力を入れていることである。

教授陣は海外で演劇に関する修士号や博士号を取得した演劇研究者が多く、学生には演劇・映画・テレビドラマの演技者養成だけでなく、舞台美術・照明・機材の操作にも精通する技術を習得させている。

さらに、最近は素晴らしい俳優をたくさん卒業させている漢陽大学の演劇映画学科の特徴は、芸能人のための入学枠が設定されているということだ。この制度を生かして入学した著名な俳優も多い。

この場合の受験は面接だけ。ただし、過去に出演した映画・ドラマの作品本数や演じた役の重要度が厳密に審査されて、わずか数名だけが合格できるようになっている。

そうした芸能人枠で入っても、仕事の都合で卒業できない人も多いというから、俳優と大学を両立するのは難しいと言わざるを得ない。

以上、3つの大学のことを紹介したが、世界で最高レベルの大学進学率を持っている韓国において芸能の世界をめざそうとすれば、専門的で体系的な学問を徹底的に学べる環境が揃っている。そうした中で、スターは頭角を現してくるのである。

また、韓国で俳優をめざす人が演劇関連学科に進むのは、専門的に演技を学ぶことはもちろんだが、同時に、芸能界の学閥システムに加わりたいという狙いもある。

同じ大学の先輩が俳優として力があれば、後輩にもメリットが大きいのだ。そういう意味で、俳優として成功するために学閥を利用したいという思惑も見えている。

■芸能活動の致命傷になる兵役問題

韓国の男子は成人後に一部の例外を除いて誰でも兵役の義務を負う。この「一部の例外」というのは、オリンピックの3位以内、アジア大会の金メダリスト、権威ある国内・海外の芸術系のコンクールで優勝あるいは2位以内、などである。

しかし、大衆文化(音楽・映画・ドラマ)ではどんなに成功しても兵役免除制度がないので、スターといえども30歳までに兵役に入らなければならなかった。

さらに、現在は兵役延期規定が厳しくなって、28歳までに兵役のために入隊しなければならない。

韓国軍の兵士
写真=iStock.com/Im Yeongsik
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Im Yeongsik

そういう意味でも、早くから俳優として成功した若者たちは、兵役問題を乗り越えていかなければ、その先の俳優活動の展望も見えてこない。

本書で最初に取り上げる10人の男優は、すべて20代のときに兵役に入っている。

とにかく、兵役は韓国の成人男子を憂鬱(ゆううつ)にさせる不可避の国民的義務であり、それが彼らの人生にとても大きな影響を及ぼしている。

■かつて「兵役は芸能人の墓場」だった

かつては「兵役は芸能人の墓場」と言われた時期もあった。芸能界のスターでも、兵役期間中に忘れられてしまい除隊後に人気を大きく落とした、という実例がたくさんあったからだ。

しかし、時代が変わった。兵役期間がかなり短縮されたこと(陸軍なら現在は18カ月)、情報開示によって兵役中の様子が一般の人たちの目に触れるようになったこと、兵役中に作品が公開されて「忘れられる」ことを回避できていること……などが顕著となって、「兵役は芸能人の墓場」ではなくなっているというのが最近の傾向である。

また、兵役を通して強く逞しいイメージを付加する効果を得られた芸能人も少なくなく、軍隊での経験をプラスに転化できる事例が多くなってきたことも、兵役を前向きに捉えられる風潮を生んでいる。

それでも18カ月の空白期間を余儀なくされることは相変わらず厳しい現実であって、まだ入隊していない芸能人にとって不安が募っているのは事実である。

しかし、兵役は韓国の人たちにとって非常にデリケートな問題であり、芸能人がもし兵役に関してマイナス的なイメージで捉えられたら、人気商売の致命傷にもなりかねない。それだけに、兵役問題でミスをおかさないことが芸能人の鉄則である。

■理想の男性像を変えたヨン様

韓国の男優を見ていると、「愛」と「知性」を強く感じる。

この場合の「愛」は男女の間の「LOVE」だけでなく、広く人間同士の情の深さも含んでいる。そういう意味では、「情愛」と言ったほうが適切かもしれない。

もう一つの「知性」とは、「人間に対する深い洞察」と呼べるもので、その裏付けが深い学識であることは言うまでもない。

こうして韓国の男優は「愛」と「知性」を表現する人たちだと規定することができるのだが、そのイメージをはっきり変えた象徴的な人がペ・ヨンジュンであったという。

韓国の大手紙「スポーツソウル」の芸能記者にかつて詳しく話を聞いたとき、キム・ヨンスプ記者(男性)とチェ・ヒョアン記者(女性)が次のように指摘していた。

キム・ヨンスプ「以前の韓国にいなかった新しいタイプの男優として記憶に残るのがペ・ヨンジュンです。従来の男優は、チェ・ミンスのような男性的で濃い顔立ちのタイプが多くて人気があったのですが、ペ・ヨンジュンはそれまでの男優とはまったく違っていました。すっきりしたルックスで、笑顔もソフトで優しい。とても品があるんですよ。彼の出現で、韓国女性が抱く『理想の男性観』が変わったと思います」

■最近の人気俳優はみな「知的でスマート」

康熙奉『韓国ドラマ! 愛と知性の10大男優』(星海社新書)
康熙奉『韓国ドラマ! 愛と知性の10大男優』(星海社新書)

チェ・ヒョアン「ペ・ヨンジュンは韓国の女性がもっとも理想とする男性の1人だと思います。最近は韓国の女性も男らしさを強調されるよりも、スマートで知的な男性を好む傾向があります。つまり、強いだけでは駄目なんですよ(笑)。実際、最近の人気男優を見ても、ほとんどが知的でスマートでソフト。その流れを作った元祖がペ・ヨンジュンです」

以上の発言は韓国の男優のイメージの変化を語るときにとても重要である。

つまりは、チェ・ミンスに代表されるような「家父長」的な男優がかつては人気を得ていたが、ペ・ヨンジュン以降は「スマートで知的」なイメージを持った男優が人気を得るようになったというわけだ。

スターの好感度は時代によって変わってくる。今のスターは「知的」でないと人気を持続できない流れになっている。

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康 熙奉(カン・ヒボン)
作家
1954年東京生まれ。在日韓国人二世。韓国の歴史・文化や日韓関係を描いた著作が多い。主な著書に、『朝鮮王朝の歴史はなぜこんなに面白いのか』(じっぴコンパクト新書)、『悪女たちの朝鮮王朝』(双葉社)、『韓流スターと兵役』(光文社新書)など。

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(作家 康 熙奉)

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