我慢するほど脳の萎縮は加速する…和田秀樹さんが「家庭内離婚より生涯2回結婚制」を勧めるワケ
プレジデントオンライン / 2022年9月19日 11時15分
※本稿は、和田秀樹『医者が教える50代からはじめる老けない人の「脳の習慣」』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■中高年以降の「脳」について知っておく
②脳内伝達物質(セロトニンなど)が不足してくる
③動脈硬化が起こる
④男性ホルモン(テストステロン)が減少する(男女とも)
①前頭葉の萎縮……脳の前頭葉は、人間らしい「知性」――意欲・好奇心・創造性・計画性などを司る部分ですが、早い人で40代から縮み始める、つまり老化し始めます。萎縮が進むと、感情のコントロールがきかなくなったり思考が平板になったりします。
②セロトニンなどの脳内伝達物質の不足……セロトニンの減少は「うつ」を引き起こしやすくします。一時的な減少でも意欲低下やイライラなど心の不調をもたらします。
③動脈硬化……脳の血管は非常に細く、動脈硬化が進むと徐々に、細い血管の内部がつまりやすくなるため、とりわけ深刻です。脳の動脈硬化が進行すると自発性がなくなります。
④男性ホルモンの減少……男性ホルモンは、実は女性にもあり(量は男性の10分の1~20分の1)、大脳の視床下部から「分泌せよ」との指令を受けた脳下垂体が、男性の場合は主に精巣と副腎、女性の場合は卵巣や副腎に働きかけることで分泌されます。
しかし司令塔がいくら頑張っても加齢により精巣や卵巣、副腎の機能が衰えると、男性ホルモンは減少します。男性ホルモンには脳に直接働きかけて、意欲を高めたり判断力や記憶力を高めたりする機能があります。男性ホルモンの減少により、憂うつ感や、集中力やアグレッシブさの欠如、判断力や記憶力の低下が引き起こされます。
■前頭葉の老化を防ぐ
前頭葉が萎縮して老化すると、これらの機能が低下する。一方でこれらの機能を保つことで、前頭葉の老化自体が抑えられる。
「気が若い人は、見た目も体もいきいきしている」――とは、多くの人が認めるところでしょう。この「気」とは「気持ち」のこと。それはまた「感情」と言い換えることもできますし、さらにそれらは「意欲」や「思考」、それに「創造性(クリエイティビティ)」にもおのずと現れてくるものです。
これら「意欲・感情、思考、クリエイティビティ」を司るのが、脳の「前頭葉」です。したがって、ある人の「意欲・感情、思考、クリエイティビティ」の如何をみればその人の前頭葉の状態もわかるのですが、一方で「意欲・感情、思考、クリエイティビティ」をいかに若い状態に保つか、いかにコントロールするかによって、前頭葉の萎縮、老化を抑えることもできるのです。
しかもそれは決して難しいことではなく、ライフスタイルや日常の習慣、嗜好や性向、また思考法をほんの少し変えるだけ、修正するだけで意外に簡単にできるものなのです。
■「脳の領域」とそれぞれの役割分担
人間の脳は、大きく4つの領域に分かれます。
さらに左右の半球に分かれ、右半球は体の左半身、左半球は右半身の運動や感覚をコントロールしているのですが、脳の様々な機能はこれらの領域が、次のようにそれぞれ分担して司っています。
(2)側頭葉 側頭連合野……言語理解、形態の認知
(3)頭頂葉 頭頂連合野……計算機能、空間などの認知や構成
(4)後頭葉 視覚領……視覚情報の理解
このように様々な機能が各領域に分担されているため、どの領域に問題が起こるかによって、影響を受ける機能やその態様も異なってきます。
![人間の脳の構造](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/6/1200wm/img_d6db13485d8641385eac19d79c5a78db503119.jpg)
この「問題」には、脳腫瘍・脳梗塞などの病気、けがの他に、「老化」があります。
例えば視覚情報を司る後頭葉に問題が起きると、視野狭窄や、何かが見えているがそれが何かわからないといった症状が起きます。計算や空間認識を司る頭頂葉に問題が起きると、パズルや計算がおぼつかなくなったり、簡単に道に迷ったりするようになります。
また、同じ失語症でも、前頭葉の問題が原因のときには、「相手の話はわかるけれど自分の言いたいことが言葉にならない」という形(運動性失語)で、側頭葉の問題が原因のときには、「自分の言葉は話せるが、相手の話が理解できない」という形(感覚性失語)で現れます。
■前頭葉の老化とは
人間の脳は、歳をとると萎縮します。この脳の萎縮こそが脳の老化ということなのですが、とはいっても、スポンジがひからびるように脳全体が一気にしぼんでしまうというわけではありません。
脳のなかで最も早く萎縮し始める(=老化し始める)のが、前頭葉です。そしてこの老化(神経細胞の減少の加速)は、なんと40~50代くらいから始まることがわかっています。
![脳スキャン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/6/1200wm/img_f67e5f5fd6ce613e5f206bb0cc32706f908681.jpg)
「年寄り」どころかまだまだ働き盛りの年代から始まってしまうというのは初めて聞く方には相当ショックだと思いますが、では、この前頭葉が老化すると、どんな症状が起こるのでしょうか――。
前頭葉の主な機能は、①意欲と感情のコントロール、②思考のスイッチング、③クリエイティビティ(創造性)です。
それゆえ、前頭葉の老化によって、①自発性や意欲が減退する、感情が老化する、②ある感情や考えから別の感情、考えへの切り替えが悪くなる・できなくなる、③新しい発想や、創造的なことができなくなる、という症状が起こります。
具体的には例えば、感情のコントロールがきかなくなるために怒りっぽくなり、さらに感情のスイッチングがうまくいかないために、一度怒りだしたらいつまでも怒っている、といったことが起こります。また、自発性や意欲が減退するため、何かにつけて面倒くさくなったり、体を動かすのが億劫になります。
創造性がなくなるので、アイデアも出てこなくなり、考え方も平板になります。実際に症状は様々な形で現れてくるのですが、前頭葉の老化を示す萎縮の様子は、MRIなどの画像でははっきりと見てとれるにもかかわらず、本人はなかなかその症状に気づかないという厄介さがあります。
前頭葉の機能は、いわば「人間らしさの源泉」ともいえるのですが、使わなくても不自由はしませんし、生きていくことはできます。この点が、前頭葉の老化を自覚しにくくしているといえるでしょう。
■「家庭内離婚」「仮面夫婦」状態を打破する
「家庭内離婚」「仮面夫婦」を続けるうちに、前頭葉はどんどん老化していく。そんなことになるくらいなら、すっぱり別れて新しい可能性を追求したほうがいい。
「熟年離婚」という言葉がすっかり定着して久しい昨今ですが、そんな離婚の多くは、妻側からの申し出によるもの。ある日突然、離婚届を突き付けられて慌てるのは夫のほう。
![和田秀樹『医者が教える 50代からはじめる老けない人の「脳の習慣」』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/6/1200wm/img_a613801c0cecd6ed907ac7717d5fe30c289887.jpg)
しかし仮にここでいったん元のさやに収まっても、その後もこれまで通り一緒に暮らしていけるのか――もちろん、「とりあえず」一緒に暮らしていくだけならできなくもありません。惰性で、いわゆる「家庭内離婚」「仮面夫婦」を続けながら。しかしこれほど、互いの脳にダメージを与え合う関係もありません。まず、我慢。これが前頭葉機能を低下させます。
さらに、惰性でずるずるの生活では前頭葉を刺激するチャンスもありません。そんな生活を続けるくらいなら、すっぱり別れて、再婚活でもして第二の結婚生活に踏み出すことも選択肢のひとつとして考えたほうがよいのではないか、と私は思っています。
さらに、人生80年もあるなら生涯2回結婚制というのも「アリ」ではないかと思います。
子供を産み育てるための結婚と、晩年の人生を本当に気の合う人とともに送るための結婚と――そのほうが新しい可能性も開けてくるというものです。
「そうは言っても今さら自分の生活は変えられない」、まずはその思考を変えることです。
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精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授
1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院・浴風会病院の精神科医師を経て、現在、国際医療福祉大学赤坂心理学科教授、川崎幸病院顧問、一橋大学・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。
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(精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授 和田 秀樹)
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